ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

見えない使い魔-1

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桃色の髪をした少女、ルイズの眼前に現れたのはただの男だった。
貴族として、魔法使いとしての一生を決めるといっても過言ではない
使い魔召喚の儀式であるサモン・サーヴァント。これは彼女が属する
魔法学院において進級のための通過儀礼である。
何度も失敗を重ねながらも、周囲から聴こえる嘲笑に耐え、ようや
く成功した。それなのに、現れたのは何のとりえもない人間だった。
愕然とした。彼女より先に儀式を行ったものたちの使い魔は全て立派
だった。土中を走るモグラ、火を吹くサラマンダ、中には大仰な姿の竜
を呼んだものさえいた。溢れる羨望と悔しさを押さえ込んで、挑戦した
結果がこれ。
ルイズは傍で儀式の成り行きを見守っていた教師、コルベールにやり直し
を求めた。だがそれは即座に却下された。その反応はわかっていた。もともと
神聖な儀式であり、使い魔は運命の相手、選り好みなどしてはいけないのだ。
彼女は腹を据え、足元に倒れている男に視線を注いだ。身に付けている
バンダナやマント、手持ちの杖が砂で汚れているため平民でも下流のものである
と思われる。だが、このさっきから微動だにしない男から受けるのはどんな貴族
からも感じたことのない威圧感だった。
ともかく、ルイズは契約の儀式を行うため静かに男の頭部を持ち上げた。
そのときだ。
「なにをしようというのだ少女よ」

重く、身体の芯に響く声がした。
ルイズも、すぐ近くのコルベールも一瞬誰が発したのかわからなかった。
「君に聞いているのだ」
声の持ち主はその男だった。彼は目を開き、ルイズに顔を向けた。
びくりと彼女の心臓が跳ねた。彼のまぶたの奥にあるべきものが
見つからなかったからだ。そこにあるのは瞳ではなかった。
「鼓動が激しくなったぞ。盲目の人間を見るのは初めてか?」
動揺を悟られた。しかし彼女は、口中のつばを飲み込み顔を寄せた。
自分は誇りある貴族、差別を持つような卑しいものではない。
その矜持が彼女を動かした。それに、彼は使い魔なのだ。
「質問に――」
男の声は遮られた。ルイズの小さな唇が音の出口を封じてしまったからだ。
その接吻は一瞬だったが、それでも効果はあった。
「ぐ、ぬあ……」
苦悶の声を男が上げる。熱と痛みが彼の身体を暴風雨のように
荒らしまわっていた。ルイズの腕から離れ草の上を転げ回る。
そんな彼の元にコルベールが近づき、左手の甲を確認した。
したり顔でうなずきぶつぶつとなにかをつぶやいていたが、
すぐに周囲の学生たちに学院に戻るよう指示を出した。
その間に、ルイズはいつのまにか大人しくなった男の傍に立ち、
重要なことを尋ねた。人間であれば絶対に持っているものだ。
「あんただれ?」
 男は重い声で答えた。
「俺は、ンドゥールだ」
 言いにくいわね。ルイズはそんなことを思った。

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