ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

風と虚無の使い魔-32

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匿名ユーザー

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轟音を聞きつけ、ルイズたちは宿を出る。
そして、空を見上げ、絶句する。
「なんてひどい…」
ルイズがショックから立ち直り、そう漏らす。
「あれは…アルビオンの艦隊だね、つい最近不可侵条約を結んだはずなのだが…」
「ふん、不可侵条約など両方の打算で結ばれるのだ、状況が変われば攻められる、そんなことは当然だ。
それより、一騎青い竜が近づいて来るぞ、撃ち落すか?」

「あら、あれは…もしかしてシルフィードかしら?それに、あなたの使い魔もいるわね。
シュトロハイムさん、あれは味方よ」
シルフィードが着地する。
「なにが起きて…」
「貴様はァーーーーーッ!」

降りてきたタバサがキュルケに状況を聞こうとすると、シュトロハイムが怒号で遮った。
「貴様は、ワムウッ!なぜ生きているッ!ジョセフに殺されたはずだ!」
「ほう、お前は…ジョセフの知り合いか?」
「質問に質問で返すなァーーッ!もしかしてカーズも生きていやがるのかァーーッ!」
「カーズ様が?その言い方だとカーズ様もやられたのか」
「そうだ、ジョセフがやったのだ、知らんのか!?」
「あの女と戦う予定ではなかったのか?」
「にっくきカーズは騙まし討ちをしたのだ、そして究極生命体へと生まれ変わったのだ。
しかし、ジョセフが命を賭けて救ってくれたのだ!」
「ほお、カーズ…確かに、カーズ様とは意見の合わん部分もあった…しかし、そうか、ジョセフが
やったのか、あいつめ、そこまで成長しおるとはな」
そういってワムウは笑う。
「俺はなぜ生きているんだと聞いているんだ」
「さあ、俺に聞くな、むしろそっちのルイズの方が詳しいだろう」
シュトロハイムは振り向く。

「もしかして、異世界から来た使い魔とは…」
「え、ええ。ワムウだわ」
「奴はなぜ生きている?」
「し、知らないわ。召還したときにはあの体だったもの」
頷いて、再びワムウに向き合う。
「ふん、どうやらこの少年少女たちも知り合いのようだな、どうした、柱の男?
身近な人間を食わないとは人道主義か博愛主義か、友情にでも目覚めたか?さて、俺とやる気があるのか?」
「波紋戦士や強い戦士だというなら、受けてやろう」
「ふん、今じゃなければ向かっていってやるがな」
シュトロハイムがそっぽを向いたので、ワムウはルイズに尋ねた。
「おいルイズ、どういうことなんだ?」
「新生アルビオン軍がおそらく攻めてきたのよ」
「なるほど、それは面白そうだ、今度は持ち出さねばらならぬ手紙もない、思う存分やらせてもらおう」
ワムウは指を鳴らす。

「そういうことだ、どけ。あいつらを叩きのめしてくれるわ」
そういってシュトロハイムはゼロ戦の所へ行こうとする。
「なにをする気よ!?あなた一人でなにができるっていうの!?」
ルイズの制止にシュトロハイムは鼻を鳴らす。
「ゼロ戦を飛ばす。あれは道楽ではない、兵器だ。木造艦隊など木っ端みじんにしてくれるわ」
「…だめよ、トリステイン軍が出ていないわ、アルビオンと交渉中かもしれないのよ!」
「そんなことを言っている間に首都まで進まれても文句は言えんぞ、ここには冬将軍はいないのだからな」
そういって自嘲する。
「なら…私も行くわ!トリステイン人として、部外者に戦わせて私たちが指をくわえて待っているなんてできないわ!」
「ミス・ヴァリエール!」
一喝しようとしたコルベールを制して、シュトロハイムは話を続ける。
「そう言って、訓練もままならるまま敵に突っ込み、死んでいった勇敢な部下たちを何人も見てきた。
お前たちはこのトリステインの未来を担う人材なのだからな」
ルイズは必死で続ける。なにか不吉な未来が見えるかのように。

「じゃあ、なんであなたが行くのよ!」
「俺はトリステイン人でもトリステイン軍人でもない、ただの一人のドイツ軍大佐だ、こんな汚い戦争などは、
戦争にしか生きられない軍人に任せておけ、帰る故郷も、家族もいない異邦人の軍人にな」

シュトロハイムは、ゼロ戦のコクピットに入ろうとし、片足をかけたところで足を止めた。
「ワムウ、お前に頼むのもなんだが…お嬢さんがたは頼んだぞ」
「俺を知っているのなら、俺がただの人間風情に遅れをとらんことくらいわかるはずだ」
「そうだったな、化け物め、では行くぞ。コルベール、無線で逐次連絡を取るから、確保してくれ、
あとギーシュといったか?お前は男だろう、しっかりお嬢さんたちを守ってやれよ」
コルベールとギーシュにシュトロハイムは頼み込む。
「ああ、もちろんさ、僕の薔薇の針は可憐な花を守るためにあるのだからね」
「わかりましたぞ、生徒と無線を守るくらいはやってみせますよ…それにしても戦争というのは嫌なもんですな」
「ああ、どこの世界でも嫌なものだ。こんなものを利益なしに望むのは狂人だけだ。その点、俺も見知らぬ土地で
機銃を振り回すのだ、大して変わらないのかも知れんな。だが、俺は戦士を操る軍人、狂人だが、
戦闘機がある以上俺は騎士でもある、自分の知り合いくらい守らねばならん、難儀なものだ」
「人間とは難儀なものだな、まあいい、終わったら手合わせ願おう。こいつらガキどもの護衛、確かに承ったぞ、
戦士、シュトロハイムよ」
「ふふ、俺を戦士と呼ぶか、戦い狂いの化け物め。いいだろう、空は俺に任せろ。コルベール、ワムウ、武運を祈るぞ!
では、ルドル・フォン・シュトロハイム、ドイツルフトバッフェ大佐、出撃する!」

エンジンが猛烈な音を立て、ゼロ戦は舞い上がった。


「さて、任された以上やらねばならぬな…この程度の人間の数ならば、メキシコですでに三度はやっている」
「やれやれ、味方になっても頼もしいを通り越して恐ろしいな」
無線からシュトロハイムの声が入る。

「我がサイボーグの視力はーッ!世界一ィイイイイッ!九時の方向に敵を数体発見、今日のエースは俺だァアアアッ!
記録係は瞬きするんじゃないぞッ!」

この世界ではありえないスピードで、竜騎士に接近していった。


右手に杖を、左手に無線をを持ったままタルブの民衆を避難させるコルベール。
もし、空から彼らを狙って来るアルビオン兵がいたとしたら、容赦なくコルベールにやられていただろう。
しかし、シュトロハイムの活躍が功をそうしてか、その機会はなかった。
地上では向かってくる兵士は文字通りワムウに吸い込まれていくのを顔をしかめて見ていたが、
やがてタルブの一般人の保護に集中するようになった。

ワムウに向かっていく兵士は、幸か不幸か、一斉にではなく、多くとも小隊単位で向かっていくにすぎなかった。
小隊を、分隊を、歩兵を、銃兵を、弓兵を、メイジを、階級に関わらず無傷で屠っていくにつれ、そのあたりに
アルビオン兵が現れることはなくなった。もし、一斉に攻めていたら…傷くらいはつけられたのだろうか。

「この地域の方々はほぼ集めました、あとは残っている領主の兵士の方に護衛をお願いしましょうか」
この地域でも手際よく非戦闘員を集めたコルベールは、次の場所に向かおうとする。
「…ミス・ヴァリエール、ワムウくんを止めてきてくだされ」
集めた石を敵陣地のあるであろう方向に投げる。
ただの石もワムウにかかれば榴弾砲の様な威力となる。矢継ぎ早に飛ぶ石は空中でぶつかりあって降り注ぐ。
スピードがあるだけに、大抵は致命傷にはいたらないまでも脅威の対象となっていた。
「ワムウ、そろそろ行くわよ、あんたの仕事はアルビオン兵の殲滅じゃないのよ、わかってるの?」
「わかっているから投石なんぞで我慢しているのではないか、お前らがいなければとっくに突っ込んでいるわ」
「……はいはい」


「十九騎目ェイッ!とろい、とろいぞォオオオッ!そんな反応では東部戦線では一日で葬式が出るぞォオオッ!」
元戦闘機乗りとだけあって、七.七ミリ機銃を効果的に当て、強力な二十ミリ機銃を温存している。
「しかし、素晴らしい機体だ、東の黄色人種がアメ公相手に通用するのもうなずけるな!
航続距離も長い、二十ミリ機銃の威力もなかなかある。これだけの性能なら竜ごときには遅れはとらんわ!」
そして、前方を見て舌打ちをする。前方の巨大な船から数体
「しかし、あの化け物をなんとかせねばな…航空母艦は航空母艦でも空に浮く航空母艦とはな、
やれやれ、空飛ぶ要塞などといった異名が霞んで見える」
少し考え込むが、顔を上げ、操縦桿を強く握りなおす。
「どうにかせねばならんが…まあ後回しでいいだろう、相手が哀れなコミュニストでなくなったがやることは一緒だ、
アルビオンの竜騎士よ、運が悪かったな…アーメン」
シュトロハイムは発射把柄を握った。

錐揉み状態で前方の竜騎士が落ちたのを確認し、辺りを見回す。
そして、ある一点で目を止める。
「ふん、仰々しい格好をしおって、大きな杖を構えて、あれが噂の巨人使いのようなメイジということか?
少々遠いが、威嚇射撃でもしてやろう」


機銃の砲身が短い音を発し、数発弾丸が飛んでいく。
距離があるため、当たりはしないが、相手の騎士は特段驚きも慌てもせず、スピードも軌道も
変えずに進んでくる。
シュトロハイムは機首を上げ、上昇すると、遅れながらも竜も上がってくる。
機体を傾け、竜の側面から攻撃しようとする。
竜はそのまま上昇し、ゼロ戦が近づいてくると、体をひねらせ、ブレスを吹きながら突進してくる。
シュトロハイムは慌てて機体をひねりながら急降下させ、すんでのところでかわす。
「危ないところだった、しかしここまで近づかれると戦闘機の優位が霞む、少々距離をとるか」

機体を少しだけ上げ、出力急降下に切り替えてスピードを上げ竜から距離をとる。
ある程度距離がとれたのを確認すると、出力を上げて上昇させる。
かなりの高低差が生まれたと判断したシュツロハイムは、旋回し、降下してスピードを上げながら竜に
突っ込む。かなりのスピードに相手は判断が鈍り、予めとるべきだった回避行動をとれなかったようだ。
射程距離に入ったとみたシュトロハイムは発射把柄を握り、機銃をぶち込む。
相手は杖を振り必死で弾丸から身を守るが、数発竜に当たっていく。
とうとう、前方の竜はきりもみ降下していき、シュトロハイムは出力を落とした。

機体が揺れた。
シュトロハイムのゼロ戦が大きく揺れる。
なぜならば、機体の下部に穴がいくつか開いていたからだ。そしてほぼ同じ数がシュトロハイムにも開いていた。

落ちていく竜に乗った騎士の背中から飛び立った竜と騎士は、下からゼロ戦を追い越し、
母艦『レキシントン』へと戻っていった。



「子爵、どうでしたか?」
ボーウッドが椅子に座って目を瞑っていたワルドに尋ねた。
「ああ、やったよ、僕の偏在は確実にあの乗り手を竜ごとエアカッターで何発も貫いた、まず助からないね」
「さすが子爵ですな、では作戦に移りましょう、野蛮な無差別砲撃にね」


グラグラと揺れるゼロ戦を見て無線に向かってコルベールが叫ぶ。
「シュトロハイム君、どうしました、シュトロハイム君!」
「な…が起きたんだ?落…し…はずの竜騎士…背中…ら、もう一体の竜…士が…」
「シュトロハイム君、ゼロ戦が下がっていますぞ!立て直さねば!」
機体はハッとしたかのようになんとか態勢を戻す。

ルイズが無線に向かって話しかける。
「ねえ、もしかしてその騎士って、杖を構えて、黒い帽子をかぶっていた?」
「その通りだ」
「おそらく…ワルドだな、つじつまもあう」
ワムウが呟く。

コルベールが続けて話す。
「機体に穴があいていますぞ!早く着陸せねば危ないのでは!?」
笑い声が聞こえた。
「無駄だ、コルベール。油断してつけたま…であった増槽にも穴が…けられた。脚も降…ん、胴体着陸できるほど
整備され…飛行場…ない。それに…俺自身、もう助からん、それに無線…もガタがきて…る」
先ほどから強いノイズが入ってくる。
「ふん…忌々し…巨大…艦め、高度を下げて…る、おそら…制空権を取…たと判断して地上砲撃に入るのだ…う、
お前ら…けでも避難したほ…がいい、あ…な化け物の艦隊…砲撃を受…たらワムウでも無事で…すま…だろ…」
ノイズが強くなり始める。

「コルベ…ルよ、ゼロ戦のエ…ジン、渡せなくてすまんな。
ギーシュくん…、し…かりお嬢さ…方を守…よ。
そしてルイズ、タ…サ、キュ…ケ。そ…いえば苗字も聞…ていなか…たな…
礼を言わ…てもら…う、君たちが…なければあの巨人…倒…れ、ここに…いなか…た…もしれん。
シエ…タ…ワイン…美味であったぞ…ゼロ戦を快く渡して…ただい…重…重ね感謝す…
そ…て、忌々し…柱の男よ、お前…なぞ言…ことは一つし…ない……頼んだぞ」
「シュトロハイムくん!なぜそんなことを言うのですか!シュトロハイムくん!諦めてはいけませんぞ!」


「コルベ…ル、か?もう、よ…聞…取れんよ」
弱弱しい声で返事をする。
「…お、友よ!この…うな調べでは…い!そんな調べ…り、も…と心地よく歌い始め…う、喜…に満…て!」
弱弱しい声でシュトロハイムは歌い始める。
「歓喜よ…美し…神々の煌め…よ…土から来た娘よ…我等…炎のよ…な情熱に酔…て天…の彼方、貴方の聖…に踏み入…」
シュトロハイムは気力と体力を振り絞り、ゼロ戦を上昇させる。
「貴方の御力によ…時の流れ…容赦な…分け隔たれ…も…は、再び一つとな…
全て…人々は貴方の柔ら…翼…もとで兄弟になる!」
『レキシントン』号の真上にゼロ戦は出力全開で上がっていく。
散弾がゼロ戦とシュトロハイムに容赦なく刺さっていく。エンジンは黒煙を吹き出し始めた。
霞む目でシュトロハイムは目標を探す。
「我が祖国ドイツよ!我が故郷タルブよ、永遠なれ!」


ワルドは部下に命令する。
「最後のあがきという奴か、だがじきに息は止まるだろう、とどめに散弾を叩き込んでやれ」
竜からは煙が出始めた。
しかし、それでもまだ上がり続ける。
部下が絶句し始める。
あまりの速さに。
あまりの高高度性能に。
あまりのタフさに。
あまりの気力に。

ワルドが部下に怒鳴る。
「なにをしている、散弾の数を増やせ!全力で落とすのだ!」
「子爵、まさかのことです…想定外のことです、あんな高さまで上がるなど竜、いや艦でさえもありえないことです!」
「だからどうしたというのだ!どんな高さでも構わん、叩き落せ!」
「それが無理なのです!この船は浮遊大陸アルビオンで使われていたもので、上から攻撃することはあれど、
あんな高さの敵に対処するなど全く想定していないのです!」
「…つまり、上は死角だと?」
「それだけではありません、武器庫、観測塔、そしてこの部屋も全て甲板の上にあるのです!
上から攻撃されては一たまりもありません!」
「なんという体たらくだ!」
ワルドは手直にあった机を蹴り倒す。
「…まずいです!あの竜が猛スピードで降下してきました!あのままいけば…武器庫です!」
「なぜピンポイントで武器庫が狙われるんだ!」
「武器庫は中からの事故の被害が抑えられるよう特殊な設計をしています、先ほど言ったとおり
上からの攻撃は想定していませんので、偽装もなにもしておりません、見る人によっては一目で看破され…」

『レキシントン』号の甲板上に爆音が響き渡った。








To Be Continued...

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