食事が終え、おのおの休憩を取り始める。
衛兵の仕事は、当番制だ。
次の当番時間は夜になるということで、一同は仮眠を取るため、奥の寝室へと消えていった。
僕だけは、皆が起きてくる頃には授業も終わっているため、今日の分の衛兵としての仕事はこれで終わりだ。
掃除ぐらいしかした覚えがないのだが。
だったら、別にここに授業が終わるまで居続ける必要もないだろう。
というか、血管針カルテットには悪いが、あまりこの悪臭漂う部屋に長居はしたくはない。
一応、ルイズの従者ということにもなっているので、今、中庭を歩いても咎められはしないだろう。
今の内に、貴族達の顔を覚えておくのも良いかも知れない。
「それでは、僕はヴァリエール嬢の護衛に戻ります」
「おう……。胸当てだけは外しとけよ……」
「それと……槍の整備も忘れるな……」
そういって、彼らは仮眠室へと消えていった。昨日の騒ぎの収拾で、一睡もしていないらしい。
僕は言われるがまま、胸当てを外して、元あった場所に直しておく。
槍も邪魔なので片づけたいのだが、備品は自分たちで整備しなくては成らないらしい。
仕方なく、これは持っていくことにした。
屯所の壁にかけておいた学ランを羽織り直し、中庭へと出る。
遠目に、貴族共が談笑しているのが見えた。
どうやら食事後のティータイムと決め込んでいるらしい。
僕はその中に、見知ったピンクの髪の少女を見つけた。ルイズだ。
朝のおっぱい……じゃない! …赤い髪をした女性も一緒だ。
そしてもう一人、見たこともない、青い髪のちびっ子が見える。
様子を見ながら、少しづつ近づく。
「ああもう! ほんと腹立つわね! 大体なんなのよ、その子!」
「あたしの友達よ。使い魔の儀式で風竜を呼び出したのよ? まともに契約も出来ない誰かさんと、ち、がっ、て」
「な、ななななんですって~~~」
「あ~ら、やる気?」
どうやら赤髪の女性とルイズが、なにやら言い争っているらしい。いや、ルイズがからかわれているといった方が正解か?
ちなみにちびっ子の方は、黙々と本を読み続けている。
っと、ついに互いに杖を抜きはなってしまった。
ほっといて、沈静化する様子はない。
少し注意するか。
「ッ!?」
止めに入ろうと近づいて、ようやく気がついた。
ルイズ達のテーブルに、サクランボが山盛りになっている。
ルイズにいえば、一つぐらいくれるかも知れない。
いや、今は弱みを見せてはマズイ! つけ込まれるッ!
いや、僕にはこの『ハイエロファント・グリーン』があるッ!
コイツを昔のように誰にも気づかせなくしてやる。
そう! サクランボをとって、舌の上で転がすため、完璧に気配を消してやろう!
少しづつ、サクランボに向けて、僕のハイエロファントグリーンをほどいていく。
確実に手に入れるため、一瞬で、しかもひっくり返さずに手元まで持ってこなくてはならない。
ならば、このハイエロファントで作った網で、マグロを捕まえるみたいに一気に引き上げる!
しかし、注意をサクランボに向けすぎたのがまずかった。ちびっ子が杖を抜いたことに気がつかなかったのだ。
後少しでサクランボに手が届くという所で、急につむじ風が吹いた。
つむじ風は、ルイズとキュルケの杖を吹き飛ばした。ついでにサクランボの籠もひっくり返された。
「今は休憩中」
見ると、先ほどまで黙々と本を読んでいたちびっ子が、杖を片手にこちらを向いていた。
どうやら今の風は、この子が放ったようだ。余計なことをッ!
落ちたサクランボに目をやる。全て、今の風でつぶれてしまっていた。
オロロ~ン。
「っと」
風で吹き飛ばされた杖が、こちらの方へと舞ってきた。
僕はそれを二杖とも受け止める。
「あら?」
「あああ、あんた……いつからそこに」
「今さっきですが」
二人とも、僕の姿に気づいたようだ。ちびっ子の方は未だ、興味なさ気に黙々と本を読みふけっているが。
ともかく、僕は両手の杖を二人へと返した。
「あら、ありがと」
「……」
ルイズは僕の右手にあった杖をふんだくるやいなや、僕に対して一気にまくし立ててきた。
「あんたいったい何なのよ! 使い魔召喚の儀式で平民を呼びだしたと思ったら突然暴れて逃げていくし!
仕方なく追いかけて使い魔にしてやろうと思ったらその……キ、キスも避けるし! 前髪は鬱陶しいし!
あげくスタンド使いとか訳が分からないこと言い出すし! ほんとなんなのよ、もう!」
好きなだけまくし立てて、荒々しく肩で息をし出すルイズ。
横にいた赤髪の女性は目を丸くしている。
ちびっ子の方も、本から顔を上げてルイズの方を見ている。もっとも表情は変わっていないが。
頭に血が上ることが多すぎて疲れたのか、ルイズはドカッと、荒々しく近くの椅子に座り込んだ。
そしてテーブルの上のケーキをヤケ食いしだした。
それでも、ちゃんと切って食べているのは、教育のたまものなんだろう。
「?」
なにやら、あっちの方の席が一気に騒がしくなった。
「何があったのかしら?」
ルイズは我関せずといった調子で、未だにケーキを食べ続けている。既に3個目だ。
と、見覚えのある格好をしたメイドが、こちらに向かって走っている。シエスタだ。
シエスタはひどくおびえた様子だ。
その様子が気になった僕は、走っていくシエスタの肩を押さえて、事情を聞く。
「シエスタ、何があったんですか?」
「は、離してください!」
いきなり呼び止められて、ひどくおびえた様子のシエスタだったが、何度か深呼吸をさせ、落ち着かせる。
僕は改めて、事情を聞く。
「それで、何故あんなに慌てていたんですか?」
「そ、それが……。才人さんと、グラモン様が決闘を……」
ガタン
誰かが立ち上がるような音がする。
見るとルイズが口元を押さえて、立ち上がっていた。
何か言いたそうにしているが、口の中にケーキが残ったままで喋るのはプライドが許さないようだ。
ともかく、僕はシエスタから、事の詳細を聞く。
「……それで、才人さんが持っていた香水が元で、グラモン様が激怒なさいまして、そのまま決闘ということに…」
どうやら才人が持ってきた香水で、その持ち主の二股がばれて、逆切れ、決闘という運びになったらしい。
その相手というのは相当、どうしようもない奴だな。
ソイツの事はともかく、これはまずい。
ルイズの話によると、貴族は悉くメイジだという。
昨日暴れた時に、こちらに火の玉等を飛ばしてきた奴らを思い出す。
僕は退けることが出来たが、才人にそれが出来るか?
無理だ。そもそも運動神経でさえ、僕に負けている。
生身でどうこうなる相手じゃない。
才人は僕にとって、真の友か? 答えはNOだ。彼には僕のスタンドは見えない。僕という像が見えていない。
けれども友人か? といわれればYESだ。
見捨てられる訳がないッ!
以前の僕なら考えもつかなかった。だが今の僕は、僕じゃない僕を通して、仲間というものを知っている。
もう二度と、ひとりぼっちの花京院典明には、絶対に戻らないッ!
「すみません、シエスタ。その広場というのはどっちでしょうか」
「そこのアーチをくぐった先ですけど…… だめです! 殺されちゃいます!」
シエスタが引き留めようとする。
しかし、僕はそれを振り切って、そのアーチに向かって走り出した。
To be contenued……
衛兵の仕事は、当番制だ。
次の当番時間は夜になるということで、一同は仮眠を取るため、奥の寝室へと消えていった。
僕だけは、皆が起きてくる頃には授業も終わっているため、今日の分の衛兵としての仕事はこれで終わりだ。
掃除ぐらいしかした覚えがないのだが。
だったら、別にここに授業が終わるまで居続ける必要もないだろう。
というか、血管針カルテットには悪いが、あまりこの悪臭漂う部屋に長居はしたくはない。
一応、ルイズの従者ということにもなっているので、今、中庭を歩いても咎められはしないだろう。
今の内に、貴族達の顔を覚えておくのも良いかも知れない。
「それでは、僕はヴァリエール嬢の護衛に戻ります」
「おう……。胸当てだけは外しとけよ……」
「それと……槍の整備も忘れるな……」
そういって、彼らは仮眠室へと消えていった。昨日の騒ぎの収拾で、一睡もしていないらしい。
僕は言われるがまま、胸当てを外して、元あった場所に直しておく。
槍も邪魔なので片づけたいのだが、備品は自分たちで整備しなくては成らないらしい。
仕方なく、これは持っていくことにした。
屯所の壁にかけておいた学ランを羽織り直し、中庭へと出る。
遠目に、貴族共が談笑しているのが見えた。
どうやら食事後のティータイムと決め込んでいるらしい。
僕はその中に、見知ったピンクの髪の少女を見つけた。ルイズだ。
朝のおっぱい……じゃない! …赤い髪をした女性も一緒だ。
そしてもう一人、見たこともない、青い髪のちびっ子が見える。
様子を見ながら、少しづつ近づく。
「ああもう! ほんと腹立つわね! 大体なんなのよ、その子!」
「あたしの友達よ。使い魔の儀式で風竜を呼び出したのよ? まともに契約も出来ない誰かさんと、ち、がっ、て」
「な、ななななんですって~~~」
「あ~ら、やる気?」
どうやら赤髪の女性とルイズが、なにやら言い争っているらしい。いや、ルイズがからかわれているといった方が正解か?
ちなみにちびっ子の方は、黙々と本を読み続けている。
っと、ついに互いに杖を抜きはなってしまった。
ほっといて、沈静化する様子はない。
少し注意するか。
「ッ!?」
止めに入ろうと近づいて、ようやく気がついた。
ルイズ達のテーブルに、サクランボが山盛りになっている。
ルイズにいえば、一つぐらいくれるかも知れない。
いや、今は弱みを見せてはマズイ! つけ込まれるッ!
いや、僕にはこの『ハイエロファント・グリーン』があるッ!
コイツを昔のように誰にも気づかせなくしてやる。
そう! サクランボをとって、舌の上で転がすため、完璧に気配を消してやろう!
少しづつ、サクランボに向けて、僕のハイエロファントグリーンをほどいていく。
確実に手に入れるため、一瞬で、しかもひっくり返さずに手元まで持ってこなくてはならない。
ならば、このハイエロファントで作った網で、マグロを捕まえるみたいに一気に引き上げる!
しかし、注意をサクランボに向けすぎたのがまずかった。ちびっ子が杖を抜いたことに気がつかなかったのだ。
後少しでサクランボに手が届くという所で、急につむじ風が吹いた。
つむじ風は、ルイズとキュルケの杖を吹き飛ばした。ついでにサクランボの籠もひっくり返された。
「今は休憩中」
見ると、先ほどまで黙々と本を読んでいたちびっ子が、杖を片手にこちらを向いていた。
どうやら今の風は、この子が放ったようだ。余計なことをッ!
落ちたサクランボに目をやる。全て、今の風でつぶれてしまっていた。
オロロ~ン。
「っと」
風で吹き飛ばされた杖が、こちらの方へと舞ってきた。
僕はそれを二杖とも受け止める。
「あら?」
「あああ、あんた……いつからそこに」
「今さっきですが」
二人とも、僕の姿に気づいたようだ。ちびっ子の方は未だ、興味なさ気に黙々と本を読みふけっているが。
ともかく、僕は両手の杖を二人へと返した。
「あら、ありがと」
「……」
ルイズは僕の右手にあった杖をふんだくるやいなや、僕に対して一気にまくし立ててきた。
「あんたいったい何なのよ! 使い魔召喚の儀式で平民を呼びだしたと思ったら突然暴れて逃げていくし!
仕方なく追いかけて使い魔にしてやろうと思ったらその……キ、キスも避けるし! 前髪は鬱陶しいし!
あげくスタンド使いとか訳が分からないこと言い出すし! ほんとなんなのよ、もう!」
好きなだけまくし立てて、荒々しく肩で息をし出すルイズ。
横にいた赤髪の女性は目を丸くしている。
ちびっ子の方も、本から顔を上げてルイズの方を見ている。もっとも表情は変わっていないが。
頭に血が上ることが多すぎて疲れたのか、ルイズはドカッと、荒々しく近くの椅子に座り込んだ。
そしてテーブルの上のケーキをヤケ食いしだした。
それでも、ちゃんと切って食べているのは、教育のたまものなんだろう。
「?」
なにやら、あっちの方の席が一気に騒がしくなった。
「何があったのかしら?」
ルイズは我関せずといった調子で、未だにケーキを食べ続けている。既に3個目だ。
と、見覚えのある格好をしたメイドが、こちらに向かって走っている。シエスタだ。
シエスタはひどくおびえた様子だ。
その様子が気になった僕は、走っていくシエスタの肩を押さえて、事情を聞く。
「シエスタ、何があったんですか?」
「は、離してください!」
いきなり呼び止められて、ひどくおびえた様子のシエスタだったが、何度か深呼吸をさせ、落ち着かせる。
僕は改めて、事情を聞く。
「それで、何故あんなに慌てていたんですか?」
「そ、それが……。才人さんと、グラモン様が決闘を……」
ガタン
誰かが立ち上がるような音がする。
見るとルイズが口元を押さえて、立ち上がっていた。
何か言いたそうにしているが、口の中にケーキが残ったままで喋るのはプライドが許さないようだ。
ともかく、僕はシエスタから、事の詳細を聞く。
「……それで、才人さんが持っていた香水が元で、グラモン様が激怒なさいまして、そのまま決闘ということに…」
どうやら才人が持ってきた香水で、その持ち主の二股がばれて、逆切れ、決闘という運びになったらしい。
その相手というのは相当、どうしようもない奴だな。
ソイツの事はともかく、これはまずい。
ルイズの話によると、貴族は悉くメイジだという。
昨日暴れた時に、こちらに火の玉等を飛ばしてきた奴らを思い出す。
僕は退けることが出来たが、才人にそれが出来るか?
無理だ。そもそも運動神経でさえ、僕に負けている。
生身でどうこうなる相手じゃない。
才人は僕にとって、真の友か? 答えはNOだ。彼には僕のスタンドは見えない。僕という像が見えていない。
けれども友人か? といわれればYESだ。
見捨てられる訳がないッ!
以前の僕なら考えもつかなかった。だが今の僕は、僕じゃない僕を通して、仲間というものを知っている。
もう二度と、ひとりぼっちの花京院典明には、絶対に戻らないッ!
「すみません、シエスタ。その広場というのはどっちでしょうか」
「そこのアーチをくぐった先ですけど…… だめです! 殺されちゃいます!」
シエスタが引き留めようとする。
しかし、僕はそれを振り切って、そのアーチに向かって走り出した。
To be contenued……