ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第三話 『出会いのち晴れ間』

最終更新:

familiar_spirit

- view
だれでも歓迎! 編集
第三話 『出会いのち晴れ間』

不意に目が覚めてしまった。窓の外を見るとどんよりと曇っている。一雨来るか、と考えながら身を起こす。背骨が小気味良い音をたてながら伸びた。
時間は・・・まだ大分早いようだ。もう一眠りしようかと思ったが、またあんな姿勢で眠ったらそれこそ背骨が歪みかねないと思い直し、洗濯カゴをひっ掴みルイズが脱ぎ捨てた衣類をまとめて外に出た。
「さて・・・出たはいいが場所がわからないな・・・」
監獄にも洗濯所はあったがあいにくここは魔法学校なのだった・・・。
「とりあえずぶらつきがてら、な」
階段を降りて寮の出口に立つ頃には結構な雨が降り始めていた。しかしウェザーは気にした素振りもなく外にでる。しばらく歩いていると黒い給仕服を着た少女が目についた。
(ちょうどいいから尋ねてみるか)
ウェザーはその少女の肩を叩いた。一瞬びくりッと肩を震わせたがすぐに振り向いてくれた。だが心なしか警戒しているのが見てとれた。
「あ、な、なんでございましょうか?」
「すまないんだが洗濯できる場所を聞きたいんだ」
「洗濯・・・ですか?」
「ああ、ルイズって魔法使いに頼まれてな」
それを聞いた少女は納得したらしく、微笑んだ。
「じゃああなたがミス・ヴァリエールの使い魔の・・・」
「知っているのか?」
「ええ、平民を呼び出したと噂になっていますから。私はシエスタと言いまして、ここでご奉公させてもらっています」
「俺はウェザー・リポート。ウェザーでいい・・・」
やはり平民の使い魔は珍しいのか。もっとも、俺は平民じゃないがな。
「それで、洗濯でしたよね?でしたらご案内しますわ」
「そうか?すまないな」
親切な娘だな。そのままついていき、ついでに洗濯まで手伝ってもらってしまった。さすがに悪いな・・・

「でもあいにくの天気で残念ですよね」
洗濯も終わり簡単な世間話(とは言ってもウェザーはこちらのことを知らないので殆んど聞き手に回っていた)をしているとシエスタが窓を見ながら呟いた。
「確かにな。これも陰干しか。・・・乾くか?」
水気を切った洗濯物をカゴに詰めてシエスタを見ると、嫌な汗をだらだらと垂らしながらカタカタ震えていた!ゲドゲドの恐怖面とでも言えばいいのだろうか?
「どうしたシエスタ?」
「わ、私・・・洗濯物を取り込まなければならなかったんです・・・貴族様に頼まれたもので・・・雨が降るからって・・・すっかり忘れて・・・」
「何?」
「失礼しますッ!」
弾けるように飛び出したシエスタの背をしばらく見ていたが、ゆっくりとウェザーは立ち上がった。

 シエスタは焦っていた。ウェザーとの会話に夢中になるあまり仕事を忘れてしまうなんて!と。
しかもまだ料理長たるマルトーからのものだったら頭を下げれば笑って許してくれるだろ。しかし・・・しかし今回は貴族様から頼まれたのだ。明日までにと再三言われたのだ。もしこれで雨の中放り出してあったなどとバレればただではすまない。
「ひっ・・・く・・・あ」
慣れない全力疾走に肺がひきつる。脇腹が痛い。喉がおかしい。足がもつれる。
正直もう間に合わないだろうとはわかっていた。
けれど、一縷の望みに賭けずにはいられなかった。きっと大丈夫。ほんの少し濡れた程度なら室内で火に近づければなんとかなる!
だが、もう手遅れなら?太陽が出てるならともかく、こんな天気じゃ無理だ・・・
最後の角を曲がり扉の外を見ると――――
「・・・ふふ・・・当然ですよね・・・」
竿にかけられた洗濯物は見事にずぶ濡れだった。シエスタが俯くと足下に涙がこぼれた。
「どうした?」
不意に後ろからかけられた声に振り向くと、ウェザーが立っていた。ウェザーはシエスタ見、後方の洗濯物を見た。
「・・・俺のせいか・・・」
「いえ・・・いえ、私が忘れたのがいけないんです」
だからお気になさらずに。そう言おうとした所で肩を掴まれた。ビクリとしてウェザーを見るとモノスゴク顔を近づけてきた。
「晴れれば、大丈夫か?」
何を言っているのかわからなかった。
「・・・ええ。でも、今日はもうずっと雨ですよ」
「そうか。なら君は『ついてる』な」
ウェザーに肩を回され再び外を見ると――
「ウソ・・・」
パアァァァ
何と晴れ間が見えているではないかッ!それも洗濯物のところだけに暖かい陽射しがッ!一体何が起きたのだろう?まさか――
「ウェザーさん?」
再び振り向いたとき、すでにウェザーの姿はなかった。

部屋に戻ったウェザーがまずしたのはルイズを起こすことだった。
最初に声をかけたが起きない。次に揺すってみるが唸るだけ。そして最後に彼がとった行動とはッ!洗ったばかりの洗濯物をルイズの顔に『貼り付ける』ッ!
「む・・・ぐ・・・ぅん・・・・・・ぷはぁっ!」
ルイズが呼吸ができずに跳ね起きると同時に洗濯物をカゴに放り投げる。
「お早うルイズ」
「ちょ、何か息苦しかったんだけど!」
「うなされていたからな。悪夢でも見たか?」
「え?う~ん・・・そう言われるとそうかも・・・」
ルイズはあっさりと丸め込まれた。しかし『試練』はこれからだった!
ベッドから降りたルイズはネグリジェを脱ぎながら「服」と指示を出すので制服を取って投げる。
「下着」
「・・・自分でやれ」
「いーから!クローゼットの一番下!」
「・・・」
下着を取って投げる。その際にルイズの体のラインが確認できたが、机の上の花瓶のほうがグラマーってどうだ?
「着せて」
「・・・拒否権は?」
その問いにルイズは憮然とした上目遣いで答えた。拒否権はないらしい。仕方なく着せる。
「しかし貴族ってのは自分の管理もできんのか?」
「下僕がいる時は下僕を使う。これ貴族の常識よ?ま、アンタは平民だから知らないか」
着替えを終えたルイズと廊下にでると別のドアが開き、中から赤髪の女が出てきた。背が高く彫りの深い顔立ち。スタイルは花瓶なんぞ相手にはならなかった。しかもその胸元がこぼれるギリギリまでボタンを開けている。
何から何までルイズとは対照的だった。

「あら、お早うルイズ」
「お早うキュルケ」嫌そうな顔のルイズ。
キュルケと呼ばれた女がウェザーを見ると、バカにしたように笑う。
「あっはっは!あんたホントに人間の使い魔呼び出したのね!しかも平民!さすがゼロのルイズ!」
ルイズが急にムキになる。
「うるさいッ!」
「使い魔っていうのはね・・・こういうのを言うのよ!」
キュルケが指を鳴らすとキュルケの部屋からのそりと、真っ赤なトカゲが現れた。デカイ。監獄にはワニもいたがそれより二回りはデカイぞ。何より尻尾が燃えているのが一番驚いた。
「サラマンダー?」
ルイズが悔しげに尋ねた。
「そうよー。見てこの尻尾!これはね・・・」
嬉しそうに自分の使い魔を自慢するキュルケにルイズは歯軋りをするばかりだ。対抗心からかキュルケが胸を張ると自分も負けじと胸を張り返すが、花瓶に劣る凸凹では勝負にはならなかった。負けず嫌いなのだろう。
キュルケはルイズを適当にあしらうとこちらを見つめてきた。
「あら、こうしてちゃんと見るとハンサムね、カッコイイわ。ルイズに飽きたらこの『微熱』の所にいらっしゃいな」
そうは言ってもどこか見下したふうな物言いだった。そのままキュルケは颯爽と去り、サラマンダーが後をちょこちょこついていった。不覚にも可愛いと思ったのは内緒だ。
「ムキー!なんなのよあの女!アンタも絶対アイツになびいちゃダメだからね!」
「それは無理な相談だな。お前とアイツじゃ比べるべくもないだろう?」
「うるさいッ!」
「しかし・・・奴の二つ名が『微熱』なのはいいが、お前の『ゼロ』はなんだ?」
すると途端にルイズはバツが悪そうになり、視線を外してしまった。
「知らなくていいことよ」
「・・・そうか」
ウェザーは追及しなかった。別にどうでもよかったし、ルイズも踏み入ってほしくはなさそうだからだ。
「なら早く食堂に行くわよ!」

トリステイン魔法学校の食堂はバカでかかった。監獄の施設のどれよりもデカイんじゃないかと言うぐらいに。その中には百人は座れるテーブルが三つ、その上には豪華絢爛な食事が並んでいた。
「ほぉー。大したもんだなコイツは」
ウェザーの感嘆を聞いたルイズは自分の手柄のようにふんぞり返っている。
「ここで学ぶのは魔法だけじゃないわ。貴族としての教育も受けるのよ」
「確かに、貴族って感じの食卓だな。で、俺たちの席は?」
待ってました!と言わんばかりにルイズが目を光らせた。
「わたしはココ。アンタはソコ」
指差した床には皿が一枚。「あのね?ほんとは使い魔は外。アンタはわたしの特別なはからいで、床」
「・・・・・・・・・」
ウェザーは黙ったまま床の皿を見つめる。チラリと、ルイズの食事を見たが観念したらしい。床に座り粗食を口に運ぶ。
「ふっふ~ん♪」
勝ち誇ったルイズは上機嫌で席につき、祈りを唱和してパンを頬張る。
「って、なにこれ・・・ふやけてるじゃない!ワインも水っぽいし、食品管理がなってないわよ!」
「そうだな・・・『湿気』には気を付けたほうがいい・・・特に生物は」
後ろでウェザーが何か言っている。何だか呪詛みたいでルイズは一気に食欲をなくした。
本当はルイズが後ろを向いてる間に『ウェザー・リポート』でルイズの食事にだけ雨を降らせたのだ。もちろんルイズは気付かない。

腹いせがすみ粗食を再び食べ進んでいると、どこからかガラスの割れる音が聞こえてきた。何事か叫んでもいる。
「君のせいで二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」
何が貴族の教育だ。ただの調子に乗ったジャリガキどもの巣窟だなコリャ。などと呑気こいていたウェザーももう一つの声に思わず立ち上がってしまった。
「も、申し訳ありませんミスタ・グラモン!」
シエスタ?何事だ?
「謝ったところで彼女たちの名誉は戻らない!落とし前はつけてもらわないとなぁ・・・」
恐れおののいて土下座しようと膝を折ったところでウェザーに止められた。そのまま引っ張られてウェザーに抱かれるように庇われる。
「君は・・・ああ、あのゼロのルイズの平民使い魔か。あいにくとおよびじゃあないんだ、どきたまえ」
バカにしたようなニヤケ面で命令してくる少年に対してウェザーは無表情のままだ。
「耳が聞こえないのかい?それとも君が代わりに落とし前をつけるのかい?」
「ああ」
一瞬周りがザ・ワールドしたがすぐに大爆笑となった。
「あっはっはっは!君、落とし前は『決闘』だよ?平民風情が僕と決闘できるのかい?」
「場所はここでか?」
「・・・いや、ここは決闘には相応しくない」
いたってマイペースなウェザーに少年もイラッときたのか憮然として言い放った。
「ヴェストリの広場で待っている」
少年の取り巻きたちが一斉に騒ぎだして少年の後を追っていく。一人だけこちらを見ているのはどうやら見張りらしい。
「う・・・ウェザーさん・・・あなた殺されちゃう・・・」
シエスタはそれだけ言うとウェザーの腕から逃れて奥に消えていった。
「ちょっとアンタッ!何したかわかってるのッ!」
「広場はどこだ」
ルイズの怒声をスルーしながら見張りに聞く。先に歩き出したということはついてこいの意味らしい。
「無視すんなーッ!本当にアンタ死ぬわよ!」
するとウェザーは立ち止まり首だけ振り返る。
「それが望みだろう?」
するとまた歩き出していってしまった。
一人残されたルイズは呆然としていた。
「アイツ・・・死ぬ気?」


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー