ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

味も見ておく使い魔 第三章-05

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匿名ユーザー

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タルブ村のはずれに立てられた僧廟。
背後に平原が広がる地点でその廟は建てられていた。
露伴には、廟というよりは何かの格納庫のように見えた。
夕日にぽつんと建てられたそれが、背後に長い影を作り出している。

「お年寄りの中には、ここにお参りをする人もいるんです」
そういったシエスタは、その前で手を合わせ、小さくお辞儀をした。
その後で、シエスタは露伴とコルベールはその建物の中に導いていった。

その中は暗く、広い一体型の部屋だった。
ようやく目が暗闇に慣れてきた露伴に、シエスタの声がかけられた。

「見てください。これが『竜の羽衣』です」

露伴は竜の羽衣を一目見て、圧倒された。
それは、かつて露伴がわざわざ米国のアリゾナまで取材に行った取材対象だった。
露伴は思わず口をぽかんと開けてしまった。
自分という例があるにもかかわらず。このようなモノがこの世界にあるなんて、
露伴はいままで思いついたこともなかった。

「あの、露伴さん。ひいおじいちゃんが言っていたことは、本当のことだったんで
 しょうか?」
露伴はそれには答えずにシエスタと向かい合い、小さくつぶやいた。


『ヘブンズ・ドアー』


「ああ、君は知っているはずだ。こいつの動かし方を……
 こいつがいたところの……ラバウル航空隊のベテラン操縦士なみにな……」

「……ええ、分かるわ……分かります! この復座零式艦戦の動かし方が!」
シエスタは大きく目を見開いた後、一筋の涙を流し始めた。
そして、急にはっとして、近くに立てられた黒い石碑に駆け寄り、そこに刻み付け
られた異国の白い文字を読み始めた。

「『海軍少尉 佐々木武雄 異界ニ眠ル』」
涙をこらえきれず、時折しゃっくりをしながらもシエスタは話を続ける。
「ひいおじいちゃんは、この文字が読める人に『竜の羽衣』を渡せといっていました」

露伴は、皮肉げに答えた。
「なら、この零戦は君のものだな、シエスタ」
「さては露伴、おめーはこーいった空気が苦手だn……」
デルフリンガーの刀身が、完全に鞘の中に押し込まれた。

「あと、ひいおじいちゃんは『陛下』にお返しくださいとも……
 露伴さん、陛下とは誰のことでしょうか?」
「昭和天皇のことだな。残念だが、その人は死んでいるよ」
「テンノウ? 何ですか?」
「いろいろとめんどくさいんで説明は省くが、ハイパーな王様みたいなもんだ。
 ま、きみは気にせずこの零戦を持っているといい。そして僕に取材させてくれ。
 重要なのはそっちだ」
しばらくの静寂の中。
そこには、草原を走る風の音と、しゃくりあげる少女の泣き声のみが響き渡っていた。

その静けさを破るように、とある男が声を上げる。
コルベールの我慢が限界に達したようだ。
彼は自分の研究欲の突き動かすままになっている。
「どうかね。ミスタ・露伴」
「これは、僕の国の戦闘機だ。戦うための武器だ。名を零式艦上戦闘機という。
 何故か復座式……つまりは二人乗れるように改造されているが」
「で、飛べるのかね?」

「それなんだが……微妙だな。まず、燃料がまったく足りないと思う。シエスタの
 話だと、彼女の曽祖父は、ここの世界には飛行してきたそうだからな。ガソリン
 はないものと考えていいだろう」
そういいながら、露伴は機体の発動機後部あたりを探り、胴体内燃料タンクの残量
を調べた。彼の思ったとおり、そこにはほとんど燃料がない。
「やはり、ガソリンがないようだな。これでは飛ぶことはできないぞ」

「『がそりん』とはなんだね? それがあれば飛翔できるのかな?」
「どうかな。ともかく、ガソリンがないと絶対に飛べない。コルベール、そのビン
 の中に入ったやつを大量に作り出せるか?」
露伴はタンクの吸入口に残ったガソリンを、露伴が取材用に持っていた小瓶にとり、
コルベールに放り投げた。
コルベールはそれを両手で受け取り、中の液体を、興味深く臭いをかいでみていた。
「やってみよう……ふむ……ずいぶんと揮発性の高い油だな、これは」

露伴は、ガス欠とは別の、ある懸念があった。
「問題なのは、この機体が壊れていないかどうか、僕達には分からないことだ。もし
 壊れていたら、ガソリンを入れても動かない」
「それはどうしたら分かるのかね?」
露伴はそれには即答せず、考え事をしながら、手に持った刀を鞘から半分引き抜いた。
「う~ん……おい、デルフ。お前、なんか良いアイデアないか?」
「わかんねーけど。そうだ。おい、露伴よぉ。これをブチャラティに触れさせればい
 いじゃねーか?」
「どういうことだ? デルフ?」
「一応こいつも『武器』だろ? こいつをガンダールヴに触らせれば、詳細が分かる」
「そうか、そうなると、これをトリステイン学院に運ぶ必要が出てくるな……」
深刻な顔をして考え込むコルベールに、シエスタが意外な助け舟を出した。
「ああ、それでしたら。ひょっとして村の人達に協力をお願いできるかもしれないです」
「どういうことです?」

「実は、タルブの村に困りごとがあるらしくて……なんでもメイジの方にしか解決
 できないそうです。その頼みごとを解決したら、村の皆さんも協力してくれると
 思います」

「どうする? 僕は限りなく面倒くさいと思うんだが」
「まあ、ミスタ・露伴。そう言わず、彼らの話だけでも聞いてみましょう」

「じゃあ、ちょっとここで待っていてください! お父さん……タルブ村の村長を
 こちらまでつれてきます」
シエスタはそういいながら、駆け足でその廟を出て行った。
彼女の背中が夕日に照らされ、彼女の身体が金色の草原に囲まれている。

廟の外にひろがる平原を、風が音を立てて通り過ぎていく。

シエスタ駆け去ってしばらくして、露伴が口を開いた。
「しかし、コルベール。僕がシエスタに『天国の扉』を仕掛けたとき、君はまったく
 動じなかったな」
「フフフ、私にもようやく君の性格が分かってきましてね。君は、マンガの取材に
 関しては多少善悪の判断を履き違えるようだが、それ以外では君はかなり善良な
 人間だ。結構、君は正義に熱い人間だと私は見受けましたぞ」
コルベールが微笑みながら答える。だが、彼の目はあくまでも零戦に向けられたままだ。

露伴はそれを聞いて、文字通り爆笑した。
「はあ? きいたかデルフ? 僕が正義に熱いんだってよ! 笑わせるな」
「ここは黙秘を貫かせてもらうぜ……」
とたんに露伴の顔が険しくなる。彼の眉間には、皺が三本も形成されている。
「デルフ……今度お前を擬人化した挙句、萌えキャラ化して僕のマンガに出すぞ」
「……お前ェさんは『吐き気をもよおす邪悪』です、ハイ」

コルベールと露伴。そして一振りの刀。
彼らの間には、奇妙な感情(友情とでも言うのであろうか?)が芽生え始めていた。
その行く末を暗示するかのように、タルブ村の草原の草達が、金色の波を形成していた。

To Be Continued...


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