ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ジョルノ+ポルナレフ 第二章-02

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
あ、ありのまま今起こったことを説明するわ!
わ、私は先日プッチ枢機卿閣下とお話しする機会があった。
お母様と一緒にお会いする機会があって、その時私が何か悩んでいる事に気付かれた枢機卿閣下は、私と二人で話す機会を持ってくださった。
敬虔なブリミル教の信者として枢機卿閣下のお誘いを断るなんて選択肢はない。
私は何故か気をつけろと母さまから警告されて枢機卿閣下に、ここ最近起こった使い魔召喚から始まった出来事を説明し、懺悔した。

枢機卿閣下は私を赦し、励ましの言葉をかけと祝福をして下さった。
新しく使い魔になった小鳥にまでよ。ちょっぴり、感激したわ。

ネアポリス伯爵は何故かそのことを詳しく聞かせて欲しいって言うから、私は伯爵を部屋に招いた。
本塔ならこんな時間に殿方を部屋に招くなんて淑女のすることじゃあないっていうのは理解しているわ。

でも、今日学院にこられた姫殿下のことも聞きたかった。
ネアポリス伯爵が宣言したとおり姫様はこの学院に来られた。
それはもしかしたら、ゲルマニア皇帝との結婚の話だって本当なのかも知れないって思うには十分だったわ。
その事は他人には絶対に、いいえ…身内にだってまだ相談できなかった。

だから夜分、私は伯爵を部屋に招く事にした。母さまやちい姉さま…伯爵とよく一緒にいるテファ達もいない。
伯爵にプッチ枢機卿閣下との事を説明してあげて、姫様の事を聞こうとした時だった。
私の部屋の扉がノックされた。

誰だと思う?
私は母さまかと思ってビクビクしてたわ。でも開くと、ローブで顔を隠した人が入ってきた。
それは…姫様だった!
なんと、昔遊びのお相手を勤めさせていただいたことを姫様は覚えていてくださって、私のところに姫様が忍んで来て下さったの!
しかも姫様は土くれのフーケを捕らえたことを直々に誉めてくださったわ!
私のことを、こんなゼロの私を一番のお友達だって言ってくださったの!
シュヴァリエとか舞踏会の主役だったとか、そんなちゃちなものじゃない!
貴族として、こんな誇らしいことはないわ!
姫様と私はひしと抱き合い、幼い頃泥だらけになって宮廷の中庭で蝶を追いかけたこと、ふわふわのクリーム菓子を取り合ってつかみ合いになったこと、アミアンの包囲戦と呼んでいる一戦。
懐かしい思い出を語って私達は笑いあったわ。
でも姫様は、途端に現実を思い出して酷く沈んだ表情を私にお見せになった。
そして何かに気付き、反応に困る私に姫様は言う。

「でもごめんなさい。もしかして私お邪魔だったかしら?」

歓喜に震え、姫様の表情に動揺する私に、姫様は先程の何故か謝罪された。
私は首を大げさに首を横に振り姫様に駆け寄った。

「邪魔だなんて!姫様、いつ何時であろうとそんなことはありえませんわ!」
「だって彼、貴方の恋人なんでしょう? いやだわ私ったら、つい懐かしさにかまけてとんだ粗相をしてしまったみたいね」
「彼?」

姫様がネアポリス伯爵…ジョナサンを姫様が示したのを見て、私は慌てて頭を振った。
すっかり忘れられていたジョナサンは微動だにせず姫様を見下ろしていた。

「ち、違います!ジョナサンとは「ジョナサン?まあ、すると貴方があのネアポリス伯爵ね。
先日貴方のところで仕立てていただいたドレス、とても素晴らしい出来だったわ」

名を聞いて伯爵が誰か気付き、お褒めの言葉をかける姫様にジョナサンは、口元に笑みを浮かべていた。
でも、姫様にせっかく声をかけていただいたのにあんまり嬉しそうには見えなかったわ。

「ありがとうございます。ですが姫殿下、私とミス・ヴァリエールは本当にただの友人です。
親しくはさせていただいてますが、彼女の名誉のためにもお間違いなさらぬようお願いします」

ジョナサンの説明に理解を示される姫殿下、私は安堵して息をついた。
姫殿下は私に優しい目を向け、ジョナサンを見る…私を違和感が襲った。

「わかったわ。ルイズ、よくも悪くも話題に上がる方ですものね。ネアポリス伯爵、私のお友達のことよろしくお願いしますわ」
「?はい、公爵夫人やカトレア様からも頼まれてますからね」
「まあ!あのお二人からそう言われているなんて、もうヴァリエール家の方達ともお会いになられたのね!」
「あ、あの…姫様?」

な、何だか、物凄く勘違いされてるような気がするわ。
ジョナサンもそれに気付いて姫様に声をかける。

「姫殿下、私達は本当にそんな関係ではないんです。ルイズとは出会ってからまだ一月も経っていませんし、私は外国人です」
「素敵ですね。私にもそんな経験がありますわ。そう…あのラグドリアンの湖畔で過ごしたあの時を…ルイズも覚えてないかしら? 貴方に身代わりを頼んだ時のことよ」
「あ、あの時ですか!?」

ラグドリアン湖とはトリスティン王国とガリア王国に挟まれた内陸部に位置するハルケギニア随一の名勝とされる湖のことだ。
その湖は人間のものではなくハルケギニアの先住民である水の精霊のものとされている。
湖底に城と街を作り、独自の文化と王国を築いているといわれているが、水の精霊達は数十年に一度トリスティン王家との盟約の更新を行う以外に湖底よりでることはい。

だから殆どの人間は水の精霊を目にする事は無い。
おおよそ六百平方kmもあり比較的高地に位置する湖の澄んだ湖水と緑鮮やかな森が織り成す美しい光景に、人間以外の美しい精霊の存在があるのではと空想するだけだった。
ルイズは記憶に残る自然の豊かな色彩を思い出す。

三年前のラグドリアン湖畔…ルイズには思い当たる節があった。
太后マリアンヌの誕生日を祝い、トリスティン王国は二週間にも及ぶ大園遊会を開いた。
それが半ばを過ぎた頃から、ルイズは毎夜アンリエッタに影武者の役を命じられたことがあった。

そしてこの状況…あの時にまさか…そう考えながら相づちをうつ私には、昔を懐かしむ姫様に向けられるジョナサンの視線から柔らかさが消えていくのがわかったわ。

「アン、リエッタ…姫殿下。何度も言いますが私達は」
「わかっていますわ。貴方達二人はただの友人、そうですわね」

その通りなんだけど、どうしてかしら?
不安過ぎるわ。
ジョナサンと噂があるとしたらテファかちい姉さま、いいとこモンモランシーくらいなものなのに。
あぁ、すぐに姿を消した人もいたけど…どちらにせよキュルケの例もあるし、ゲルマニア貴族は手が早いのかしら?
恩義は別として、ちい姉さまには距離を置くように言った方がいいわね…
でも伯爵は、エレオノール姉さまの婚約者のバーガンディ伯とも懇意にしているらしいし…困ったわ。

それはともかく、私はこの話題から離れようとして姫様に別の話を振る。

「でも感激です。姫様がそのような昔のことを覚えてくださっていただなんて……わたしのことなど、もうお忘れになっていてもおかくありませんのに」

姫様は私の言葉に溜息をつきながらベッドに腰掛けた。
深い憂いを含んだ言葉が、姫様の薔薇色で彩られた唇から漏れた。

「忘れるわけないじゃない。子供の頃は毎日が楽しかったもの…何の悩みとも無関係で。出来ればあの何も分別のなかった頃に戻りたいわ」
「姫様……もしや、お悩みとは姫様のご結婚のことでは」

どう声をおかけするか迷った挙句、ジョナサンが教えてくれた結婚のことに触れると姫様が息を呑んだ。
言葉もなく私を見る姫様に、臣下の分を弁えないこととはわかっていたけど問おうとした私を、ジョナサンが冷たい目をして私を止めた。

暇様は少し時間をかけて天を仰ぎ、ゲルマニア皇帝との縁談話が進んでいることを私に教えてくださった。

「席を外しますね」
「構いませんわ。貴方はどうやらもう知っておいでのようですし」

こんな時だけ鋭い貴方のミスまでは知りませんが、とでも言いたげな顔をするジョナサンを怒鳴りつけそうになったけど…
姫様の前、私はグッと堪えたし、ジョナサンも黙ったまま一歩引いて部屋に留まった。
それを待って、姫様は私たちに悩みを打ち明けだした。


アンリエッタがルイズにとうとうと語りだしたのは、ジョナサン=ジョルノから内密に教えられていたゲルマニアとの政略結婚の話だった。
要約すれば隣国アルビオンで起こっていた貴族達の反乱は成功間近で、アルビオンのテューダー王家を今にも打倒しようとしている。
レコンキスタを名乗る反乱軍が勝てば、次に矛先を向けるのはトリステインであることは明白である。
彼らが掲げるのは『貴族の集まりによる非民主型の共和制』と『ハルケギニアを統一し、聖地を奪還する』ことだからだ。

それについてジョルノ個人としては全く気にかけていなかったが、トリスティンはそうもいかない。
彼らの敵、それも王家にとっては従兄弟を殺した相手。殺したいと思うのは当然なのだろう。
だがトリスティンには攻め落とす所かレコンキスタに攻められた時一国で立ち向かうことも覚束無いのだ。
ゲルマニアと同盟を結ぶ為の政略結婚としてアンリエッタがゲルマニアに嫁ぐことになったことを考えると、それは間違いないのだろう。

話を聞いていくうちにジョルノがアンリエッタに敵意を持ち始めた事に気付いたのか、ルイズがジョルノをちらちらと見る。
本題は此処からだった。
ゲルマニアと比べれば劣る国力しか持たないアルビオンのレコンキスタは、この結婚を妨げる為血眼になってあるものを探しているとアンリエッタが言い出したのだ。

ルイズのところにアンリエッタが来た時点で、なんとなくこうなるだろうなと考えていたジョルノはこんな時ポルナレフさんがいれば茶番劇に飽きた観客よろしく談笑するんだがと嘆いた。
だがポルナレフは昼前にトリスティン紳士達とおっぱいについて熱く語りすぎてカリンに並んで反省させられているためここにはいなかった。
勿論、亀をジャン・ジャックとか言う貴族の隣に置くだけでなく、亀の中でマチルダに夕飯も没収されて正座させられている。
やれやれとジョルノはルイズの表情を窺った。
ルイズも予想はついているのかもしれないが、その答えを王女自身の口から聞かなければ信じられないとばかりに、顔を青くしながら問いかけた。
アンリエッタは悲しげに頷いた。

その顔は、自分に非が無い事を、あるとすればちょっぴり運がなかった程度にしか考えてないことを主張して止まない表情だった。

「おお、始祖ブリミルよ…この、この不幸な姫をお救い下さい……」

いつの間にか立ち上がっていたアンリエッタは顔を両手で覆うと床に崩れ落ちた。
芝居で行っているならまだマシだが、芝居っぽさは欠片もなかった。
本心からアンリエッタは自身の不幸を嘆いているようだった。
こうなれば臣下であるルイズにはアンリエッタにそれが何か尋ねるしかなくなってしまい、そして…ルイズは危険な任務につくことになる。
結婚し同盟を締結しようと裏で手を回すくらいだ。
敵の手にあるか、それともアルビオンの王党派の元になければ既にどうにかしてしまっている。
どちらにせよアンリエッタは、なし崩しにルイズを内戦中のアルビオンに向かわせようとしているのは明白だった。
蚊帳の外に置かれた形のままジョルノは対応策を考えていた。

「では、姫さま、わたしに頼みたいことというのは…」
「無理よ!無理よルイズ!わたくしったら、なんてことでしょう!混乱しているんだわ!
考えてみれば、貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険な事、頼めるわけがありませんわ!」
「何をおっしゃいます!たとえ地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫さまの御為とあらば、何処なりと向かいますわ!
姫さまとトリステインの危機を、ラ・ヴァリエール侯爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけにはまいりません!」

一番簡単な手はこの場でルイズを気絶させる事だ。
アンリエッタにはルイズに死ねと言うのかとでも言えばどうとでもなる。その後、テファの魔法で記憶を消す。
手紙に関してはアンリエッタを護衛してきたメイジ達が命を賭ければいい。
こんな女の為に命を賭けさせるなんて心が痛むが、仕事だと思って諦めてもらうしかない。

ルイズも忠誠心だけなら彼らと同等以上なのだろうが、ジョルノがルイズを止めるのはルイズに対する気持ではない。
自分に好意を見せるカトレアや、いいワインが手に入ったから飲みに来ないかとか、今度狩りに行こうぜッとか困っている事は無いかとか…
何かにつけて息子扱いしようと手紙を送ってくるヴァリエール公爵への恩義からだ。

今のところ敵対しているし、親らしい親というか家族扱いしようとするような者がいたことがないのでどう接したらいいのか対応に困っているが、余り不利益にならない程度ならルイズの世話位はするべきだとジョルノは考えていた。
そう考えて、このうんざりするような茶番劇の観客を努めるジョルノを置いて二人はいよいよ燃え尽きるほどヒートッしていた。

「姫さま!このルイズ、いつまでも姫さまのおともだちであり、まったき理解者でございます!
永久に誓った忠誠を、忘れることなどありましょうか!」
「ああ、忠誠。これが真の友情と忠誠です!感激しました。私、あなたの友情と忠誠を一生忘れません!ルイズ・フランソワーズ!」

涙を流しながらまた抱き合いそうな二人に、ジョルノはやれやれと歎息した。
ルイズの肩をつつき、ジョルノは言う。

「ルイズ、別に貴方が行く必要はありません」
「な、何を言ってるのよ!? 姫様は私を信頼して話してくださったのよ!? それとも貴方が」
「ウェールズ王子がそんな手紙を受け取るような相手なら、手紙を既に破棄している可能性が高いでしょう」

自分達が負けた後どうなっていくか想像力が多少でもあるのなら、愛する者が不利益を被るそんな手紙を後生大事に持ったまま死地に突っ込むわけが無い。
ジョルノはそう言ったが、二人は…ルイズは辛うじて反論した。

「そ、そんなことはわからないじゃない! 大切に何処かにしまってあるのかもしれないでしょう!」
「では手紙をレコンキスタのでっち上げということにすればいい」
「どういう意味よ?」
「ゲルマニア皇帝はアンリエッタ王女の愛情を望んでこの結婚をするわけじゃないってことです」

わかってはいた、だが改めて自分などどーでもいいと言われたアンリエッタはショックを受け息を呑んだ。
自分がただのお飾りで、ちやほやされていてもただの外交の道具の一つに過ぎない扱いを受けている事を、アンリエッタは拒否していた。
王族としての責務をまだ納得できていない様子のアンリエッタと彼女を気遣うルイズへとジョルノは言葉を続けた。

「ゲルマニアは軍事同盟締結と始祖の血統を欲しがっている。アンリエッタ王女、貴方方が望んでいるのも軍事同盟の締結だ。だから殿下が他の男を愛している位でこの話を蹴る事は無い…」

あらかじめ謝罪するなり美辞麗句を並び立てるなりしながら手紙の事を告白しておく。
そして手紙の事を言われても無視するなり偽造文書だとでも言ってもらえばいいとジョルノは言った。
なんなら、貴方の筆跡を真似られる人物をもでっち上げてしまってもいいでしょう、とも。
それを聞かされるルイズの顔は怒りで真っ赤にしていった。

「そんな…アンタ、姫様にウェールズ殿下への気持を裏切ってゲルマニアの皇帝に媚を売れって言うの!?」

激昂するルイズの言い分は、可能な限り好意的に考えればわからないでもない。
もし、仮にだが…誰かがブチャラティ達に『仲間の為にディアボロに傅いて美辞麗句をうんざりするほど言いながらトリッシュを売れ』って言ったらどうする?
ルイズにとってのアンリエッタが、ジョルノにとってのブチャラティ達に当たるのかどうかは知らないし、もしブチャラティ達がそんな立場だったならこんな無様な姿は見せなかっただろうが。
ちょっぴり想像したジョルノの雰囲気が少し変わったからか、ルイズ達は怯えたような態度で微かに退いた。
だがルイズは、そうさせる気持が勇気か蛮勇かは理解しないまま、弱気を払いジョルノへ言う。

「絶対にダメよ! そんなことをしたらどうなると思うの? 姫様とこのトリスティンはハルケギニアの歴史の中で一生嘲笑われることになるわッ! ブリミル教徒として、永遠に消えない穢れを負い、ゲルマニアに傅かなければならなくなるわ!
誰も知らなくても、私達自身が忘れないッ。始祖と私達の子孫達に対して顔向けできなくなるわッ!」
「ルイズ…いいのです」

顔を真っ赤にして叫ぶルイズにアンリエッタは力なく項垂れて首を振った。
諦めたような顔でアンリエッタはジョルノに目を向けようとしたが、視線をあわせられずにまた視線を下へと向けた。

「ネアポリス伯爵、貴方の献策に感謝いたしますわ。貴方のお陰で同盟は確実に成ることが決まりましたわ」

アンリエッタはそれだけ言って肩を震わせる。
部屋の灯りに照らされてスカートに落ちる雫が光っていた。
諦めてしまった主人であり大事なお友達の姿に、ルイズは耐えることなどできず跪くアンリエッタの前に膝をつき両肩を掴んだ。

「姫様、いけません。それだけはッ! それだけは絶対にいけませんッ! せめて私に時間をくださいませ! 私が手紙を持ち帰るか、失敗するまで時間をくださいませ!」
「ルイズ…あぁ、貴方は、本当に私の大切なお友達なのですね」
「姫さま! 先程確かめたばかりの事をもうお忘れになったのですか!? このルイズがいつまでも姫さまのおともだちであり、まったき理解者であると!永久に誓った忠誠を!」
「ルイズ…」
「姫様…!」

先程言った言葉などすっかり忘れて感極まったアンリエッタとルイズは、再びひしと抱き合う。
ギーシュ辺りがいれば二人を可憐な華か何かに例えるのだろうが、ジョルノはその光景を見て自分の感じていた違和感に気付いた。

アンリエッタはトリステインでは『トリスティンがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花』と言われているらしいが、ジョルノの目には花に交じって、可憐な花の振りをして誘われた虫を食い殺すヒメカマキリ科の昆虫…ハナカマキリに見えた。
花の姿に擬態しているのは身を守る為でもあるらしいし、彼らは彼らで優秀な狩人なのだが、それ位性質が悪そうだった。
公爵への義理は果たしたような気がするのだが、ジョルノは一応関わってしまった者として最後に打てる手を打つ。

「止めても無駄なようですね」
「勿論よ」
「ではルイズ。密命ですから公爵夫人に説明できませんが、出し抜く自信があるんですね?」
「も、勿論よ」

今この学院に母がいることを思い出し、青ざめたルイズから視線を外したジョルノは扉へと向かって歩いていく。
ルイズがアルビオンに行くと知ったらヴァリエール公爵夫人がどんな行動に出るかを考えれば、放っておけば多分失敗するだろうし、今の所ご指名を受けたのはルイズだけだ。
暗に命令されているのかもしれないが、ジョルノもそこまでお人よしでもなかった。

「では、頑張ってくださいね」
「ま、待ってください…!」
「ちょ、ちょっと、ジョナサン…ここまで聞いたのよ! あ、貴方も」
「…殿下。僕はには言わなかったことにして、貴方の魔法衛士隊隊に命じることを薦めます」

ルイズの言葉を遮って、ジョルノはアンリエッタへと素っ気無い言葉で、今食堂を遍在を使ってピカピカに磨いているワルドを始めとする魔法衛士隊隊の者を勧める。
アンリエッタの第一印象は余り好きではない、にしてもそれはポリシーから来る忠告だったのだが、アンリエッタは首を振って拒否した。

「確かに貴方はゲルマニア貴族ですが…ヴァリエール家から、何より私のお友達から信頼された方でもあります。それに今までの言葉もルイズのみを案じての事」

ルイズが間の抜けた声を出してジョルノを見る。
あらかじめ用意しておいた「私としてはどちらでもいいんだけどポルナレフさんがどうしてもアンタの事を頼むって言うからな」とポルナレフのフォローをすると、ルイズは複雑な表情をした。

「ふふ…だから、今だけだとしても貴方は信頼できる方ですわ」
「…貴方が僕にこういった仕事を頼むということは、貴方が思っているよりも遥かに大きな借りを僕に作ることになります」
「借り…?」

アンリエッタは意味深な言葉と感じ、細い眉を寄せた。
それは、この仕事の対価は例えば民衆や一部の貴族にとても人気のある彼女との係わり合いから、ジョルノに都合がよい法を作る手助けをさせようとかってことで、彼女の祖国が今よりちょっぴり変えられてしまうきっかけを作ることになるということだったのだが…
アンリエッタはジョルノのあくまでも穏やかな視線。
当然のようにお飾り?いいや物は使いようですと自分を利用し、自分の背負っている国家を狙う若いギャングの情熱に燃える目を…勘違いしてまだ涙の乾いていない頬を羞恥で赤くした。

(!そういえば昔エレオノールが言っていたわ。ツェルプストーに代々恋人を盗られているとか…理解したわ。
あぁ、私も愛していない皇帝へ嫁いだ後年下の伯爵に弄ばれてしまう運命なのね)

『バタフライ伯爵夫人の優雅な一日』 などの作者が書いた碌でもない本の内容を思い出しながら、アンリエッタは今後自らの身におきるであろう悲劇的な妄想に浸りわなわなと震えた。
気品のある顔立ちに、陶酔の色を浮かべるアンリエッタをルイズとジョルノは不思議そうに見る。

(でも仕方ないんだわ。ここで私がはいと言わなければルイズの身が危うくなり、ひいてはトリスティンが戦火に巻き込まれるのですから)

「構いませんわ…功績を挙げた者には分け隔てなく報いるのは当然の事ですから」

アンリエッタに対し無礼だと憤るルイズを止めて、日中アンリエッタと共にエンリコ・プッチ枢機卿と会談を行ったマザリーニが聞けば頭を掻き毟りそうな言葉を吐いたアンリエッタは手の甲を上にして手を差し出した。
だが、何か勘違いしているらしいと気付いたジョルノは不愉快気に手を拒み、背中を向けた。

「この任務を達成してこそ、お手を許される資格を得るものと考えます」

失礼に当たるのはわかるが、詳細を聞くのはルイズに任せ、何か勘違いしているらしいアンリエッタから離れ、ジョルノは部屋を後にする。
向かうのは自分の部屋。

オスマンに頼み、男子寮に用意して貰った宛がわれた部屋には最初からあったもの以外には何もなかった。
亀の中でやりたい事は済ませてしまうので、すぐに引き払うかもしれない部屋に自分の痕跡を残すような事は行っていなかった。
部屋の中にいる慣れ親しんだ気配に、ジョルノはすっかり慣れてしまった魔法の照明をつけた。
夜闇に部屋が浮かび上がり、カーテンも開けずにベッドに腰掛ける胸が尋常じゃなく大きなエルフの姿も目に入った。

「テファ?」
「ジョルノ、お帰りなさい。少し時間をもらえるかしら。相談したいことがあるの」
「はい。なんでしょうか?」

思いつめた表情を見てある程度予想はついたが、ジョルノはテファに先を促す。
できればマチルダにもいて欲しいと思ったが、ワルド達と一緒に食堂を掃除している亀の中だ。

「カトレアさんから娘にならないかって言われた話なんだけど…」

カトレアを治療した時の報酬として、ジョルノはテファの味方になることをヴァリエール公爵に頼んだ。
その応えとして公爵が用意した礼の一つが先日カトレアから打診された養女になる話だった。
ヴァリエール家ではなくカトレアの家にしたのはヴァリエール家程には注目を集めないだろうと、彼らは判断したからだろうとジョルノは好意的に考える事にしていた。

「…私、カトレアさんに返事をする前にアルビオンに行きたいの」
「……まさかって感じですが、テューダー王家の人間に会いたいとか言うつもりですか?」

彼女が言っていることを確かめるようにテファの真剣な目を見返してジョルノは尋ねた。
目的を聞かれ、驚いた顔を見せてテファは返事を返す。

「そ、そうだけど…駄目かしら?」
「危険なのはわかりますよね?」
「うん、もうすぐ滅んでしまうんだって言うのも、わかってるわ。だけど、ジョルノとなら叔父さんの所へ行って帰ってくるくらいできちゃう気がするの」

少し照れたような顔をして厚い信頼を向けてくるテファを意識の外へ置いて、少し返事に間を置く…偶然か?それとも運命なんてものが存在するのか?と益体も無い事を考えながら、結局ジョルノは承諾することにした。
後でマチルダに叱られるかもしれないし困難な頼みごとだったが、普段と変わらぬ口調でジョルノは言う。

「ちょうど行く予定が出来ました。でも、貴方は亀の中に入っていてください。それが守れるならお連れしましょう」

パッと輝くような笑顔を浮かべ礼を言ってくるテファにそっけない態度を取ってジョルノはまた部屋を出て行く。
食堂で反省させられている亀と、相談しておかなければならない…内戦で荒廃した浮遊島のことを思い浮かべ、ジョルノは気を引き締めた。
そしてそれとは別に、『『烈風』カリン、ヴァリエール領での働きを認められマンティコア隊への復帰要請を受諾』との一報への対応を書き付けた手紙を外へと投げる。
外で待機していた組織の者の使い魔が手紙を咥えて去っていく。

魔法衛士隊隊の服を千年近くに渡り作り続けている老舗へ、カリンの魔法衛士隊の服が運び込まれた事やそんなことになった背景などの情報が即座に手に入る程度にトリスティン内の情報網は構築されようとしていた。




その頃、エンリコ・プッチ枢機卿は学院の生徒の一人、マリコルヌの部屋でずぶずぶと頭にディスクを入れて顎に手を当てた。
マリコルヌの部屋は他の貴族達と比べると幾分質素だった。
家族からの小遣いが少なかったりするのだろうが、プッチにはそんなものは関係ないし調度品には全く見るべきものは無いようだった。
部屋の中央で部屋の主人であるマリコルヌが目を開いたまま倒れている…プッチは頭からマリコルヌの記憶ディスクを引き抜いた。
マザリーニ相手には同席した奴が邪魔でできなかったが、相手が一人ならこうした方が速いのだから当然の事だった。

「ふむ…ペットショップの仕業と考えるのが妥当な線なのだろうな」

プッチは考え事をしながら適当に記憶ディスクを投げてマリコルヌの体にめり込ませる。
記憶ディスクは脂肪たっぷりの背中に突き刺さり、頭へ向かいながらずぶずぶと沈んでいく。
次第に目に輝きが戻っていくマリコルを見下ろしながら、プッチは一枚のディスクをスタンド『ホワイトスネイク』から受け取った。
どんな生き物にでも効果を及ぼす強力な『命令』を下す『命令』のディスク。
ハルケギニアの魔法にも『制約(ギアス)』と言う魔法があるが、それより少し無茶なことが出来る便利な能力だ。
制約(ギアス)のように条件をつけることもできなくもない上に、後ろに吹っ飛んで破裂しろ、とかこの場に訪れる者を射殺しろ、最近では夕飯の後美味しいコーヒーを入れて来いと鬱陶しい主人に命令してみたこともあった。
それは置いておくとして、プッチはそのディスクをマリコルヌの頭へと突き刺した。

「あれ? …僕、どうしてこんな所で寝転がってるんだ?」

ちょうど気がついたマリコルヌは前後の記憶が曖昧になっているらしく困惑した表情で顔を上げる。
プッチ枢機卿は慈愛に満ちた表情を浮かべ迷える子羊…子豚かもしれないが、に声をかけた。

「それは私の知った事じゃあないが。君は私に悩みを懺悔してスッキリし、私をとても信頼するようになったんじゃあないか?」
「ん? ああ…! す、枢機卿閣下。そうです。お陰で気分が良くなりました! ありがとうございます。これで、グヴァーシルのことも」
「それは良かったな。で、私の頼みも聞いてくれないかね?」

立ち上がるのも忘れ、普通なら同じ部屋にいることもありえない高位の聖職者へと感謝を述べるマリコルヌの言葉をプッチは遮る。

「な、なんでしょうか?」
「私の友人、ネアポリス伯爵がもしかしたらアルビオンに行く事になるかもしれなくてね、君の使い魔君をサポートにつけたいと考えているんだが」
「は? あの戦争中のアルビオンですか? そ、それは…」
「ん?」

渋ろうとしたマリコルヌに、プッチ枢機卿は笑みを浮かべたままちょっぴりだけ顔を近づけた。
それだけでマリコルヌは動揺し、頭を垂れた。

「す、すいません枢機卿! ぼ、僕の使い魔はただの平民なんです。な、何のお役にも立てません。って言うかむしろいた方が危険です!!」
「そんな事はわかっていて言っているんだ。借りる事自体は構わんのだね?」

ただの学院の生徒と枢機卿。はい、と答えるしかない力関係を理解するマリコルヌは存分に使ってやってください、と返事をするしかなかった。
プッチ枢機卿は丁寧に礼をいい、部屋を後にする。
そして、マリコルヌから奪い去っておいた"使い魔の主人”としての能力を自分の頭に突き刺した。
沈み込んでいくうちに使用可能となる能力を使い、使い魔と共有した視界には、この男子寮の廊下が見えている。

気に入ったとばかりに笑顔のままディスクをゆっくりを引き抜き、プッチ枢機卿はマリコルヌの使い魔の方へと歩き出した。
薄暗い廊下をほんの一、二分程歩いただろうか。
すぐに、プッチ枢機卿の視界にはちょうど戻ってきたらしい追い出されていたマリコルヌの使い魔、サイトが学院のメイドに手を振っている姿が見えた。
背中に剣を背負った日本人、サイトに向かって歩き出しながら、プッチは頭からまた一枚ディスクを取り出す。

ディスクに刻まれているのはウィンダールヴ。
プッチを召喚した教皇によりプッチの肉体に刻まれた能力だけを、円盤の形にして取り出したものだった。
そうして、プッチは代わりに懐からまた一枚のディスクを取り出して頭に突き刺す。
そちらに刻まれた能力名は『ガンダールヴ』、今日懺悔を聞いてやったブリミル信者の使い魔だった哀れな小鳥の頭から奪い去った能力だった。
小鳥にはもう主人に服従する使い魔としての本能しか残されていないだろうが、プッチの心には何の痛痒もなかった。
どーせあんな小鳥にはこの能力は豚に真珠を与えるが如き無駄な行為で、持っていようがいなかろうが関係ないからだ。
人の良さそうな笑顔を浮かべ、プッチはサイトに話しかける。

「もう公爵夫人の折檻からは開放されたのかね?」
「あ、はい! ってアンタは…?」
「これは失礼した。私はエンリコ・プッチ。君やポルナレフと同じく地球から連れてこられた口さ」
「え? そうなんすか!?」
「災難だったね」
「いやぁ参りましたよ。まさかちょっとふざけただけだったのに食堂で反省とか…ったく、あの貧乳おばさん。師匠やジャン・ジャックって人まで一列にならばせるんっすよ」
「ははは、それは凄い光景だな」

間抜けなのか案外度胸があるのかそのあたりはよくわからないが、同じ地球出身者と聞いて安心した様子のサイトにプッチは頼みごとをする。
今回の折檻でズタボロになったサイトの服を用意し、怪我の治療も手を回しておくと言ったのが効いたのか快くサイトはそれを承諾する。
そんなサイトの頭にゆっくりとヴィンダールヴのディスクが入っていく。

「ジョナサンの手助けをしてやってくれ。彼は私の友人の息子でね。彼もとても大切な友人になるかもしれないのだよ」
「あ、…ああ! これで俺もドラゴンライダーなんだろ!? なら、任せてくれよ!」
「頼んだよ、何せミセス・カリーヌを出しぬかなくっちゃあならないんだからね」

伝説の生き物、ドラゴンだろうがマンティコアだろうが乗りこなせるというプッチの説明を受け、はしゃぐサイトを深い笑みを浮かべてプッチは見守る。
鞘に入れられたままのデルフリンガーが警鐘を鳴らそうとするが、鞘に入ったままでは何も言う事はできなかった。

To Be Continued...

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー