ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-80

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匿名ユーザー

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“何の為に戦うの?”誰かがそう訊ねた。

人が憎いから?
―――違う。人を憎みきれる筈などない。
判ってしまった、自分は人に寄り添わねば生きていけない。
たとえ一匹で生き抜く力があろうとも誰かに傍にいて欲しい。
人に嫌われようとも傷付けられようとも、それは変わらない。

生き残る為?
―――そう。ずっと在ったのにその価値に気付かなかった。
命は掛け替えの無いものだと、世界には命が満ちていると、
初めて出会ったあの日に彼女が教えてくれた。

彼女を守りたいから?
―――そう。だけど守りたいのはルイズだけじゃない。
彼女が守りたいと思うもの、自分が守りたいと思うものの全てを。

後悔はしない?
―――きっとすると思う。何もしなくても後悔する。
ルイズを連れてどこか遠くへ逃げても後悔する。
だけど決めたんだ。彼女の温もりに包まれた時から、ずっと。
彼女の使い魔になるって、他の誰にでもなく自分に誓ったんだ。

“ああ、僕達は似たもの同士だ”誰がそう答えた。

僕も一人では生きていけない。
共に生き残る為に戦い続ける。
そして、君と君の誓いを守りたい。

さあ一緒に行こう。僕達は決して負けない。
何故なら僕等は最強の生命力を持っているのだから……。


蒼い獣が咆哮を上げる。
それは先程の紛い物とは比較にさえならない。
天敵の存在しない火竜でさえ未知の恐怖に竦み上がる。
ニューカッスルでの戦いを生き延びた兵達は瞬時にして恐慌状態に陥った。
怪物の出現に戦場の空気が変貌する。
心臓の鼓動が乱れるように戦場が震撼した。

人は目前に無視できない恐怖が迫った時に取れる行動は二つしかない。
そしてアルビオン兵達は逃避以外の手段を選択した。
押し寄せる津波の如く軍靴の音が響く。
手には銃を、口々に獣の咆哮に似た雄叫びが上がる。
脅威を排除する。敵わぬと理解しながらも彼等は止まらない。

一方、突然の“バオー”の出現にトリステイン軍は戸惑っていた。
アルビオンと違い、その存在を知っているのは一握りの人間だけ。
それに戦場に現れた異形の獣を味方だと誰が思えるだろうか。
しかし敵は磁石に引き付けられる砂鉄のように彼へと向かう。
どうするべきか分からないまま、蒼い獣の情報だけが戦場を駆け巡る。
そして、それは彼を知る者達の下へと届けられた。

「なんですって! ルイズの使い魔が!?」
「理由は判りませんが……好機と見るべきか、あるいは」

声を上げるアンリエッタの横でマザリーニは顔を顰めた。
確かに、この戦況では少しでも戦力が欲しい。
ましてや、それこそ戦局を一変する力ならば尚の事。
だが、もし仮にその力がアルビオン軍を一蹴するほどの物だとしたら。
軍事強国である、かの国でさえ太刀打ちできないような怪物だったなら。

……我等が杖を向けるべきはアルビオン軍ではないのかもしれない。
我々がハルケギニアの大地に在り続ける為に。


「来たか!」

彼が来る事は分かっていた。
それは限りなく確信に近い感覚だ。
ミス・ヴァリエールがいるなら彼が必ず駆けつける。
たとえ地上と空に切り離されようとも、
水の檻の中に囚われようとも、二人を引き離す事は出来ない。
だから驚く必要も無い。これは当然な事。
なのにアニエスの口から漏れたその声は自分でも分かるほどに興奮していた。

ああもう。笑いたければ笑え。
彼が来てくれて私は嬉しい。心からそう感じている。
感情的になるのは軍人として未熟だと分かってる。
なのに、その感情は今は抑える事が出来ない。
トリステイン軍の戦力としてではない。
共に旅した仲間との再会を私は喜んでいる。


「……聞こえる」

敵味方が入り混じった最前線に立つギーシュが呟く。
目の前で飛び交う銃弾には目もくれず、背後へと振り返って遠くを見つめる。
その上がりかかった彼の頭を抑えながらニコラは叫ぶ。

「何がです!? 自分には砲声と銃声の大合唱しか聞こえませんぜ!」
「間違いない、今度は本物だ。どうして彼がここに…?」
「誰です? 援軍ですか?」

ルイズの言葉が正しければ彼はここには来れない。
だけど戦場に響く咆哮は間違いなく彼のもの。
困惑の様相を強めていく上官にニコラは訊ねた。

「ルイズの……いや、僕たちの大切な“仲間”だ」

彼へと振り向きながらギーシュは笑みを浮かべて訂正した。

「きゅいきゅい! やっと来たのね! 遅いのね!」

まるで寝坊で遅刻した友達を怒るようにシルフィードは言った。
事情を知らない彼女達には何があったのかなど知る由も無い。
これでやっと肩の荷が下りると安堵の息が漏れる。

「……………」

しかしタバサの疑問は晴れない。
何故、彼が今まで出てこなかったのか。
何故、今になってようやく姿を見せたのか。
思考のパズルが完成しないのは必要なピースが足りないから。
自分の知らない所で何かが起きている、タバサはそれだけを感じ取った。

そして、もう一つ。
彼が運んできた大砲じみた巨大な包み。
見覚えの無い筈のそれにタバサは反応を示した。
あるいは彼女は気付いていたのかもしれない。
それが自分達の、彼の運命を決定付けた物だという事に。


「ああ! また美味しいところ持って行かれちゃったじゃない!」

跨ったフレイムの頭をぺしぺしと悔しげに叩きながらも、
キュルケの顔に浮かんでいたのは紛れもなく笑みだった。
その主の気持ちをフレイムは痛いほど理解していた。
まあ、実際に痛いのは頭を叩かれているからなのだが。

戦友が戦場に舞い戻ってくれたのは嬉しい。
だが、そこが戦場であろうと社交場であろうと人の視線を集めずにいられぬ。
それこそがフレイムの主の誇るべき気性だ。

しかし悔しいぐらいにあの蒼い影は戦場に映える。
幾百もの兵士も彼の障害たり得ず、あの火竜でさえ頭上を飛び交う事しか出来ない。
同じ使い魔として彼の事を誇りに思える。

ふんぞり返った火竜山脈の暴君達よ。
よくその目に焼き付けろ。
恐怖を知らぬお前達を慄かせる彼こそ我が友にして―――。

「さあ行くわよフレイム! こっちも派手に暴れるわよ!」
「きゅるきゅる!」

主に力強く答えてフレイムは戦場へと飛び込む。
そう、ここで彼の活躍を見守る訳にはいかない。

主とミス・ヴァリエールがそうであるように。
彼とは終生の友であり―――決して負けられぬライバルなのだから。

響く遠吠えと兵士達の口々に上る噂に耳を傾けながら、
ルイズは呆然と立ち尽くして呟いた。

「……なんで」

十分すぎるほど彼は戦い、そして傷付いた。
使い魔の責任と義務を彼は果たした。
だから、私の事は忘れて自由に暮らしていい。
帰れる場所があるのだから帰らなきゃいけないんだ。

もう私には彼にしてあげれる事はない。
返しきれないぐらい何度も助けられ、それなのに彼を裏切った。

「……なんでよ」

それでも私はあいつに生きていて欲しかった。
たとえ嫌われようとも蔑まれようとも構わなかった。
それ以外に、彼には何もしてあげられないから。
痛みも悲しみを堪えて戦う姿を見たくなかったから。
我が儘でいい。掛け替えのない大切なものを守りたかった。

「相棒も同じだったのさ」

彼女の耳に届くようにデルフは告げた。
ルイズが彼の事を想うように彼もルイズを愛していた。
誰からも愛されず、愛する事さえ知らず、
物として扱われてきた彼にとってルイズは唯一の存在だった。
だから応えるのだ、己の全てを以って。

ルイズの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
互いに通じ合いながらも交差する事のない想い。
嬉しさと悲しみが入り混じり彼女の内で溢れていた。


バオーの咆哮が再び戦場を揺るがせる。
蒼い体毛が風に靡くと同時にアルビオン兵に放たれた。
それは次々と銃に突き刺さり瞬時に燃え上がらせる。
尚も剣を抜き向かってくる者達を見据えて牽引索を咥える。
次の瞬間、大きく弧を描いてソリが兵達を襲う。
兜の上で鈍い音が響き、彼等はその場に悶絶した。
頭上から押し寄せる火竜の炎を避け、彼は倒れた兵から剣を奪う。
猛獣さえも振り回す首の力で投擲を放つ。
それは火竜の翼を捉え、平衡を失った竜騎士は地上へと落ちていく。

「っ…………!」

ワルドの奥歯がギシリと歪な音を立てて噛み締められる。
目の前の光景に彼は失望さえ感じていた。
それはアルビオン兵達を指しての言葉ではない。
彼等が束になろうともバオーに勝てないのは分かりきっていた。
だがバオーの、あの無様な姿はなんだ?

離れた敵を焼き殺し、近づく物を切り伏せ溶解する。
竜さえも己が体より発する雷で屠る怪物。
それこそ稲を刈り取るように相手の命を絶つ事が出来るというのに、
何故あの程度の敵に手間取る?
それはまるで敵の命を気遣うかのような甘い戦い様。
ニューカッスル城での戦いで体験した恐怖を微塵も感じない。
ワルドの胸に怒りが込み上げてくる。
この程度の敵ではない、自分が倒そうとしているのはもっと巨大な敵なのだ。
世界を滅ぼす魔獣、殺戮を行なう為に作られた純粋な兵器。
そうでなければ自分は一体何の為に…!!

「……殺す前に貴様の化けの皮を剥いでやる。
目の前で仲間の四肢を引き裂かれれば考えも変わるだろう!」

憎々しげに吐き捨ててワルドは風竜と共に宙へと舞う。
しかし、その行く手を複数の艦艇が遮った。
舌打ちしながらワルドは彼等が過ぎ去るのを見送る。


「砲門開け! あの獣を討つぞ!」
「しかし当該空域にはまだ戦闘中の火竜が…」
「構うな! アレを討てるなら安いものだ!」

艦長と副長の口論が艦橋に響き渡る。
まるで親の仇にでも出くわしたかの如く、艦長は船を急かす。
だがニューカッスル城での一方的な殺戮に憤慨を感じたのではない。
彼を打ち倒す事で得られる名誉と地位に目が眩んだ結果だった。
左右両舷には同様の考えで動いた艦の姿が見える。

先を争うようにして進む複数の艦艇。
彼等とて無策で挑むわけではない。
あの雷は脅威に成り得ないと判断したからだ。

雷は空気中で分散される。
それは距離が伸びるほど明確になってくる。
ましてや巨大な船体を焼き払うとなれば、どれほどの力が必要だろうか。
現にアルビオン行き来する船にも何度か雷は落ちた事があるが、
それも全体へと拡散し、船体の表面を焦がすか燃やす程度。
強力な魔法として知られるライトニング・クラウドでさえ、
近距離で、しかも火薬庫を正確に撃ち抜かねば軍艦は沈められない。
砲口が一斉にバオーへと向けられる。
絶え間なく降り注ぐ砲弾は再生の時間さえ与えず、
彼を細切れへと変える筈だった。

それを視界の端に収めながら、バオーは包みに前脚を掛けた。
引き裂かれた布の下から出てきたのは無骨な金属。
そこから見える千切れたコードに噛み付いて中身を引き起こす。
そして前足で完全に固定して彼は狙いを定める。
体内に電流が駆け巡るのを感じながら、
地上から放たれた光が天を貫くのを、彼は見届けた。
かつて自分の仲間を撃ち、そして自分に向けられる筈だった光を。

「へ?」

間の抜けた船長の声。
袈裟切りに振り下ろされた光が船体を横断する。
その直後、まるで巨大な剣で切られたかのように軍艦が両断されていた。
彼等を乗せた艦橋が地面へと吸い込まれていく。
慌ててレビテーションを唱えながら、彼等はその光景を目の当たりにした。
最強と謳われたアルビオン艦隊が次々と光に貫かれて落ちていく悪夢を。


「……“光の杖”」

空を見上げたまま誰もが言葉を失う中、ただ一人グリフォン隊の衛士が呟く。
光を目にした時から、無くなった筈の指先が酷く痛む。
忘れようもない、天を突く一条の光。
あまりにも神々しく、まるでそれは誰かの魂が天に召されていく姿に思えた…。


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