ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-10

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匿名ユーザー

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ギーシュは薔薇の杖でギアッチョを指して言う。
「何も知らない平民のためにあらかじめ言っておいてやろう」
何が何でも言葉でイニシアチブを取りたいようだ。聞かれてもいないのに
ギーシュはべらべらと自分の力を喋る。
「僕の二つ名は『青銅』 青銅のギーシュだ 従って――君の相手はこいつが
する・・・行けッワルキューレ!」
ギーシュが造花の薔薇を一振りするとその花弁が一枚宙を舞い、

ズォオォオッ!!

青銅の甲冑に姿を変じた。ギーシュはキザったらしい仕草で杖を下ろすと、
眼の前の平民がいかに驚くかを観賞しようとギアッチョを見るが、
「おもしれーもんだな」
と呟くギアッチョの表情には何の変化も起こらなかった。
「・・・ッ、平民が・・・!余裕ぶっていられるのも今のうちさ!ワルキューレッ!!」
自慢のワルキューレを前にして何ら取り乱さないギアッチョに、ギーシュは
もういいとばかりにワルキューレを襲い掛からせた。
猛然とこちらに向かってくるワルキューレを見据えて、しかしギアッチョは
眉一つ動かさない。
――ホワイト・アルバムを身に纏い、そのまま奴まで歩いていって直に発動
させる・・・オレがその気になりゃあ30秒もかからねーが、それじゃつまらねぇ
こいつは「恐怖」と「屈辱」を存分に与えた上で殺すッ!!
などとギーシュをいたぶる戦略を練っていると、
「ギ、ギアッチョさん!!逃げてくださいっ!!」
動かないギアッチョにシエスタが叫ぶ。しかし時既に遅し、ワルキューレはもう
ギアッチョの懐に潜り込んでいた。そしてその右手がギアッチョの腹に――


スッ  ドガシャアア!!

当たることはなかった。ギアッチョは引きつけたワルキューレから最小限の
動きで身をかわし、青銅の騎士はその勢いのまま地面に突っ込んだ!
「てめーの自慢の魔法はよォォーー この程度なのか?え?マンモーニ」
ギアッチョはギーシュに向き直ると、感情のないままの眼で彼を見る。
「一度攻撃を避けただけで何を得意になっているんだい?」
しかしギーシュもその程度で焦りはしない。自分のワルキューレはまだ何体も
いるのだ。ギーシュは薔薇を振って更に2体のワルキューレを呼び出した。
二体の騎士は土を蹴ってギアッチョに向かって突進し、そっちにギアッチョが
気を取られている隙に、さっき倒れた一匹目がギアッチョの足に飛び掛って
引きずり倒す!・・・はずだった。しかしワルキューレが彼の左足を捕らえる
瞬間その足はスッと持ち上げられ、一体目はまたも惨めに大地へ倒れた。
続く二体目の突進を一体目をまたぐステップでかわし、その後をついて
走ってきた三体目は折り重なって倒れる先の二体にぶつかって動きを止めた。
オォォォ、とギャラリーにどよめきが走る。
「どーやらよォォ~~~ もったいぶった外見してやがるが・・・単に遠隔操作
出来るだけのスットロいデク人形だったみてーだなぁあぁ メローネの
ベイビィ・フェイスの足元にもおよばねーぜ」
合間にギーシュを侮辱することも忘れない。とはいえ、普通の人間なら一体目の
一撃を腹に受けて一瞬でくたばっているはずだ。ギアッチョがそれを回避出来た
理由は、彼が幾百の修羅場を潜り抜けて来たからに他ならない。スタンドなど
なくても、ギアッチョにはワルキューレの一挙手一投足が予測出来ていたのである。

ギーシュにはギアッチョが何を言っているのかよく分からなかったが、自慢の
騎士達をデク人形呼ばわりされたことだけは理解出来た。
「・・・少し素早いからと言って調子に乗らないでもらいたいね平民!!ここまで
頑張ったことは褒めてあげよう だがこれで終わりだッ!!」
いくら避けられるからといって魔法に平民が勝てる道理などないのだ。・・・と、
ギーシュはそう思っている。その自信から出た勝利宣言であった。
「漫画みてーな陳腐なセリフ吐いてる暇があんならよォォ~~・・・とっとと次の
手を披露してみろよ マンモーニよォォーー」
「まだ言うかッ!!行けッワルキューレ達!!」
ギーシュが造花の杖を、一回、二回、と振り下ろす。薔薇の花弁はそれに
合わせてひらひらと舞い落ち、彼の造花から全ての花弁がなくなると同時に、
更に四体のワルキューレが姿を現した。四体のワルキューレ達は主人を
守りつつギアッチョを囲い込むように布陣し、その間にいつのまにか
起き上がってきた最初の三体がギアッチョの後方を固めた。
「ああっ・・・囲まれた!!」
「ギアッチョぉ!!隙が空いてるうちに逃げ出せッ!!」
たまらず叫んだのはシエスタとマルトーである。しかしギアッチョは今度も動く
気配を見せず、代わりに首だけをひょいと彼女達に向けると、
「心配は無用だぜ それよりよォォーー ちゃんと見てろよマルトー! シエスタ!
おめーも眼をそむけんじゃあねーぜ」
と言い放った。ギーシュは「遺言なら今のうちに言っておくことだね」などと喚いて
いるが、全く意にも解さない。自分などここにいないかのように振舞うギアッチョに
ギーシュの怒りはとうとう頂点に達した。
「もうッ・・・もういいッ・・・!!貴族を侮蔑したことを悔やみ・・・絶望に身をよじり
ながら死んでいけッ!!!」
その言葉を合図に、全方位に布陣したワルキューレ達は一斉にギアッチョに
襲いかかり、シエスタ達の悲鳴をバックコーラスにその剣を振り下ろ――


「ホワイト・アルバムッ!!」

ギアッチョがその名を叫んだ瞬間、全ては動きを止めた。ギャラリー達は――
ルイズやキュルケですら――目の前の異常な事態に声も出せなかった。
ギーシュは半ば状況を理解したのか、口をぱくぱくとさせているが――これも
また声になっていない。
ギアッチョを取り囲んでいたワルキューレ達は、ギアッチョが何かの名前を
呼んだ瞬間、青銅と氷の彫刻と化して動きを止めた。そして輪になった
オブジェ達の凍った頭部を、「何かに包まれた」ギアッチョの右腕が、一体、
また一体と粉砕してゆく。誰もが無言のままオブジェの破壊は続き、頭部を
失った哀れな人形達がまるで花を開くように外側に倒れていくのを破壊者は
色をなくした眼で見下ろし。ワルキューレだったものを踏み越えて、男が花の
外側へゆっくりと姿を現した時、

ギャラリーはパニックに陥った。
泣き叫ぶ者、もんどりうって逃げ出す者、呆然とその場に立ち尽くす者。彼らの
悲鳴と足音でヴェストリの広場は一瞬にして阿鼻叫喚の様相を呈した。無理も
ない、男がやってのけたのは一瞬にして八体もの物体の動きを完全に停止
させるほどの氷結である。おまけに停止させたのはただの物体ではない。
「青銅」のゴーレムが「殺す気で」剣を振り下ろしているのである。それを
一瞬で完全に停止させて男は平然とギーシュを睨んでいるのである。彼らが
恐慌に陥るのも無理からぬことであった。
「あの男が・・・これをやったっていうの・・・?」
愕然としてギアッチョを見るキュルケだが、ふとルイズに眼を向けると、
「あいつ・・・こんな物凄い力を持ってたの・・・!?」
彼女もまた衝撃を受けていた。今朝の部屋ごと冷却事件の時点で気付くべき
だったかもしれないが、とにかくルイズは今改めてとんでもない男を召喚して
しまったと思った。常に無表情なタバサもこれには驚きを隠し切れないらしく、
わずかに眼を見開いていた。

「バカな・・・・・・ただの平民のくせに・・・・・・そんな・・・嘘だ・・・・・・」
ギーシュはうわごとのように否定を繰り返している。そんなギーシュに今の
ギアッチョの関心は微塵も向いていなかった。
「青銅ってよォォ~~ 「青い」銅って書くんだが・・・実際の青銅は
大体緑色してんだよォォォーーーー なんで緑銅じゃあねーんだァァオイ!!
ナメやがってこの言葉ァ超イラつくぜェ~~!!クソッ!クソッ!コケに
してんのかッ!!ボケがッ!!」
またしてもよく分からないことを喚きながらワルキューレの残骸を踏み
つけている。ギーシュはそれを見ながらぶつぶつと何か呟き続けていたが、
次第に我を取り戻すと自分はまだ負けてはいないということに気付いた。
花弁の無くなった杖を構えると、ギアッチョを睨んで叫ぶ。
「いつまで遊んでいるんだ平民ッ!!勝負はまだ全然ついちゃあいない!!」
そうとも貴族が平民に負けるわけがない!長年の間に染み付いた選民意識は
そう簡単には変わらない。ギーシュはまだまだ勝てると思っていた。
「僕の魔法がワルキューレだけなんて思わないで欲しいね!!」
そう言い放つがいなやギーシュは呪文を唱え出した。
「くらえッ!石礫をーーッ!!」
言うがはやいか、ギーシュのかざした杖の先に出現した大量の石塊が
ギアッチョめがけて降り注いだ!
「チッ・・・!」
ギアッチョは走って身をかわそうとするが、広範囲に撃ち出された石の雨は
とても避けきれるものではない。石の一つがギアッチョの左足に直撃したッ!
「ぐッ!!」
石に片足をつぶされ、ギアッチョは思わず膝をついた。そんなギアッチョを
見下ろしてギーシュは今度こそ確信した。

「ハハハハハハハッ!どうだッ!!これが僕の力さ!!平民如きが偉そうに
してくれたが・・・今度は僕の番だッ!!体中を穴だらけにしてやr」
「あーあー ちょっといいかギーシュさんよ 靴の紐が解けちまったみてーで
よ・・・ 今から結ぶんで少々待っちゃあくんねーか」
もはや走ることも出来ないというのに、ギーシュの口上をさえぎってギアッチョは
のんきに靴をいじりだした。
「こッ・・・この男・・・!!あの世で詫びろ!!喰らえ石礫ーーーッ!!」
キレたギーシュは石礫を跪くギアッチョ目掛けて発射し、
「全くよォォ~~ バカとハサミは使いようってやつだよなァアァ」
その瞬間ギアッチョは薄く笑って後方に飛びのいた!

バガガガガッ!!

ギアッチョを狙っていた石礫はその全てが地面に命中し、その衝撃で辺りは
土煙に包まれる!
「何ィィィーーーーッ!?奴はこれを狙っていたっていうのか!?な、何も見え
ないッ!!」
土煙はギアッチョの姿を完全に覆い隠した。ギーシュはギアッチョのいた
場所から距離をとると、石礫をいつでも発射できるように呪文を唱えて杖を
構える。そして彼が呪文を唱え終る辺りで、
「さぁ姿を見せろ・・・お前は走れない、この一撃で終わりだ・・・ッ!!」
徐々に煙は薄れ・・・そして、ギアッチョが姿を現した!!
ギアッチョは先ほどまでと殆ど変わらない場所に立っている。
――何かをするつもりか・・・!?
とギーシュは考えたが、
「しかしこっちのほうが早いッ!!」

ギアッチョが動く前に速攻で石礫を撃ち出した!!石礫は目にも留まらぬ
速さでギアッチョに飛来し、そして命中――

ギュインッ!!

「・・・何の・・・音だぁぁ~~!?」
ギアッチョは変わらずそこに立っている。そして何かの音だけが不吉に響きだした!
ギアッチョはギーシュにだけ聞える声で答える。
「この煙がいい・・・おかげでギャラリーに姿を曝すことなく・・・一瞬だけ発動できた・・・」

バヂッ!!ギュイン ギュイン!!

「な・・・何の事だ・・・ッ!?」

ギュイン!!ギィンッ!!

「ジェントリー・ウィープスッ!スタンドパワーは使うがよォォ~~
いい感じに固定出来たぜ・・・」

ギィンッ!!ギュインッ!!

「だ・・・だから何の事なんだッ!!」

ギュイィンッ!!ギィィン!!

「眼をこらすんだな・・・てめーには見えないか?止まった空気が
見えないか!?よく見ろよッ!!」

バッギィィイーーーーーンッ!!!

「バッ・・・バカな・・・」

ドスドスドスドスドスドスドスッ!!!

「ガフッ!!」
飛来した無数の石の弾丸は、ギアッチョの周りに作られた凍った空気の壁に
遮られ、ギーシュ自身の元へと跳ね返ったッ!!
「反射魔法・・・!?ねぇルイズ!あいつ一体何者なのよッ!!」
キュルケはルイズに問い詰めるが、
「そんなこと私だって知りたいわよ!!」
ルイズにも答えることは出来なかった。ギアッチョのいた世界やその境遇などは
一通り聞いたが、ギアッチョの使っている能力については、「スタンド」という
名前であるということしか教えられていなかった。ルイズにも彼の力の正体は
分からなかったのである。冷静に戦況を見ていたタバサでさえ、ギアッチョの
「反射魔法」の正体は分からなかったのである。

「どんな感じだァ?てめーの魔法でやられる気分ってのーはよォォ~~」
ギアッチョは無慈悲にギーシュを見下ろしていた。ギーシュの全身には
血まみれの穴が穿たれているが、彼はまだかろうじて意識を保っていた。
しかしギアッチョは容赦をしない。おもむろにギーシュの首をつかむと、
グイッ!と持ち上げた。
「オレはてめーに言ったよなァアァーー・・・ 殺される『覚悟』は出来てんのか
ってよォォォ え?どうなんだオイ『覚悟』は出来てんだろーなァァア!!」
「・・・う・・・うう・・・ ぼ・・・僕が・・・悪かった・・・謝る・・・き・・・君にも・・・
ルイズ・・・にも・・・ だから・・・た・・・助けてくれないか・・・お願いだ・・・」
その言葉に、ギアッチョの眼に明確な殺意が宿る。
「人をよォォ・・・殺そうとしておきながら・・・ え? 何なんだそりゃあ?
まさかとは思うがよォォーーー 貴族だから殺されるはずがない・・・なんて
思ってたんじゃあねーだろーなぁあ」
ギーシュは朦朧とする意識の中で、必死に命乞いをする。
「・・・あ・・・ああ・・・思って・・・いた・・・ 僕が・・・悪かった・・・ だから
頼む・・・ お願いだ・・・死にたく・・・ないんだ・・・」
「人に道を作るのは『覚悟』だ・・・ てめーは負けて死ぬ『覚悟』がなかった
ばかりか・・・ルイズに対して責任を取る『覚悟』すらねぇ・・・ 『覚悟』がない
てめーはよォォーーー・・・! その命で責任を果たしてもらうぜェー!!」
ギアッチョはギーシュの首に力を込める!

「待って!やめてギアッチョッ!!」

声の主はルイズだった。ギアッチョはギーシュの首をつかんだままルイズを見る。
「何故止める?こいつは『覚悟』もなくおめーの命を侮辱した・・・ 償いは
てめーの命でするべきだ」
「そうね・・・私は凄く悔しかったわ・・・だけどだからって殺すのは違うわ
ギアッチョ、ここはあなたのいた場所じゃない・・・日々『覚悟』を持って
生きてる貴族なんかどれほどもいやしないわ あなたが思っているより
ここはずっと甘くて怠惰な場所なの 常に『覚悟』と『責任』を果たさせようと
するあなたはここでは異質な存在なのよ ・・・異質な平民の噂が宮中に
届けば・・・決闘だろうがなんだろうが関係ない あなたが何かをしでかす
前に 貴族を殺した罪で処刑されてしまうわ」
ギアッチョは色のない瞳でルイズを見つめる。
「・・・それに 私はギーシュに侮辱を償ってもらいたいんじゃないわ
いつか魔法を使えるようになってこいつを見返してやりたいのよ」
それを聞いたギアッチョの双眸に、スッと色が戻る。そして、

ドサッ!

ギーシュを投げ捨ててギアッチョはルイズに向き直る。
「しょーがねぇなぁぁ お嬢様の頼みとあっちゃあ仕方ねー これで
勘弁してやるとするぜッ マンモーニ!!」
ギアッチョがそう宣言すると、ギャラリーからどっと安堵の息が漏れ、
そして彼らを掻き分けるようにして派手な金髪の少女がギーシュに駆け寄る。
モンモランシーだった。


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