ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

9 泣く少女、笑う男

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9 泣く少女、笑う男

ルイズにはわからないことが多すぎる。使い魔の氏素性もそうだし、何を考えてるかなんて一つもわからない。今なんて言ったのかもそうだし、大体なんだって決闘を受けたのか。わからないことが多すぎる。なんで笑っていられるの?そんなにボロボロなのに。

なんだか嫌な気分だ。今の状況についていけないからではない。もっと直接的な何かが原因だ。使い魔を見る。
組んだ腕に顔をうずめるようにしている。着ているボロ布の重さがなくなったかのように、風に大きくなびいている。
使い魔を中心に、青黒い波動が発せられているようだ。違う。中心は…移動している。なにか悪いものが、目に見えない悪いものがいる。

ルイズの方へ近づいてくる。冷や汗が流れる。血が濁っていくような感覚。
ある瞬間、楽になる。何故だろう。切っ先を逸らされたような安堵感。

背後から耳障りな音が聞こえる。金属の軋む音だ。振り返る。ギーシュの錬金したゴーレムの一体、ワルキューレがボコボコにへこんでゆく。
ルイズは驚いてそれを見る。使い魔の攻撃か?さっきから薄ら笑いを浮かべている私の使い魔が、何かしたのか?
ワルキューレは全身を金槌で殴られたかのように、ボロボロになった。助けを求めるようにギーシュを見る。ふらつきながら歩いていく。
突然のことにギーシュも驚いているようだ。他のゴーレムに指示を出すことも忘れ、近づくワルキューレを見つづける。
なんとか、といった足取りでギーシュの所にたどり着く。崩れ落ちる。片膝を地に付き、手を差し出す。縋りつくかのように。最後の力を振り絞るかのように。

わかることが一つ増えた。このゴーレムらしからぬ人間臭い動作。さっきの赤土人形と同じ奴が操っている。それが私の使い魔なのかは…わからない。けど、多分そうだ。

ギーシュは差し出された手を握り締める。薔薇を持ってないほうの手で。ワルキューレの顔が歪む。ギーシュの左手が握りつぶされる。突然の出来事に、声にならない悲鳴を上げるギーシュ。
ギーシュは手を押さえる。その場にうずくまる。かぼそい呻き声。見上げたとき、ワルキューレは立ち上がっていた。腰に手をやり、前傾姿勢で主人を見下ろす。なんのダメージも負っていないように見えた。
顔の一部に亀裂が横に入った。メリメリと耳まで裂けていく。ぶらりと外れかけたそれは下顎か。口の中には針のように鋭い歯が、乱雑に生えている。金属的だが凛とした、澄んだ声が言う。
「飼い犬に手を潰されるってのはどんな気分だァーッ!?」 ギャハハと笑う。見た目と口調が全く合っていない。というか、喋っている時点でおかしい。やはり操られている。

ギーシュは震える右手で薔薇を振り、残ったゴーレムに命令を下す。無傷のワルキューレは目標を使い魔から同属へ。操られたワルキューレは後ろをチラリと見る。力を込めて屈む。二体が迫る。奇怪な叫びをあげながら後ろに向かって飛ぶ。手足を伸ばす。
三体がのゴーレムが、混然となって地面に転がる。一体が素早く起き上がる。他の二体の首を蹴る。ギビン、音を立て首は千切れる。山なりに観衆に向かって飛んでゆく。首を失ったワルキューレは動かなくなる。生徒達の間でちょっとした混乱が起きた。

ギーシュは立ち上がる。目に涙を浮かべながら。傷だらけのワルキューレがそちらを向く。両手両足を大きく振って走る。ギーシュは痛みをこらえてルーンを唱える。花びらが散り、更なるゴーレムが――
「バァ~~カッ!!そんな『痛くて痛くて息をするにも一苦労です』みたいな面で錬金できるかァ~~ッ!」
出る前に蹴り倒される。鼻血と砂煙を上げて地面を転がるギーシュ。ルイズは仰向けのその姿に憐憫を覚える。
だが、ワルキューレには――その操者には?――そんな感情はないらしい。再び大股で近づき、そのまま倒れこむ。青銅の兜を着けた青銅の頭がみぞおちにめり込む。
グウ。蛙のような声をあげ、昼食をもどすギーシュ。吐瀉物を浴びながら高笑いするワルキューレ。酸い臭いが辺りに漂う。

ワルキューレは抱きかかえるようにしてギーシュを立たせる。そのままひっくり返し、頭から落とす。くぐもった悲鳴が聞こえる。胸を引っ掴み、引き上げる。顔を見つめて下品に笑う。金髪が血に染まってゆく。
地面に投げ捨て、再び仰向けに。両膝に飛び乗る。もちろん折れる
。ギーシュは今日何度目かの悲鳴を――最初の悲鳴から五分もたっていないのだが――上げる。
裏返す。肩を踏み、手を引っ張り上げる。鈍く硬い音がして外れる。反対側も同じように外す。
足を持ち、引っ張り上げる。くるりとワルキューレ自身が向きを変え、ワルキューレのカカトをギーシュは至近距離で見つめることになる。ワルキューレは全身をしならせる。
ギーシュを背中から、地面に叩きつける。ギーシュは胃液の残りと血を少し吐く。薔薇はまだ手放していない。

意識の朦朧としたギーシュの顎をつま先で押し、顔を反らせる。首筋がむき出しになる。ワルキューレは笑いながら足を突き出す。膝を折り曲げ、ふくらはぎを腿につける。そのまま体重を掛け、脛を首に落とそうとした所で動きが止まる。
「フギィ!」 ワルキューレが叫ぶ。力が抜けていくように見える。
ギーシュが錬金をしたらしい。一片の薔薇の花びらが舞い落ちる。


低く濁った笑い声が聞こえる。あわてて振り返る。足を引きずって、使い魔が歩いてくる。ルイズを通り越して、横たわるギーシュに向かって。
ギーシュは顔にボンヤリとした表情を浮かべていた。全て終わったと思っていた。突然、衝撃がギーシュを襲う。胸板に太い足が乗せられている。肺から空気が強制的に排出される。

ルイズは止めに入ろうと二人の側による。
「負けたことを認めるか」 使い魔が言う。コクコクとうなずくギーシュ。
「要求がある。飲むか」 うなずくギーシュ。顔色は青くなりつつある。
「証明しろ。おまえの杖を折れ」 動きが止まる。使い魔は優しく言う。
「おれが折ってやろうか?」 首が横に勢いよく振られる。
ギーシュは己の薔薇を握り締める。手のひらに棘が刺さり、血がひとすじ、ふたすじ流れ出る。薔薇の造花が折れる。ひどく軽い音を立てて。
そのままギーシュが白目を剥く。肉体の損傷に精神が屈する。意識を失う。広場が沸き返る。

使い魔はきびすを返し、こちらに歩いてくる。もう笑ってはいない。その目は中庭の出口を見ている。ルイズは進行方向に立ちふさがる。
「……なにしたの」 漠然とした質問。期待した答えは返ってこない。
「決闘だ」 そう答えて使い魔は歩き出す。数歩で止まり、付け加える。
「一対一の」 再び歩き出す。今度は立ち止まらなかった。振り返りもしなかった。
ギーシュを生徒達が囲む。治療魔法で応急手当をする者がいる。レビテーションで運ぼうとするものがいる。
ルイズは自らの無力さを思う。死を前にして笑う使い魔を前に、私は何もできなかった。今もまた、何も出来ないでいる。
主人だけに見送られながら、使い魔は姿を消す。ルイズは涙を流していた。


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