ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

奇妙なルイズ-19

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匿名ユーザー

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ラ・ロシェールで一番上等な宿『女神の杵』
この宿に泊まったルイズ達は、一階の酒場で適当な料理をつまんでいた。
今後の予定などを話していたが、ロングビルはラ・ロシェールにとどまると聞いて、ギーシュが何故ここに止まるのかと質問した。
「私は、ミス・ヴァリエール、そしてワルド子爵が帰還されない場合の連絡役ですから」
ロングビルの答えに「なるほど」と頷いていると、そこにワルドが戻ってきた。
ワルドはアルビオンに向かう船を調達するために出かけていたのだ。
席に着いたワルドから、アルビオンにわたる船は明後日になると告げられる。
「あたしはアルビオンに行ったことがないからわかんないけど、何で明日は船が出ないの?」
キュルケのふとした疑問にワルドが答える。
「明日の夜は月が重なるだろう、『スヴェル』の月夜だ。アルビオンに行くには距離がある。その翌日の朝ならアルビオンがラ・ロシェールに近づくんだ」
キュルケは、タバサのシルフィードに乗せて貰えば良いと考えたが、シルフィードに無理をさせるのは少し気が引ける、おとなしくワルドの言葉に従うことにした。
ルイズも同じ事を考えていたが、本来ならお忍びの任務、タバサの力を借りるのはあまり良くないと思い、何も言わなかった。

ワルドが席を離れると、あらかじめ預かっていた鍵を机の上に置く。
「さて…そろそろ寝るとしようか。部屋は取ってある、ルイズと私は相部屋だ、後は…」
それを聞いたルイズは顔を真っ赤にする。
「そんな、ダメよ! ままままだ私たち結婚してる訳じゃないし、それに…」
「婚約者だからな、当然だろう?それに…大事な話があるんだ、二人きりで話をしたい」
そう言って、ワルドはルイズを連れて部屋へと入っていく。

後に残された四人はしばらく悩んだが、ギーシュは一人、他の三人は相部屋ということで落ち着いた。

ルイズとワルドが入った部屋は、この宿でもっとも上等な部屋であり、そのつくりは貴族の館の私室のようで、豪華な装飾の割には落ち着いた雰囲気のいい部屋だった。

「きみも腰掛けて、一杯やらないか? ルイズ」
ルイズは言われたままにテーブルに着くと、ワルドが注いだワインを二人で乾杯した、ルイズは恥ずかしさからか、少しうつむいていたが。
「姫殿下から預かった手紙は、きちんと持っているかい?」
ルイズはポケットの上から、アンリエッタの封書を押さえた。
どんな内容なのか具体的に入ってくれなかったが、恋文に似た思いで書いたのだと想像はつく。
ウェールズから返して欲しいという手紙の内容は、もしかしたら…そこまで考えて頭を振った、今はそんなことを考えても仕方がない。
そんなルイズを心配して、ワルドが語りかける。
「不安なのかい? 無事にアルビオンのウェールズ皇太子から、姫殿下の手紙を取り戻せるのかどうか」
「そうね。不安だわ…だけど……」
そこでルイズはハッと気づく、ワルドの後ろに見える、比較的大きな姿見の鏡に、あの青い色の幽霊が浮かんでいたのだ。
ワルドはルイズの視線に気づき、ふと後ろを見る、しかしそこには誰もいない。
鏡にも何も映っていなかった。
「ずいぶん心配しているのだね…大丈夫だよ。きっとうまくいく。なにせ、僕がついているんだから」
「そうね、あなたがいれば、きっと大丈夫よね」
ルイズは落ち着いたフリをして答えるが、内心は焦りがあった。
心の中で誰かが警鐘を鳴らしている、何かがおかしい、何かが引っかかる。

昔、吸血鬼が居た。
その吸血鬼のカリスマ性とも言うべき、人を『恐怖』させ『安心』させる姿。
あの雰囲気に共通する、何かがあるのだ。

いつの間にか、ワルドは遠くを見る目になって、ルイズに語り出した。
ワルドはルイズとの思い出を語り、そして、ルイズの魔法は4大魔法ではなく、別の魔法…すなわち虚無の魔法に最も近いのではないかと言った。
歴史書が好きだったワルドは、始祖ブリミルの魔法についても調べていた、火炎と油による爆発は、火と土の合成だが、単体で爆発を起こせる魔法は存在しないはずだとまで言った。
それが本当の事かどうか分からないが、ルドが自分を評価してくれているのは分かる。
しかし現実味を感じられない、どこか白ける気すらした。
そして…

「この任務が終わったら、僕と結婚しようルイズ」
「え……」
 いきなりのプロポーズに、ルイズははっとした顔になった。
先ほど現れた幽霊のことも忘れ、ルイズはワルドの話をじっと聞き続けた。


一方、キュルケ、タバサ、ギーシュの三人は、景気づけと称した一気飲みでロングビルに敗北していた。


翌日、ルイズ達4人は、ラ・ロシェールの町を見て回っていた、ロングビルは一応護衛なのでルイズと行動を共にしている。
ワルドは後学のためにと、ギーシュを連れて桟橋へ行ったが、実際の所ギーシュは体の良い小間使いだろう。

一通りラ・ロシェールを見て回った四人は、『女神の杵』の裏手にある練兵場に来ていた。
「昔はここで修練してたのねー」
キュルケが興味深そうに呟く。
歴史などには興味のなさそうな彼女だが、練兵場の壁は、高位のメイジが固定化をかけたと思われるほどの丈夫さがあった。
そしてその岸壁にも、いくつかの傷や焦げ跡がある。
集団戦と言うよりは、決闘の痕と言うべき傷が、キュルケの心を喜ばせた。
「この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦だったと聞いています」
ロングビルの言葉に、一同が感心する、言われてみれば宿の作りに不思議な点があったと思い出せるからだ。

そういえば…と、キュルケがロングビルを見る。
「ミス・ロングビルはラ・ロシェールに住んでたの?」
ロングビルはこの宿だけではなく、ラ・ロシェールの事に詳しかった。
事実、町を巡って何か分からないことや疑問があれば、ロングビルが説明してくれたのだ。

「いえ、私は…」
「アルビオン訛り」
ロングビルを差し置いてタバサが答えた、その答えでキュルケとルイズが納得する。
アルビオンの貴族ならば、大陸に来る時にこの町を必ず通る、しかし納得したところで別の疑問が出てきた。
なぜルイズと共にアルビオンに同行しないのか?
故郷ならば、地理にも情勢にも詳しいのだろうが、それなのにアルビオンには同行しないと言う。
その答えは三人にとって驚きのものだった、ロングビルはアルビオンの貴族ではなく、アルビオンの貴族だった者、なのだ。
貴族としての立場を剥奪されたメイジ、ある意味、王党派を恨んでいてもおかしくない人物がルイズの護衛をしていることに、三人は大いに驚いた。
「ミス・ロングビル、なんでルイズの護衛なんて引き受けたのかしら?」
キュルケは不信感を隠そうともしない態度で質問する。
「…私は、戦争を防ぐために手伝って欲しいとしか、オールド・オスマンから承っていませんわ、王党派への恨みがないと言えば嘘になりますが、戦争が始まって孤児が増えるのは…もう、見たくはありません」

ロングビルはルイズを見た、ルイズは何か考えるように、うつむいている。
「私からも一つだけ質問させて頂きます、ミス・ヴァリエール…貴方はなぜモット伯の元へ、シエスタを助けに行こうとしたのですか?」
キュルケとタバサもルイズを見た、この二人にしても疑問に思っていたからだ。
「貴族が、一人の平民を贔屓するのは、決して良いことだとは思えません。モット伯は教育と称して少女を嬲り、売買もしていたと判明しましたが…そうでなかったら、どうするおつもりでしたか?」

その質問は、あらかじめ答えが用意されていた。
いや、ルイズ自身が自問自答していたのだ、これは誰からの受け売りでもない、ルイズ自身の答えだった。

「一度でも友人と呼んだ者を見捨てるのが貴族といえるのかしら」
ルイズは、真剣な目でロングビルを見た。
ロングビルは、その視線に思い出す者があった。
そもそもロングビルの一家が貴族の立場を剥奪されたのは、父親がアルビオンの王家に逆らったからだ。
しかし、父は決して後悔などしていない。
王家よりも、自分よりも、何よりも大事な『理念』を守ろうとした父、その視線とうり二つに見えたのだ。

以前のルイズならば、同じ答えを言ったとしても、そこには説得力が無かっただろう。
しかし今のルイズに見える『威厳』と、目の奥に見える『悲しみ』があった。

「貴方は、精神的にも貴族なのね…」
ロングビルの呟きに、ルイズは少しだけ頬を染めた。

「照れてる」
「う、うるさい!」
タバサの言葉に、いっそう顔を真っ赤にしてルイズが怒鳴る。
「ちょっとあんた何格好いいこと言ってるのよ!ゼロのルイズのキャラじゃないわよ!」
「ゼロって言ったわねこの色ぼけ女!」
キュルケのちょっかいで、普段の騒がしさを取り戻した三人。

その三人を見ながら、ロングビルは何かを決心していた。

キュルケと喧嘩しつつも、ルイズの頭の中にはある記憶が浮かんでいた。
シエスタを助けるため、モット伯へと立ち向かう決心を与えた、ある人物の記憶だった。

『なぜ おまえは自分の命の危険を冒してまで わたしを助けた…?』
『さあな…そこんとこだが おれにもようわからん』

なぜ命がけでシエスタを助けに行ったのか、よく分からない。
アンリエッタからのお願いを、命の危険があると知りながら引き受けたのも、よく分からない。

でも、よく分からないままでも、いいじゃないか…。


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