ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔 第三章-10

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
零戦がその空域にたどり着いたとき、すでにトリステイン軍とアルビオン軍が戦っ
ていた。
状況はトリステイン軍の劣勢。
上空にはアルビオン側の竜と船しかない。
「ブチャラティさん! 私の町がっ!」
全部座席に座ったシエスタが絶句する。
この序の見下ろすその先。
タルブ村があるはずの場所に。
いくつもの黒煙が見えた。

アルビオンの竜使いたちは、タルブの村を放火したのだ!
許せない。
シエスタの心に暗い炎が滾っていく。


「落ち着くんだ、シエスタ。気持ちはわかるが。まずは、あの竜からやろう。
 一騎ずつ、確実にだ」
「っはい! ブチャラティさん」

復座式零戦がその機動の本領を発揮する。

シエスタはタルブ村の上空を旋回するのをやめ、タルブ村郊外の、アルビオン艦隊が
浮遊している草原へと進路を変えた。
九八式照準器越しに、一人のアルビオン竜騎士をにらめつける。
彼はシエスタの存在に、鉄の竜の存在にまだ気づいてはいないようだ。
だが、そんなこともかまわず、シエスタは竜との距離をつめていく。

彼女の中には、冷たい怒りの炎が渦巻いていた。
シエスタの脳裏に、異世界の戦場のルールが語られる。
――これが、曾おじいちゃんの戦争……

戦場の空では、階級や貴賎など関係ない。
交戦規定はただひとつ。
『生き残れ』
――大丈夫。私には――


露伴の、ヘブンズドアーの能力の結果だった。
――露伴さんがいる――

シエスタに狙われた竜が、まず最初に彼女に気づいた。
その竜は、異常を乗り手に伝える。
だが、乗り手が気づいたときにはすべてが手遅れ。
哀れな竜が、その乗り手と諸共7.7mm機銃に貫かれた。
――曾おじいちゃんがついている――

「どうしたんだっ!」
「トリステインの新手か?」
怒号とともに、アルビオンの竜たちは散会し、『鉄の竜』の元へと飛行する。
飛行しようとした。
だが、最強であるはずの彼らアルビオン竜騎士団が、まったく追いつけない。

「どういうことだ?」
「鉄の鳥か?」
そういうまま、ひとつの竜が、零戦の後ろにつき、魔法を唱えようとする。
だが、それはかなわない。
なぜなら、彼はすでに反撃を受けてしまっているから。
アルビオンの竜騎士は、ひとつ、またひとつと鉄の暴力になぎ倒される。

「慎重に、だが、大胆にだ。シエスタ」
「はいっ!!!」
――ブチャラティさんがいる――
急激な旋回機動と低速、低高度での格闘戦。
それが零戦の得意の戦法だと、露伴の書いた文字は教えていた。

シエスタはそれに従い、竜騎士の魔法攻撃をヨーで左右にかわす。
さらに旋回で竜の背につき、7.7mmの機銃で刺す。
彼女の動きに、一片の無駄もない。


「ちょっと!!! あんた、もうちょっと安全にとばしなさいよ!!!」

――ルイズさんもいる……?
「おい、ルイズ! お前なんで!」
「うるさい!あんたは私の使い魔なんだから、私が監督しなきゃ!」
ブチャラティの座席のさらに後ろに、ルイズがいた。
後部座席に気を取られたとき、右翼に馬鹿でかい風の塊が襲い掛かった。

その直後、かつてないゆさぶりが機内の三人を襲った。
「ちょ、ちょっと、シエスタ!右の翼!」

ルイズの言うとおり、右翼が根元から一メイルほど残して、なくなってしまっている。
そしてそこから、ガソリンが漏れ出している。
シエスタは使用燃料を翼内タンクから胴体内タンクへとすばやく切り替えると、叫んだ!
「ブチャラティさん! 引火するかもです!」

「わかった、任せろ!」
ブチャラティはそう叫び返すと、スタンドのみ外に出し、ガソリンがもれ出ている
ところへ『ジッパー』を取り付けた。その直後に、新たな魔法が気体を襲った。
今度は電撃だ。降り注いでいたガソリンが赤い火柱を形作った。間一髪。

シエスタは後ろを思いっきり振り返る。
同時に、ルイズも振り返った。
「ワルドさま――いいえ、ワルド!」

そこには、見知った優男と、青白い肌をした風竜がいた。


「やあ、我が元婚約者じゃあないか。奇遇だね」


タバサが竜に乗ってやってきたとき、地上の軍隊同士の戦いは、決着がつきそうに
見えた。
トリステイン軍が負けるほうに。

それを作っていた要因が、タバサの向かう先にあった。
「アレでは、制空権をほしいがままにされているな」
タバサの隣にいるコルベールがつぶやく。
彼の言うとおり、竜の向かう先には、大小二十隻程の戦列艦が空を埋め尽くしていた。
すべてアルビオンの軍旗をはためかせている。

いや、ただひとつ。
アルビオンでないものが、この空中にいた。
「あ、あれ!」
キュルケが叫ぶ。その指差す方向には、あの零戦がいた。
方翼をやられ、フラフラだ。
今にも堕ちそうにみえる。
それをいたぶるがごとく、一匹のアルビオンの竜騎士が追いすがり、魔法を放っている。

「す、すごい!」
タバサも、そのキュルケの言葉には同感だ。
竜騎士は、『ウインディ・アイシクル』や『ライトニング・クラウド』など、高度
な魔法を至近距離から繰り出している。
なのに、あの、鉄の竜は、それをぎりぎりまでひきつけ、身体全体をひねるように
回避している。上下に動き、左右によける。

だが、それも時間の問題。
どんなによけていても、竜騎士に背後を取られている。
そして徐々にだが、鉄の竜に、敵の魔法があたってきている気がする。

そんななか、タバサは、自分が何かできないかと感じたとき。
不意に、竜の羽衣と、それを追うアルビオンの竜騎士がこちらのほうに飛んできた。

「危ない!」
よけるまもなく。
二つの巨大な影は、タバサたちの頭上を過ぎ去っていった。
すさまじい速さで。
アルビオンの竜騎士も、タバサたちにかまう余裕はないようであった。
しかし、キュルケは『それ』に気づいた。
とっさに自分の杖を取り出し、頭上の『それ』にレビテーションをかける。


「~~~~~~きィゃぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」
『それ』は、ルイズだった。
ルイズはシルフィードの背にゆっくりと軟着陸した。
「ルイズ、おかえり」
「ミス・ヴァリエール、大丈夫ですか?!」
コルベールに抱えられたルイズはなきそうな顔で怒鳴り散らした。


「ブチャラティ、あんなやつ! 危険だからとかいって、私を荷物みたいに
 『ジッパー』で放り出して!」
「なるほど、さっきこちらに近づいたのはわざとか」
変に納得する露伴に対し、ルイズは言いたい放題のことを言い始めた。
「シエスタのことは何も言わなかったくせに!」

ルイズはもはや涙声になっている。でも、自分ではそれに気づけない。
「それに、直前になってウェールズ様の指輪を渡してよこすなんて。
 まるで形見みたいじゃない!」
そういうルイズの薬指には、しっかりと指輪がはめられている。

「だが、見ろ。零戦の機動が増したぞ」
露伴の言葉に、全員が上空を見る。
なるほど、零戦は先ほどまでよりもすばやい動きをしている。
時々、竜の後ろを取るまでに運動性があがっている。

そのとき時間にして三分。
空中での、竜との攻防は終わった。
零戦が、竜の羽を機銃で打ち抜くことに成功したのだ。

しかし、次の瞬間!
零戦の、右翼から大量の金属片が飛び散った。
あまりの運動に、ダメージを受けた翼が耐えられないようだ。


しかも、アルビオンの戦列艦から、大量の散弾が、零戦に向けて発射される。
その空域にアルビオン勢がいないせいか、射撃は熾烈を極めていくのみだ。


「わ、私のせいだわ……」
ルイズが元気なく口ずさむ。
私があの時口を出さなければ、ワルドなんかにシエスタたちが負けるはずなんかな
かったのよ!
そして、あんな傷を竜の羽衣に負わせることもなかった……

「くそっ! ここまで来て、何もできないのか?」
露伴の言葉が、ルイズには自分に向けられたように感じられた。
自分じゃ何もできない。自分じゃ誰も救えない。
「ほんとうに、私は何もできないゼロのままでいいの?……」
ルイズはそうおもって、始祖ブリミルに祈り始めた。
気休めに、ここまで持ってきた始祖の書のページをめくりながら……

シエスタは、眼下のそれを見たとき、単純に、なんだろうと思った。
なに、あれ。
タバサの風竜の、背にある人影から時おり、炎が発せられる。
たぶんコルベールだろう。
「ブチャラティさん! あそこ!」
ブチャラティも、シエスタと同時期に、それに気がついていた。

「ああ、アレはモールス信号だな」
ブチャラティはそれを見ながら、スティッキィ・フィンガーズの指でリズムを取り、
符号をそのまま、前部座席にいるシエスタに教える。

 -・-・・ -・-- ・-・-・ -・ ・- --・・- ・---・
 -- -・- --- ---- ・・- -・-- ・・ -・-・・
 ---・-


シエスタの脳内に、異国の文字列が生成され、重要な意味を成した電文と変換された。
(危険、退避セヨ。我攻撃ス)
露伴が彼女の脳に『書き込んだ』効果が如実に現れていた。
彼女の脳のシナプス細胞が、異常な速度で危険の気配を認識した。
「何かにつかまってください! この空域を離脱します!
 地上でなにかするようです!」

ブチャラティの返事を待たずに、シエスタは零戦を急旋回させた。
眼前の戦列艦群に機体の腹を見せながら空域を離脱する。 
見る見るうちに地表がせまっていく。

「いいぞッ!ルイズ!早くしろ!」
露伴がそうせかす中。
ルイズはすでに詠唱を始めていた。 

……オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド……

その間にゼロ戦は敵艦群と距離をとった。

しかし、そのおかげで、機体は敵の調律射撃のよい演習目標になっている。

……ジュラ・イサウンジュー・ハガル・ベオーグン・イル……

誰もが、一秒を一時間ほどに感じていたとき。
彼女の永い呪文が完成した。
狙いは敵艦隊中央。

かける魔法は、虚無の魔法『エクスプロージョン』。
敵艦隊の、浮力のみを奪うことが可能な魔法だ。

『虚無』ならば、『ルイズ』ならばできる芸当。
ルイズしかできない芸当。

彼女は杖を振り下ろした。
その瞬間、戦列艦群は白い、巨大な光に包まれた。
遊弋していた艦隊の帆が一斉に燃え出していく。
戦列艦が、一つ、また一つと地面に滑り落ちる。
その白い輝きが消えたとき、すべての戦列艦が機能を停止していた。
いや、ただひとつ、『レキシントン』号はいまだ空中にその威容を誇っていた。


「今が好機だ!全軍進撃!」
マザリーニ枢機卿が地上で声を張り上げていた。
今の爆発で、地上軍の優劣は逆転した。後は追い詰めるだけだ。

アルビオン軍は壊滅し始めた。
地上では。
アルビオン軍旗艦『レキシントン』は、満身創痍になりながらも、なおも制空権を
手放していなかった。アルビオン帝国の、クロムウェルの威信であった。
「ブチャラティさん。私に案があります」
シエスタが『レキシントン』を上方に見ながら話しかけた。
彼女は、まったくもって単純な策をブチャラティに示した。

「私たちの持つ最大の『攻撃力』の全てを、あの船の機関部に叩き込みます」
ブチャラティは一瞬で彼女の作戦を理解した。
「覚悟は……できてるようだな…………いいだろう」

零戦は優雅なまでに完全なインメルマンターンをとって、速度を高度に換え、その
機位を『レキシントン』と正対する位置に置き、直進を始めた。


「接触まで機体の護衛をお願いします!」

「やれやれ、 『ルイズを守る』 『任務を遂行する』
 両方やらなくちゃならないのが『使い魔』のつらいところだな……」

デルフリンガーを鞘から解放する。とたんに、機内を珍妙な空気が支配した。
「……マヂ?」

「お前も『覚悟』を決めてくれ。すまないとは思っているが、どうしようもない」
「チッ。しょーがねーな。お前ェとはなかなかいい付き合いだったぜ。
 こうやって人生……いや、剣生を終えるのも良いかもしれねェな、『相棒』」
ブチャラティに刻まれたルーンが、これまでにないほど光り輝いていく。


ブチャラティはジッパーで機外に出た。体を固定しながら前進し、エンジンカウル
の真上、回転するプロペラの真後にたった。
「っと!危ないな」
「速度落としますか?!」
よろけたブチャラティを見たシエスタが叫んだ。
「いや、必要ない!君はこの機体を安定させて目標に向かうだけでいい!最高速度だ!」


『レキシントン』艦長、ホレイショ・ボーウッドは敵の運動の変化にもっとも早く
気がついた一人だった。彼は思わず思ったことをそのまま口に出す。
「まさか、体当たりするつもりか?」
鉄の竜にむかって、鉄砲と矢が無数に放たれる。
魔法もいくらかは放たれるが、まともな狙いがつけられていない。
その上、『鉄竜』の首に立つ男により、すべての有効な攻撃が防がれる。
間に合わない! 
そう判断した彼は、すばやく決断した。
「総員、対衝突体勢をとれ!」

何時間にも思えた寸秒が過ぎた後、艦全体を揺るがす衝撃が彼を襲った。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー