ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの茨 2本目

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匿名ユーザー

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その日、朝の肌寒さのせいか、ルイズは早くから目を覚ましてしまった。
ルイズは腕から茨を伸ばして窓を閉じつつ、布団を茨でかけなおす。
一通り用事が終わると、茨はその場でフッ…と消えた。
ルイズにしか見ることのできない『茨の冠』は、文字通りルイズの手足となっていた。

ルイズが使い魔を召喚した日、誰にもその存在が確認できないことから、皆がルイズを馬鹿にした。
それだけならまだしも、コルベール先生ですらルイズを疑ったのだ。
だが、『私にしか見えない茨の冠を被ったら、私の腕から私にしか見えない茨が生えました』なんて言えるものだろうか。
って言うか、言った、力説した。

最終的に、オールド・オスマンが直接ルイズの腕を確かめて、やっとルイズが使い魔を召喚したのだと結論づけられた。

確認の方法は簡単で、水桶の中に砂を敷き詰め、茨をそこに這わせただけだった。
それをオールド・オスマンが触れて確認し、ルイズは落第を免れたのだが…困ったのはその後。
ルイズの腕から生える透明な茨は、視認がほぼ不可能であり、言わば悪用し放題なのだ。「まぁ~、ヴァリエール家の娘が悪用するはずはないじゃろうなぁ~」
と、ルイズのプライドを刺激して、悪用しないよう警告したが、それも苦肉の柵。
オールド・オスマンは、ディティクトマジックでも認識できないルイズの使い魔に、頭を悩ませていた。

そしてルイズ自身も頭を悩ませていた。
この使い魔のせいで、ルイズはある人物に付き纏われることになったのだ。

「ヴァリエール、いるー?」
コンコン、とノックの音が響くが、ルイズは気づかない。
「ちょっと、ヴァリエールー?」
ルイズの部屋をノックしていたのはキュルケだった。
本来は禁止されている『アンロック』の魔法で鍵を開けると、ルイズの部屋にずかずかと乗り込み、ルイズの布団を引っぺがした。
「ふえっ、らり?」(え、なに?)
「まだ寝てるの?朝食の時間になるわよ」
「ふわ…って、ツェルプストー、なんで人の部屋に勝手に入ってるのよ」
「あら、あんたを起こしてあげたんじゃない、感謝してほしいぐらいよ」

キュルケがルイズの手を掴むと、おもむろにルイズの手を頬にすりよせる、俗に言う頬ずりって奴だ。
「ちょちょちょちょちょちょっと!なにしてんの!」
「あら、つれないわねえ…ね、あの触手、ちょっとだけ出してよ」
「イヤよ!触手じゃなくて茨よ!い・ば・ら!」
「何よもう、触った感じじゃ、太さといい固さといい…何よりも何本もあるなんてのが素晴らしいじゃない!」
「とっとと出て行け色ボケ女ぁ!」
ルイズが枕を投げ、続いて腕から伸びる茨を使って手当たり次第に部屋の中のものを投げる。
たまらずキュルケが退散し、廊下を走って逃げていった。
ルイズは部屋で、朝から息を切らせてしまい、疲れている様子。
「…ハァ、ハァ…、なんでこの茨、妙に太くて棘が丸っこいのよ…これじゃまるで(検閲)じゃない…」
(※アニメ版です)

キュルケに茨の形状を知られて以来、毎朝毎朝こんな調子だった。
「それに、こいつは触手じゃなくて『ハーミット・パープル』なんだから…もう」
ルイズは愚痴を言いつつ服を着替え、食堂へと足を進めた。


朝食を終えて授業の時間、コルベール先生の授業は独特で、火の魔法講義と言うよりは、火の利用法講義だった。
火単体の能力より、火と水、火と土、火と風…火を媒介とした利用法を考案し、発表している。
火の魔法に自信を持っているキュルケは、それが不満らしいが、火が生活のあらゆる面で活用されているという話には喜びを見せていた。
タバサという生徒は少し特殊で、攻撃や攪乱に役立ちそうなものに関心を寄せている。
彼女はいつも本ばかりを読んでいる上に、キュルケの友達ということもあって、なかなか人が寄りつかない。
ルイズも本来なら、彼女のことなど気にも留めていなかっただろう。

だが、彼女には、ルイズを共感させる何かがあった。

最初は偶然だった。
ルイズのことを「魔法成功率ゼロのルイズ」と馬鹿にしたマリコルヌの首を、ちょっとだけハーミット・パープルで締めてやろうと思ったのだ。
マリコルヌに気づかれぬよう、首と頭にハーミット・パープルを這わせると、ルイズの頭に何かが伝わってきた。
『ミス・ロングビル…ボンテージ着てたらどんな感じだろう…』
「はあ?」
突拍子もない思考に、ルイズは思わず呆れた声を出してしまった。
「ミス・ヴァリエール、どうしましたか?」
「あ、いえ、なんでもありません」
授業を担当している教師、ミスタ・コルベールに注意され、ルイズは慌てた。
しばらく待ち、再度ハーミット・パープルでマリコルヌの頭に触れると、また同じように声のような何かが伝わってきた。
『あのメイド、おっぱい大きかったなあ』

「………」
思わず、ルイズは惚けた顔をしてマリコルヌの方を見てしまう。
マリコルヌがルイズの視線に気づいたので、慌ててルイズは正面を向いた。
正面を向きつつもハーミット・パープルは解除せず、マリコルヌの思考を聞く。
『なんだろ…もしかしてヴァリエールの奴、俺に気があるのかな!?でもあんなゼロの乳じゃな…』

とりあえずマリコルヌの首を一瞬で締め上げてから、ハーミット・パープルの『能力』を他でも確かめようと、違う生徒達の頭にも這わせてみた。


その結果、ハーミット・パープルは『人間の思考を読める』ということが解った。
ついでに、ルイズは意外なことまで知ってしまい、一日の授業が終わった後で自己嫌悪に陥ってしまった。

キュルケは、ルイズを馬鹿にするとき、軽い気持ちで馬鹿にしているが、心配するときは本気で心配している。
言うなれば、裏表がなく正直な奴だった。
ただ自分に言い寄ってくる男に対しては、ものすごい軽い気持ちで接しているようだ。

次に教室では目立たないタバサという少女の思考も読んでみた。
まずタバサというのは偽名、本来ならシャルロットと名乗りガリアの王女様になるところだったが、叔父の策略で父は殺され母は自分の身代わりとなって毒の犠牲に。
しかも母は、タバサを危険な任務に行かせるために、生かされている状態…つまり人質だった。
トリステイン魔法学院には、身分を隠して生活するため、また毒の解毒法を探すために図書室を利用しているのだとか。

他にも何人もの生徒の心を読んでみたが、ルイズはタバサ以上の苦しみを見つけられなかった。

ただ一人匹敵すると言えば、コルベール先生だろうか。
彼は昔、任務とはいえ一つの村の人間をすべて焼き殺し、その贖罪として火を平和的に利用するための研究をしているらしい。
ご丁寧なことに、殺した人の数はしっかり記憶していた。



そんな重たい思考を探ってしまい、ルイズはは自己嫌悪に陥ってしまったのだ。
「みんな、苦しんでるんのね…」
ベッドに寝そべり、天井を見上げつつルイズが呟く。
「ゼロって呼ばれてる私だけど、家族がみんな無事だし、ちい姉さまも病気がちだけど、生きてる」
思い出すのは、タバサ…シャルロットの思考。
「私より辛い思いしている人なんて、沢山居るんだ…」

ルイズは姉の姿を思い出す。
ちいねえさま「カトレア」は、魔法こそ優秀だが身体が弱く、ルイズのように外を飛び回ることも出来なかった。
タバサの母は心を病み、人形を娘だと思いこんでいる。

その身に負っている症状の違いこそあるものの、明日からタバサと同じように図書館に通ってみようと思うルイズだった。

図書館にて、ルイズはまた一つ別の発見をした。

トリステイン魔法学院の図書室『フェニアのライブラリー』の蔵書数はものすごく、案内図を見ても迷ってしまう。
案内図を見て、人体を治療する魔法薬について書かれた本を探そうとしたが、それだけでも1000を超えている。
姉の身体を治療する薬についても調べたいが、ここはタバサを優先しようとした。
「精神を治す魔法薬って、どの本なのかしら…もう、多すぎて解らないわよ」
片っ端から読むには多すぎる、どれか一つに絞りたい。
ルイズがそう考えた途端、右手から飛び出たハーミット・パープルが、しゅるしゅると伸びていった。
「?」
ハーミット・パープルの伸びた先には、本棚の案内図があった。
よく見ると、ハーミット・パープルは『エルフ』の棚の『上から二段目』の『右端』を指している。
「なによ、こんな高いの、レビテーションが使えないと取りに行けないじゃない」
ルイズが愚痴る。
「って、よく考えたらハーミット・パープルで取ればいいのよね…ちゃんと取れるかしら?」
しゅるしゅるとルイズにしか聞こえない音を立てて、ハーミット・パープルが本を取ってくる。
よく見るとその本は大判で、ルイズが持つには少し大きいように思えたが、不思議なことにハーミット・パープルが持つとほとんど重さを感じなかった。
「…便利ね」
これがハーミット・パープルが持つ能力の一つ、『探知』だった。


ハーミット・パープルが持ってきた本は、かなり古ぼけており、エルフの伝承について書かれている本だった。
おとぎ話のような書き方がされており、資料的価値は非常に薄いように思えたが、目次のある部分に驚くべき記述があった。

『精霊魔法』の項目を見ていくと『呪い』という中項目があり、更にその中に『生ける屍』と書かれていたのだ。

そのページを開くと、古い文字でびっしりと毒薬について書かれていた。
古い始祖ブリミルの伝承本で使われる文字と同一だったので、ルイズはかろうじて読むことができたが、難しい文字のため、ついつい小声で音読してしまった。

「エルフ…用いる魔法薬は、水の秘薬が頭脳に停滞し、精神を混乱状態で安定させる……」

難しい文字を読むため、いつになく本に集中していたルイズは、背後を通りかかった人物の気配に気づかない。

「この毒は、意識を朦朧とさせるだけでなく、認識をすり替える…人形を我が子だと思いこむ母、オークを美しい女性だと思いこむあわれな男…など、後世では呪いなどとも呼ばれる……」
「見せて」
「うきゃっ!?」

ルイズは背後から聞こえてきた声に驚き、おもわず叫び声を上げてしまった。
振り向くと、そこにはタバサがいた。
タバサはルイズが読んでいた本をのぞき込み、指でなぞりつつ内容を確かめていく。

ルイズは椅子に座ったままだ。
鬼気迫る雰囲気でページをめくるタバサに声をかけようと思ったが、怖くて無理っぽい。
本を机に置き直して、タバサが呟く。
「…始祖ブリミルの直径第一子時代のエルフに関する本、ブリミル降臨以前の精霊同士の関連図がある本」
「え?」
「なんでもない」

ルイズは思う。
もしかして、タバサは母親を助ける手段を思いついたのではないか?
それか、具体的な手がかりを見つけようとしているのではないか?
「本は返す」
そう言って立ち去ろうとするタバサを、ルイズが呼び止めた。
「待って、古代ルーン文字に関する本と…始祖ブリミルの降臨以前の、ええと…そうそう、精霊の本よね、ちょっと待って」
ルイズが右手を上げて、小声で呟く。
「……ハーミット・パープル、言ったとおりの本よ、探してきなさい!」
右手から伸びた茨が図書館中をはい回り、本を一冊一冊確かめていく。
その間、ルイズの頭にはものすごい情報が流れ込んできた。

図書館にある本のタイトルや主旨が頭の中に流れ込んでくるのだ。
ルイズの意識が、精神力の尽きたメイジが無理矢理魔法を行使するかのように朦朧としてきた頃、ハーミット・パープルがいくつかの本をルイズの元へと届けた。

「…これが、多分、あなたの読みたがっ…て…る…本……」
バタン、と音を立てて、ルイズは机に突っ伏してしまった。
ルイズを心配したタバサが、ルイズの顔をのぞき込むと、ルイズはよだれを垂らして寝ていた。
ルイズの持ってきた本は、まさしくタバサの探し求めたものであり、そこには母に使われた毒と、その解毒方法を解読するには十分だった。

「一個借り」

タバサは、もう一人の友人にしたように、その不器用な言葉で感謝を表した。

なお、その翌日、ルイズは二日の謹慎を食らい、自室で自習に励んでいた。
『フェニアのライブラリー』には教師しか閲覧を許されない書棚がある。
ハーミット・パープルは、そこから本を持ち出してしまったのだ。
「もう、閲覧禁止の棚から持ってくるなんて、もうちょっと気を利かせてよね!」

自分の腕から生える茨に文句を言う。
しかし、その表情はどこか嬉しそうだった。
ハーミット・パープルは実体化、半実体化ができる。
これを利用すれば『アンロック』を使わずに鍵を開けることができ、しかも、壁を突き抜けてその向こう側を探すという驚くべきことまでやってのけるのだ。
自分の腕から生えた使い魔が、驚くべき能力を持っているとわかり、ルイズはかつてない程に満足していた。


もう一つは、タバサの母を治療する糸口が見つかったという事。
ルイズにとって、苦しんでいる身内が救われるのは、我が事のように嬉しいのだ。
左腕からハーミット・パープルを出現させると、ルイズはそのうち一本を右手に持って、話しかける。


「ね、これからもよろしくね、ハーミット・パープル」

すると、ハーミット・パープルがルイズの机からペンを取り、紙に文字を書いていった。

「何?何を書いたの?」



『ハッピー うれぴー よろぴくねー!』


意外とファンキーな奴じゃない。
と、ルイズは思った。


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