ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

遺産! 破壊の杖と竜の羽衣

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遺産! 破壊の杖と竜の羽衣

素朴だが美しかったタルブの村は、すでに無かった。
ほぼすべての家が焼け焦げ黒い煙が上がっている。
草原ではアルビオン軍の兵士達とトリステイン軍の兵士が睨み合っていた。
そして、トリステイン軍を狙って竜騎士隊が攻撃に移ろうとした時、遠くから奇妙な音が聞こえてきた。次第にそれは轟音となった。
一人の竜騎士が音の正体を発見する。緑色の、奇妙な竜だ。
あんな竜騎士は自軍には無い、敵だ。
竜騎士隊は新たな敵を迎撃すべく展開した。

ゼロ戦からタルブの村の惨状を見下ろした承太郎は、激しい怒りに震え操縦桿を力強く握りしめていた。
「野郎……許さねえ」
機体を捻り、タルブの村目掛けて急降下するゼロ戦。
狙いは竜騎士隊だ。

謎の轟音を聞き、村人達は森の中から空を見上げた。
一瞬、木々の間を通った見覚えのある形に気づいたシエスタは、慌てて森の端まで走っていった。
「シエスタ!? 危ないぞ!」
父と、何人かの村人が後に続く。
そして、森の端まで来て視界が開けると、シエスタ達は一様にして驚いた。

竜の羽衣が飛んでいる。
アルビオンの竜騎士の吐いた炎のブレスを華麗に回避し、羽衣の一部がチカチカと光ったかと思うと、敵の竜騎士は突如爆発した。
いったい何が起こっているのか、それは解らない。
でも確かな事がひとつだけ。
「ジョータローさんが、助けに来てくれた……」
喜びや安堵感が一気に押し寄せ、シエスタはポロポロと涙をこぼした。

ゼロ戦の機関砲を受けた火竜は、ブレスを吐くための器官を撃たれて引火し、無残に爆死して草原の中に落ちた。それを見たアルビオン軍が慌てふためく。
驚いているのはトリステイン軍も同じだが、どうやらそれが味方の仕業らしい事が解ると、一斉にアルビオン軍へ突撃した。
士気の高さはすでに逆転している。優勢は、トリステイン!

「スタープラチナ……」
スタンドを出現させ、その優れた視力で敵影を探す承太郎。
三騎の竜騎士が横に広がって迫ってきていた。
さすがに火竜のブレスを受けてはゼロ戦もただではすまない。
「上等だ、かかってきやがれ」
承太郎は鮮やかにゼロ戦を旋回させ、竜騎士隊の背後を取る。
「は、速い!? 何なんだあの竜は!」
竜騎士隊はあまりの機動力の差に驚愕し、その隙を狙われ機関砲に撃ち落とされる。
「な、何だ! なぜやられている!? あの竜のブレスが見えない!」
火竜の飛行速度はおよそ時速150キロ。だがゼロ戦は実にその時速400キロを誇る!
さらに両翼に装備された二十ミリ機関砲と機首装備の七・七ミリ機銃は、まさに目にも留まらぬ速度で敵を撃ち殺す強力な武装だ。
天下無双と謳われたアルビオンの竜騎士を、パワーでもスピードでも圧倒している。
これこそ地球の人間達の叡智が生み出した『科学』の力だ。

タルブの村人達は、いつしかほとんどが森の端に集まっていた。
そして一騎、また一騎と竜騎士が撃墜されるのを見て歓声を上げる。
「すげえ、すげえぞ! アルビオンの竜騎士なんざ相手じゃねえ!」
「本当に飛んでやがる! シローの野郎が言ってたのは本当だったのか!?」
「速さが段違いだ! あんなすげーもんだったら、もっと拝んどきゃよかった!」
「見ろ、最後の一騎だ! 行け行け! 後ろを取った! やった、撃墜!」
これなら勝てる、これならタルブの村は救われる。
誰もがそう信じて疑わなかった。

「五分五分?」
タルブの村からやや離れた道に陣を構えていたアンリエッタは、そう聞き返した。
「ええ、五分五分です」
マザリーニ枢機卿は、竜騎士隊をわずか十二分で全滅させた竜の羽衣を見ながら言った。
「確かに竜騎士隊は全滅いたしました。あのたった一騎の竜によって。
 しかしアルビオン艦隊はまだ無傷。我が軍も砲撃により大打撃を受けております」
「……そうですか……」
戦う心を折らせないために、マザリーニ枢機卿は嘘をついた。
五分五分どころではない。
敵軍は空におり、その数は三千。しかし我が軍は砲撃で崩壊しつつある二千。
確かにあの謎の竜の戦果は目覚しいが、あの程度で引っくり返る戦いではないのだ。
それに見たところ、あの謎の竜は竜騎士を倒す火力はあるようだが、とても艦隊を相手にできるような火力は持ち合わせていないらしい。
敵の旗艦レキシントン号は今も圧倒的な優位に立って――爆発した。
「何じゃと!?」
爆発はそれほど大きなものではなかったが、爆発したのはどうやら後甲板のようだ。
あそこは確か司令部のはず。
つまりこの戦場にいる敵軍のトップの人間は、今ので爆死したと見ていい。
「マザリーニ! 旗艦で爆発が起こりました、これで勝率はどうなりましたか?」
アンリエッタの問いに、マザリーニ枢機卿は頭を抱えた。
「えー、七分くらいにはなりましたかのう」
もちろん嘘だ。敵の司令官を倒したとしても、次に偉い奴が指揮を取るだけ。
圧倒的戦力差はこの程度の奇跡ではくつがえらない。
そう、この程度の奇跡では。
と、空が急に暗くなった。月が太陽を隠し始めたのだ。
「そういえば今日は日食でしたな。……不吉な事が起こらねばよいが。……ん?」
暗くなりつつある空を、一匹の風竜が飛んでいた。
自軍の竜騎兵ではないようだ。あれもあの謎の竜のような援軍だろうか?
しかし竜二匹の援軍でどうにかなる状況ではない。奇跡でも起こらねば勝ちはない。

レキシントン号の司令部らしき場所に、
破壊の杖――ロケットランチャーを撃ち込んだ承太郎は、使用済みのロケットランチャーをしまうと、続いて機関砲と機銃の弾丸で追撃をかけた。
だがその程度で沈むほどレキシントン号はやわではない。
「やれやれ……さすがにあれだけでかいと、倒すのは難儀だな」
いっそ飛び降りてスタープラチナで戦って制圧しようか、
などと考えているうちに空が少しずつ暗くなっていく。
承太郎は太陽を見上げた。月が太陽を少しずつ隠していく。
「やれやれ……早いとこケリをつけねーと、帰れなくなっちまうな」
レキシントン号の砲撃を回避しつつ空を飛んでいると、承太郎は風竜を発見した。
スタープラチナの目で確認すると、その背中には見覚えのある四人。
「……仕方のねー奴等だ」
その口調は呆れながらも、どこか嬉しさを含んだものだった。

「ガンダールヴ!」
甲板から謎の竜を目で追っていたワルドは、それに乗っている承太郎の姿を発見した。
「そうか、あの爆発は奴の仕業か。やってくれる……!」
「どうするつもり? ワルド」
フーケが問うと、ワルドはニヤリと笑った。
「我々の出番が来たようだ。奴は私の獲物、私が仕留めてみせよう。
 貴様は草原で戦っている兵隊を蹴散らしてこい」
草原で戦っていたアルビオン兵はすでに逃げ出し、トリステインの兵士達は歓声を上げていた。それを見てフーケの双眸が細まる。
「村を焼くのは気が引けるけど、貴族の犬を蹴散らすのなら遠慮はいらないねぇ」
そう呟くと自身にレビテーションをかけて、甲板から飛び降りていった。
「さて、私も行くとするか」
それを見送ったワルドは、自分用の竜を取りに向かった。

「やっと追いついたわね」
シルフィードの上でキュルケが笑う。前方にはゼロ戦の姿があった。
「どうやら竜騎士隊はもう倒してしまったようだな」
地面に落ちている竜の死体を発見しつつギーシュが呟く。
「まだ」
タバサが冷たい声で言った。
日食で隠れつつある太陽の中から風竜が舞い降りてくる。ワルドだ。
「ガンダールヴ!」
ワルドは叫んで風の魔法を放ってきた。
ゼロ戦は咄嗟に攻撃を回避するが、少々無茶をしたらしく機体が揺れる。
「ジョータロー!」
ゼロ戦がシルフィードの下へとよろけてくるのを見たルイズは、突然飛び降りた。
「ちょっ、ルイズ!?」
「な、何をしているんだ君はー!?」
慌てふためく二人のかたわらで、タバサは冷静にレビテーションでルイズを浮かせる。
「馬鹿な、ルイズ!?」
ルイズが飛び降りるのを見て、承太郎も彼女を拾うべく機体を操作し風防を開けた。
「うっ……ジョータロー……!」
「ルイズ!」
速度を落とし、スタープラチナを出して腕を伸ばす。
何とかルイズをキャッチした途端、ゼロ戦が大きく揺れた。
ワルドの風の魔法が機体をかすめたのだ。
操縦席にルイズを引っ張り込み膝の上に乗せると、承太郎は思いっきり怒鳴る。
「馬鹿野郎ッ! てめー、いったい何しに来た!?」
「だ、だって……ジョータローの事が心配で、心配で心配でたまらなかったんだもん!」
泣き喚くルイズを見て、承太郎は責める気を失う。
理屈の問題ではないのだ。
「……やれやれだぜ」
今まで出会った中で、もっとも鬱陶しい女。それがルイズだというのに、
どうして嫌いになるどころか、気に入ってしまっているのだろう。

「ホッ、何とか拾えたみたいだ」
シルフィードの背中でギーシュが胸を撫で下ろす。
そして、気づく。草原で戦っているトリステイン軍の異変に。
「あ、あれは……」
「何、どうしたの?」
キュルケとタバサも疑問に思って草原を見た。
見覚えのある巨大な土のゴーレムが、トリステインの兵士達を襲っていた。
「土くれ」
タバサが敵の正体を言う。
「マズイぞ……タルブの村人達も近くにいるはずだ。
 あの兵士達、逃げ出しているじゃないか! フーケを何とかしないと!」
「タバサ!」
キュルケに名を呼ばれ、タバサは阿吽の呼吸でシルフィードを降下させる。
一度は倒した相手、何とかなるはずだ。だが。
タバサはゼロ戦がワルドから一方的に攻撃されている姿に気づいた。
咄嗟に風の魔法を唱え、ワルドの風竜に攻撃する。
だがワルドは軽やかにそれを回避すると、こちらにも魔法を放ってきた。
「わっ、わぁ! 何事だ!?」
「苦戦してる」
タバサがゼロ戦を指して言う。
理由は解らないが、竜騎士隊を全滅させてゼロ戦は、ワルドたった一人に苦戦している。
承太郎の話では、ゼロ戦には『きかんほう』とかいう、強力な銃がついていたはず。
所詮銃は銃だと侮っていたが、竜騎士隊が全滅している姿を見ると、恐らく想像以上の威力があったのだろう。
だがそれをワルドに使う気配は無い。
ならば答えはひとつ。
「多分、弾切れ」
「何ですって!?」
「それじゃあジョータローとルイズは反撃できないって事かい!?」

承太郎の能力をすべて把握している訳ではないが、少なくとも空中で遠距離攻撃をできるようなものではないと三人は理解している。
ルイズは魔法が使えない。銃弾も尽きたのなら、ゼロ戦はもう速く飛ぶ的でしかない。
ならば。
「……タバサ、キュルケ」
ギーシュが杖を手にして立ち上がる。
「僕は空中で敵に向けて飛ばす魔法なんて使えない。
 だから君達二人でジョータローとルイズを援護してやってくれ」
「ちょっと、ギーシュ? どうするつもり?」

「土くれのフーケは、僕一人で倒す」

キュルケは耳を疑った。フーケを一人で倒す? ギーシュが?
「な、何馬鹿な事、言ってんのよ! かなう訳ないじゃない!」
「しかし! フーケを倒さねばタルブの村が危ない!」
「だからって勝てる訳ないでしょうが! あんたはドットクラスなのよ!?
 土のドットと、土のトライアングル。実力が根底から違うの!
 ちょっと、タバサからも何とか言ってやって!」
タバサなら説得力のある言葉でギーシュを止めてくれるだろう。
そう思った。
でも。タバサは言った。
「あなたが今までの戦いで学んだ事を、忘れないで」
「ああ」
タバサはギーシュの力強い眼差しに、根拠もなく勝機を感じた。
これはただの勘。だが幾多の死線を潜り抜けたタバサの勘なのだ。
「行ってくるよ!」
迷いを見せぬ足取りでギーシュはシルフィードから飛び降りた。

「ちょっ、ギー……タバサ! 何であんな……」
困惑したキュルケはタバサに説明を求めようとしたが、
突然シルフィードが速度を上げたため次の言葉をつむげなかった。
「彼等を援護する。あの風竜を魔法で攻撃」
「……もうっ! どうなっても知らないからね!」
そう言いながらキュルケはファイヤーボールをワルドに向けて放った。
タバサも風の詠唱に入っている。
そしてギーシュは、タルブの村の草原にレビテーションで着地した。
その小さくも勇ましい人影に、フーケは気づく。
彼女は村人まで襲う気は無く、むしろ逃げた臆病な兵士達を追いかけるつもりだった。
しかし貴族が出てきたのなら話は別だ。
嗜虐的な笑みを浮かべ、殺意の目線をギーシュへ向ける。

「ぎ、ギーシュ様!?」
森の中から、シエスタはそのメイジの姿を見て驚いた。
あのギーシュが、たった一人で、自分達を守るために、立ち向かおうとしている。
兵士達ですら逃げ出した、強大で恐ろしいゴーレムを操るメイジに。

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