ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

S.H.I.Tな使い魔-26

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匿名ユーザー

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「ごめんなさい。学院長は不在なんです。」
 3度目になる学院長室の前でミス・ロングビルは申し訳なさそうに教えてくれた。
 ルイズを授業に送り出した後、学院長を訪ねて来た康一だった。
 それもそうだよなぁー。学院長っていうからには相当急がしいんだろうし。
「それじゃあ、しょうがないですね。また今度来ます。」
「待ってくださいな。」
 退出しようとする康一を、ミス・ロングビルが引きとどめる。
「なにか相談したいことがあったのでは?たとえば・・・『スタンド』・・・のことですとか。」
 なんでこの人が『スタンド』のことを知ってるんだァー!?
「ななな、なんでそのことを!?」
 正直動揺した。やはり『スタンド』のことが広まってしまうのはまずい気がする。
「隠さなくても結構ですわ。実はこっそり聞き耳を立ててましたの。」
 口を手で隠して、ごめんなさいね、と笑う。
 まいったなぁ・・・。康一は頭を掻いた。こうしれっと言われると追求しようがない。
 まぁオールド・オスマンの秘書なんだから悪い人ではないだろう。
「しょうがないなぁー。いや、実はぼくの故郷のことについて何か分かったことがないか聞きにきたんですよ。」
 ミス・ロングビルはしばらく考えていたようだが、やがて首を横に振った。
「そのような話は伺っていませんわ。でもオールド・オスマンだけでなく、ミスタ・コルベールも文献などを漁っておられるようですから、そのうちきっと見つかりますわよ。」
「そうですか・・・」
 やはり杜王町に帰るのはまだまだ先のことになりそうだ。というよりも、帰ることができるのだろうか。
 康一は肩を落とした。
 がっかりした様子の康一を不憫に思ったのかもしれない。
 ミス・ロングビルはちょうど休憩するところだったから、と康一をお茶に誘った。


 ミス・ロングビルに薦められて、康一は応接用の椅子に座った。
 ここに座るのは3度目だが、そのとき向かいに座っているのはオールド・オスマンやミスタ・コルベールだった。
 今はミス・ロングビルが座り、淹れたての紅茶を出してくれる。
 綺麗な人である。おしとやかな物腰だが、どことなく影があって、キュルケとはまた違う意味で大人の女性という感じがする。
 最近美人に縁があるなぁ。と思う。
 由花子さんと知り合う前なら、多分もっと舞い上がっていただろう。
 ティーカップに手を伸ばす。立ち上る湯気からは紅茶の華やかな香りがした。お茶に詳しくはないが、きっといい茶葉を使っているのだろう。
「そういえば、故郷のことを聞きにいらしたんですよね?」
「ええ・・・まぁ。」
 ミス・ロングビルと目が合った。
「故郷に、帰りたいですか?」
「・・・ぼくを待ってる人がいるんです。いきなりいなくなったからきっと心配してます。」
「恋人かしら?」
 冗談めかして笑うロングビルに康一は頷いた。
「まぁ、恋人もそうですね。でも、家族や友人も。」
「そう・・・。大切な場所なんですね・・・。」
 ロングビルは康一を見つめた。
 いや・・・。康一は思った。
 彼女はぼくを通してどこか遠くを見ているような気がする。
「でもロングビルさんにも故郷があるでしょう?」
 ミス・ロングビルは一瞬だけ胸を突かれたような顔をした。
「・・・・いえ。私の故郷はもうないんです。ですからあなたが少しだけうらやましいですわ。」
 少しだけ寂しげに笑った。ティーカップを静かに傾ける。
 故郷がない?彼女の故郷には何かがあったのだろうか。
 しかし聞いていいものかも分からない。康一は黙り込んだ。
 康一の困惑を察したのだろう。ミス・ロングビルは明るい声で言った。
「でも、大切な場所は今でもありますわ。いつどこで何をしていても、心はそこに置いている。そんな場所です。」
 康一は心から嬉しそうに笑った。
「よかったぁ~。帰る場所がないなんて寂しすぎますもんね!」
 ロングビルはふっと息を吐いて、微笑んだ。
 そして、ソーサーをもつ康一の左手を見た。
「そのルーンのこと、ご存知ですか?」
 康一はティーカップをテーブルに置いた。
「いえ、よくは知らないんですが。なんだか変なルーンなんです。武器を持つと光ったりして・・・」
 康一は自分が経験したことを話した。武器を握ったらルーンが光りだして体が軽くなったこと。『スタンド』のパワーも上昇したこと。
「『スタンド』というのも不思議な能力ですね。魔法とは違うのですか?」
「ええ、多分。・・・まぁ、実は自分でも『スタンド』が何なのか良く分かってないんですけどね。」
 超能力、としか言いようがない。こっちの『魔法』は多分系統だった研究がされているのだろうが。
「『スタンド』のことは分かりませんけど、その『ルーン』のことは少し分かりますわ。『ガンダールヴ』と読むそうです。」
 ミス・ロングビルは説明した。
 ガンダールヴとは、ハルケギニアに系統魔法を伝えた虚無魔法の使い手『始祖』ブリミルの使い魔の一人である。
 <<神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。>>という歌が残されているという。
 そして康一の左手に刻まれているのはそのガンダールヴのルーンと非常に似ているらしい。
「『始祖』ブリミルってここでは神様みたいに言われてる人ですよね。ぼくがその使い魔?」
 実感がわかない。というか、自分に関係ある話とは到底思えない。
「ええ。ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ。私たちメイジの始祖。そして彼の使い魔『ガンダールヴ』は歌にあるように武器を扱うのに長けているといいますわ。その『ルーン』の効果と合致するんじゃありません?」
「じゃあ、ぼくを召喚したルイズが『虚無』の使い手ってことですか?」
「さぁ・・・さすがにそれは信じがたいのですが・・・」
 ルイズは俗に言うと『落ちこぼれ』である。神聖視されている『始祖』と同列に扱うのは抵抗があるのだろう。
 康一は考えたが、正直話が大きすぎてよく分からなかった。
「このことはルイズには黙ってたほうがいいですね。」
「ええ。オールド・オスマンもミス・ヴァリエールがこれを知ったら変に気負うのではないかと心配していましたわ。」
 そして、「本当はコーイチさんにも言わないつもりだったみたいです。だから私が話してしまったのは内緒ですよ?」と片目を閉じた。


 学院長室を退室したあと、康一は学院の廊下を歩きながら考えた。
 あの話は本当のことだろうか。もしかしてからかわれたのではないだろうか。
 ここ数年非日常的な生活を送ってきた康一にしても、短期間にあまりにいろいろなことが起こりすぎていた。
 明日になれば、杜王町の自分の部屋で目がさめるのでは、とまで考える。

 でも、このルーンが『ガンダールヴ』だったとして、なぜぼくがそんな大層なものに選ばれたんだろう。
「呼び出されたのが承太郎さんみたいな人だったら誰だって納得するんだろうけどなぁ。」



 夜。
 ハルケギニアの双月が照らす薄闇の世界。
 学院の本塔の壁に垂直に立つ人影があった。
 足の裏で外壁に張り付き、垂直のまましゃがみこむと、コツコツと壁を叩く。
「さすがは噂に名高い魔法学院。壁の厚さも並じゃないわねぇ。」
 夜風になびく、長い長い髪。
 彼女は、二つ名を『土くれのフーケ』。ハルケギニアにおいて、大胆不敵な犯行で名の知れた盗賊である。
 しかし、警備の厚い貴族の屋敷は狙っても、盗みやすいであろう平民の家を襲うことはないので、一部平民からは『義賊』と呼ばれて密かに人気が高い。
 そんな彼女が今狙っているのは、魔法学院の宝物庫に眠るという『弓と矢』である。
 弓矢は魔法という強力な戦力があるハルケギニアでは大した価値はない。だが以前オスマンがぽろりと漏らした、『弓と矢』の『言い伝え』に興味を引かれたのだ。
 酒場に行けば掃いて捨てるほどある、くだらない与太話の一つのように思えるその『言い伝え』。
 だが、魔法王国トリステインで、『賢者』と目されるオールド・オスマンと彼の学院がそれを宝物庫にしまいこんでいることが、信憑性を裏打ちしていた。
「あのハゲ。この壁は物理衝撃には弱いだなんてよく言えたもんだ。」
 フーケは計画もなしに盗みに入るような盗みはしない。事前に情報を集め、弱点を見極め、そこを一気につく。
 だから今まで捕まらずにこれたのだ。
 この魔法学院への盗みも、鉄壁といわれている魔法学院の宝物庫の弱点を探すため、内部に潜入してもうどれくらいになるだろうか。
 ジジイに尻を触られながらもお宝のために耐えてきた。
 そしてようやく、教師の一人からこの宝物庫唯一の弱点を聞き出したのだ。
 だというのに、唯一の弱点のはずの物理的衝撃に対する耐久性すら、王宮の城壁並みなのだ。
 自分の力を全力でぶつけても破れるかどうか・・・。
 だが、錬金などといった他の手段で破るのは不可能だ。
「できるかどうか分からないとしても、やるしかないね。」
 セクハラに耐えるのも我慢の限界だ。
 フーケは詠唱と共に杖を振るった。
 眼下の地面が集まり、盛り上がる。みるみるフーケのいる宝物庫外壁の高さまで大きくなったときには、巨人のような人型の土人形ができあがっていた。
 土人形――ゴーレムの肩に飛び乗る。牛も軽く握りつぶせそうな大きさの拳を鋼鉄に錬金した。
「さぁ、伝説の『弓と矢』。この『土くれ』のフーケがいただくとしようかね!!」

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