ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

見えない使い魔-7

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匿名ユーザー

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翌日、いよいよ始まった品評会。舞台の上では次々と二年生たちが自身の使
い魔の特技を披露している。うち何名かは単なる大道芸になっていたりする
のだが、滞りなく進行していた。
そして、ついに、ルイズの名前が呼ばれた。彼女は先日とは違い、覚悟を決
めたのか凛とした表情で己の使い魔を連れたって舞台に上った。
ルイズのクラスメイトや数名の教師、自分の仕事をしているものたち以外は
ざわめきを起こす。それでも彼女は動揺しなかった。
「私の使い魔を紹介いたします。名はンドゥールです」
「がんばれー、『ゼロ』のルイズー」
野次が飛ぶ。その二つ名の意味を知っているものたちからは笑いが生まれる。
それでも顔をうつむかせない。
「見てのとおり、彼は人間です」
さっきより大きな笑いが起こる。こんな罵声はわかっていたことだ。
それに負けぬよう、彼女は己の胸を張って言い放った。端的にンドゥールの
特技というか得意なことを表すもの。
「――この場の誰より強い人間です!」
笑い声も何もかもが消え、しんとなった。ルイズは表情を硬くして、観衆を
見つめながら思った。
(言っちゃった………)

「なら誰かとやってみろよ!」
予想通りの声が飛んできた。それを合図にしてかざわつきが生まれ、それは
加速度的に大きくなっていく。教師たちは静まらせようとしたが、その必要
はなかった。
親衛隊の一人がゆっくりと手を上げた。
「私が相手になりましょう」
今度はどよめきだ。トリステインで親衛隊というものは男児であれば誰もが
入隊を夢見る部隊。それほどの実績と、吟味された力がある。そんな人物と
戦う。
ルイズはやっぱりやめにしないかなあと思った。勝てるとは到底思えなかっ
たのだ。
「礼を言う」
だが、ンドゥールはそんな主人の心配などお構いなしに了承した。
わかっていたことである。元々、ンドゥールが親衛隊の中から適当に一人選
んで戦わせてくれと王女に頼んだのだ。なれば受けるのは当然の流れ。
ルイズは舞台に歩いてい来る騎士を見た。精悍な顔にマントの下にある鎧か
らあふれる威厳、別にンドゥールを弱いと思っているわけではないが、いく
らなんでも相手が悪すぎる。
そう思っていた。

すぐさま刃引きされた剣が用意される。勝負はどちらかが自身の敗北を認め
ることで終わる。魔法は自由だ。ルイズはここまで来てしまってはもう止め
ようなどとは思わなかったが、下がる前にンドゥールに尋ねた。
「これ、使う?」
ルイズは懐から水筒を出した。彼が異常聴覚以外になにか特別なものをもっ
ているのは確かだが、具体的にはわかっていない。それでも水を使うことを
彼女は知っている。
「一応、いただいておこう」
ンドゥールはそれをズボンのポッケに入れて、騎士と対峙した。その人物は
剣を構え、目を尖らせている。杖を取り出さないことから魔法を使う気はな
いようだった。対するンドゥールは、左手に剣を握っているものの構えては
いなかった。
しばらくどちらも動かなかったが、痺れを切らしたのか騎士がじりじりとす
り足で近づいた。やがて互いの間合いに入る。
騎士が剣を振りかぶり、床を蹴った。
ンドゥールの左手が光った。
「んぬお!」
騎士が苦悶の叫びを上げた。
鎧の横っ腹に目にいつのまにか剣が食い込んでいた。
「まいった……」
今度は逆に喝采があがった。野次を掛けていたものたちも大きな拍手を鳴ら
している。騎士は一礼をしてから舞台から降りていった。

「やっぱりタバサのシルフィードか。ま、妥当なとこよね」
キュルケが舞台を見てそんなことをいった。隣にはギーシュやルイズもいる
が、ンドゥールの姿はない。彼は生徒ではなく使い魔の立場である。そのた
め席が用意されておらず、ほかの使い魔たちとともに中庭の隅で鎮座してい
た。
「ダーリンもなかなかだったけどねえ。ルイズ、悔しくないの?」
「あれだけやってのけたら十分じゃないの。本当に親衛隊を倒すなんてこっ
ちが驚いたわ」
「そうよね。ますます惚れ直しちゃったわ」
「言っときなさい。でも、おかしいのよね。剣は使えなかったはずなのよ。
自分でも言ってたもの」
「あんなあっさり倒したのに?」
「うん」
二人の視線が木陰で休んでいるンドゥールに注がれる。もしかして、あれが
デルフリンガーの言っていたことなのかしら、と、ルイズは思った。
舞台上では王女がもう一度竜で舞ってほしいと頼んでいた。それに応じ、タ
バサは使い魔に乗りあがった。
「あれ?」
自分の使い魔が選ばれずにいてうなだれていたギーシュが声をだす。静粛な
場にふさわしくないそれを隣席のモンモランシーが注意する。
「どうしたのよ」
「いや、彼、なにをしてるのかなって」
「誰よ」
「ンドゥール、ルイズの使い魔だよ」

その名前にモンモランシーだけでなくキュルケ、ルイズもそちらを見た。
ンドゥールは、使い魔の群れから離れて歩いていた。向かっていく先は外に
繋がる門である。
「あいつ……!」
「ちょっと駄目よ。座ってなさいな」
席を立とうとするルイズをキュルケがとめる。渋々それに従った。
「でも、彼はどこへ行こうっていうんだろうね」
「さあ。でもそろそろ黙ったほうがいいんじゃないの? 先生たちがこっち
見てるわよ」
モンモランシーがそう言うとぴたりと全員口を閉じてしまったが、ルイズだ
けはそわそわと落ち着きがなかった。
(どこに行くのよ)
自分が戦いを頼んだのだから腹が立ったなんてわけではないだろう。それに
なんだか妙に急いでいる。一体なんだというのだ。
答えはすぐにわかった。というよりもわからされた。突如、彼が向かってい
る門が破られたのだ。

「なに!?」
いち早くルイズがそれを見た。そしてルイズの隣にいた者たち、舞台にいる
ものたちと波紋が広がるように次々と門から出てきたものに気づいていった。
人型、薄茶色の肌、城壁と同じ背、生えている草、ところどころ穴が開いて
いるがメイジならすぐさまそれがなんなのか理解する。
「ゴーレム!」
「姫殿下をお守りしろ!」
その声に応じて親衛隊が王女の周りを固めた。学院の教師たちは自身の杖を
取り出す。
「あんのバカ! 気づいてたらいいなさいよ!」
ルイズも杖を取り出し、魔法を唱えだすが横から口をふさがれる。
「ふがふ! ふがふがががー!」
「あんたが魔法使ったって失敗しかしないでしょ。使い魔を殺す気?」
キュルケにそう言われ、しぶしぶ杖を下ろす。と、次には駆け出そうとした
ところを再びとめられる。
「離しなさいよ!」
「だからやめなさいって言ってるでしょ。ここは私たちに任せなさい。フレ
イム!」
主の声にサラマンダーが鎌首を持ち上げ走り出す。それだけでなく彼女自身
も呪文を唱える。
「この『微熱』のキュルケがお相手してあげるわ! ファイアーボール!」
「僕だってやってやるさ。ゴーレムたち!」
火球が飛んでいき、青銅の像が走っていく。それだけでなく多くの攻撃魔法
が襲い掛かる。タバサは本を読んでいる。
ンドゥールはそれらとゴーレムの攻撃をよけながらなんとか奮闘している。
圧倒的な優勢ではあるが、見ているしかないルイズは胸の奥に焦燥感を覚え
た。

(自分でいうのもなんだけど使い魔は立派。立派だけど、じゃああたしって
何なのよ!)
地団駄を踏む。彼女は己の無力さに涙がこみあげてきそうになった。いまは
それを堪えることが精一杯。唇からは血が出ていた。
やがてゴーレムは多重攻撃に耐えかね、ゆっくりとその形を崩していった。
魔法の数も少なくなっていく、と、一発の大きなファイアーボールがンドゥ
ールを狙ったかのように飛んでいった。
それは直撃こそしなかったものの、ンドゥールを転ばせてしまった。さらに
運の悪いことに力を失ったゴーレムが土の塊となって彼に降りかかり、完全
にその姿を隠してしまった。
それを見て、ルイズは気絶しかけたが、何とか踏みとどまる。
「ギーシュお願い!」
「わかってるさ。愛しのヴェルダンデ、彼を助けてやってくれ」
主人の命令に応じ、大きなモグラが土の山に突き進む。
「大丈夫でしょ。そんなたいした量じゃないわ」
「……うん。そうよね」
ルイズはキュルケの言葉で心が少し落ち着いた。が、なにか先ほどまでとは
違う焦りが心の中にやってきた。それはとても妙なもの、自分のものではな
く他人のもののような気がした。

徐々に、それは形を得て、言葉になった。
(囮―本命―違う)
それは彼女がよく知る、ンドゥールの重く響く声だった。
「ルイズどうしたのよ。顔色悪いわよ?」
キュルケの声も聞こえない。モンモランシーやタバサも顔を寄せているが、
ルイズは彼女たちの顔が見えていない。
(狙いは――)
ルイズは首を真後ろに向けた。ムチウチになりそうな勢いだった。
彼女の視線の先は、この品評会が行われている広場の反対側。僅かな暇もな
くルイズは走り出した。
「どこにいくのよ! ルイズ!」
後ろから掛けられる声も気に留めない。使い魔から発せられたメッセージを
受けて走る。敬愛する王女の姿も入らないほど視野狭窄になっていた。
彼女は裏側にたどり着き、本命を見た。それは門を破壊したものとは比べ物
にならない大きさのゴーレムだった。そばにはフードで顔を隠した人物が宙
に浮いている。ゴーレムを操り同時にフライを使う、それだけで相当な使い
手とわかる。
狙いは明白。宝物庫の破壊だ。
「ちょっと、なによこれ!」
キュルケとタバサがルイズのあとを追ってやってきた。
「ゴーレムよ! 見たらわかるでしょ!」
「でもこれさっきのよりもっと大きい……もしかして『土くれ』のフーケ!?」
その大きな声が災いした。
フーケと思われる人物に彼女たちは姿を見られてしまった。

「く……ファイアー!」
キュルケが火球を投げつける。だがそれはゴーレムの肌を少し焦がすにとど
まった。
「見掛け倒しってわけじゃないのね」
「当たり前よ。こっちが本命だもん」
「あんた、そういやなんで気づ……なにしてるのよ!」
キュルケが声を上げるのも無理はなかった。ルイズは呪文を唱えていたのだ。
成功率『ゼロ』だというのに。
「ちょ、やめ………」
「―――ファイアー、ボール!」
ゴーレムが主人を守ろうと動く。が、ルイズの魔法は、なにも起こらなかっ
た、わけではない。宝物庫の外壁が爆発した。
「どこがファイアーボールよ!」
「うるさいわね。ちょっと失敗しただけじゃないの」
最悪の状況で二人は口喧嘩を始めてしまった。危険極まりない、が、ゴーレ
ムは彼女らを攻撃しなかった。
「あれ……」
タバサが上空を指差した。ルイズとキュルケは喧嘩をやめて空を見上げた。
そこでは、ゴーレムが宝物庫の壁を巨大な腕で殴りかかっていた。
「ああ!」
ゴーレムは壁を打ち抜いた。

ヴェルダンデによってンドゥールはたいした時間もかからず救助された。と
はいえ下半身はいまだ土の中だ。
「感謝は結構だよ。君は体を張って奮戦していたわけだしね」
ギーシュはそういうものの高慢な笑みが張り付いた顔は、礼をして当たり前
と言った感じだった。本来ならンドゥールは感謝するところだが、今回はし
なかった。己の杖を地面に突き刺し、柄を自分の耳に当てる。
ギーシュはそれを見て少し腹が立ったが、その些細な苛立ちを吹き飛ばす轟
音が耳に入った。

『土くれ』のフーケと思われる人物は宝物庫に入り、長い箱を奪っていった。
「……ん、」
タバサが使い魔のシルフィードに乗って風の魔法を放つが、それすらもゴー
レムという壁に阻まれてしまう。
地面からはキュルケが何度も火球を放つがまったく効果はない。
「かったいわねえ! 逃げられちゃうわこれじゃ」
「そうさせないようにがんばりなさいよ!」
「やってるわよ!」
また喧嘩が始まるが今度はすぐにやめた。大きな足が迫ってきていたら当然
だ。二人はなんとかそれを避けるが、こんどは大きな腕が振り下ろされる。
タバサがシルフィードを向かわせる。自身でも魔法でゴーレムを攻撃する。
しかしその巨体は揺るがない。
拳は、落ちた。が、結果的に、ルイズとキュルケは無事だった。ゴーレムに
つぶされる直前、何かに押し飛ばされたのだ。
「……なに、あれ」
タバサは思わず声を上げていた。もともと寡黙な彼女がこのような声を出す
ということは、それだけの驚きだったのだ。

「……水?」
キュルケがそうこぼした。そのとおり、彼女らの眼前に水が立っていた。
水系統のメイジが助けてくれたのだろうか。キュルケにはそれが誰かわからな
かったが、ルイズにはその人物に心当たりがあった。
「――ンドゥール!」
「うそ! これダーリンなの!?」
「たぶん!」
水は返答せずにゴーレムに襲い掛かった。やすやすと体に穴を開けて潜り込
むと縦横無尽に走り回り、傷だらけにしていく。しかし効果がない。一瞬で
ふさがってしまう。水もそれを察したのか、ゴーレムの頭に上っていき、術
者を狙おうとする。
しかし、見当違いなところを襲っている。
「どうしたのあれ」
「わからないのよ! ンドゥールは音で場所を確認するの。だから空にいら
れたら攻撃できないんだわ」
「じゃあ教えないと。ダーリンそこじゃないわ左よ!」
キュルケが場所を叫ぶがそれは術者にも筒抜けだ。水は相変わらず命中しな
い。ゴーレムは外へと歩いていく。このままではまんまと宝物を盗まれてし
まう。
「……ンドゥール、隠れてて」
ルイズはそういい、呪文を唱えだした。キュルケはそれが聞こえていなかっ
たので止めることができなかったが、ンドゥールがゴーレムの体の中に隠れ
たことでルイズが何をやろうとしてるのか気づいた。
「また………」
「ファイアーボール!」
数秒の間をおき、爆発した。今度は宝物庫ではなくゴーレムだったが、頭の
表面をほんの少し削っただけ。砂を巻き上げただけに過ぎない。
ゴーレムはなんのダメージも負っていないのか歩みを止めなかった。
だが、ようやく水は当たりをつけ、まっすぐ術者に向かっていった。
腕を掠め、血が吹き出る。しかしなんの障害にもならなかった。盗賊はゴー
レムとともに外へと出て行ってしまった。


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