ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの使い魔像

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匿名ユーザー

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夜、陽気に賑わう酒場に、一人の男が入ってきた。
マントを着けているが、身なりからすると貴族とは思えない。
幅の広い帽子と、担いでいるこざっぱりとした荷物からすると旅人の様だ。
だが、酒場の喧騒の中その男に注目する者は居なかった。
その男は、大声で歌っている男の側を通り抜け、踊っている者たちを押しのけ、喧嘩をしている連中を避けてやっとカウンターにたどり着いた。
「お隣よろしいかな?」
緑色の髪の女に声を掛け男は席に着いた。
声を掛けられた女は気だるそうに顔を上げた。
「はん?…あんた誰よ?……さっきまで居たボーヤは?」
かなり呑んでいるらしい。ワリと整った顔は酒の為に火照っている。
年齢は二十代後半ぐらいだろか。
「坊やって…こいつの事かい?」
足元を指差す男。
見ると16、7の少年が酔いつぶれて寝ている。
「そうよ…いや、違ったかも………もうどうでもいいわ。マスター!もう一杯!」
「それじゃあ」
足元の少年を跨いで席に着く男。
「僕に奢らせてくれないか?」
「あら~いいの?じゃあ一番高い奴」
「おいおい…まあいいか。僕にも同じのを頼むよ。僕はジャック。君の名前は?」
少しの間、酒が注がれているグラスを見つめてから、女は答えた。
「…マチルダよ」
「マチルダか…ステキな名前だ」
「あら、口説いてるの?」
「そう聞こえるかい?」
グラスを受け取ると、ジャックはマチルダに向き直って言った。
「乾杯しないかい?」
「何によ」
「僕らの出会いに」
「プッ。何よそれ」
「では、アルビオン共和国の戦勝一周年を記念して」
「いいわよ」
「乾杯」
「乾ぱ~い」
神聖アルビオン共和国がトリステインに宣戦布告をしてから2年。
戦争はたった1年で終結してしまった。
当初、トリステインとゲルマニアが同盟を組むというと言う噂もあったのだが、開戦とほぼ同時に反故にされてしまった。
さらにトリステインのカリスマであるアンリエッタ王女が、開戦直後のタルブで戦死してしまったのだ。
突然の悲報に兵士達の士気は落ち、王宮勤めの貴族たちはアルビオンの事よりも、王女をタルブへ行かせたのは誰か?と責任を押し付け合った。
その様な状態では『空の怪物』『羽を持つ悪魔』『灰の塔』等とあざなされるレキシントン号率いる空中艦隊と戦えるはずも無く、トリステインはアッサリと降伏したのだった。
その後、ジャックとマチルダは他愛も無い話をしながら酒を楽しんでいた。
深夜に近づいているというのにあたりの騒音はいっそう酷くなってきている。
「所であんた仕事は何?あ!ちょっと待って当てるから……吟遊詩人?」
「ハッハッハ、何でそう思ったんだい?」
「いや、何か帽子がそう見えたからね。で、本当は何さ?」
「こいつだよ」
そういってジャックはマントをめくって見せた。
「杖…あんた貴族かい」
マチルダの顔が少し険しくなった。
「いやいや、傭兵さ。とっくの昔に没落しててね。貴族制が廃止されたんで少しスカッとしてるよ」
「フフ、あたしもだよ」
「君も…するとやっぱり傭兵でもやってたのかい?」
「まあね。この戦争のおかげでちょいと稼がせてもらったよ」
頬杖をつくマチルダ。
そんなマチルダにジャックが質問した。
「戦争の前は何をやっていたんだい?」
「何って…まあ色々さ」
「色々とは?」
「…レストランとか、宿屋で働いてたよ」
「それだけじゃないだろう?」
「…どういうことだい?」
ジャックの顔が険しくなった。
「魔法学院でも、だろ?」
「フン!傭兵にしちゃ礼儀正しいと思ったら…あんた何者だい?」
袖口に隠し持っている杖に手を掛けるマチルダ。
「早まるな」
手で制するジャック。
「ちょっと話を聞きたいだけさ」
「話って?」
杖に手を掛けたまま怪訝そうな顔になるマチルダ。
「あの日の事をだ」
「あの日…」
マチルダの顔に、一瞬怯えが過ぎった。
「そう。あの日だよ」
ジャックはマチルダにグッと顔を寄せた。息が掛かるぐらい近くに。
「…一体何があったんだ?」
「何って…」
喧騒に掻き消されそうな声で呟くマチルダ。
「3年4ヶ月前の春の召喚の儀式の日。トリステイン魔法学院の教師・生徒・使用人全員が死んだ。何故だ?」
「……」
「トリスタニアで検分書を読んだよ。全員即死。殆どの者に外傷は無い。被害者の死んだ場所はわりとバラバラで、厨房で死んでいた者。
洗濯物の山に埋もれていた者。廊下に倒れていた者。木に寄りかかっていた者。生徒全員が居眠りしている様に机に突っ伏して死んでいた教室も在るそうだ。
3人ほど、首の骨が折れていた者があったな。フライ中に落ちた様だが、フライを使ってて落ちるか?普通。落ちたために死んだのではなく、死んだために落ちたんだろうな。
そして二年生だけは全員サモン・サーヴァントを行っていたであろう広場で死亡していた…」
ジャックは溜息を付く様に一旦言葉を切った。
「検分書に因ると、二年生の誰かが悪質な病気を持った生物を呼び出したのだろうとある。確かに病気なら被害者たち殆ど無傷という説明が付くかもしれない。
だが、明らかに何者かから逃げて、狼に怯えた羊のように数人で寄り添って死んでいた者たちも見つかっている。病気の感染者から逃げたのか?違う。感染すると即死するのでこれは違うだろう。
では病気を持った生物から逃げていたのか?それも違う。スクウェアのメイジ達が検査したが生徒と生徒の使い魔以外の痕跡は見られなかった。
…というか、病原体や毒物の痕跡すら全く見られなかったのだよ!そしてそんな大惨事のなか…君だけが生き残った。何故だ!!」
ジャックに両腕をつかまれ、ビクッとするマチルダ。
「あ、あたしは……」
一瞬言葉に詰まる。
「あたしは何にも知らないよ」
ジャックの目が鋭くなった。
「隠してもために成らんぞ…」
「隠してるんじゃあない!本当に何も知らないんだよ!!あの日あたしは…」


マチルダことロングビルは辟易していた。
魔法学院に潜り込んだはいいが、あのスケベじじいが終始セクハラをして来るわ、忌々しい白鼠を使って下着を覗こうとするわ、あまつさえ昨日は着替えを覗かれたのだ。
これも辛抱、宝物庫からお宝を頂くまでの我慢だ!お宝さえ手に入ればこんな所さっさと辞めてやる!!ついでにセクハラの事を上に訴えてやろうか。
そういえば、今日は使い魔召喚の儀式があるんだっけ?使い魔を手に入れてハシャぐあまり、覗きをやろうとする生徒がいるから気を付けろってシュヴルーズが言ってたが、やれやれそんな奴はオールドオスマン一人で十分だよ…
等と考えながら学院長室の前に来たロングビル。
ノックしてから「失礼します」と声を掛ける。
…………………
おかしい。
いつもならスケベじじいが浮かれた声で招き入れるというのに、返事が無い。
「失礼します。入りますよ」
ドアを開けて中に入ると、いつもの席に座っていたオスマンが、ハッとこちらを向いた。
その瞬間、ロングビルは心臓が締め付けられるような嫌な感じを覚えた。
こちらを見たオスマンの顔には、はっきりと恐怖が表れていた。
何?何がどうしたのよ?まさかフーケだとバレた?!いや、そんな筈は無い!
もしフーケだとバレたとしても、オスマンが恐怖を抱くだろうか?このあたしに。
ここに勤め始めてから初めて見たオスマンの恐怖。他人の恐怖が、ロングビルに言い知れぬ不安を与えた。
「ど、どうかなさったんですか」
オスマンはロングビルの方と遠見の鏡の方を交互に見た。
「大変な…大変な事が起こったんじゃ!!こ、こんな事が!!」
「オールドオスマン。落ち着いて下さい」
と言ったものの、自分も落ち着けぬロングビル。
「何が起きたのですか?」
「こ、これは!こんな事が!!まさかこんな!これはどういう事なんじゃ!!??」
日ごろからボケた様な事を言うオスマン。
しかし、これは違う。これはボケ老人の戯言ではない!
知能の高い者が理解不能の状況を目の当りにして混乱しているんだッ!!。とロングビルは思った。
オスマンはロングビルと遠見の鏡の方を交互に何度も見ている。
「ああ!何ということじゃ!!これは…そ、そういう事か!何ということじゃぁああ~!!!」
叫ぶと同時にイスから立ち上がり、ロングビルをビシッと指さし指示を出す。
「ミス・ロングビル!!急いでぜんs――」
指示はそこで途切れた。
唐突に。何の前触れも無く。糸が切れた操り人形が倒れるように、オスマンは崩れ落ちた。
「オールドオスマンッ!!」
持っていた書類を投げ出し駆け寄るロングビル。
鼻の前に手をかざすが、呼吸が無い。
首筋に指を当てるが、脈が無い。

死んでいる。

死んでいる、という事には多少慣れていた。
色々危ない橋も渡ってきた。
死を覚悟した事もあった。
目の前で人が死んだことも一度や二度ではない。
もちろん…殺した事もだ。
だが…
だが……この『死』は異常過ぎる!!
矢を射られる訳でもなく、氷を射られる訳でもなく、炎に焼かれる訳でもなく、岩に潰される訳でもなく、唐突に『死』が現れた。
どうする?助けを呼ぶか?いや、死んだ原因は何だ?その原因はまだここにあるのか?オールドオスマンをも殺せるような原因が。
このオールドオスマンを殺せる…?
背筋に激しい悪寒が走った。
胃の中から何かがせり上がってくる。
駄目だ、助けを呼んでいる場合ではない!宝物庫なんて知ったこっちゃあない!!逃げるんだ!!
自分の盗賊としての勘がそう叫んでいる。
部屋を駆け出したロングビルは、手近な窓を見つけると、そこから飛んだ。
今まで出したことも無い速度で。
自分の荷物さえも置いて。
三日後。
トリスタニアの宿屋で、学院の人間が全員死んだと聞いたロングビルは、しばらく震えが止まらなかった。


「それだけか?」
ジャックの声は、落胆した声で聞いた。
二人は多少静かな方へ席を移していた。
「そうよ。だから言ったでしょ、何も知らないって…がっかりさせて悪かったね」
「いや」
気を取り直すようにジャックが言った。
「疫病ではないと確信できただけでも進展さ」
「フ。目の前で死なれて、その死体を触ったあたしが死ななかったからね」
と自嘲気味に言ってからグラスを煽るマチルダ。
酔いもスッカリ醒めてしまった。
「では僕はこれで失礼させてもらうよ」
そう言って席を立つジャック。
「協力を感謝する」
歩き出そうとした所をマチルダが引き止めた。
「ねぇ…一つ聞いて言いかい」
「何だね?」
「…あんた何でこの事件を調べてるんだい?」
「何でそんな事を聞く?」
「いや、何か随分がっかりしてたからさ…ちょっとした好奇心だよ」
「………大した事じゃあない。トリステイン魔法学院に許婚が居たんだ。それだけさ」
「そう。悪い事聞いちゃったね」
「いや。では今度こそ失礼する」
そう応えると、ジャックは酒場の喧騒の中へ消えていった。
一人残されたマチルダは、少し悩んでから、次のボトルを開ける事にした。
許婚か……一体どの『教師だったんだろう』…。…シュヴルーズ?
「まさかね」
呟いてから、新しいワインに口を付けた。


魔法学院で一体何が起こったのか?ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドは生涯この謎を追い続けた。
家庭を築いて後も、暇を見つけてはトリステイン魔法学院跡地に赴き、時には家族と、時には一人で調査を続けた。
しかし、結局最後まで何も判らぬまま、その生涯を閉じる。



では、何が起きたのか?時は3年4ヶ月前に遡る。
春の召喚の儀式の日。
進級試験に臨んでいたルイズは、同級生が何の問題も無く使い魔を召喚して行った後に、自分が召喚したものが信じられなかった。
「……先生!召喚のやり直しをさせてください!!」
ルイズが叫ぶ。
現れた物は、一人の『おじさん』だった。
何の変哲も無い、普通の、どう見ても平民にしか見えない『おじさん』だった。
青い帽子を被り、パイプを咥え、青緑の上着を着ている、無精ひげを生やした『おじさん』……。
到底、使い魔にしたい相手でもなければ、コントラクトサーヴァントしたい相手でもない!
「残念ながら、ミス・ヴァリエール。儀式のやり直しは許可できません」
監督をしていた教師のコルベールが言う。
ルイズにとっては無情な言葉だが、コルベール本人も前代未聞の出来事にこれ以上の事を言えないのだ。
「そんな!!でも――」
「すみません」
「!!」
いつの間にか、コルベールとルイズのそばに来た『おじさん』。
「ちょっと質問したいのですが」
「な…なんでしょうか?」
コルベールが答える。顔に少し、緊張の色が見える。
「サンレミの病院は、どちらにいけば良いのでしょうか?」
質問しながら、帽子を取る男。
「サン・レミの…病院ですか?」
「何言ってるのよあんた。それより引っ込んでなさい!今は取り込み中よ!しかも!あんたのせいでね!」
「おや?」とルイズの顔を覗き込む男。
「な、何よ!」
「ちょっと待って。この私の事知ってますよね?そうでしょう?私ですよ」
知ってるんですか?という顔のコルベール。
「知らないわよ!こんなおっさん!見たことなんて無いわ!」
「そうですか…でも、今わたしを見て感動したでしょう?皆さんも」
と周りを見渡す男。え?という顔の生徒達。
確かに、この『おじさん』には何か引きつけられる物がある。何かわからないが。
「…あんた何なの?」
ルイズが聞く。
「わたしは…ヴィンセント」
パイプを咥えなおし、帽子を被る男。
「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ。『ゴッホの自画像』です。昨日カミソリで耳を切り落としました………所で病院は、どちらでしょう…?」

こうして、同日中にトリステイン魔法学院は全滅した。


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