ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

見えない使い魔-9

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匿名ユーザー

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だっ、と、一番に飛び出したのはタバサだった。ルイズとンドゥールも外に
出るが、キュルケは無事だった。かすり傷も負っていない。しかし、安堵の
息をはけない状況だった。
小屋の外に、宝物庫を打ち抜いたゴーレムがいたのだ。ンドゥールがふむ、
と、つぶやいた。
「キュルケ、ロングビルはどうしたの?」
「わからないわ。私を庇ってあれに飛ばされちゃったの」
ルイズはゴーレムの拳を見た。そこらの岩より巨大なそれ、まともに食らっ ていれば死んでいる可能性すらある。
タバサが口に手を持っていく。口笛を吹いてシルフィードを呼ぶつもりなの だったが、それをキュルケが止めた。
彼女はロングビルとろくに会話した覚えはない。それでも庇われた。その恩が、彼女の心に火を燈す。
「ルイズ、また話があるんだけど、」
「なにかしら」
「あれ、倒さない?」
「……逃げるんじゃなかったの?」
「気が……変わったのよ!」
杖を振るい、呪文を唱える。キュルケの目前に火の玉が浮かび、それは徐々に質量を増していき、身の丈ほどのサイズになった。
「食らいなさい!」
キュルケが腕を押し出すと火球はゴーレムの頭に命中した。すかさずタバサ
が細い竜巻を生み出しぶつける。しかし効果はない。身震いひとつせずその豪腕をふるってきた。
「いかんな」
ンドゥールが三人を地面に押し倒した。小屋の破壊音。風と砂、木片が舞う。
「腹立つわね。いい案ないの?」
「ある」

ンドゥールはルイズが抱えている箱を指した。
「それを使えばいい」
『破壊の杖!』
ルイズとキュルケの声が重なった。二人は急ぎふたを開いて中から目的のも
のを取り出した。
「わたしがやるわ!」
キュルケがひょいっと奪い取った。ルイズは怒りかけたが、自分がやったと
ころで失敗するのは目に見えている。いまは屈辱に耐えるときと、歯を食い
しばった。
「覚悟しなさいよ……ファイアー、ボール!」
威勢のいい声が山間に響く。
が、なにも起こらなかった。
「ファ、ファイアーボール! ファイアーボール!」
いくら連呼したところで意味はなかった。ゴーレムの姿は消えず、キュルケ
が想像する絶大な業火は現れない。ルイズもタバサも戸惑うだけだった。
ゴーレムが腕を振るう。四人はなんとかその攻撃を逃れる。
「なによこれ! どこが破壊の杖なのよ!」
キュルケが毒を吐く。と、横から、
「使い方が違う。やはりこういうものはないのだな」
ンドゥールがそれを奪った。
自分の杖はルイズに預ける。
「デルフリンガー、お前の出番だ。しっかり見ろ」
「やれやれ相棒、もうちょいましな使い方をしてくれよ。ま、要望にはこた
えるぜ」

「大体の方向でかまわん」
「あいよ。ま、そんぐらいが限界だかんな」
ルイズたち四人はゴーレムから離れ、ンドゥールの挙動を見つめている。彼
は破壊の杖を肩に担いでゴーレムから距離を離しだした。杖をどうするのか、
皆目見当がつかなかった。
がさり、と彼女たちの背後で音がした。驚き振り向くと、そこにはロングビ
ルがいた。
「無事だったのね!」
「ええ。なんとか。さすがに死ぬかと思いましたけど」
そうキュルケに笑い返す彼女は、体が砂まみれであること以外はなにもない
ようだった。
「でも、一体どうなっているのです? なぜ破壊の杖を?」
「ンドゥール、使い方がわかるようなんです」
ロングビルは瞳をンドゥールに向けた。彼はデルフリンガーの声に従い、
少しずつ方向を修正している。そして、ある距離に到達したところで彼は立
ち止まった。ルイズの心に声が聞こえる。
(とんだ茶番だ……)
それはンドゥールのもの、気づくと同時に破壊の杖が『使用』された。

閃光と爆発、耳と目が一瞬機能を殺された。
ルイズは顔に当たる砂を払い、ゆっくりと目を開いていった。彼女の視界に、
片腕を抉られたゴーレムがいた。
「……すごい」
ロングビルが感歎の声をもらした。目を大きくしばたたかせ、まじまじとそ
の『破壊』を行ったンドゥールを見つめている。
ルイズはすぐに駆け寄っていった。
「やったじゃないの!」
「……いや、まだだ」
ンドゥールの言葉通りだった。ゴーレムは多大な損害を受けたが、ゆっくり
と地面の土を補給して腕を復元しようとしている。しかし、もう一度胴体に
でも食らわしてしまえば、終わる。
「ンドゥールもう一度!」
「―――それは、無理だ」
彼はそういい、大きく咳き込んだ。破壊の杖を持てず地面に落とし、口から
は大量の液体を吐いて跪いてしまう。息も荒く、困憊しているようにしか見
えない。
「ルイズ、彼どうしちゃったの!?」
「そんなのわかんないわよ!」
「もしや、破壊の杖を使った代償では?」
焦る二人に対し、落ち着いた声でロングビルがそんなことを言った。確かに、
使用した途端にこうなってしまったのだからそう考えるのが自然だ。ルイズ
は意を決し、破壊の杖を持ち上げた。
(今度はわたしがやってやる!)
「ミス・フランソワーズ! いけません!」
ロングビルの制止を聞かず、自身の使い魔がやっていた通りに構えた。代償
を払う必要があろうがなかろうがどうだっていい。ここで体を張らねば貴族
の矜持も誇りも、彼女の意地も消え去るのだ。
狙いをつける。
食らいなさい!
瞬間、彼女の腹部に強い衝撃が加わった。

「人の話は聞いていただきたいものですわ」
「……あ、あなた」
ルイズは腹を殴られた。彼女は咳き込み地面に崩れ落ちた。それを冷めた目
でロングビルが見下ろしていた。
「ミス・ロングビル……」
キュルケが愕然とした表情で見つめる。
「悪いわね。心配してくれたのはうれしかったわよ」
タバサは即座に杖を構えようとした。しかし、
「動かないで!」
破壊の杖を向けられてしまえば従うしかない。ロングビルは気丈にも射殺し
そうな視線で睨みあげるルイズをンドゥールのもとに『フライ』という魔法
で運んだ。
「もうわかってるでしょうけど、わたしが『土くれ』のフーケよ」
「なんでわざわざここに案内したのよ」
怒気が含まれたキュルケの声だ。
「これが間抜けなことにね、ぜんぜん使い方がわからなかったのよ。でももういいわ。あんたたちは用済み」
「この……!」
キュルケはわなわなと震えていた。とことん利用されていたのだ。両眼はつ
りあがり、拳は血が出るほど握り締めていた。なんと情けないことか。
怒りと悔しさの大火にに身を焦がせる。そんな彼女に、やけに落ち着いた声
が聞こえた。
「なるほど。思ったとおりだ」
ルイズを抱き寄せたンドゥールだった。

「あら、疑っていたのかしら」
「そうだ。なにせこの犯行は俺を知っていなければできないからな」
「その推理、聞かせてもらいたいわ」
ンドゥールはとんとんと、頭を叩き、ついで杖で地面を突いてから答えた。
「襲撃したときにわざわざ魔法を使ってまで足音を立てず、なおかつ存在が
ばれないようにしていた。あの俺を狙ったファイアーボールもお前なのだろ
う。真正面から乗り込ませたのは囮の意味と、混戦で俺の耳を混乱させ、土
の中に埋めてお前の存在を知らせさせないためだった。ここまでくればルイ
ズ、オスマン学院長、それと唯一アリバイがないお前に絞られる」
「お見事。大正解。でもそれならどうしてここに来たのかしら」
「可能性として、ただの内通者かそれとも本当に外部のやつが犯人だという
こともあったからな」
「そう。それで話はおしまいかしら」
「終わりだ。長話に付き合ってくれて礼を言おう」
ンドゥールがそう言うとロングビル=フーケは破壊の杖を構えた。キュルケ
もルイズも、タバサでさえも身を縮こまらせた。数秒先の未来に存在してい
ない自分が想像できた。
それでも、ンドゥールだけは落ち着いていた。彼の腕の中にいるルイズが見
上げると、どことなく笑っているように見えた。
「あともう二つ、かまわんか」
「なに? まあ、いいわよ」
「それを使うのに代償なんてものはいらない。お前の推測は間違いだ」
「え?」
それでは先ほどのことはなんだったのだ。フーケは背中の汗に気づいた。
いやな予感がする。
「あと、破壊の杖という名称は間違い。それは単発式のロケットランチャーだ」
単発式? なによそれは。彼女はそう尋ねたかったが、指に走った鋭い痛み
に思わず手を離してしまった。

白魚のような指がぽとりと草の上に落ちた。
傷口からは細い滝のように血液が流れている。
「―――こ、この、くそやろうッ!」
フーケは罵声を浴びせるがンドゥールは涼しい顔をしていた。
「やれやれ、自分のスタンドとはいえ腹の中に数リットルの水をためておく
ことには苦労した。おかげで一泡ふかせられたが」
「うるさい! まだ、終わっちゃいないのよ!」
痛みにこらえながら魔法を唱える。フライだ。フーケはそれでゴーレムのそ
ばに浮かび、命令を下した。
「やっておしまい!」
ゴーレムは巨体を動かし、今しがた直った腕を振るった。事の推移について
いけなかったキュルケとタバサもなんとかそれを避ける。ンドゥールはルイ
ズから離れm水を繰り、ゴーレムに大きな穴をあけていく。時にはデルフリ
ンガーを抜き、足を攻撃するときもあった。
「おい相棒、やっぱこれ無理だわ」
「だな、役立たず」
「うーん、この扱いのひどさ。なんだかだんだん心地よくなってくるね!」
「よかったな」
軽口を叩きあう。もちろんこの間にもキュルケが炎をぶつけ、タバサが風を
巻き上げるのだが効果はない。このままではジリ貧である。ンドゥールはル
イズのもとに戻って尋ねた。
「ところで、自分の杖は持っているか?」
「それはまあ。メイジはこれがないとどうしようもないもの」
「よし。ならばやれ」
ルイズはンドゥールの言葉は理解した。それでも念のために尋ねた。
「なにを?」
「魔法だ」

正気かどうか疑わしい。それでも言われたとおりに杖を構えた。
「なに? なにをつかったらいいの?」
「なんでもかまわん。いつもどおりやればいい」
(いつもどおりって……)
それでは失敗だ。だが、『ゼロ』のルイズといえどこれまで失敗ばかりしてきたわけじゃない。あくまでほとんどだ。たまになら、そう、成功した事だってあるのだ。たしか。
彼女は心の中で自身を鼓舞する。
(いまよ。いまできないとなんにもならないわ)
何度も自分に言い聞かせる。だが、体が震えた。失敗ばかりが目に浮かぶ。使い魔の落胆が見えてしまう。呆れる声が聞こえてしまう。お前は駄目だ、失敗ばかりだ、さすがは『ゼロ』だ。
喉が締め付けられる。声が出ないほどルイズは自身の妄想に苛まれている。
「ルイズ」
「……なに?」
「お前に不安があるのはわかる。俺は『あの方』のように安心を与えること
はできない。だから頼む。自力で恐怖を乗り越えてくれ」
ンドゥールの言葉。
それを聞いて、ぞくりと体が震えた。
でもそれは心配なんかではない。
血が沸いたのだ。
肉が踊るのだ。
ルイズの心からいま、恐怖も心配も、しみ一つ残さず消え去った。
頼まれたのだ。
必要とされたのだ。
『ゼロ』のルイズを必要といってくれたのだ。
呪文をつぐむ。敵を睨む。
食らえ――!
「ファイアア、ボオル!」

爆発が起こった。
ロケットランチャーほどのものではなく、頭の一部を削る程度のものだった。
またしても失敗だったのだ。
「……ごめん、ンドゥール。わたし、また」
「ああ、まただな」
叱責がくる。
そう思ってルイズは身を固まらせた。
だが、そんなものではなかった。
「よくやった。俺は『これ』がほしかった。土は砂のように舞い上がらない
のでな」

フーケ=ロングビルは自身の敗北を察した。
彼女はこれまで学院に潜伏していたのでなんどか授業を拝聴することがあった。
その中でも興味を引いたのはコルベールという変わり者の男のものだった。
ある日、彼は生徒たちにこんな話をしていた。
山彦、それは不思議な現象だった。山で大きな声を出すと、もう一度その声
が聞こえてくる。巷ではこれが山の精霊がお遊びをしているという説が広がって
いた。しかし、彼は原因は反射だといった。山の斜面に音がぶつかり、それ
が跳ね返ってくるのだと。とある部族ではこの音の反射で距離を測ったりす
るということもいった。
つまり、そういうことだ。
いま、フーケの体にはゴーレムの砂がぶつかっている。
山彦の原理と同じだ。
砂が音、フーケが山の斜面。
ンドゥールには、山彦が聴こえている。

「距離も高さもわかった!」

フーケは見た。
蛇のごとき動きで迫る水を。
己の肩が貫かれる瞬間を。

フーケを捕らえ学院に戻ったあと、当然学院のみなが驚愕した。それでもオ
スマンは即座に王女へ伝令を飛ばした。これによって王宮に報告する事件の
内容は『土くれ』のフーケを返り討ちにしたというだけとなる。破壊の杖が
盗まれたという事実は関係者以外に知られることはない。
二日後、学院では事態の終結を祝って舞踏会が催された。つい先日にも王女
の歓迎があったためそう派手ではないが心和やかになる音楽が奏でられ、教
師も生徒も一緒になって楽しんでいた。が、ンドゥールはというと、そのパ
ーティーに参加することなく学院の外にいた。草むらに座り、杖を地面に突
いて柄を耳に押し当てていた。
冷たい風が吹く。草の波音が広がる。
「相棒よ、一体こんなところでなにしてんだい?」
「耳を澄ましている」
ンドゥールは背中のデルフリンガーに答えた。本来彼は部屋にそのまま置い
ていくつもりであったが、あまりにうるさく騒いでいたため渋々つれてきた
のだ。
「なにか聴こえるのか?」
「音楽、話し声、足音、虫の鳴き声、風、そのぐらいだ」
「お前さんが聴きたいものはないのかい」
ンドゥールは何も答えなかった。
それからずっと、微動だにせずに座ったまま過ぎていく時間を感じていた。

「あんた、なにしてんの?」
学院を抜けてやってきたルイズがいた。彼女はきらびやかなドレスに身を包
んでいる。パーティーから抜け出してきたのだ。
「……耳を澄ましている」
「あっそ。でも、耳は大丈夫だったのね。あんなうるさい音、間近で聴いた
のに」
「あれぐらいなら少しすれば治る。そのために長話したんだがな」
ルイズはしばらくンドゥールを見下ろしていたが、ふいにこんなことを尋ね
た。ずっと気になっていたことだ。
「ねえ、ンドゥールは『あの方』のもとに戻りたいの?」
「よくわからん」
「そうなんだ。てっきり当たり前だって答えると思ってたわ」
「複雑なのだ」
ンドゥールは杖を耳から離した。
「俺は『あの方』に敵対するものに敗北した。そして、やつらの仲間には考
えることを読み取る能力を持つものがいるため自ら死を選んだ」
彼がそっと髪を上げた。ルイズは右のこめかみにある、大きな傷穴を見つけ
た。自ら、と言ったのだからあの水で貫いたのだろう。彼女は背筋が寒くな
った。
「だが、お前に助けられた。あの瞬間、何が起こったのかはわからない。た
だ、お前に捨てた命を拾われたのは確かなことだ。だからお前に恩を返す。
そう決めたものの、時々、お声を聴きたくなる」
「寂しいの?」
そのルイズの問いに、ンドゥールは小さく笑った。

「どうだろうな」
「でも『あの方』に会いたいんでしょ? 声を聴きたいんでしょ?」
「それはそうだがもとの場所に戻れば俺は『あの方』を再び守ろうとする。
そうなると再びあやつらと戦うことになる。望んで戦うだろう。しかしそれ
は俺の礼儀に反することだ。互いに命を懸けておきながら、やり直しをする
などとあってはならないことなのだ」
ふうんと、ルイズはつぶやいた。
「ま、わたしにはわからないわね。だってあんたのこと、全然知らないんだ
もん。自分の使い魔だっていうのに」
「特に語ることもない」
「それはあんたが決めることじゃないわよ」
そう言って彼女はンドゥールの手を取った。
「なんだ?」
「踊るのよ。勲章の代わりに主人の相手を勤める名誉を与えてやるの」
「踊りなど知らん」
「かまわないわよ。わたしがリードするわ。足、踏まないでよね」
ンドゥールは静かにデルフリンガーと愛用の杖を地面に置いた。
ぎこちなく踊りを始める。案の定、彼はルイズの足を踏んだ。
めっぽう痛かったらしい。


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