ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ジョルノ+ポルナレフ 第二章-01

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馬車に揺られながらロマリアの枢機卿でありながらトリスティンの政を一手に担うマザリーニは口ひげを弄りながら悩んでいた。
まだ四十だというのにすっかり白くなってしまった髭や骨ばった指を見て、休息の必要性を感じたがまだまだそんなわけにもいくまい。

小さな悩みは、極端な貴族主義だのその貴族達の腐敗だのそれこそ数数え切れない程あるし、今その頭を悩ませている二つの問題は早急に何らかの形で決着をつけなければならない。

明日にもアルビオンの王家を打倒するのではないかと思われる『レコンキスタ』
国内に蔓延する国境なき『パッショーネ』

『レコンキスタ』への対応はもう済ませた。
亡き王の忘れ形見をゲルマニアに嫁がせるという苦渋の決断によって、既に…同盟の手はずは整っている。
後は、これからの結果によってGO!かSTOP!をかけるだけだ。
残る『パッショーネ』への対応は未だに暗雲の彼方だったが、これが成れば激務に痩せ衰えていくマザリーニの体にも少しは余裕が出てくるだろう。

『パッショーネ』の発見は困難だ。
彼らのような犯罪者達が隠れるのは当然の事だが、彼らは民衆に人気があるのだ。
治安の悪い場所。あるいは、(調べてみてわかった時はなんという皮肉かと嘆いたものだが…)貴族達の腐敗度が高い場所が彼らの支持基盤になっている。
特に、マザリーニには最初意外だったが、新教徒の間では彼らの支持率は高い。
彼らの頭目である『ボス』と呼ばれる男は、新教徒であるかなど拘らず、亜人さえ受け入れるというからだ。

新教徒達はそれを知り、同じ搾取されるなら自分達平民を蔑むだけでなく時には新教徒であるだけで排除したりする貴族よりも、彼らの方がマシ、と考え犯罪者共に協力しているらしいのだ。
といってもそんな証拠は彼らが結束しているから出てこない。
またでっち上げで捜査を強引に進めたとしても、より彼らを強力にするだけでしかないのでマザリーニは許可していない。

新教徒は恐れていると同時に、鬱屈していた。
亜人にでも尋ねた方が容易い程に…同じ人間だからこそなのか?

そう思うのはマザリーニの耳に重要な事件が一つ入っていないからだった。
ある村を軍が虐殺したことが、水面下で広まり、未だに新教徒達の軍への、トリスティン王国への、王家、貴族…メイジへの信頼を完全に破壊している事をマザリーニは知らなかった。
考えごとから思考を切り替え、マザリーニは向かいあって座るトリスティン王女アンリエッタを観察する。

御年十七歳。すらりとした気品のある顔立ち、薄いブルーの瞳、高い鼻の瑞々しい美女だった。
政治の話をする為に同じ王女の馬車に乗り込んだマザリーニの前で、彼女は膝の上に薄っぺらい本を広げ、馬車の車窓から見える風景を眺めながらため息をついていた。

「これで本日十三回目ですぞ。殿下。ため息が増えましたな」
「貴族達には見せるなというのでしょう? わかっていますわ」
「ならばお控えください。王族たるもの、無闇に臣下の前でため息などつくものではありませぬ」

「王族ですって! まぁ!このトリスティンの王様はあなたでしょう?」

驚いたような声を上げたアンリエッタは、今巷で流行っている歌を聞かせて差し上げる、そう言ってマザリーニを揶揄する歌を歌い始めた。

『トリスティンの王家には、美貌はあっても杖は無い。杖を握るは枢機卿。灰色帽子の鳥の骨…』

マザリーニはどこか開き直ったような様子のアンリエッタを目を細めて見つめた。

「殿下がため息をよくつかれるようになったのは、アルビオンの状況を聞いてからと存じ上げております」
「…それは「聞けばウェールズ公の安否をお聞きだったそうですが、ウェールズ公との間に何かご心配ごとでもございますか?」

落ち着いたとはいえ、今朝もまた川に薬を売る商人の遺体があがったことさえマザリーニは目の前の王女に説明できずにいる。
今、更に厄介なことを聞くのは勘弁してほしかったが、マザリーニは聞かずにはおれなかった。
もう一つ手を打とうとしているとはいえ、より確実な方法であるゲルマニア皇帝との縁談の話はいつでも成立できる状態にしておかねばならないのだ。
だと言うのに、ウェールズ王子の名を上げた時のアンリエッタの表情とマザリーニの耳に届いてくる情報は、アンリエッタが…これから一回り以上年の離れた男に嫁ぐ娘が、報われぬ恋をしていると確信を持つには十分だった。

だがアンリエッタはマザリーニに憂い顔のまま微笑んで首を横にふった。

「ありませんわ」
「そのお言葉、信じますぞ」
「私は王女です。嘘はつきません」

マザリーニは胸を詰まらせるような哀れさにため息が漏れるのを必死で堪えた。
二人の乗る馬車は、トリスティン魔法学院へと緩やかに向かっていた。

そこでは、マザリーニが打とうとしているもう一つの手が、一人の男が二人を待っていることになっている。
エンリコ・プッチ枢機卿。マザリーニの元に届いている情報から浮かびあがるのは奇妙さだった。

エンリコ・プッチ。
ロマリアに現れてからたった数ヶ月でプッチは枢機卿になり、教皇を始めとした高位の聖職者達から厚い信頼を得ている男。
肥え太った聖職者達の溜め込んでいた富を、彼ら自身から差し出させる程の人物だと言うのだ。
ロマリアで生まれ育ったマザリーニにはそれが普通なら、あり得ない話だということがよくわかる。
豪奢な教会で宝飾を身につけて清貧を説き、貧者達に仕事や寝床ではなく食べ残しや一切れのパンを与えるゲス野郎共、思い出すだけで頭に血が上っていくのをマザリーニは忘れた振りをすることで抑えた。

勿論教皇が連れて来る以前何をしていたか全く不明となっているプッチの事を、マザリーニは出来る限り調べてはいた。
しかしプッチなどと言う家名はついに見つけることはできなかった。
それに肌が黒い、という点にもマザリーニは引っ掛かりを覚えている…
学院の生徒になっているミス・ツェルプストーも黒い肌をしているらしいが彼女の家系などを辿ってもプッチには辿り着かなかった。

だがそれでも、いや…だからこそ、マザリーニはプッチ枢機卿と会わなければならなかった。
例えエルフや悪魔と契約したかのような得体の知れぬ者だとしても…今のトリスティンにはその力が必要なのだ。
プッチ枢機卿はガリア王ジョゼフとも親交があり、影響力を持つという。

つまりマザリーニとしてはあわよくばガリアと同盟を結び乗り切りたいのだった。
ガリアとの同盟さえ成れば、可愛いいアンリエッタを親族を非道な手で蹴落としてきた40台の男なんぞにくれてやる必要もないのだ。

だがプッチ枢機卿は、今トリスティン魔法学院での会談を希望し、最初はオールドオスマンだとか長い歴史を誇る学院にでも興味があるのかと思われたが、ゲルマニア貴族のネアポリス伯爵と毎晩のように会談しているという。
オスマン相手にも会談は一度だけだったというのにだ。
市場や貴族に影響を与え過ぎるネアポリス伯爵のことをマザリーニが危惧していることに気づいたとは考えたくないが…マザリーニは最悪少しネアポリス伯爵に配慮してやることを考えていた。

「姫さま、先程から何を見ておられるのです?」
「…ファッション誌よ。ドレスを仕立てた後に仕立て屋がくれたの」

せっかく作ってくれたのですからこれくらいいいでしょう、とアンリエッタが見せた薄っぺらな本を見てマザリーニは口をへの字に曲げた。
その製作者は、件のネアポリス伯爵の手の者だったためマザリーニもその内容は知っていた。
軽口だろう、多分…冗談半分に『レビテーションが出来なければフライを唱えればいいじゃない』なんて言っていたとかなんとか書かれていたのを思い出すと眉を寄せざる終えない。
フォローするように幼い頃お友達を抱えてフライで飛んだ時のお話しだそうですとか少なくなったスペースに書き加えられていたことも思い出して…もっと、更にうんざりした。
アンリエッタは少し照れた表情で彼女のドレスや、他のファッションリーダーとされる女性などのことが書かれた雑誌をパラパラとめくりながら言う。

「まだ通の方達の間だけで名前も決まってないんですって、私に因んでアンアンとつけても良いか?なんて聞いてきたわ」

『…ダメだ、コイツ早く何とかしないと』

マザリーニは窓のカーテンをずらして外を見る。
そこに腹心の部下の姿を認め、声をかけた。
だが忠実に任務をこなすトリスティン貴族の鑑のような男に何か気晴らしになるものを探して来いと命令するのも酷く気が引け、マザリーニは何も言わずにカーテンを閉めた。
それが逆に気を引いたらしく、羽帽子に長い口ひげが凛々しい精悍な顔立ちの若い貴族は跨っているグリフォンを馬車へと寄らせた。
胸にグリフォンを模った刺繍が施された黒いマントを羽織る男は、選りすぐりの貴族を集め結成されるトリスティンに三つある魔法衛士隊の一つ、その中でもマザリーニの覚えがよいグリフォン隊隊長だった。

「?…お呼びでございますか、閣下」
「…ワルド君、殿下のご機嫌がうるわしゅうない。何か気晴らしになるものを見つけてきてくれないかね?」

仕方なくマザリーニが下した命令に、ワルド子爵は街道を見つめ、杖を一振りした。
つむじ風が舞い上がり、街道に咲いた花を摘んでワルド子爵の元へと届けられる。
その花を枢機卿へと手渡そうとするワルド子爵へ、マザリーニは口ひげを捻りながら呟いた。

「隊長、御手ずから殿下が受け取ってくださるそうだ」
「光栄でございます」

一礼し、馬車の反対側に回ったワルド子爵の前で窓が開き、アンリエッタの手が差し出され花が手渡された。
花が馬車の中へと帰依、今度は左手が差し出されるのを子爵は感動した面持ちで見つめた。
王女の手へと、ワルドは口付ける。

物憂い声でアンリエッタはワルドに問うた。

「お名前は?」
「殿下をお守りする魔法衛士隊、グリフォン隊隊長。ワルド子爵でございます」

恭しく頭を下げる子爵。

「あなたは貴族の鑑のように、立派でございますわね」
「殿下の卑しき僕に過ぎませぬ」
「最近はそのような物言いをする貴族も減りました。祖父が生きていた頃は…ああ、あの偉大なるフィリップ三世の治下には貴族は押しなべてそのような態度を示したものですわ」
「悲しい時代になったものです。殿下」

受け答えを返すワルド子爵も遠い時代に思いを馳せているらしいと、マザリーニはそのやり取りを見て逆の窓から外を眺めた。

「貴方の忠誠には、期待してもよろしいのでしょうか? もし、私が困った時には…」
「そのような際には、戦の最中であろうが、何においても駆けつける所存にございます」

アンリエッタが頷くのを感じ、ワルド子爵は再び馬車から離れていった。

「あの貴族は、使えるのですか?」
「ワルド子爵。二つ名は『閃光』かの者に匹敵する使い手は『白の国』、アルビオンにもそうそうおりますまい」

マザリーニは酷く空虚な思いでそれに答えた。
王女が耳に聞こえの良い言葉ばかり言う宮廷貴族たちにうんざりしているような事も、マザリーニの耳には入っている。
おべっかを使う貴族達と今のアンリエッタの言葉に、近いものを感じたからだった。



「おい凄い情報を手に入れたぞ!」

朝食を終え、授業までの短い時間を食堂で過ごすギーシュのもとにマリコルヌが興奮した様子でやってきた。
最近新しく平民の使い魔なんてものを召喚し、ハードボイルドを気取っているらしいマリコルヌの様子に、ギーシュは深い理解を示した。
単に久しぶりに自分に話しかけてきたことがちょっぴり嬉しかっただけかもしれないが。

何故ならギーシュも興奮していたからだ。
ある情報筋から聞いたのだが、今日アンリエッタ王女が学院を訪問なさるらしい…アンリエッタ王女、先王陛下の残した一粒種である方のことを思うだけでギーシュの胸には熱い何かがこみ上げていた。

トリスティンに咲く一輪の華…ッ!
未だモンモランシーの事は諦めがつかないなどいろいろと頭を悩ませる事はあるものの…いやだからこそ、興奮せずに入られなかった。

「わかってるさ。王女殿下がこられるって「違うッ、いいかい?」

マリコルヌは暑苦しい顔をギーシュに寄せる。
げんなりした顔でギーシュはその分顔を退いた。
「ネアポリス伯爵って知ってるか?」
「勿論、平民達がやるような事を手広くやってるっていう変人だろ?」

ついでにいえばモンモランシーともう仲がいいらしい、などとはギーシュは言えなかったが目には憎しみに近い光があった。

「馬鹿野郎ッ!」だがその説明に、マリコルヌは怒りも顕にギーシュを殴り倒した。
「テェッ…なに「あ、ありのまま僕が聞いた話をするぞ。ネアポリス伯爵は、おっぱいを生み出す事が出来る、らしいいよ?
な、何を言ってるかわからないと思うが僕にもわけがわからない。マジックマッシュルームとか妄想とかそんなちゃちなもんじゃ「…いきなり何言い出すかと思えば。それなら僕にもできるさ」

くだらない情報に惑わされたマリコルヌに大きくため息をつき、ギーシュは立ち上がった。
優雅な動作で杖である造花を取り出したギーシュは驚愕に打ち震えるマリコルヌを見る。

「なんだって!?」
「見ていてくれ。ワルキューレ!」

ギーシュは造花の杖から花びらを一枚とり、それをゴーレムにする。
そして、「錬金!」ギーシュの渾身の叫びがッワルキューレの胸を柔らかくするッ!

得意気に鼻を膨らませて仰け反るギーシュとワルキューレに、周りの生徒達が興味を示したらしい。
他の生徒からの視線が絡み付いてくるのを感じながら、マリコルヌがおそるおそるワルキューレの胸に触れてみる。

青銅の胸は確かに少し柔らかくなっていた。

「今はまだその程度だがいつか本物と同じにしてみせる。疑似肉を錬金するメイジがいると聞いて思いついたんだ」
「ギーシュ、君って時々天才だな」

マリコルヌは素直に称賛しながらワルキューレの胸を触り続ける。ギーシュは得意げだ。
だが、そこは食堂…集まりかけた周囲の女性の目は冷ややかだった。そこに、近頃頭が曇りきった一人の男が通りかかった。

「ミスタコルベール!?」
「何…君、これはミスタグラモンが?」

眠そうにしていたミスタコルベールはワルキューレの胸を見て顔色を変えた。
オールド・オスマンに辞表を提出した頃から、(オールド・オスマンの頼みを聞いてもう少しだけ教師は続けるらしいが)ふさふさになり始めた髪に、ギーシュ達も顔色を変える。
生徒達の視線を真っ向から受け止め、オールバックにした長髪を惜しげもなく靡かせるミスタ・コルベールはその洗練されつくした観察眼を…通称『スカウター』と呼ばれる域となった眼力を発揮する。

「はい」
「惜しい…ミスタグラモン。発想は素晴らしい」

その只者ではない眼を見て、表情を無駄に引き締めたギーシュに、コルベールは残念そうに首を振った。

「今まで幾多の土のメイジが錬金は女性へのプレゼントを作るためにあるのではないと言ってたどり着いた答えに、既にたどり着いたのはね。だが甘いな、まず原料がよくない」
「原料?」ショックを受けながらもギーシュは尋ねた。

ミスタ・コルベールの真剣な表情には、真に迫ったものがあった。
自分では上出来と考えるそれを見る漢の意見、聞き捨てならないものがあるとギーシュは考えていた。
いつになく真剣な生徒に、ミスタ・コルベールも快く教えを説く。
一部の人間にのみ見える後光を背負いながら、コルベールは言う。

「私なら、おっぱいプリンを使う」

朝から食堂に衝撃が走った。

「おっぱいプリン…!けして安くはない砂糖をふんだんに使って作られ、かつては陛下も愛されたが、かのカリーヌ・デジレによって弾圧された、あの!」
「苛烈な弾圧はプリンのレシピまでが焼き尽くされ、おかげで今のトリスティンからプリンが失われた原因だという、あの!」

歴史の闇に葬られたはずの存在を知る将来有望な生徒に、コルベールは重々しく頷いた。

「あの料理は、言わば貴族とメイジの併せ業。厨房のある男はまだ作りだせるはず…だが、気を付けたまえ。その道はメイジの半分を敵に回しながらもどんなスクウェアもたどり着いていない修羅の道だ」

困難な道にあえて挑む若者への忠告を、ギーシュは深く受け止め頷いた。

「おっぱいを作り出すには正に神の如き業が必要なのだ」

マリコルヌがそこに口を挟む。
周囲から漢達の熱い視線と女性達の冷たい視線を注がれながら…

「その話なんだけど…、いいか? 僕が手に入れた情報によると、ネアポリス伯は凄い技術を持っていて、豊胸手術を行うことができるらしいんだ」

ギーシュとコルベールはマリコルヌを真剣な表情でみる。
二人の視線は、マリコルヌの言葉を信じきれずにいるようだった。
できれば信じたいッ!という気持はありありと浮かんでいたが。

「それは、マジな話なのか?」
「ああ、マジだ。恐ろしい話だが、彼の連れている女性、見たことがあるだろう?」

マリコルヌの目が一瞬何かを思い出すような遠くを見る色を見せ、鼻のしたが伸びた。
それに続き、ギーシュの鼻の下が伸びる。
既にトリスティン紳士の一人であるコルベールは無論そんな無作法な真似はしなかった。
「あれか…!? まさか、あれが?」
「あぁ。僕は常々思っていたよ。あんなものが自然にありうるのか?とね」

真剣な問いに、ギーシュもくだらないと鼻で笑うことはできなかった。
舞踏会の夜を思い出す。見事な仕立てのドレスに包まれ、ダンスにあわせて揺れたあの物体…ギーシュは、真顔で喉を鳴らした。

「あるなら、僕は始祖の意思を感じるな」

その意見にコルベールも頷いた。

「私もそう思う。少なくとも人類の半分は神の実在を疑わないでしょうな…だが、あれが人の手によるものだとするなら…」
「あり得ないッ」

コルベールの言葉を、マリコルヌが間髪を要れずに否定した。

「だがあったならッそいつは人間を超えていると思う。僕明日から改宗してネアポリス教を作るよ」
「僕も入れてくれ」
「いや私に任せたまえ」

バカなことを真剣に語る三人へ声をかける者がいた。
その者は本当はそのまま横を通り過ぎて日当たりの良いテラスへと向かうつもりだったのだが、余りにも馬鹿馬鹿しくて思わず声を欠けてしまった。

「お前ら…人が黙って聞いてりゃあ言いたい放題言ってるな」
「「カメナレフッ」」

マリコルヌの使い魔を連れた件のネアポリス伯の亀の登場に食堂が沸いた。皆、聞き耳はしっかりたてていたのだ。
カメナレフと呼ばれるのにもいい加減慣れっこになりつつあるポルナレフはため息をつき、宣言する。

「一言だけ言っておく。あれは人工じゃねぇ、100%天然だ…!」
「「ナナナナンダテッ!?」」

食堂が驚愕に震える。始祖の存在を、見えざる始祖の御手を…マリコルヌは信じずにはいられず、思わず目から涙が溢れた。

「僕、今始祖の存在を感じたよ。始祖ブリミルに100万回祈りを捧げてくるよ」

「いや待て、それは最もだが、先に確かめなければならないことがあるのではないかね?」

教会に走りだそうとするマリコルヌを、鬼気迫る表情のコルベールが止めた。
同じ漢…心のどこかで通じるものがあったのか、マリコルヌは心に浮かんだ思い付きを確かめるように師に尋ねた。

「それはまさか、ネアポリス伯がおっぱい伯がどうかということですか?」
「そういうことだ。カメナレフ…君は知らないか? ネアポリス伯がおっぱいを生み出せると言う噂について」
「勿論知ってる。それはデマだ「「なんだ…デ「だが奴は生み出せるだろうな。そういう力を持ってる」
「マジかよ師匠」
「マジだ」

ポルナレフの一言に、食堂が、いや学院が一瞬揺れたようだった。

「じゃ、じゃあ…か、彼は自分で生み出せるのにGod's miracleも手に入れた、そういうことなのかい?」

ギーシュは崩れ落ちるように膝をつく。
ポルナレフの亀を挟み、サイトも同じように膝を突いた。

「なんという差だ…」
「おっぱい格差が既に存在するのか…」
「お前ら本当におっぱい好きだな。それは違うぞ」

呆れ半分感心半分といった口調でポルナレフが言う。
その否定はただの擁護にしか聞こえず、ギーシュは怒りを胸に秘めて顔を上げた。

「しかし…」
「ネアポリスが作ることができるおっぱいは天然だが、ある意味ではコピー。そのモチーフは一体どこから来ていると思う? 奴の想像だけで神に迫れるのか?」

ハッとして、ギーシュは立ち上がる。
絶望に身を焦がし、膝を突いていたマンモーニとはもう違う。
トリスティン紳士への一歩を踏み出した覚悟を秘めた目をしていた。

「!…解ってきた。僕にもわかってきたぞカメナレフッ! つまり君はこういいたいわけだね? ネアポリス伯は神が生み出した彼女のおっぱいをオリジナルとして見て生み出している、と」
「そうだ…グッ!?」

亀の中でマチルダに蹴られながらも、ポルナレフは威厳を保ち正解者へ声をかける。
マチルダの冷たい視線、背中を蹴る足は徐々に強くなっていたが、今止めるわけにはいかなかった。

「芸術家達が観察から黄金の比率を自ずと見出したように、ジョナサンも深い観察から黄金の比率や質感などを得ているはずだ。つまりそれは…「黄金のおっぱい、ということか」
「「黄金のおっぱい…誰だっ!?」」

熱を帯びた声で食堂中の男達は呟き、テラスを見る。そこにはつばの広い帽子、仮面に髭面。
長い髪と、トリスティンの最精鋭であることを示す衛士隊の服を身に纏った男が立っていた。黒いマントにはグリフォンの刺繍…魔法衛士隊隊長ワルド子爵の遍在と、見るものが見ればわかったであろう。
だがポルナレフはそれはとは関係なく、どこかで…そうマチルダを助ける時とかに見たような気がした。
だがそんなことは今はどうでもいいので無視して叫んだ。

「何者だ!」
「そんなことより今は重要な話があるだろう」

男は当然のように話の輪に入って行く。
そう、そんなことよりも、紳士達には重要な用件があったのだ。
この食堂の人類の半数は敵に回そうとしているが、彼らは構わなかった。

「そ、そうだ。ということは何故女性を連れて、他の女性とも親しくしようとしているんだ!?」

マリコルヌが血を吐くように叫んだ。
僕にも一人分けろッ!という幻聴がしたような気がするが、男は無視してそれに対して答を返す。

「彼はファッションを生み出す存在となっていることを思い出すんだ。彼は深い観察の末に、本能的に気付いたんだよ。巨乳には愛がある。微乳には夢がある、とね」
「では彼は今後更に他の黄金比も求めて行くと?」
「僕なら当然そうする。皆もそうだろう」

後輩へ暖かい目を向けて男は同意を求めた。

「でしょうな」

コルベールが真っ先に反応し、皆が頷く。
男は偉ぶった態度で頷き、遠い目をして呟いた。
その容姿、態度、何より実力にコルベールは男が誰であるか気付いた。

「私の見たところ。彼のスカウターはかなりのものだ」
「閃光と呼ばれる君が言うなら確かだろうな」

コルベールの賞賛の篭った相槌に『閃光』は照れたような表情を見せた。
子供のような純粋さがその表情にはあった。

「やめてくれ。親しい友達はジャンと呼ぶ。ジャン・ジャックだ」
「奇遇だな。私もジャンだ。ジャン・コルベール」
「本当に奇遇だな。私もだ。ジャン・P・ポルナレフと言う」

閃光…ジャンは驚いたが、すぐに嬉しそうに笑い、握手するために手を差し出した。

「なんと!趣味があい名前も同じくする友がいきなり二人も現れるとは!」
「運命を感じますな」
「漢は引かれあうというわけか」

笑いあう三人のジャンを、ポルナレフが向かう予定だったテラスでテファ達と食後のお茶をいただいていたジョルノは、なんとなく目に入ったので見ていた。
別にちょっと視線を動かしたら目に入ったんで見ていたというだけだった。
ポルナレフを待っていたのだが、いい加減紅茶だって冷めてしまう…今では待つ必要も余り感じないし。
あの中に参加しようとしたラルカスが横で既に昏倒していたが、ジョルノはラルカスなんていません。と言う風な態度でお茶を飲んでいた。

既にブレーキが壊れてしまったらしいコルベールが、サイトの耳を掴み引っ張っていくシエスタに凄く爽やかな笑顔でワインを注文する。
隣で長女のエレオノールとその婚約者バーガンディ伯爵の事でジョルノに相談していたはずが、いつのまにか『閃光』とか言うらしいジャン・ジャックを剣呑な目で見ていたカリンが席を立ったが、全く引き止める気にならなかった。
カリンは、テファの胸を睨みつけていたルイズに声をかけて、食堂の中へと入っていく。

「だが兄弟、私はその話には先があるのではないかと思うのだが、どう思う?」
「先だと? 野郎、案外ヘタ…いや紳士的にガン見もしてないように思えるが…」

今更になって少しフォローするような事を言うポルナレフをジャン・ジャックが鼻で笑った。

「兄弟よ。本当にコルベール兄貴の言いたい事がわからないのか?」
「ど、どういうことだ?」
「つまりこういうことだよ。深い観察から生まれたものには、概ねリアリティもついてくる…つまりだ。次の段階というものがあるんだよ」

まだ彼らの中での正解にたどり着かない同志に向かって、二人は自然声を合わせた。

「「味も見ておこ」」

二人の意識はそこで刈り取られ、体は強大無比な風の一撃を受けて壁にめり込んだ。
一人は遍在のはずだが、壁にはめり込んでも消滅しない絶妙な力加減がされているらしい。
ジョルノは一撃で二人を倒し、騒がしくなっていた食堂を静まり返らせたカリンがこの次何をするかなんとなく予想が付いたが、いい加減飽きて視線を反らした。
「ジョナサン、今のお話ってどこまでが本当なの?」

だが、そちらではカトレアがジョルノを覗き込んでいて、ジョルノは少し身を引いた。
隣で恥ずかしがるテファに一瞥を送りながらカトレアが尋ねる。

「手術はできなくもありませんが、他は知りませんね」
「あらあら、ジョナサンは女性の胸はお嫌いなの?」

朗らかに笑い、悪戯っぽい表情で少し胸を強調してみせるカトレアにジョルノは眉を寄せた。
逃げるように紅茶のカップを置いて、仕事の手紙を書き始める。

「カトレア嬢。ジョナサンが困っているではありませんか。ここは私に免じてこれまでということにしてもらえませんか?」
「失礼しました。閣下」

カトレアを静止したプッチ枢機卿は、人の良さそうな笑顔で礼を言う。
初めて出会った日からこの肌も服も黒い枢機卿は、積極的にジョルノと関わろうとしていた。
とても興味深い話を聞いた、とジョルノは言っていたが…何か考えがあるらしく、二人でよく話し合っている。
カトレアやテファさえ、その場にはまだ同席することは許されない。
今日、ポルナレフに紹介する予定だったのだが、ポルナレフは今カリンのハンマーで食堂を一周しているので今回は見送りになりそうだった。
だがジョルノの態度から、多分敵ではないのだろうなと、テファ達は判断していた。

「嫌いではありませんが。自重できなくなるほど好きでもありません」

そんな中、ジョルノはペンを止めて一言だけカトレアに返すと、今度は上下にシェイクされ始めたポルナレフを見てプッチ枢機卿に尋ねた。

「プッチ枢機卿」
「プッチでいい、なんだね。ジョジョ」

ジョジョと呼ばれ、微かに眉を顰めながらジョルノは確かめるように言う。
プッチにジョジョと呼ばれるのが、何か隠しているらしい胡散臭さの漂う口調が酷く気に障った。
そんな呼ばれ方をしたのは初めてのような気もしたが、多分気のせいだ。
ジョルノの学生時代のあだ名はジョジョのはずだから。

「僕の父親を殺した者達の一人は、ジャン・P・ポルナレフでしたね?」

ジョルノの質問に、テファ達が息を呑んだ。
プッチ枢機卿は浮かべていた笑みを消し、憎しみを込めて吐き捨てる。

「その通りだ。ジャン・P・ポルナレフは君の父であり我が友であるDIOを裏切り、殺害に加担した。誓って嘘は無い」

もう一度、今度は回転しながら他の二人の"ジャン”と共に食堂の外に放り出されるポルナレフを一瞥して、ジョルノはイザベラへの手紙を書き上げる。
それを封して、ペットショップに渡すジョルノの表情には何も浮かんでいなかった。


To Be Continued...

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