ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-25

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匿名ユーザー

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場面はあくまで無情に過ぎる。彼らの発言から、あれから二年の月日が流れ去ろうとしていることがわかった。
リゾット達のチームは、あの事件以来まさに首輪がつけられたような状態になっている。
ギアッチョの眼を通して、彼らに常に何人もの監視がついていることにルイズも気付いていた。
誰も口には出さないが、彼らの中ではどんどん絶望と諦念が大きくなってきている。
それが彼らの一つ目の変化だった。そして二つ目の変化は、チームに新入りが入ったことだった。
ペッシという名のその新入りは、その物腰から察するにおそらくはまだ少年の域を脱しない年齢の男で・・・
おそらくというのは彼には首と呼べる部分がどうにも確認出来ないため輪郭で年齢を判断しにくいからなのだが、とにかく彼はスタンド使いで、その才能を買われてリゾットの暗殺チームに配属されたらしい。
しかし彼は生来の気の弱さで、いつまで経っても見習いの域を脱しないのだった。彼は今、アジトの地べたに座らされてプロシュートに説教を喰らっている。
「プロシュートの奴・・・すっかりペッシの教育係みてーになってるな オレはてっきりお前の出番かと思ってたがよォー」
椅子に腰掛けたイルーゾォはそう言って隣に座るギアッチョに首を向けた。
「ああ? オレは他人に説教くれてやるような人間じゃあねーぜ」
両足をテーブルに投げ出すと、ギアッチョはそう言って鼻を鳴らす。
「説教なんてのは他人を気にかける心のある奴がするもんだからな・・・」
オレはそんな出来た人間じゃあねえと自嘲気味に笑って、ギアッチョはペッシに眼を向ける。イルーゾォはそんなギアッチョからすっと目線を外すと、
「オレはそうは思わないがな」
と冗談めかした笑いに乗せて呟いた。プロシュートとペッシを見ていた彼にその言葉は届かなかったようだが、彼女に・・・ルイズにだけはしっかりと聞こえていた。
――わたしも・・・そう思うわ イルーゾォ・・・
ギアッチョは自分やキュルケ達を幾度となく怒ってくれた。ルイズは気付いている。それは教師達のようなゼロの自分への嘲りを含んだ怒りなどではない、人を侮辱するところのない真の怒りだった。

そしてそれは、合図のノックを足音代わりにやって来た。イルーゾォが開けた扉から入ってきたリゾットはまず周囲を見渡し、そこに全員が揃っていることを確認してから――

「ボスに『娘』がいるという情報が入った」

自らの口で、終焉の開幕を告げた。
彼らがどんな反応をしたか、いちいち記す必要があるだろうか?ソルベとジェラートの仇を討つ為、己とチームの誇りの為、そして自分達が頂点に立つ為・・・彼らは命を賭けると『覚悟』した。


――ルイズは奇妙な浮遊感を感じて周りを見る。自分の視点がどんどん上昇して行き、そして彼女の精神は蝉が羽化するように、徐々に・・・そしてやがて完全にギアッチョから離脱した。

おかしい、とルイズは感じた。彼女はこの夢はギアッチョが見ている彼の過去だと考えていたが、しかしそれではこの光景は一体どういうことだ?
ブルドンネ街よりも広い、黒っぽい地面の大通り。両脇には見たこともないデザインの建物が立ち並び、その路傍には2.5メイル前後ほどの恐らく鉄製のオブジェがまばらに点在し・・・そしてその内のいくつかが派手に炎上している。
いつの間にか彼女はそれを上空から眺めていた。
上空?ギアッチョはレビテーションもフライも使えはしないはずだ。ならばこの視点は、一体誰のものだ?
どういうことかと考え始めたルイズの思考は、直後彼女の視界に飛び込んできた情報によって綺麗に吹き飛んだ。

――ホルマジオ・・・!!
炎上する大通りの真ん中に立っているのは、他ならぬホルマジオだった。
血塗れの顔と身体は炎に焼け爛れ、思わず眼を背けたくなるほど痛々しい姿になっている。1メイルほどの距離を開けて、彼はルイズと同年代ほどの背格好の少年と対峙していた。
「来い・・・・・・・・・ナランチャ・・・・・・・・・」
ホルマジオは少年に向けてそう言い放ち、そして数秒の沈黙が走り。

「『リトル・フィィィーート』!!」
「うおりゃあああああっ!!」

――早撃ちの軍配は、少年に上がった。

「しょおおがねーなああああ~~ たかが『買い物』来んのもよォォーー 楽じゃあ・・・なかっただろ?え?ナランチャ・・・」
ホルマジオは二、三歩よろよろと後じさるとなんとか言葉を吐き出し、
「これからはもっと・・・・・・・・・ しんどくなるぜ・・・・・・てめーらは・・・・・・」
最期にニヤリと笑いながら、豪快な音を立てて倒れた。

――始・・・まった・・・
彼らの平穏を、ルイズは出来ればずっと見ていたかった。だがもう遅い。
彼らの死は今始まった。夢であるが故にルイズは眼を覆うことも耳を塞ぐことも出来ず、そしてそんな彼女を嘲笑うかのようにルイズの夢は次の場面を映し出す。

どこかの遺跡だろうか。あちこちが破損し壊落している石造りの建造物、そこにイルーゾォはいた。彼は敵のスタンドに首根っこを掴まれ、石壁にその身体を押し付けられている。ルイズの意識が彼を認識した直後、
「うわあああああああああああ!!」
恐怖一色に染められた断末魔を上げて、イルーゾォは見るも無残に「溶けて」死んだ。
――いやぁああぁああッ!!
ルイズは誰にも届かない声で叫ぶ。どうして、どうしてこんな殺され方をしなければならなかった?彼は確かに暗殺者だった。
だけど彼の心にはいつも仲間達への想いがあった。
彼は決して、このような哀れな死を遂げるべき外道などではなかった――!

あまりにも残酷なイルーゾォの死に様に、しかしルイズが心の整理をつけるより早く。彼女を嘲笑うかのように、場面はあっさりと次へ飛んだ。


車輪のついた、長方形の長大な箱。プロシュートはその箱と車輪の隙間に引っかかるようにして横たわっている。
全身からはおびただしい量の血が流れ、その片足は有り得ない方向にひしゃげていた。
そして彼に重なって横たわるプロシュートのスタンドは、その指が、身体が、頭が、止まることなく崩れ続けている。誰がどう見ようが、瀕死だった。
「栄光は・・・・・・」
プロシュートはうわ言のように言葉を紡ぐ。
「・・・・・・おまえに・・・ ・・・ある・・・・・・ぞ・・・」
彼は正に死のその間際まで、ペッシのことを忘れなかった。「オレはお前を見守っている」と、彼はそう言った。
瀕死のプロシュートには、スタンドの発現は恐らく相当身体に負担をかけているはずだ。しかし一人戦うペッシの為に、
そしてチームの栄光の為に、彼は決してスタンドを解除しなかった。


だが、ペッシは――
「このままで・・・・・・・・・・・・ガブッ・・・」
口から大量に血を吐きながら、彼は己を重症に追い込んだ男を睨む。
「済ませるわけにはいかねえ・・・・・・・・・」
ペッシの手には、拳よりも少し大きな程度の亀が掴まれていた。
どうやら男にとって相当に大事なものらしいそれを殺すことで、ペッシはせめてもの意趣返しをするつもりらしかった。男がペッシを見据え、
「堕ちたな・・・・・・ただのゲス野郎の心に・・・・・・・・・・・・!!」
そう言うと同時に、ペッシは亀を振りかぶり――

「何をやったってしくじるもんなのさ ゲス野郎はな」

一瞬の駆け引きの後、男の無数の拳撃を受けてペッシの身体はバラバラに分解されて吹っ飛んだ。そしてプロシュートは偉大に、ペッシは惨めに。
二人は殆ど同時に、だがその『誇り』に天と地ほどの差を空けて死んだ。

ルイズはもはや声もなく彼らの死を見つめる。己の心をひとかけらでも言葉にすれば、全てが堰を切って溢れ出しそうで。
彼女は震える心を必死で抑えて、動かない眼で彼らを見つめ続けた。


作業的な間隔で、場面は次に移る。ルイズの眼前に新たに映し出された
場所は、どうやら先ほど見た長く大きな箱を収容する施設であるようだった。
収容された箱から出てきたメローネの、
「聞こえてるぜギアッチョ!」
という言葉にルイズはビクリと反応する。ギアッチョの名前は、今最も聞きたくなかった。彼が死ぬ場面を見てしまうなど、ルイズにはこれ以上ない拷問である。
しかし彼に先んじて命を落とす運命にあるのはメローネのようだった。
ギアッチョと会話をしているらしい彼に、ボトリと焼け焦げた蛇が落ちる。

スタンドの性質上、彼は常に安全な場所にいる。追われる身である「奴ら」が自分の位置を把握することなど不可能、ましてや攻撃を受けることなど有り得ない――そう油断していた彼の肩の上に、いきなり敵意を剥き出しにした蛇が落ちてきたのである。
彼が無様に取り乱すのも無理からぬことであった。
「あの『新入りの能力』ッ!おれのベイビィ・フェイスの残骸をひいいいいいいいいいいいいッ!!」
彼は絶叫し、そしてその大きく開いた口から覗いた舌に焼ける毒蛇は喰らいついた。

――・・・・・・・・・もう・・・・・・やめて・・・
一体誰に言えばいいのだろう。分からないままに、ルイズは言葉を絞り出した。
残った7人の内、5人が死んでしまった。たとえリゾットがボスを倒したとしても、もうあのアジトに彼らの喧騒が戻ることはない。二度と。永久に。
――お願いだから・・・もうやめて・・・!
あらゆることが手遅れであると知りながら、ルイズはもはや過ぎ去った残像に、虚しく呼びかけ続けた。


そして彼女の夢は、とうとう彼の使い魔を映し出す。
――・・・ギアッチョ・・・!!
粉々に破壊された像のそばを、運河が流れていた。そのほとりに、白銀のスーツを着た男が立っている。つま先から頭までを余さず覆うそのスーツから覗く顔は、紛れもなくギアッチョのものだった。
「とどめだッ!ミスターーーーーーーーッ」
ギアッチョがそう叫ぶと同時に、彼に対峙していた男の全身から血が吹き出した。
ミスタと呼ばれた男はしかし、大きく仰け反りながら呟く。
「ああ・・・確かに『覚悟』は出来たぜ・・・ジョルノ」

「見ッ・・・・・・見えねえ・・・・・・・・・ 血・・・血が凍りついて・・・固まっ・・・!!」
ミスタの血しぶきが顔面にかかり、それは一瞬で凍結してギアッチョの視界を奪った。

ドンドンドンドンッ!!

ミスタがかざした鉄の器具が火を噴く。どうやらあれは小さな銃のようだ・・・が、ルイズにそんなことを気にしている余裕はなかった。
前が見えずにヘルメットを引っかいている間に、ミスタの銃撃によってダメージこそないもののギアッチョはどんどん後方へ押されて行き、とどめの一発を足に喰らって彼は全体重を掛けて後ろへ仰け反り――

ドスッ!!

彼の延髄に、槍のように彫刻された鉄柱が突き刺さった。ルイズは思わずひっと声を上げそうになるが、幸いにも致命傷には至らなかったらしく、数分後には死ぬのだと分かっていつつも、彼女はほっと胸をなでおろした。

「おまえ・・・このオレに・・・・・・ 『覚悟』はあんのか・・・と・・・ 言ったが見してやるぜ」
そう言ってミスタはギアッチョを見据える。今にも失血死しそうなほどに血に塗れた身体だが、その眼光だけは獣のようにギラついていた。
「ええ・・・おい 見せてやるよ」
ようやく前が見えるようになったギアッチョは、ミスタの姿を見た瞬間彼の意図に気付いた。
「ただしお前にもしてもらうぜッ!! ブチ砕かれてあの世に旅立つってェェ覚悟をだがなああああああああ~~~~~ッ!!」
「やばい・・・こいつを引っこ抜かなくてはッ!!」


野郎、このままオレを死ぬまでのけぞらせる気だッ!ギアッチョは必死に鉄柱に手を伸ばすが、

ガァーン!!

ミスタの銃弾によってその手は簡単に弾かれる。そしてミスタの更なる連射によって、ギアッチョの身体はどんどん仰け反って行く。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
しかし、それと同時に彼の放った弾丸が彼自身にどんどん跳ね返り始めた。
「突っ切るしかねえッ!真の『覚悟』はここからだッ!『ピストルズ』ッ!てめーらも腹をくくれッ!!」
跳弾によってミスタの身体は至る所が弾け始めるが、彼は構わず銃を乱射する。
「おおおおおおおおおおおおおおお!!」

そして、ミスタがついに崩れ落ちたその瞬間、ギアッチョの首から大量の血が吹き出した。
――ギアッチョ!!
ルイズは耐え切れずに叫ぶ。しかしギアッチョはギリギリのところで生きていた。
「違・・・う・・・な・・・ ・・・ガブッ! 『覚悟』の強さが・・・・・・ ・・・・・・『上』・・・・・・なのは・・・ オレの・・・・・・方だぜ・・・グイード・ミスタ・・・」
瀕死の状態で、ギアッチョはなんとかそう口にする。


「ここまで・・・オレを追い込んだのはミスタ・・・ 敬意を表して・・・ やる・・・だが・・・・・・今度・・・覚悟を決めてギリギリのところで 吹き出す『血』を利用するのは・・・ オレの方だ・・・ ミスタ」
そう言ったギアッチョの後頭部は、吹き出した血が既にガッチリと凍って完璧なストッパーになっていた。その直後、未だ宙を舞っていた最後の弾丸がついに完璧な角度で跳ね返り――
「頭にッ!勝ったァーーーーーッ!!」
ミスタの額に突き刺さった。
「!! う!? 傷が・・・!?」
しかしその瞬間、額の弾痕は完全に消え去り
「な・・・・・・!!」
いつのまにか、ミスタを抱えてその後ろに金髪の少年が立っていた。
「ミスタ・・・ あなたの『覚悟』は・・・この登りゆく朝日よりも明るい輝きで『道』を照らしている」
「なんだってエエェェェエエェ!!?」

グシャグシャグシャドグシャアアッ!!!

「うぐええッ!!」
ズン!!と鉄柱がギアッチョの喉を突き破り。彼は万感の無念と己を打ち破った彼らの『覚悟』へのひとかけらの賞賛と共に、事切れた。

――あ・・・あぁぁああ・・・ッ!!
ギアッチョが『覚悟』というものに拘る訳を、ルイズは理解した気がした。
しかし今ルイズの中に渦巻いている果てしない悲しみは、そんな理解を紙のように吹き飛ばす。これは過去だ、ただの夢だと自分に言い聞かせるが、彼の壮絶な死に様はそんな逃避を許してはくれなかった。ルイズはギアッチョの名を、まるで壊れた蓄音機のように何度も何度も叫び続けた。


そして場面は、次へ進む。
――・・・・・・・・え・・・?
その異変に、ルイズは思わず我に返る。これはギアッチョの夢のはずだ。ならばどうして先がある?どうして、この夢は新しい風景を映し出す・・・?
そうか、とルイズは思った。そもそも途中からおかしかったのだ。ギアッチョが知るはずのない光景を見ていたことが。
ギアッチョ自身の死に様を、遠くから見つめていたことが。誰かの意図なのか、それともこれは何かの奇跡なのか?
そんなルイズの思案をよそに、眼前の過去は展開していく。
遠くに館と海の見える岩場。そこにいたのは、やはり彼だった。
――・・・・・・そ・・・んな・・・・・・リゾット・・・
リゾットは血まみれで倒れている。傍目から見ても、治癒は絶望的だった。
そんな彼の傍らに腰を落とし、一人の男が彼を見下ろしている。
リゾットはもはや焦点の定まらない眼で男を見返していた。
「ついに・・・オレ・・・は・・・ つか・・・んだ・・・・・・ あんたの正体を・・・オレは・・・」
正体。彼らがこの言葉を使う時、それはとりもなおさずボスのことを意味する。
リゾットは今、「あんたの正体」と言った。つまり彼を見下ろすこの男こそが、他でもないボス自身・・・!男・・・いや、もはやボスと言うべきか。
ボスは今ルイズに背中を向けている。後ろから見る限りその身体には傷一つついていないが、異常なまでに苦しげな呼吸をし続けていることから察するとリゾットとの戦いでボスもまた相当なダメージを負ったと考えていいはずだ。
「最期に顔を・・・見せ てくれ・・・ 逆光で よく・・・見えない 顔を・・・」
片膝をついて荒い呼吸を繰り返すボスにリゾットがそう懇願するが、
「それ以上・・・・・・ここでその会話をすることは許さない・・・リゾット・ネエロ」
彼はそれを冷たく跳ね除けた。片手に持っていたリゾットの足首を投げ捨てて、ボスは苦しげに呼吸を続ける。


「おまえは自分がここまでやれたことを 暗殺チームのリーダーとして、『誇り』にして死んでいくべきだ・・・ あの世でおまえの部下達も納得することだろう」
そう言ってから、ボスは自分の身体から奪った「鉄分」を戻せば潔くとどめを刺してやろうとリゾットに取引を持ちかけた。
もうすぐここにギアッチョ達を殺した連中がやってくる。そいつらの前で次第に惨めに死んでいくのは屈辱的ではないか?今ならこのボスが直々に名誉ある死を与えてやろう。
そんなボスの交渉に、リゾットは聞き取れない声で何かを呟く。
「よく聞こえないぞ・・・・・・ すぐに『鉄分』を戻すのだ・・・リゾット・ネエロ」
ぼそぼそと何かを呟き続けるリゾットの口に、ボスが耳を近づける。

「ひとりでは・・・ 死なねえっ・・・・・・ 言ったんだ・・・」

その言葉に、ボスはバッとリゾットの顔に眼を向け、そして彼の決死の『覚悟』を秘めた赤眼にようやく気付いた。
「今度はオレが・・・利用する番だ 『エアロスミス』を・・・ くらえ・・・・・・!!」
リゾットがそう言うと同時に、ボスの後ろから無数の弾丸が発射された。
ホルマジオの命を奪ったスタンド――エアロスミスだった。


しかし、一瞬の後に全身から鮮血を吹き出したのは、ボスではなくリゾットだった。
最期の一瞬、彼は何を考えていたのだろう。真っ赤に充血したその眼からは、もはやいかなる感情も読み取ることは出来ない。リゾットは被弾の衝撃にガクンと身体を震わせると、一言も発することなく息絶えた。

――・・・そんな・・・・・・・・・そんな・・・!
どうしてエアロスミスとリゾットを結ぶ射線上にいるボスが無傷なのか?どうしてエアロスミスがボスを撃ったのか?そんなことはどうでもよかった。ルイズの心を埋め尽くした事実はたった一つ。リゾットが死んだ。それだけだった。
あの穏やかなリーダーが、冷徹な表情の下で何よりも仲間のことを大切に考えていたリゾットが、死んだ。チームの最後の一人が――殺された。彼のチームは、消えてなくなった。
――・・・・・・こんな・・・ことって・・・・・・!!
絶望に打ち震えるルイズをよそに、世界は白く染まり始める。白いインクを垂らした
ように始まった白化は加速度的に進行し、
「しかし・・・くそ・・・ みごとだ リゾット・ネエロ・・・・・・・・・」
一人呟くボスの声を最後に、ルイズの夢は完全に白に閉ざされた。


「いやぁああぁああああああああッ!!!」
自分自身の悲鳴で、ルイズは跳ね起きた。
「・・・ぁあっ・・・!・・・っはぁ・・・はぁ・・・ッ!」
窓の外は、未だ双月が輝いていた。窓から差し込む月の光を眺めながら、
ルイズは徐々に今まで見ていた夢の事を思い出してゆく。
そうだ。
心地のいい夢だった。
ギアッチョと仲間達の思い出。いつまでも見ていたかった思い出・・・。
だけどジェラートが死んで、ソルベが死んで・・・ギアッチョ達が反逆して。
そして、死んだ。
全員死んだ。
リゾットのチームは、全滅した。
「・・・・・・全滅・・・した・・・・・・」
ルイズの口から、我知らずその言葉がこぼれ出た。そしてそれと同時に、彼女の鳶色の瞳からはぼろぼろと涙が溢れてくる。
「・・・うっ・・・うう・・・・・・!・・・こんなの・・・・うっく・・・・・・こんなの酷すぎる・・・!」
ルイズは肩を震わせて泣いている。ルイズが彼らを知ったのはほんの数時間前のことだ。だがその数時間で、ルイズは彼らと無数の喜怒哀楽を
共有した。もはやルイズにとって、彼らはただの他人などでは断じてない。
だからこそ、彼らの死はルイズに果てしない痛みを負わせた。

ふっと部屋が明るくなる。それに気付いたルイズが顔を上げると、ギアッチョがランプをいじっていた。ルイズの視線に答えるように、彼はルイズに眼を向ける。
「・・・『見た』・・・みてーだな ルイズ・・・てめーも」
夢を共有していたわけか、とギアッチョは呟いた。もはやこの程度のことで、彼は驚かないようになっていた。
「っ・・・・・・どうして・・・っく・・・そんなに・・・冷静でいられるの・・・?」
涙のせいで何度もしゃくりあげながら、ルイズはギアッチョを見る。

「・・・っく・・・ひっく・・・・・・ こんなのってない・・・!」
何か言葉を出す度に、ルイズの涙は量を増してこぼれ続けた。
「・・・っう・・・どうして・・・こんな酷い死に方をしなきゃならなかったの・・・!?」
プライドも忘れて泣きじゃくる彼女に、ギアッチョは冷たく言葉を返す。
「人殺しにゃあ似合いの末路だ」
ゆっくりとルイズに近づくと、ギアッチョは彼女を見下ろして続けた。
「マトモに死ねる奴のほうが珍しい・・・オレらの世界ではな」
ギアッチョは達観したかのような物言いをするが、そんな世界などとは勿論無縁に生きてきたルイズに彼らの死を同じように受け入れられるはずもない。
彼らの名誉一つない惨めな死を、納得出来るはずもない。
「そんなのっ・・・ ・・・うっく・・・そんなのおかしいわ・・・!」
ルイズはぶんぶんと首を振る。彼女の頬を伝う涙が、雫となって宙を舞った。
ギアッチョはほんのわずか――長く付き合った者にしか分からない程に――
そして一瞬だけ、困惑したような表情を見せる。それからがしがしと頭を掻くと、ギアッチョはルイズのベッドに腰掛けた。
「・・・ソルベとジェラートは・・・違う」
「・・・・・・違う・・・?」
何が、という部分を省いたギアッチョの言葉に、ルイズは当然疑問を感じる。
ギアッチョはまるで独白するような調子でそれに答えた。
「あいつらは・・・恐らく何も知らないままに 一方的に虐殺された・・・ だがオレ達他のメンバーは違う 真正面から奴らに挑み、力の全てを出し切って戦い、そして死んだ」
ま・・・一部情けない死に様を晒したバカもいたみてーだが、とそこだけ呆れたような口調で言ってから、ギアッチョは真面目な顔に戻って続ける。
「・・・だからオレはあいつらの死を受け入れる オレが嘆き悲しむことは、あいつらの誇りを侮辱することに他ならねーんだ」
ルイズに背中を向けたまま、ギアッチョは言葉を繋いだ。
「他の誰が嘲笑おうと――オレはあいつらの死を誇りに思う」


ギアッチョの言葉はまるで折れることの無い名剣のように、ルイズの心に真っ直ぐに、そして鋭く突き刺さった。
自分は結局、彼らのことなど何も分かっていなかったのだろうか?そう思うとルイズの心は割れんばかりに痛みはじめる。
「・・・だがよォー」
ぽつりと、ギアッチョは呟くように口を開いた。
「ルイズ・・・てめーはそれでいい てめーは泣いてやってくれ」
その言葉に、ルイズははっとギアッチョの背中を見つめる。
「全く救いようのねー人殺し共だがよ・・・ 自分の為に流される涙が一粒でもあるなら人生御の字じゃあねーか」
その言葉に、ルイズの乾きかけた瞳は再び涙を溢れ出させた。
「・・・・・・うん・・・・・・うん・・・・・・っ!」
ルイズは立てた両膝に顔をうずめて泣いた。どうして気付かなかったんだろう。
ギアッチョはこんなにも彼らのことを想っているじゃないか・・・。
ルイズは声を押し殺すのをやめた。彼らの名誉を守り続けるギアッチョの後ろで、彼らの魂の為に、そして何よりギアッチョの為に、ルイズは声を上げて泣いた。

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