ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

『キュルケ怒りの鉄拳 その1』

最終更新:

familiar_spirit

- view
だれでも歓迎! 編集
『キュルケ怒りの鉄拳 その1』


数時間後、部屋に戻るとルイズは床についていた。
ベッドの上には、おそらく「サモン・サーヴァント」にまつわる本だろう、
数冊、数十冊の書物が雑然と積み重ねられ、
その間に挟まるようにして仰向けに倒れていた。
途中で力尽きてしまったか。ランプはつけっ放し、服さえ着替えていない。

ルイズはルイズで大変そうだったが、
ドラゴンズ・ドリームにもやらねばならないことがある。
ひそひそと囁かれる陰口、品の無い馬鹿話、シュールなジョーク、
教師のぼやき、とりとめの無いおしゃべり、思わず出た独り言。
これら各所で盗み聞きしたものに各人の吉凶とパーソナリティーを加え、情報収集は概ね完了した。
あとは集めた情報から取捨選択を繰り返し、必要なもののみを取りまとめ、現況を知ろうとはかる。

ここはハルケギニア大陸のトリステイン王国であり、この学校はトリステイン魔法学院である。
宗教学校ではなく魔法学校だったというわけだ。
空を飛ぶのも魔法、火を出すのも魔法、ページをめくるのも魔法。
便利なものだ。その調子でスタンドも見つけてほしい。

ここで魔法を学ぶものは例外なく貴族である。
ビッチ系ビッチとは一線を画す何かがあるとは感じていたが、貴族だったとは。
月明かりのベランダで恋人と差し向かいにワイングラスを傾けたり、
妖しげな仮面をつけて舞踏会で踊り明かしたりしているということか。
なかなか楽しそうではある。

魔法には様々な系統がある。
スタンドに近距離パワー型があったり遠隔自動操縦があるのと同じだろう。

ルイズは常に魔法を失敗する。
そのことからついたあだ名は、ゼロのルイズ。
エリートの中の落ちこぼれというわけだ。
落ちこぼれ以前の状態になってしまったドラゴンズ・ドリームは身につまされる。

ギーシュは皆に不幸を振りまく。
近いうちに何かが起こるはずだが、それが何かは分からない。
キュルケの活躍に期待しておくとしよう。

現在は新学期への移行期間である。
これは大して重要ではない。問題は次だ。

使い魔を召喚できなければ二学年へ進級することはできない。
キュルケの挑発、普段の魔法成功率、草原でのやり取り、その後のルイズ。
これらの事実から、ルイズはサモン・サーヴァントに失敗したらしい。
まだ留年が確定したわけではないが、チャンスは明日一日のみ。
挑戦だけなら何回もできるだろうが、時間的にも体力的にも限界がある。
まだ使い魔を召喚していないのはルイズだけではないし、
他の予定を押してまで個人を優先させるわけにもいかないだろう。
ルイズの焦燥感たるや並々ならぬものがあるはず。

主な情報は以上だ。

だが、他の人間が知らない、この学園の中ではドラゴンズ・ドリームしか知りえない情報もあった。
「実のトコよォ……ルイズは召喚成功してンじゃネェーの?」
本体を失ったばかりのドラゴンズ・ドリームが、あの草原にあらわれた。
泥棒のアンラッキーパーソンは、存在しないはずのルイズの使い魔だった。
ほんの少し、わずか、ちょっぴり、注意しなければ気がつかないほど微かだが、
他の人間よりもルイズを重視しているような気がしなくもない。
中立を旨とするスタンドとしては異例中の異例だ。
使い魔としての召喚がドラゴンズ・ドリームに作用しているとしか思えない。

使い魔は「サモン・サーヴァント」で召喚し、
「コントラクト・サーヴァント」で契約しなければ正式な使い魔として認められないらしい。
つまり、ルイズは召喚に成功したものの、
ドラゴンズ・ドリームが不可視だったゆえ存在に気づかず、
召喚は失敗してしまったのだと思い込んだ。
そのために「コントラクト・サーヴァント」をすっ飛ばし、
ドラゴンズ・ドリームは非常に中途半端な状態で漂っている。
「オレの方から契約スりゃイイッテことかァ?」
そうすればドラゴンズ・ドリームの立場は完全に固定される。
使い魔と主の間は強い絆で結びつき、
ルイズはドラゴンズ・ドリームの姿を見、声を聞くことができるようになる。

だがそう簡単に契約していいものだろうか。クーリングオフの制度があるとは思えない。
とりあえずメリットとデメリットを比べてみよう。

メリット。
ドラゴンズ・ドリームの存在を認めてもらえる。
話し相手ができる。しかもルイズだ。
能力を役に立ててもらえる。きっとルイズなら使いこなす。
ルイズがゼロと呼ばれることはなくなるだろう。喜ぶに違いない。

デメリット。
契約すれば、残り半生を使い魔として費やすことになる。
主人のため身を粉にして働かなければならない。
「スタンドなんだから当たり前ジャねェーの?」
ルイズの使い魔。本当にそれでいいのだろうか。
「ソリャいいダロ」
他の使い魔達が食堂や寝室には入れてもらえないところから察するに、
待遇的には奴隷か家畜、せいぜい愛玩動物だ。
「今まで通りッてコトネ」
確実に行動範囲が小さくなる。
「ヤッパ今まで通りダねェ……アレ? 悪くないンじゃネェーの使い魔」

契約の仕方は分かっている。お姫様とキスをすればいい。
ベッドの上のルイズはどことなく屈託のある様子で眠っていた。
夢の世界でも焦燥感と緊張感を感じ続けているのか。
白く柔らかそうな頬の上には涙の通った跡がある。
ドラゴンズ・ドリームはベッドの上まで浮遊し、真下を向いてルイズと顔を合わせた。
「……後で怒られタリしネェーヨナ?」
少し迷ったが、結局のところはルイズのためだ。
思い切ってルイズに向かう。
「……そういやオレファーストキッスダな」
あと三十センチ。二十センチ。十センチ。五センチ。
唇同士が触れ合う直前でルイズの口元が消し飛んだ。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー