ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-26

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匿名ユーザー

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翌朝。
「・・・っうぅん・・・ ・・・・・・ハッ!?」
言い知れぬ不安を感じてガバッと跳ね起きたルイズは、外の明るさを確認して軽く絶望した。
「もっ、もうこんな時間!?ちょっとギアッチョ、起きてるなら起こしなさいよ!」
ベッドから立ち上がったルイズは椅子に座って頬杖をついている使い魔を睨むが、
「・・・ギアッチョ?」
当のギアッチョは、感情の篭らない眼でぼーっと虚空を見つめている。
「・・・ねえ、ギアッチョ・・・大丈夫?」
ルイズの心配そうなその声で、ギアッチョはやっと気付いたらしい。緩慢な動作で、クローゼットを漁るルイズに首を向けた。
「ああ・・・すまねーな」
いつもの気強い態度は全く鳴りを潜めている。原因は明白だった。
ホルマジオ達の死については、ギアッチョにももう整理はついているだろう。
しかしリゾットの死を知ったのは今朝のことなのである。彼の動揺を誰が責められるだろうか。
無神経だったとルイズは思った。そしてそれと同時に今朝の夢が頭の中で反芻されて、ルイズの気分もドン底に沈んでしまった。
ぶんぶんと首を振って、彼女は考える。こんなときこそ主人は毅然としていなくてはならない。
今自分が悄然とした態度を見せれば、ギアッチョの心はますます沈んでしまう。
「ギアッチョ、厨房に行ってきなさいよ シエスタが料理作って待ってるでしょう?」
出来るだけ平静を装って、ルイズはギアッチョに声を投げかけた。
「・・・今日は授業に遅刻してもいいわ ゆっくり食べて来なさい」
ルイズの気遣いに気がついたのか、「・・・そうだな」と短く返事をするとギアッチョは椅子から腰を上げた。

料理を口に運びながら、ギアッチョは軽い自己嫌悪に陥っていた。
リゾット達の死を受け入れるなどと言っておきながら、結局感情を抑えきれていない自分が心底腹立たしかった。
勿論、他人から見れば全く仕方の無いことではある。リゾットの死に加えて、六人全ての死に様を己の眼で見たのだ。
封じたはずの彼の火口から怒りと悲しみが漏れ出してくるのも当然だとルイズもそう思っているのだが、ただギアッチョ自身だけが己を許せない。
リゾットまでがジョルノ達にやられていれば、ギアッチョは怒りを爆発させてしまっていたかもしれなかった。
リゾットがボスと戦い、そして瀕死にまで追い込んだという事実だけが彼の心を慰めていた。

「・・・あの、ギアッチョさん」
いつもの覇気の無いギアッチョを、シエスタは困惑した眼で見つめていた。
「どうかなさいました? なんだかいつもより元気がないように見えるんですが」
「・・・ああ すまねーな・・・ちょっと色々あった」
我に返って言葉を返す。しかしギアッチョのその言葉に、シエスタの表情はますます心配の色を深めた。それに気付いてシエスタは努めて笑顔を作る。
「・・・ギアッチョさん えっと・・・その も、もし辛くなったら いつでも言ってくださいね 私でよければ相談に乗りますから」
いつもと違うギアッチョの様子に気後れしつつも、彼女はそう言って微笑んだ。
同じく心配げにギアッチョを見ていたマルトーも、
「おおよ!俺だって年中無休で乗ってやるぜ!言いたくなったら遠慮するんじゃねーぞ 我らの剣!」
シエスタの言葉を受けてドンと胸を叩く。そんな二人を見て、ギアッチョは自分がどれだけ打ち沈んだ顔をしていたのかをやっと理解した。
――こんなガキからオヤジにまで心配されてよォォ 何やってんだオレは?
ギアッチョは空になった皿にフォークを置いて立ち上がる。
「悪かったな・・・もう問題ねー」
彼の顔からはもう沈んだ様子は伺えない。よく分からないなりに安堵している二人に礼を言ってから、ギアッチョは教室へと歩き出した。


感情が顔に出ていたというのなら、そのせいで心配されていたというのなら。
ギアッチョはすっと顔から表情をなくす。
怒の方面には感情の起伏が激しい男だが、彼も普段は冷静な性格であり、加えて暗殺者時代にそれなりの経験があるものだから無感情に振舞うことはそんなに難しいことではなかった。
ギアッチョは他人に心配されるのは好きではない。いや、正確に言うならば苦手なのである。
別に鬱陶しいとか腹立たしいとかいうわけではなく、要するに慣れていないのだった。目の前の人間に心配そうな顔で何かを言われたり、あまつさえ泣かれたりなどするともう何を言っていいか分からないわけである。
まあ、勿論生前にはそんなシチュエーションなど皆無に近かったのだが。
説教をしたくないというのも似たような話で、つまりは他人に深く干渉したりされたりするのが苦手なのだった。
心配されるのは苦手だ。特にルイズの野郎はしまいにゃまた泣き出すかもしれない、とギアッチョは思う。
ギアッチョが召喚されてからというもの、ルイズはやたら泣いてしまうことが多かったので、ギアッチョの中ではルイズ=泣き虫という式が出来上がっているらしかった。
目の前で頼りにしていた人間が死にかけたり九人分の死に様を見せられたりすれば若干16歳の少女としてはそれは泣かないほうがおかしいぐらいの話ではあるのだが、境遇が境遇である為にギアッチョにそんなことは全く分からなかった。
さて、そういうわけで彼の心の中では小さな爆発が何度も起こっているのだが、とりあえず表面上は感情を出さないことに方針を決めてギアッチョは教室の扉を開ける。
と、その瞬間烈風と共に赤髪の少女が吹っ飛んできた。
「ああ?」
予想外の出来事に少々面食らいつつも、ギアッチョは見事に彼女を抱き止める。
「・・・何やってんだてめーは」
というギアッチョの呆れ混じりの問いに、
「・・・ありがとう 背骨を折らなくて済んだわ」
額に青筋を浮かばせながらも、彼女――キュルケはすました顔で礼を言った。


聞けばそこの長い黒髪に漆黒のマントという何かの映画で見たようないでたちのギトーという教師が、風が最強たる所以というものを披瀝していたらしい。
彼はギアッチョにちらりと一瞥を向けると、何事も無かったかのように授業を再開した。
何だか癇に障ったので嫌味の一つでも言ってやろうかと思ったが、キュルケが黙って席に戻ったのでギアッチョも黙って座ることにした。
勿論貴族の席に堂々と。ギトーはまだまだ風の最強を説明し足りないようで新たに呪文を唱えていたが、突然の闖入者にその詠唱は中断された。
乱暴に扉を開けて現れたのは、鏡のように磨き上げられた頭を持つ男、コルベールである。しかし、今入ってきた彼の姿は乱心したかとしか思えないほど奇妙なものだった。馬鹿デカい金髪ロールのカツラを頭に乗せ、ローブの胸にはひらひらとしたレースの飾りや刺繍が踊っている。ギトーは眉をひそめて彼を見た。
「・・・ミスタ? 失礼ですが・・・そのカツラは?」
「ヅラじゃないコルベールだ」
何かよく分からない拘りがあるらしい。ギトーはとりあえずスルーすることにした。
「・・・・・・今は授業中ですが」
しかしコルベールは、それどころじゃないという風に手を振って言う。
「いいえ、本日の授業は全て中止です」
教室から一斉に歓声が上がった。不満げな顔をするギトーから生徒達に眼を移して、コルベールは言葉を継ぐ。
「えー、皆さんにお知らせですぞ」
威厳を出す為かそう言ってふんぞり返った瞬間に、彼の頭から見事な回転を描いてカツラが落下した。幾人かの生徒がブフッと吹き出し、それを合図にそこかしこから忍び笑いが聞こえる。
一番前に座っているタバサが、旭日の如く輝くコルベールの額を指してぽつりと一言「滑りやすい」と呟き、その途端教室が爆笑に包まれた。キュルケもタバサの背中をバンバンと叩いて笑っている。


「シャーラップ!ええい、黙りなさいこわっぱ共が!」
コルベールは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「大口を開けて下品に笑うとは全く貴族にあるまじき行い!貴族はおかしいときは下を向いてこっそり笑うものですぞ!まったく、これでは王室に教育の成果が疑われる!」
王室、という言葉に教室が静まり返る。どうしてそんな言葉が出てくるのだろう。
そんな生徒達の心中の疑問に答えるべく、コルベールが三度口を開く。
「えー・・・おほん  皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、まことによき日であります 始祖ブリミルの降誕祭に並ぶ、実にめでたき日でありますぞ」
そう言って、コルベールは後ろ手に手を組んで生徒達を見渡した。
「畏れ多くも先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な宝華、アンリエッタ姫殿下が!なんと本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この我らがトリステイン魔法学院に行幸なされるのです!」
コルベールの身振り手振りを交えた報告に、教室中がざわめいた。
「決して粗相があってはいけません 急なことですが、今から全力を挙げて、歓迎式典の準備を行います よって本日の授業は中止、生徒諸君は今すぐ正装し、門に整列すること! よろしいですかな?」
その言葉に徒達は一斉に姿勢を正す。そんな生徒達を満足げに見つめて、ミスタ・コルベールは話を締める。
「諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ!
御覚えがよろしくなるように、各々しっかりと杖を磨いておきなさい!」

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