ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

奇妙なルイズ-22

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匿名ユーザー

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ロングビルを助けたギーシュ達は、ロングビルの治療のためシルフィードに乗ってトリスティン魔法学院に急いだ。
学院に到着する頃、遠くから昇る朝日を見て、キュルケはルイズの身を案じていた。
「早く帰ってきなさいよ…」




ギーシュ達が魔法学院に到着した頃。
ルイズは夢を見ていた。
使い魔品評会の日に、アンリエッタがルイズに会いに来た、その時の夢だ。
メイジの常識で言えば、使い魔の居ないルイズはメイジとして失格だと思われても仕方がない。
そんな自分に、アンリエッタは重要な任務を任せた。
他のメイジ達が聞けば、アンリエッタは気が狂ったのかとでも思われるだろう。

なぜ自分だったのか?
おそらく、アンリエッタの周囲には、心から信頼できる人が居ない。
この手紙の件を話せる人が居たとしても、アンリエッタの周囲にいる貴族が『政治』を担っている以上、決して話すことは出来ない。
アンリエッタは、この手紙を交渉の材料として使われることを恐れたに違いない。
だから、『おともだちのルイズ』に任せたのだろうか。

もし、アンリエッタが自分を利用しているとしたら?
…関係ない、自分は貴族なのだから、王女の命令に従うのは当然だ。
もし、アンリエッタが自分を利用しているとしたら?
…関係ない、アンリエッタになら騙されていてもいい、そう思って引き受けたのだから。
アンリエッタが『おともだち』として自分を信頼してくれているのなら、絶対に生きて帰らなければならない。

でなければ、アンリエッタは友達殺しの罪に、一生苛まれる事になるだろうから。

ルイズの意識が、朝焼けと共に覚醒してくる。

わずかに暗い空に流れ星が流れ、あの時名付けた名前を思い出す。

「スタープラチナ…」
ルイズが呟くと、ルイズの手からもう一本の手が現れた。
その手を握りしめ、開き、また握りしめて、その『感触』を確かめた。

「アルビオンが見えたぞ!」
鐘台の上に立った見張りの船員が大声を上げた。
ルイズは起きあがり、船員の指さす方を見ると、雲の切れ目からアルビオンの大陸が見えていた。
周囲をきょろきょろと見回すと、右舷の方向に何かの影が見えた。
「…?」
雲の切れ目から何かが現れたような気がしたので、その方向に向かって集中力を高める。
するともう一つの目が景色を拡大させる、遠見の鏡で遠くを見るかのように、雲の切れ目がクッキリと拡大されていく。
雲の切れ目から見えたのは、大砲を備えた船であり、輸送船や客船には見えない。
「あの船は何?」
ルイズが船員に聞いたが、船員にはその船が見えないらしく、
「何もありませんぜ」
としか返事は帰ってこなかった。

しかし、その船員はルイズの言葉を嫌でも信じるハメになる。
「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」
ルイズが見た船は、いつの間にか輸送船の死角となる雲中から現れ、大砲の照準を向けてきたのだ。


後甲板で、ワルドと船長は、見張りが指差した方角を見上げ驚いていた。
黒くタールが塗られた、いかにも戦艦だと思わせる船体からは、二十数個も並んだ砲門をこちらに向けていた。
「アルビオンの貴族派か?それとも…」
見張り員が輸送船の副長に合図を送る、すると青ざめた顔で副長が船長に駆け寄り、見張り員からの報告を伝えた。
「あの船は旗を掲げておりません!」
船長の顔も、みるみるうちに青ざめる。
「してみると、く、空賊か?」
「間違いありません! 内乱の混乱に乗じて、活動が活発になると予測されていましたが、既に…」
「逃げろ! 取り舵いっぱい!」
船長は輸送船を空賊から遠ざけようとしたが、既に空賊の船は輸送船と併走していた。
ボン!と音を立てて空賊の船から砲弾が発射され、輸送船の進路上にある雲に砲弾の穴が開く。
「船長!停船命令です…」
空賊の船から手旗での停船命令を受けると、船長はワルドを見た。
ワルドはこの船を浮かすために魔力のほとんどを傾けていたため、戦っても勝ち目はない。
ワルドは短く「私も打ち止めだよ」と言った。

船長は、停船命令を受ける旨を、見張り員に伝えた。




空賊に捕らえられたルイズ達は、船倉に閉じこめられていた。
輸送船の船員達は、船の曳航を手伝わされているらしく、ここには居ない。
ルイズはワルドから「チャンスを待とう」と言われ、ワルドの隣に座ってじっとしている。

がちゃりと扉が開き、船室に空賊の男が入ってきた。
「飯だ」
ルイズはじっと黙ってその男を見ていた。
ワルドが受け取ろうとしたとき、男はその皿をひょいと持ち上げた。
「質問に答えてからだ…お前たち、アルビオンに何の用なんだ?」
「旅行よ」
ルイズは床に座ったまま答えた。
「トリステイン貴族が、いまどきのアルビオンに旅行だって?いったい、なにを見物するつもりだ?」
「そんなこと、あなたに言う必要はないわ」
「へっ、随分と強がるじゃねえか」
ルイズが顔を背けると、男は皿と水の入ったコップを床に置いた。
ワルドが皿を取り、ルイズに先食べるよう薦める。
「食べないと、体がもたないぞ」
しかしルイズはそのスープを飲もうとしない。
仕方なくワルドは半分だけ飲み、しばらくしてからルイズもスープを飲んだ。
「あんなやつらの出したスープを飲むなんて…」
ルイズが悔しそうに呟くと、ワルドはルイズの肩に手を回した。
「今は体力を温存するんだ、僕のルイズ…きっとどうにかしてみせるさ」
いつものルイズなら、恥ずかしがって顔を赤らめていたかもしれない。
しかし、今は違う。

ルイズは自分の思考が恐ろしい程冷めているのを実感していた。
ワルドに『毒味』させたのだ、悔しがるような台詞はそれを誤魔化すための演技だった。


私はこんな性格だっただろうか、そんな事を考えながら、ワルドに身を預けていた。
その時再びドアが開かれ、今度は別の男が船倉に入ってきた。
「おめえらは、もしかしてアルビオンの貴族派かい?」
男の質問には答えない。
「おいおい、だんまりじゃ困っちまう、貴族派だったら失礼したな。俺らは貴族派の皆さんのおかげで、商売させてもらってるんだ。」
「…じゃあこの船は、貴族派の軍艦なのね?」
「おめえらには関係ねえことだがな。で、どうなんだ? 貴族派なのか? そうだったら、きちんと港まで送ってやるよ」

ルイズは、悩む仕草をしているワルドを差し置いて、立ち上がった。
そして空賊を見据え、言い放った。
「誰が貴族派なものですか。バカ言っちゃいけないわ。わたしは王党派への使いよ!し、正統なる政府は、アルビオンの王室ね。わたしはトリステインを代表してそこに向かう貴族なのだから、つまりは大使ね。だから、大使としての扱いをあんたたちに要求するわ」
「………」
ワルドはじっと黙っていた、ルイズにはそれが気になったが、決して勝算が無くてこのような事を言ったワケではない。
ルイズの右腕からもう一つの腕が伸びる。
いざとなれば、この使い魔を使って何とかしようと考えていた。
この船が貴族派のものだとして、これから拷問にかけられるのならば、何かの道具を使って拷問しようとするだろう。
それを奪えるだけの力があるはず、そう考えての発言でもあった。

「ハッハッ!こいつは驚いた、お嬢ちゃん正直なのはいいが、ただじゃ済まないぞ」
「あんたたちに嘘ついて頭を下げるぐらいなら、死んだほうがマシよ」
「頭に報告してくる。その間にゆっくり考えるんだな」
そう言って空賊の男はは去っていった。
ワルドはルイズを抱き寄せて、耳元でささやいた。
「君は昔からそうだったなぁ…いいぞ、さすがは僕の花嫁だ」


しばらくして、再び扉が開き、先ほどと同じ空賊が入ってきた。
「頭がお呼びだ」
 
狭い通路を通って連れていかれた先は、空賊にしては上品に過ぎると思えるほどの部屋だった。
後甲板の上に設けられたその部屋は、空賊船の船長室らしい。
大きな水晶のついた杖をいじる空賊の頭、杖をいじっていることから、メイジであることが理解できる。
その周囲では、ガラの悪そうな空賊たちがニヤニヤと笑いながら、ルイズたちを見ている。
「おい、お前たち、頭の前だ。挨拶しろ」
自分たちを連れてきた空賊がそう言っても、ルイズは頭をにらむばかりで、頭を下げようとはしなかった。
「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さてと、名乗りな」
「大使としての扱いを要求するわ」
ルイズは、先ほどと同じセリフを繰り返した。
そして、ゆっくりとスタープラチナの腕に意識を向ける。
三歩、いや二歩前に出られればそれでいい。
空賊の頭が杖を振り、こちらに向けてくれば好都合だ。
この『腕』は、自分の腕から更に2メイル(m)の距離まで伸ばせるはず。
二歩前に出られれば、空賊の頭から杖を取り上げることも可能なはずだ。

ルイズが悩んでいる間にも、空賊の頭は話を進めていく。
「王党派か…なにしに行くんだ? あいつらはもう風前のともし火だ。それよりも貴族派につく気はないかね?来るべき革命に向け、戦力となるメイジを欲しがっている。たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」
「死んでもイヤよ」
「もう一度言う。貴族派につく気はないかね?」
ルイズはきっと顔を上げ、腕を腰に当てて胸を張る。
「無いわ」
ルイズの言葉を聞いて、空賊の頭は大声で笑った。
「トリステインの貴族は、気ばかり強くって、どうしようもないな。まあ、どこぞの国の恥知らずどもより、何百倍もマシだがね」
空賊の頭は笑いながら立ち上がり、杖を納めた。
そして縮れた黒髪と、付けひげと、眼帯を外す。


「失礼した。貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはいけないな」
周りに控えた空賊達が、一斉に整列する。
その中央には、凛々しい金髪の若者。
「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官、本国艦隊といっても、すでに本艦『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊だがね。まあ、その肩書きよりこちらのほうが通りがいいだろう」
金髪の若者は威儀を正して名乗った。
「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」

ルイズは驚き、そして緊張が解けたせいか、膝の力が抜けてその場にへたり込んでしまった。

「アルビオン王国へようこそ。大使殿」

そう言ってウェールズは、ルイズとワルドに席を勧めた。

あまりのことに驚いたルイズだったが、ワルドがルイズを立たせて、ルイズの代わりに申し上げた。
「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」
「ふむ、姫殿下とな。きみは?」
「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」
ウェールズが「ほう」と呟く。
「そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢でざいます。殿下」
「なるほど!きみ達のように立派な貴族が、私の親衛隊にあと十人ばかりいたら、このような惨めな今日を迎えることもなかったろうに!して、その密書とやらは?」
ルイズは慌てながらアンリエッタの手紙を取り出す。
ウェールズに近づき手紙を渡そうとしたが、その前に、確認することがあった。
「あ、あの……」
「なんだね?」
「その、失礼ですが、ほんとに皇太子さま?」
ウェールズは笑った。
「まあ、さっきまでの顔を見れば、無理もない。僕はウェールズだよ。正真正銘の皇太子さ。なんなら証拠をお見せしよう」


ウェールズはルイズの指に光る、水のルビーを見つめて言った。
自分の薬指に光る指輪を外すと、ルイズの手を取り、水のルビーに近づけた。
二つの宝石が共鳴しあい、虹色の光を振りまく。
「この指輪はアルビオン王家に伝わる風のルビーだ。君がはめているのは、アンリエッタのはめていた、水のルビーだ。そうだね?」
ルイズは頷いた。
「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹さ」
「大変、失礼をばいたしました」
ルイズは一礼して、手紙をウェールズに手渡すと、ウェールズは愛おしそうにその手紙を見つめ、花押に接吻した。
その様子を見たルイズは、やっぱり恋文だったのねと、心の中で呟いた。

その後、ウエールズは手紙の内容を見て驚き、そして、今自分たちの置かれている状況を話した。
表向きには知られてないが、一月ほど前から既に王党派は何人も暗殺され、静かに革命が始まっていた。
アルビオンの所有する戦艦の殆どは貴族派に押さえられており、王党派は既に政治の実権どころではなく、地下に潜伏して逃げ隠れている状態なのだ。
それを聞いたルイズは、トリスティンに伝わっている情報がほんのごく一部だったことを思い知らされた。
アンリエッタからの手紙には、昔の手紙を返して欲しいと書かれていた。
そのため、アルビオンの城、ニューカッスル地下にある秘密港にまで来て欲しいと言われ、ルイズ達はそれを承諾した。

アルビオンの日陰になる雲の中は、暗闇といって差し支えないほどの空間で、周囲は何も見えない。
そんな中でも、熟練の船員達は船を秘密港まで移動させている。
その技術にワルドも驚きを隠せないようだった。


秘密港に到着すると、ルイズ達はウェールズに促されるままタラップを降りた。

そこに、背の高い年老いたメイジと、20代半ばのメイドが近寄ってきて、ウェールズの労をねぎらつた。
「ほほ、これはまた、大した戦果ですな。殿下」
年老いたメイジは、軍艦『イーグル』号に続いて現れた輸送船を見て言った。
「喜べ、パリー。硫黄だ、硫黄!」
ウェールズの言葉に、その場にいる者達が歓声を上げる。
硫黄は火の秘薬として用いられ、使い方によっては恐るべき破壊力を生む。
戦争を避けられぬ彼らにとって、待ち望んだ物だった。

「戦を前にしてお客様が来られるとは、思っても見ませんでした」
パリーと呼ばれた老メイジと共に、ルイズ達を迎えたメイドを見て、ルイズは息を呑んだ。

『……一人前のメイドになって、アルビオンの王族に、仕えることになった、娘を見て、うれしかった…………』

この女性(ひと)だ…!

ルイズの頭の中に、モット伯の別荘でメイジと戦った記憶がよみがえる。

なぜ今まで忘れていたのだろう?

あの時、私は、この女性の父親を、見捨てて…

そこまで考え、ルイズは、気を失った。

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