ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

S.H.I.Tな使い魔-29

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 学院の宝物がフーケに盗まれた!
 そのニュースは学院中を駆け巡り、ルイズと康一が目を覚ましたときにはすでに大騒ぎになっていた。
 廊下を歩いていると、キュルケとタバサが駆け寄ってきた。
「おはようダーリン!聞いた?昨晩学院に賊が入ったらしいわよ。」
 キュルケはやや興奮気味である。
「それならもう知ってるわよ。この学院で一番最初にそれを知ったのはわたしたちだもの。・・・ていうか、使い魔にはあいさつしてご主人様であるわたしになにもなしってどいういわけ?」
 ルイズが口をとがらす。
「あーら、ルイズ。いたのね。あたしの頭はダーリンのことでいっぱいだから、あなたみたいなちんちくりんの入る余地なんてないのよ。・・・で、一番最初にってどういうこと?」
 昨夜のことを思い出したルイズがため息をついた。せっかくのチャンスを逃したことでずいぶんと気落ちしている。
「昨日の夜、ぼくらが最初にフーケを見つけたんだ。」
 康一が代わりに説明した。
「あら。すごいじゃないの。で、どうだったの?」
「すっごいでかいゴーレムが出てきてさ。捕まえるどころか、逃げ回るので精一杯だったよ。」
「ダーリンが手も足も出ないなんて、さすがハルケギニア中の貴族を翻弄する大盗賊だけあるわね。」
 康一は頷いた。ギーシュもゴーレムを使っていたが、はっきり言って桁が違う。
「まぁ、それで朝一で学院長室に出頭するように言われてて、今から行くとこなんだよ。」
「ふーん、おもしろそうね。あたしも行くわ。タバサも行くでしょ?」
 後ろに尋ねると、タバサはこくりと頷いた。
「あんたたち、フーケをみた訳じゃないんだから、来たってしょうがないじゃない。」
 ルイズは見るからに嫌そうだ。
「このまま授業に出るよりもおもしろそうだもの。ねぇいいでしょダーリン!」
 ルイズは渋ったが、結局キュルケとタバサもついていくことになった。

 4人が学院長室の扉をあけると、中にはもう十数人の教師たちがいて、殺気だった議論を戦わせていた。
 突然入ってきた生徒たちに入り口付近にいた教師たちが不審そうな顔をするが、何も言ってはこなかった。
「この魔法学院に忍び込むとは、なんといまいましい盗人め!」
「しかも盗まれたのはよりにもよってあの『弓と矢』というではないか!王宮になんと申し開きをすれば・・・」
「だいたい昨夜の当直はなにをしておったのだ!」
 全員の視線が一人の中年女性に向けられた。
 以前ルイズの練金でKOされた、ミセス・シュヴルーズだ。
 シュヴルーズは青くなった。唇がわななき、目は泳いでいる。
 やせぎすの男性教師がシュヴルーズに詰め寄る。
「確か、昨夜の当直はあなたでしたな。ミセス・シュヴルーズ。さぁ、昨夜にあったことを説明してもらいましょうか!」
 シュヴルーズは黙り込んだ。言えない。言えるわけがない。まさか学院に賊が入るとは夢にも思わず、当直をさぼって部屋で寝こけていたとは。
 男――ミスタ・ギトーは目を細めた。
「失態ですな。ミセス。この責任をどう取られるおつもりで?」
「わ・・・わたしは・・・」
 おろおろと周りを見回すが、同情の視線こそ帰ってくるものの、助けに入ろうとするものはいない。
「まぁまぁ、そのへんにしておきなさい。」
 しかし奥の扉から、オールド・オスマンが入ってきて助け船を出した。隣にはミス・ロングビルが控えている。
「しかし、ミセス・シュヴルーズが当直をさぼったおかげで、みすみすフーケの進入を許したのですぞ!この責任をどう取らせるおつもりですか!」
 よっこらしょ、とオスマンは椅子にすわった。
「この中に当直をまじめにやったことのあるものはおるかの?おらんじゃろう。それがたまたまミセスの担当日だっただけで、別の日であったとしても、同じことじゃったろう。」
 教師たちは黙り込んだ。皆思い当たる節があるのだ。
「わしらは油断しておったのじゃ。まさかメイジの巣たる魔法学院に入るような盗賊がいるわけがない、とな。だから生け贄を探すようなまねはやめなさい。あえて責任を問われるとすれば、学院の長たるこのわしこそがそれにふさわしいじゃろうの。」
 ミセス・シュヴルーズはオスマンの手を握り、ひざまづいた。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
 うむうむ、とシュヴルーズを労う。
「それにまだすべてが終わったわけではない。わしらで『弓と矢』を取り戻せばよいのじゃからの。」
 部屋がシンと静まり返った。
 一人の教師がおそるおそる手を挙げる。
「あの・・・王宮に報告して、衛兵を派遣してもらえばいいのでは?」
「だめじゃ。これから王宮に使いを出しておったら、間に合うものも間に合わなくなる。それに、仮にも貴族なら、自らの失敗の責任を自らで取る義務があるはずじゃ。」
 もう言い返すものはいない。
「よいかな?それではまず、昨夜の報告から聞こうかの。ミス・ヴァリエール。ミスタ・コーイチ。二人は昨夜フーケと交戦したと聞いたが・・・」
 室内がどよめいた。
 ルイズは口をきゅっと引き結び、オールド・オスマンの前に進み出た。
「はい。昨夜フーケが巨大なゴーレムを使って宝物庫に進入するのを見ました。捕まえようとしたのですが、力及ばず、逃げられてしまいました。」
 本当なら、ここでフーケを捕まえたと報告したかった。そうすれば、みんなに認めて貰えたのに・・・。
 オスマンは髭を撫でた。
「では次に、ミス・ロングビルから報告をしてもらおうかの。」
 もう、すでに自分は報告を受けているのだろう。手を組み、不安げな教師たちの様子を眺めている。
 オスマンの後を受けて、ミス・ロングビルが手元の紙をめくった。
「あれから聞き込み調査を行ったところ、近在の農民からの、フーケらしき男をみたという目撃証言がありました。そしてその居場所らしきところも、もうつかんであります。」
 な、なんですと!?教師たちがどよめく。
「その証言者によると、フーケはここから半日ほど先にある森の中の小屋に入っていったそうですわ。」
「要するにじゃ・・・。今回は幸運にも、フーケの居所がつかめているというわけじゃ。」
 オスマンはすっくと立ち上がった。
「よって、学院から盗まれた『弓と矢』を我々の手で奪還する!我こそはと思うものは名乗り出よ!」
 賢者オールド・オスマンの一喝であった。
 しかし名乗り出るものはいない。お互いがお互いの顔を見まわす。
 誰かが解決してほしい。しかし自分が危険な目に遭うのは嫌だ。と顔に書いてある。
「どうした!おぬしらには貴族としての誇りがないのか?」
 しかし答えるものはいない。
 そんな中、一人、決然と手を挙げるものがいた。
「ルイズ!」
「ミス・ヴァリエール!?」
 そう、先ほど目撃談を証言し、それで役目を終えたと思われていたルイズである。
「わたしが行きます。」
 ルイズには覚悟があった。「貴族としての誇り」。自分が手をあげることで、それが得られるのならば。フーケをむざむざ逃がしてしまったという汚名を返上する機会が与えられるのならば!
「本気かね?」
 オスマンは静かに訪ねた。
「はい。」
 決意は固い。
 それまで黙りこくっていたコルベールが叫んだ。
「取り消しなさい。ミス・ヴァリエール!生徒に解決できるような問題ではありません!」
「だって、先生方は手をお挙げにならないではないですか!」
 ぐっ、とコルベールは言葉がつまらせた。
 生徒を止めたい。しかし、志願せず、どこかの誰かに責任をゆだねようとした自分に彼女を止められるだけの言葉はない。
 今まで黙って聞いていただけだったキュルケがルイズと同じだけ、前に進み出た。
「では、あたしも志願いたしますわ。」
「キュルケ!なんであんたまで・・・!」
 ルイズは驚きの声をあげた。
 キュルケは優雅に髪をかきあげた。
「ヴァリエールだけに手柄を取らせたとあっては、ツェルプストーの名が泣くわ。」
 するともう一人、杖を上げて進み出るものがあった。タバサである。
「タバサ!あなたまで付き合う必要はないのよ!?」
「心配。」
 タバサは一言だけ、ぼそりとつぶやいた。
 感極まったキュルケはタバサを抱きしめた。
 しかし、それでは収まらないものたちがいる。学院の教師たちである。
 自分たちは行きたくない。しかし、生徒に生かせては教師として立つ瀬がない。
「学院長!危険すぎます!ここはやはり王宮に応援を頼むべきです!」
 ミスタ・ギトーが教師たちの心中を代弁した。
 しかしオスマンは、憤る教師たちを制した。
「彼女たちは貴族としての義務を果たすべく、自ら志願したのじゃ。それを止める道理はあるまい?」
「しかし・・・」
「それに、彼女たちがただの学生だと思ったら大きな勘違いじゃ。たとえば・・・」
 タバサに目を向ける。
「ミス・タバサはこの年でシュバリエの称号を持っておる。この意味は分かるじゃろう?」
 シュバリエとは貴族階級の最下級である騎士位のことである。
 子孫に継承することすらできない、一代限りの位である。だからこそ自らの手で手柄を立てなければ持つことのできないということでもあり、実力と経験を証明する特別な称号なのだ。
「それに、そこなミス・ツェルプストーは、代々火の優秀なメイジを輩出しつづけ、ハルケギニアにその名を轟かすツェルプストー家の者であり、本人も相当に卓越した火の使い手と聞いておる。」
 キュルケがただでさえ大きい胸を張った。
「そしてミス・ヴァリエールは・・・」
 今度はルイズが小さい胸を精一杯張った。
 えーっと・・・。オスマンはしばらく中空に言葉を探し、ゴホンと咳払いを一つ。
「ミス・ヴァリエールは非常に努力家であり、今回のフーケ発見も、夜遅くまで魔法の練習をしていたからだと聞いておる。それに、爆発の呪文に長けており、トライアングルクラスのミス・シュヴルーズすら一撃で昏倒する威力と聞く!」
 物は言いようである。
「そして、彼女の使い魔は、平民ながら、ドットメイジとしては頭一つ抜けておるギーシュ・ド・グラモンとの一騎打ちに見事勝利した使い手である!」
「おお、なるほど!!」
 コルベールがぽんと手を打った。
「ガンダールヴの力があれば、いかにフーケといえども・・・」
「おーっと、頭に蚊が止まっておるぞコルベール君ッ!!」
 コルベールが何かをいおうとした瞬間、オスマンの杖が最近殊に薄くなってきたハゲ頭を目にも留まらぬ早さでぶったたいた。
 昏倒するコルベール。
 コルベール先生も知ってたのかぁー!?
 事情を知る康一は、危ういところだったと青くなった。
 事情を知らない教師たちはぽかんとしている。
「・・・何でいきなり?」
「うむ。蚊は危険じゃぞ。病気を蔓延させたりするし、夜枕元でプンプンいわれると、気になって眠れなくなったりするからの。」
 誰がどう見ても不自然だった。しかしオスマンは持ち前の威厳で無理矢理乗り切ることに決めたようだ。
「さぁ、こんなことは大事の前の小事である!蚊などに気を取られることなく、見事『弓と矢』を取り返してくるがよい!勇者たちよ!」
 教師たちは不可解ながらも、まぁそんなものか。と思うことにした。
「ところで、その『弓と矢』というのはいったいなんなんです?聞く限りはそんなに大騒ぎするものとも思えないんですけれど。」
 コルベールとかその辺は心底どうでもいいキュルケが手をあげた。
「うむ。いい質問じゃな。」
 話題を逸らせてほっと一息のオスマン。
「宝物というからにはもちろんただの弓矢ではない。いや、正確に言うとない『はず』じゃ。」
「はず・・・といいますと?」
「わしも含めて誰もその『弓と矢』が特別なところを見たわけではないからじゃ。見た目もそこまで変わっておらんんし、魔力も感知できん。」
「じゃあただの弓矢なんじゃないですか?」
 ルイズが思ったまま疑問を述べた。
「うむ。しかし、あの「『弓と矢』にはトリステイン王家に代々伝わる伝承があるのじゃよ。伝承にはこうある。『此の矢世に出すべからず。平民これを手にするとき、悪魔現る。世界を滅ぼす災厄なり。』とな。」
 教師たちはもうその伝承を知っているのであろう。驚く様子はない。しかし、初耳の生徒たちにとっては衝撃的である。
「世界を滅ぼす・・・とは大きくでましたわね。」
 キュルケもそういうのが精一杯である。
 しかし正直なところをいうと、嘘臭い。
 それが顔に出ていたのだろう。オスマンはふぅーっと長く息を吐いた。。
「気持ちはわかる。じゃが実際王家にはこういった伝承が数多くのこされておる。やれ、風よりも早く飛ぶ船やら、始祖の残せし魔導書やら、数え上げるとキリがない。」
「わしもそれが本当かどうかは知らん。じゃが、それでも王家が先祖から守るように言い遣ったものじゃ。盗まれました、なぞと言おうものなら王家の面目は丸つぶれじゃよ。だからなんとしても取り返さねばならん。」
 それにしても・・・。ロングビルが眉根をよせた。
「わざわざ平民に渡すな、としているあたり。どう使うのかが疑問ですわね。」
「そうじゃのぉ。魔力もない、形も普通となると、鏃に毒でも塗られておるのかもしれん。もしくは撃って初めて効果が現れる類なのかものぉ。だからといって、実際試してみようというものも今までおらんかったが・・・。」
「そうですわね・・・。」
 ロングビルはなにやら考え込んでいるようだ。
「まぁなんにせよ、道案内は必要ですわ。私がその証言にあった小屋までお連れしますね。」
「おお、そうしてくれると助かるのぉ!」
 いくら実力があるとはいえ子ども達だけに行かせるのは心配だ。信頼できる大人がついていってくれればこちらとしても安心である。
 では、用意が出来次第、出発するように!とオスマンが最後に言って、この場は解散となった。

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