ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-14

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匿名ユーザー

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馬に乗ること3時間、ルイズとギアッチョはトリステインの城下町に到着した。ここ
ハルケギニアに召喚されてから初めて見る学院外の景色だったが、ギアッチョは
今それどころではなかった。生まれて初めて乗馬を経験した彼は腰が痛くて仕方が
なかったのだ。
「そっちの世界に馬はいないの?」
ルイズが不思議そうに尋ねる。
「いねーこたねーが・・・都市部で馬を乗り物にしてたのは遥か昔の話だ」
ギアッチョが腰を揉みほぐしながら答えるが、ルイズはますます不思議な顔を
するだけだった。
「まぁ覚えてりゃあそのうち話してやる それよりよォォ~~ 剣ってなどこに
売ってんだ?」
「ちょっと待って・・・ええと こっちだわ」
ルイズが地図を片手に先導し、ようやく周囲に眼を向ける余裕が出てきたギアッチョは
その後ろを観光気分でついて行く。何しろ見れば見るほどメルヘンやファンタジー以外の
何物でもない世界である。幅の狭い石敷きの道や路傍で物を声を張り上げて売る商人達、そして彼らの服装などはまるで中世にワープしたかのようだ。しかし中世欧州と似て
非なるその建築様式が、ここがヨーロッパではないことを物語っていた。
「魔法といい使い魔といい、メローネあたりは大喜びしそうだな」などと考えたところで、
ギアッチョは自分が既にこの世界に馴染んでしまっていることに気付いた。
リゾットはどうしているのだろう。見事ボスを倒し、自分達の仇を取ってくれたのだろうか。
それとも――考えたくないことだが、先に散った仲間達の元へ行ってしまったのだろうか。
このハルケギニアと同じように時間が流れているのならば、きっともうどちらかの結果が
出ているだろう。
ホルマジオからギアッチョに至る犠牲で、彼らが得る事の出来たボスの情報はほぼ
皆無だった。いくらリゾットでも、そんな状態でボスを見つけ出して殺せるものだろうか。
相当分の悪い賭けであることを、ギアッチョは認めざるを得なかった。


――どの道・・・
ギアッチョは考える。どの道、もう結果は出ているのだ。自分はそれを知らされていない
だけ・・・。
「クソッ!!」
眼に映るものを手当たり次第ブチ壊してやりたい気分だった。当面はイタリアに戻る
方法が見つからない以上、こんなことは考えるべきではなかったのだろう。だがもう遅い。
一度考えてしまえば、その思考を抹消することなどなかなか出来はしない。特に――
激情に火が点いてしまった場合は。

――結末も知らされないままによォォーーー・・・ どうしてオレだけがこんな異世界で
のうのうと生き長らえているってんだッ!ああ!?どうしてだ!!どうしてオレは生きて
いる!?手を伸ばすことも叶わねぇ、行く末を見届けることすら出来やしねえッ!!
何故オレがッ!!ええッ!?どうしてオレだけがッ!!何の為に!!何の意味が
あってオレは惨めに生きている!?誰か答えろよッ!!ええオイッ!!

一体何に怒りをぶつければいいのか、それすらも解らないまま――、ギアッチョは
溢れ出しそうな怒りを必死に押しとどめていた。

「・・・ギアッチョ ・・・・・・どうしたの?」
その声にハッと我を取り戻したギアッチョが顔を上げると、ルイズが僅かな戸惑いをその
顔に浮かべて自分を見ていた。
「・・・・・・なんでもねぇ」
思わずルイズに当たりそうになったが、彼女とて意図して自分を呼び出したわけでは
ない。数秒の沈黙の後――ギアッチョは何とかそれだけ言葉を絞り出した。



いつもと様子が違うギアッチョに、ルイズは当惑していた。ギアッチョを召喚してまだ
数日だが、この男がキレた所はもう嫌というほど眼にしていた。そしてその全く
嬉しくない経験から理解していたことだが、ギアッチョはブチキレる時にTPOを
わきまえることはない。食堂だろうが教室だろうが、キレると思ったらその時スデに
行動は終わっているのがギアッチョなのである。シエスタから聞くところによると、
既に厨房でも一度爆発したらしい。傍若無人を地で行く男であった。
そのギアッチョが怒りをこらえている。ルイズでなくても戸惑いは当然だろう。
レンズの奥に隠れてギアッチョの表情は判らなかったが、ルイズには彼が無言の
うちに発している悲壮な怒りが痛々しいほどに伝わってきた。

――・・・ギアッチョ 私のただ一人の使い魔 ただ一人の味方・・・

ルイズはギアッチョの力になってやりたかった。圧勝とは言え体を張って自分を
助けてくれたギアッチョに、せめて心で報いたかった。しかしルイズの心の盾は
堅固不壊を極めている。自分の為に本気で怒ってくれたギアッチョに、ルイズは
ただ一言の礼を言うことすら出来なかった。そして今もまた、ルイズの盾は
忠実に職務を果たしている。ギアッチョに報いたいというルイズの思いは、自らの
盾に阻まれて――彼女の心の内に、ただ虚しく跳ね返った。

こうして、怒りを内に溜め込んでいるギアッチョと自己嫌悪に陥っているルイズは
二人して陰鬱な空気を纏ったまま武器屋へと到着した。

貴族が入店したと見るやドスの効いた声で潔白の主張を始める店主に「客よ」と
告げて、ルイズは剣の物色を始める。
「・・・ギアッチョ、あんたはどれがいいの?」
使用者であるギアッチョの意向無しに話は進まないので、ルイズは意を決して
話しかけた。
「・・・剣なんぞに馴染みはねーんだ どれがいいかと聞かれてもよォォ」
同じ事を考えているであろうギアッチョは、そう答えて適当な剣を手に取る。
「――リゾットの野郎がいりゃあ・・・いいアドバイスをくれただろうな」
刀身に視線を落とすと彼はそう呟いた。
リゾット・・・何度かギアッチョが話した彼のリーダー。怒りや悲しみがないまぜに
なった声でその名を呟くギアッチョに、ルイズは何かを言ってやりたくて・・・
だけど言葉すらも浮かんではこなかった。

「帰りな素人さんどもよ!」

ルイズの代わりに静寂を破ったのは、人ではなかった。二人が声の主を
探していると、再び聞えたその声はギアッチョの目の前から発されていた。
「剣なんぞに馴染みはねーだァ?そんな野郎が一人前に剣を担ごうなんざ
100年はえェ!とっとと帰って棒っ切れでも振ってな!」


「・・・何? どこにいるのよ」
ルイズがキョロキョロとあたりを見回していると、ギアッチョがグィッ!と一本の
剣を持ち上げた。
「・・・インテリジェンスソード?」
ルイズは珍しそうに持ち上げられた剣を眺めている。
「は、いかにもそいつは意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ
こらデル公!お客様に失礼な口叩いてんじゃあねえ!」
店主の怒声をデル公と呼ばれた剣は軽く受け流す。
「おうおう兄ちゃんよ!トーシロが気安く俺に触ってんじゃあねーぜ!放しな!」
なおも続く魔剣の罵声もどこ吹く風で、ギアッチョは感情をなくした眼で「彼」を
じっと見つめている。
「聞いてんのか兄ちゃん!放せっつってんだよ!ナマスにされてーかッ!」
なんという口の悪さだろう。ルイズは呆れて剣を見ている。そしてギアッチョも
感情の伺えない眼でデル公を見ている。
「・・・おい、てめー口が利けねーのかぁ!?黙ってねーで何とか言いな!!」
ギアッチョは見ている。死神のような眼で、喋る魔剣を。
「・・・・・・ちょ、ちょっと何で黙ってんだよ・・・喋ってくれよ頼むから ねぇ」
ギアッチョは不気味に見つめている。彼の寡黙さにビビりだした剣を。
「・・・あのー・・・ 丁度いいストレスの発散相手が出来たって眼に見えるんですが
・・・僕の気のせいでしょーかねぇ・・・アハハハハ・・・」
そして完全に萎縮してしまったインテリジェンスソードを見つめる男の唇が、
初めて動きを見せ――

トリステイン城下ブルドンネ街の裏路地に、デル公の悲鳴が響き渡った。

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