ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-8

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匿名ユーザー

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狭い道を肩がぶつかりそうになりながら幾人もの人がすれ違っていく。
城を初めて出た康一は件の宿屋に向かうため狭い路地のような道を歩いていた。
今の康一はいつもの学ラン姿では目立つので平民の服装に着替えている。
そして康一はもう一人の同行者が立ち止まるのを見て自分も立ち止まった。
「ここだな」

同行者はアニエスという名の若い平民の女性兵士だった。
アンリエッタの紹介で、康一の同行として信頼できるであろうと任された人物。
女性にしては高い身長で、細身ではあるがしなやかで力強い逞しさがある。

道中で会話した感じでは人当たりもよく、穏やかで冷静な態度を康一は感じた。
任務中は軍服であるアニエスも兵士であると気付かれぬように私服に着替えていた。
しかし康一とアニエスでは身長に差がありすぎて、一緒に並ぶと少々ちぐはぐな印象を周囲に与えている。

「へェー、別に宿屋って言っても他の建物とあんまり変わらないんですね」
「ここは安宿だからな。概観に金を掛ける余裕などあるまいさ」
当たり前のようにアニエスは言い、サッと宿屋の中へと進んだ。
康一もそれに習ってアニエスの後に付いていく。

事情を何も知らないであろう宿屋の主人にアニエスが話をつけて部屋へ案内をさせる。
案内された部屋はアニエスに言わせれば、まぁ妥当な値段の部屋らしい。
そう広くはない部屋であまり物はなく、侵入者の手荷物と思われるようなものは特に見当たらなかった。
「ふむ、広くないし何処かに何か隠しているかもしれん。手分けして探してみよう」

そうして家具をひっくり返したりして家捜しを始める二人。
「しかし昨日は驚いたよ。姫様が使い魔を召喚して、人間を呼び出すとは夢にも思わなかったからな」
「…もしかして僕が召喚されたとき近くにいた人ですか?」
「ああそうだ。あの時の取り巻きの一人さ」
ニヤリと少し意地が悪そうにアニエスが笑う。

召喚されて一日程度しか経っていないが、どうにも濃い一日だったので康一は顔を思い出せない。
「まっ、そんなことはかまわんさ。それより昨晩のことの礼を言っておく。
姫様には日ごろから目を掛けて頂いていてな。
お前がいなければ下郎が姫様に何をしたか、考えるだけでもゾッとする」
「けどフツーのことしただけですよ。それが使い魔ってヤツなんでしょう」
「その普通がなかなか出来んさ。それもメイジを正面から相手に平民がなんてな」

そう言われて康一は自分のスタンド能力を知っているのはアンリエッタだけなのだと思い出す。
メイジ相手に平民が勝つというのは、どうもかなり難しいらしい。
この国は学校の授業で習った、地球の古いヨーロッパみたいなとこのようだ。
そんな国なのだから平民と貴族の間には結構な差があるんじゃないかと思う。

魔法もそれに一役買っているのだろう。
スタンド能力とは、そもそも人間の才能の発露で戦う為のものではない。
自分のエコーズも結果として戦闘能力を持つというだけ。
しかし魔法はアンリエッタに聞いたところ、攻撃用・治療用など様々な用途のある研究された学問である。
故に魔法という力は強力であり、平民と貴族との精神的な境界を隔てるものなのだろう。

「何も見つからんな、そちらは何か見つかったか?」
「ぁあ、はいッ。特にアヤシソーな物は見つかんないですね」
考え事をしながら作業していたので、慌てて返事をする康一。
しかし元々物が少なく、探すところは限られているのでもう何かありそうな場所は何処にもない。

「下手人がわざわざ証拠や手がかりになりそうなものを残しているとは限らん。
特に何も見つからなくても不思議はないが…」
「そーいえばこの部屋に泊まってたヤツって何日ぐらいここに泊まってたんですか?」
「亭主の話では5日程度だったはずだ」
問われてアニエスは記憶していることを話す。

「5日…ですかァ。じゃあ何か仕掛けをするぐらいの時間は充分ありますよね」
「確かにそうだが、あるとしてもどうやって見つける?」
康一はアニエスの顔をジッと見つめて熱い視線を送る。
「どうかしたのか。………おい、なんだ、あんまり人の顔を見るんじゃない」
視線の熱さにまいったのか、目を逸らしながら康一の顔を見ずに答える。

「これからやること、誰にも言わないって約束してもらえませんか?」
真剣な眼差しと表情で、有無を言わせぬ凄みを発揮する康一。
先ほどまでとは違う、一転した雰囲気と力強さ。
その凄みを感じ取ったのかアニエスは少し戸惑いを見せるが、すぐに表情を引き締めて頷いた。

何となくだがアニエスには予感のような予想があったのだ。確信と言ってもいい。
メイジを真っ向から打ち倒す、それも守るべき者も抱えて。
そんな者はざらにはいないし、それが平民でなおさらありえない。

だが実際、目の前の使い魔の平民はやってのけてた。
ならばこの使い魔には何かがあるのだ。
何かは分からない、だが自分には知ることも出来ない何かを持っているのだとッ!

「エコーズACT1」

康一が何かを呼ぶように呟いた。
そして何もない宙を、康一だけは見えているスタンド「エコーズACT1」を見上げて言う。
「昨晩の件で気が付いたんですけど、僕のエコーズは音を聞く能力にも優れてる。
それで思いついた。音にはこういう使い方もあるんだってことを」

「ACT1ッ!この部屋全体に「聞き取れない音」をしみこませろッ!!」

………………………………………………………………………………

アニエスは部屋を見渡すが何も起こらない。
何も聞こえてもこない。
「何も……起きない?」
「いいえ、人間には聞こえないだけなんです。ただ聞こえないだけでも音は存在する…」

人間が聞き取れる音には限界がある。
その限界を超える音が超音波。
高い指向性を持つため様々な測定や検査に利用されている。

「今、僕のACT1で部屋中の物や壁・床に聞き取れない音をしみこませました」
そして康一の意思を受けてACT1が部屋の床に耳を押し当てる。
「音の反響を利用して物の構造を調べるッ」

「名づけるとするなら「音(エコーズ)のエコー(超音波検査)」ッてトコですかね!」

ACT1の聴覚が響く音を聞き分け選別。
響く音はベッドや置物、床下、果てはこの建物の構造までも立体的に把握していく。
「何だこれ…ッ」
パッと康一は入り口から見て右の壁を見る。

「その壁、壁の下のほうの羽目板の奥になんか変な空洞があります」
壁を指差しながら言う康一に応えてアニエスが動く。
懐からナイフを取り出して康一の指差す羽目板の端に差し込んで抉じ開ける。
コトリと音を立てて羽目板があっさり外れ、二人は顔を見合わせた。

「何かありましたかッ?」
「あぁ、確かにここの羽目板の奥の壁が薄く削られていて少しだが空洞がある。
しかし空洞の中には何もない。一体何故だ…何故……。
……ッ…そうか…見つけたぞッ。何だこれは。書いてあるッ。羽目板の裏に何かが書いてあるッ!」

アニエスが羽目板の裏に見つけた書き連なる文字。
康一には読み取ることは出来ないが、確かに文字がそこにはあった。

「つまりこーゆーことですか……僕達は情報を手に入れたッ」

ドンッッ!!!


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