ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第七話 使い魔の決闘①

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++第七話 使い魔の決闘①++

 配膳はそう難しい作業ではなかった。
 配る作業はシエスタがやってくれるので、花京院は銀のトレイを持って動くだけだ。ただ、上に乗ったケーキだけを落とさなければいい。
 シエスタが手際よくケーキを配っていくのを眺めながら花京院は落ち込んでいた。
 無神経だった自分への自己嫌悪。
 ルイズを傷つけてしまった後悔。
 それらがまるで棘のように胸に突き刺さり、花京院を落ち込ませる。
 ケーキを配りながらルイズの姿を探してみたが、見つからない。もう部屋に戻ってしまったのだろうか。

「なあ、ギーシュ! お前、今は誰とつきあっているんだよ!」

 やけに大きな声が聞こえ、花京院は顔を向けた。
 そこには談笑している貴族たちがいた。
 中心となっているのは、ギーシュと呼ばれた金髪の少年だ。フリルのついたシャツを着た、いかにもキザなメイジで、バラをシャツの胸ポケットに挿している。
 彼はバラを引き抜くと、自分の顔の前で振った。

「つきあう? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。このバラのように、多くの人を楽しませるために咲くのだからね」

 花京院は思わず顔をしかめた。
 格好をつけているつもりなのか知らないが、度が過ぎている。これではもうナルシストだ。
 ……早く終わらせよう。
 花京院が側を通り過ぎようとしたとき、ギーシュのポケットから小ビンが落ちた。
 今の花京院がただの使い魔として来ていたなら放っておいただろう。しかし、残念なことに今は給仕中だった。
 たとえ相手が嫌なやつでも拾ってやるべきだろう。
 トレイを絶妙なバランスで維持しながら小ビンを拾った。


「おい、ポケットからビンが落ちたぞ」

 声を掛けてみるが、ギーシュは無反応だ。
 面倒なので、ギーシュの前のテーブルに小ビンを置いた。

「落し物だ」

 ギーシュは苦々しげに花京院を見つめると、その小ビンをそっと横に押しやった。

「これは僕のじゃない」

 その声で、ギーシュの友人たちも小ビンの存在に気付いた。
 友人の一人が小ビンを取り上げ、検分する。

「おお? この香水は、モンモランシーの香水じゃないのか?」
「間違いない! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」
「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたってことは……お前は今、モンモランシーと付き合っている。そうだな?」


 確信した友人たちは騒ぎ出した。その声の大きさはうるさいぐらいで、花京院は早く離れようと足を速めた。
 その時、入れ違いざまに茶色のマントの少女がギーシュの前に立った。
 少女は目に涙が溜め、泣き出す直前のような表情で、口を開く。

「ギーシュさま……やはり、ミス・モンモランシーと……」
「ち、違うんだ、ケティ。彼らは勘違いしているだけで、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」

 ケティと呼ばれた少女は、思いっきりギーシュの頬をひっぱたいた。
 涙をその頬に伝わせながら、

「その香水が何よりの証拠ですわ! さようなら!」

 まくし立てるようにそう言い、ケティは走り去っていった。
 ギーシュは、頬をさすった。

 色々な事情があるもんだな、と思いながら花京院が歩き出そうとすると、その横を今度は金髪の巻き髪の少女が通った。
 少女は先ほどのケティと同じようにギーシュの前に立つと、厳しい顔つきでにらみつけた。

「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただいっしょに、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」

 弁解をするギーシュの額を冷や汗が一滴伝う。
 モンモランシーは腕組みをし、ギーシュを見下ろしていた。



「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね?」
「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇るバラのような顔を、そのような怒りでゆがませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」

 モンモランシーは何も言わずに、テーブルの上に置かれたワインのビンを掴んだ。
 そして、呆けたように固まっているギーシュの頭の上からぼどぼどとかけた。

「うそつき!」

 と怒鳴って去っていった。
 台風が過ぎ去った直後のように、食堂に束の間沈黙が満ちる。
 やがてギーシュはハンカチを取り出すと、ゆっくりと顔を拭いた。

「あのレディたちは、バラの存在の意味を理解していないようだ」

 そして、芝居がかった仕草で、首を振る。
 成り行きを見守っていた花京院の袖を誰かが引いた。

「……カキョーインさん。行きましょう」
「ああ。そうだね」

 ギーシュに背を向けて、歩き出そうとしたところで呼び止められた。



「待ちたまえ」
「なんだ」

 ギーシュは、椅子の上で身体を回転させると、足を組んだ。そのいちいちキザったらしい仕草に、花京院は頭痛がした。

「君が軽率に、香水のビンなんかを拾い上げたせいで、レディの名誉に傷がついた。どうしてくれるんだね?」
「おまえとさっきの彼女たちとの間にどんな関係があったのかは知らないが……」

 ギーシュに指を突きつける。

「二股かけているお前が悪いんじゃあないのか」

 ギーシュの友人たちが吹き出した。
 周囲で見ていた人たちも、くすくすと笑いをもらす。

「そのとおりだギーシュ! お前が悪い!」

 ギーシュの顔に、さっと赤みがさした。
 視線を花京院に定めると、言った。

「いいかい? 給仕君。僕は君が香水のビンを置いたとき、知らないフリをしただろう。話を合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」
「どちらにしても、二股はいずれバレたろう。それと、僕の名前は給仕じゃない」
「ああ、君は……」

 ギーシュは馬鹿にするように鼻を鳴らした。

「確か、あのゼロのルイズが呼び出した、平民だったな。平民に貴族の機転を期待した僕が間違っていた。行きたまえ」


 ゼロのルイズ、という言葉に花京院は反応した。
 ゼロ。それはルイズが魔法を上手く扱えないことを嘲笑った言葉だ。
 花京院が傷つけてしまった少女への侮辱だ。
 それを彼はあっさり言った。何の迷いも無く、はっきりと悪意を込めて。
 平民だ、貴族だということはどうでもいい。貴族が勝手に偉ぶっていようと、花京院には関係のないことだ。
 だが、彼女に対する侮辱は許せなかった。

「今、おまえはゼロのルイズと言ったな」
「ああ、言ったとも。魔法を使えないものをそう呼んで何が悪い?」
「そうだな。事実だから悪くない……確かに正論には違いない」

 花京院はトレイをシエスタに渡した。
 そして、正面からギーシュを睨みつける。

「だが、彼女は僕の主人だ。魔法が使える、使えないの問題じゃあない。僕が彼女の使い魔で、僕の主人が彼女である以上、彼女の侮辱を聞き過ごすわけにはいかないな……」

 花京院はギーシュのようにキザな仕草で、小馬鹿にしてみせた。

「たとえ相手が口だけのキザな奴だろうと、だ」

 ギーシュは目尻を上げると、花京院をにらみつけた。
 お互いの視線がぶつかり合い、一触即発の空気が漂う。
 先に言葉を発したのはギーシュだった。


「……よかろう。君に礼儀を教えてやろう」
「どこでやるつもりだ? 僕はどこでも構わない」
「貴族の食卓を平民の血で汚すのはしのびない。ヴェストリの広場で待っている。ケーキを配り終わったら、来たまえ」

 ギーシュはくるりと身体を反転させ、歩き出した。彼の友人たちもその後に続く。
 一人だけはテーブルに残った。花京院を逃がさないために、見張るつもりのようだ。

「さて、早く終わらせようか」

 花京院がシエスタからトレイを取り、配り始めようとするが、はさみを握るシエスタの手は震えるだけで、ケーキを掴まない。
 不思議に思ってシエスタの顔を覗き込むと、彼女は真っ青になっていた。
 手だけでなく、身体全体を震わせながら、シエスタは言った。

「あ、あなた、殺されちゃう……」
「殺される? 僕が?」
「貴族を本気で怒らせたら……」

 最後まで言い終えずに、シエスタは走って逃げてしまった。
 一人残された花京院は、仕方ないので一人で配ることにした。
 多少手間取りながらも全てのケーキを配り、トレイを厨房へ返す。
 これで準備は整った。

 花京院は一人残ったギーシュの友人に場所を聞き、ヴェストリの広場へと向かった。


To be continued→

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