ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ねことダメなまほうつかい-3

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匿名ユーザー

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 ルイズとギーシュの目的地であるアルビオン王国は空にふわふわ浮かんだとても大きな島にあります。
 どのくらい大きいのかというと、ルイズたちの国の半分くらいの大きさです。
 この島はアルビオン王国にちなんで浮遊大陸アルビオンとも呼ばれています。
 この大きな島は雲より高く浮かんでいますので馬では決していけません。
 まずふたりは船に乗るためにラ・ロシェールという小さな港町に向かうことにしました。
 その小さな港町は谷にかこまれた山の中にあります。
 どうして、ラ・ロシェールは山の中にあるのに港町と呼ばれているのでしょうか?
 その理由は町にある天をつくようなとてもとても大きな木にありました。
 この大きな木はいまでは枯れてしまっているのですが、その木の大きな枝に空を飛ぶ船がとまるからです。
 空を飛んでも船は船です。
 こういった理由でラ・ロシェールの港町と呼ばれているのでした。
 ふたりと猫草は夜遅く、へとへとになりながらラ・ロシェールに辿りつきました。
 猫草はルイズのかばんの中にいたので疲れてはいませんが、馬にゆられて気分が悪くなっていました。
 ギーシュの使い魔のヴェルダンデは馬に乗れないので、仕方なく学院でおるすばんです。
 学院からラ・ロシェールまでは馬でも二日はかかります。
 アルビオン王国のある大きな島はふわふわと風にゆられて動いていて、ルイズたちが出発した日の二日後にいちばんこの国に近づきます。
 その日はスヴェルの月夜と呼ばれ、その日以外はよほどのことがなければ船は出港しません。
 では、どうしてルイズたちはへとへとになりながらも、たった一日でラ・ロシェールの港町に辿りついたのでしょうか?
 その理由はもうひとりの同行者にありました。

「それでは、わたしは船の交渉に行って参りますので宿のほうをお願いします」
「え、ええ、お願いするわねアニエス」

 このアニエスという女性は平民なので魔法はつかえませんが、そのかわりに剣と銃をうまく使い、
 戦場でたくさんの手柄をあげてメイジ殺しとまで呼ばれるようになりました。
 メイジというのは貴族のような魔法を使う人たちの別の呼び方です。
 そして、その活躍がマザリーニ枢機卿の目にとまり、これまでの功績を称えてシュバリエの称号と、
 なんと特別に旧レベル1のポージングを与えられました。
 こうしてアニエスは貴族の仲間入りを果たしたのです。
 そのアニエスがルイズたちといっしょにアルビオン王国へ向かうことになったのには理由があります。
 ワルド子爵は閃光の二つ名を持ち風を自在に操る高貴なる魔法使いで、アルビオン王国の地理にも詳しかったのですが、ざんねんなことに彼は裏切り者でした。
 アンリエッタ姫の護衛として学院を訪れていた貴族の中に、アルビオン王国の地理に詳しくて戦場の経験が豊富なのはワルド子爵の他にはアニエスしかいなかったのです。
 なによりも、彼女がマザリーニ枢機卿から信頼を受けていることが大きな理由になりました。
 その彼女がゆっくり行こうとしたルイズたちに、行く道に起こりうるトラブルを避けて船の手配を迅速に行うべきだと進言しました。
 ですが、ルイズたちは急いでもあまり意味がないといいます。
 渋るルイズたちにアニエスは、安い宿に泊まるよりもちゃんとしたところでゆっくりとからだを休めてからアルビオン王国に向かったほうがいいと答えました。
 それを聞いたルイズたちはアニエスのいうことはもっともだとうなずきます。
 ルイズたちは貴族なのであまり変な宿には泊まりたくなかったのです。
 それからラ・ロシェールまでの道のりでルイズたちは地獄を見ました。
 ハサミを持った老婆に追いかけられてトイレに逃げこんだ男のような恐怖を味わったのです。
 そんなことがあったのでルイズとギーシュはすこしでもはやく休もうと宿を探しました。
 そしてふたりはラ・ロシェールで一番上等な宿、女神の杵亭を探しあてて中に入っていきます。

「いよぉールイズ!待ちくたびれたぜ!!」

 ルイズたちが宿に入ると見知らぬ男性に声をかけられました。
 その男性は燃えるような赤い髪を肩で切りそろえ、いくつにも結ったとても奇妙な髪型をしていました。
 肌の色は褐色で、シャツの胸元を大きく開いてたくましい胸板を覗かせています。
 じつに男らしい顔立ちをしているのですが、なぜかルイズと同じかたちの短いスカートをはいています。
 黒いマントを羽織っているので貴族なのでしょうが、ルイズに変質者の知り合いなんていません。
 ですが、ルイズは目の前の男性をどこかで見たような気がします。
 なんとか思いだそうとしましたが、どうしても思いだせません。
 ルイズは失礼だと思いましたが男性に名前をたずねることにしました。

「すいません、どうしても思いだせなくて…もう一度お名前をお聞かせ願えませんか?」
「ったくしょーがねーな、いっぺんしか言わねーからな!
 アタシの名前は、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーだ!
 忘れるんじゃあねーぜ!」

 ルイズと、そしてギーシュもキュルケという人のことはとてもよく知っています。
 両手の指では足りないくらいのたくさんの恋人がいて、火の系統のトライアングルクラスの優秀な魔法使いということだって知っています。
 なにしろ自分たちの同級生なのですから知っていて当然です。
 ですから、目の前の男性が自分はキュルケだと言っても信じることができませんでした。
 どうしたものかと困ってしまったルイズとギーシュを一人の少女が助けました。
 透き通るような青い髪を短めにそろえて、自分よりも大きな杖を持った彼女の名前はタバサといいます。
 彼女は風のトライアングルクラスの優秀な魔法使いなのですが、学院のだれとも親しくありません。
 彼女はあまり人と話そうとはしませんでしたし、だれかが話しかけても無視をしてしまうからです。
 ですが、一人だけ友だちといえる生徒がいました。
 それがキュルケです。
 タバサは男性を指さしてキュルケと答えました。
 ですが、ルイズとギーシュは納得がいきませんので、どうしてキュルケがこんなことになったのか
 タバサに聞きました。
 彼女がいうには、どうやら召喚の儀式の日のすぐ後にキュルケは実家に呼び出されたそうです。
 ルイズも、なにかにつけて自分をからかうキュルケの姿をその日以来見ていなかったことに気づきました。
 猫草との生活が楽しくて彼女のことをすっかり忘れていたのです。
 そして、実家から帰ってきたらこうなっていたそうです。
 ルイズとキュルケの実家は仲が悪く、ルイズも彼女のことがあまり好きではありません。
 ですが、ほんの少しだけ彼女の才能と自由気ままに生きる姿にあこがれてもいました。
 そんなキュルケの変わり果てた姿を見てなんとかしてあげたいと思い、タバサにたずねました。
 そして、彼女は一言だけ呟きました。

「手遅れ」

 ルイズはそれ以上聞こうとはしませんでした。
 とても悲しいのですが、その言葉だけで充分だったです。
 ですから、まだ少しだけ信じられませんでしたが、目の前の男性をキュルケだとみとめました。
 ルイズはキュルケにどうしてラ・ロシェールで自分を待っていたのか聞きました。
 アンリエッタ姫からの秘密の任務はだれも知らないはずなのです。
 キュルケは男らしく笑って答えました。

「そりゃーお前、夜中にお前の部屋にノックしてもしも~し!ってお姫さんが来て、
 昔の恋人の話しを大声で言ってたり、杖にかけて!なんてーのが聞こえてきたんだぜ。
 こんなオモシロソーなことをアタシがほっとくわけねーだろーが」
「ぜ、全部知ってるのね…」

 キュルケの部屋はルイズの部屋のとなりにあるのです。
 ルイズはアンリエッタ姫と大声ではなしていたので、聞こえてしまっても仕方がありませんでした。
 ルイズとギーシュはあたまをかかえました。
 そうして、ふたりがあたまをかかえていると外が騒がしくなりました。
 ふたりは新手のレコン・キスタが現れたと思い、杖をかまえます。
 ですが、宿の扉をくぐってきたのは学院の教師であるギトーとたくさんの男子生徒でした。
 それを見ておどろいたルイズとギーシュはどうしてここにいるのかギトーにたずねました。
 理由はかんたんでした。
 たくさんのえらい貴族たちが新レベル4のポージングで旅立つふたりを見送ったので、
 それを見ていた学院中の生徒たちは、ルイズとギーシュがアンリエッタ姫からなにか任務を賜ったことを知ってしまいました。
 ですから、男子生徒がアンリエッタ姫のお役に立ちたいと思って次々学院を出ていくので、
 生徒だけに任せておけないと思ったギトーが教師を代表して彼らを引率してやってきたというのです。
 ルイズとギーシュがガックリと肩を落としていると、アニエスが戻ってきました。
 たくさんの生徒たちにおどろくアニエスにふたりは事情をはなして泣きつきました。

「アニエス!みんなを何とかして!!」
「こうなってしまってはどうにもなりません。むしろ、戦力が増えた事を喜びましょう」

 アニエスとギトーが戦いについて楽しそうに意見を交わしあい、変わり果てた姿のキュルケを見て、
 それでも口説こうとする勇気ある男子生徒たちを彼女はあしらいます。
 それをタバサが醒めた目で見ながら、猫草の手が届かないところに鳥肉を置いて遊んでいます。
 ほかの生徒たちはポージングの練習をしながら任務の成功を祈りなんども乾杯をくりかえします。
 たくさんの生徒が楽しそうに賑わうのを見ながらルイズとギーシュは、もうどうにでもなれと思いました。

 翌日の夜、猫草がルイズの泊まっている部屋で寝ているとだれかがやってきました。

「ニャ?」

 猫草は起きようかと思いましたが知っているニンゲンでしたので、起きるのをやめました。
 猫草は草なので暗いと眠くって仕方がないのです。
 そのニンゲンは猫草を抱きかかえると、そのままふかふかのベッドに横になってころがりはじめました。
 とても嬉しそうにごろごろごろごろところがり、にゃ~んにゃ~んと笑います。
 猫草はちょっとだけうっとおしいと思いましたが、ふかふかのなにかが顔にあたって気持ちがいいのでやっぱり起きるのをやめました。

「ミス・ヴァリエール、そろそろ食事の時間だよ」

 偶然ルイズの部屋の前を通りかかり、部屋の中から笑い声が聞こえるので、その声をルイズだと思ったギーシュは彼女にラ・ロシェールでの最後の食事がはじまることを知らせようと扉を叩きます。
 ですが、なにかに夢中になっているのか返事はありません。
 そして部屋の鍵が壊されているのを見て、部屋に泥棒がいるのかと思ったギーシュはそっと扉を開けて部屋を覗き込みました。
 ギーシュは部屋の扉の隙間から猫草を抱きしめながらベッドに転がり、顔をふにゃふにゃに緩ませてにゃ~んにゃ~んと楽しそうに笑うアニエスを見てしまいました。
 ギーシュは変わり果てた姿のキュルケを見たとき以上の衝撃を受けました。
 とてもおそろしい、あってはならない光景です。
 ギーシュはなにも見なかったことにして部屋の扉をそっと閉めました。
 そうして食堂に向かう途中で鳥肉をのせたお皿を持つルイズに出会ってしまいました。
 猫草にエサをあげるのでしょうが、このままでは間違いなくアニエスのアレを見てしまいます。
 こんな思いをするのは自分だけいいとギーシュは思いました。
 なにがなんでもルイズを食いとめなければなりません。
 ギーシュはここが正念場と覚悟を決めたそのとき、階下から悲鳴が聞こえてきました。

「敵襲です!ふたりとも自分の荷物を持ってください!」

 いつの間にかルイズとギーシュの荷物を持ち、猫草を抱えたアニエスが後ろに立っていました。
 ギーシュは引きつった笑みを浮かべながら荷物を受け取り、ルイズもアニエスからまずは荷物を渡されて、次に猫草を受け取ります。
 アニエスはなごりおしそうに猫草をルイズに渡しました。
 ルイズたちは猫草の作った空気の球に守られながら食堂に下りて生徒たちに合流します。
 食堂は戦場のようになっていました。
 石のテーブルを盾にしながらタバサやギトーが風を使って飛んでくる矢をそらし、ほかの生徒が魔法で応戦しています。
 敵は宿の入り口で待ちかまえ、魔法の届かないところから弓矢で攻撃をしてきます。
 魔法をまったく使ってこないので相手はおそらく傭兵だとギトーはいいました。
 傭兵たちは魔法使いとの戦いに慣れていましたが、これだけの魔法使いが相手とは雇い主から聞いていませんでした。

「接近戦の得意な者はぼくに続けェッ!」

 メガネをかけた生徒が杖を剣のように持ち、傭兵たちに飛びこんでいきます。
 そのすぐ後を一人の生徒が豪快な雄たけびをあげてに突撃します。
 彼はあのキュルケを口説こうとしていた命知らずの一人でした。
 そして、太っちょの生徒が薄笑いを浮かべながら後を追います。
 彼らに負けじとほかの生徒たちも次々と傭兵に襲いかかりました。
 みんな接近戦が得意なのでした。
 最初に傭兵に向かっていった彼らの名前は、レイナール、ギムリ、マリコルヌといいます。
 彼らは後にギーシュが隊長を務めることになる水精霊騎士隊に参加することになります。
 ルイズとギーシュも戦いに参加しようとしましたが、ギトーがそれをとめました。

「きみたちふたりには大切な任務があるのだろう?ここは私たちに任せたまえ。
 ミスツェルプストーとミス・タバサは彼らを守ってやってくれ」

 そういうとギトーは服を脱ぎ、鍛えあげた肉体を誇らしげに見せながら突撃していきました。
 ほれぼれするようなその肉体美はやはり風が最強の由縁なのでしょう。
 ギーシュはアニエスが顔を赤らめているのを見てしまいましたが、気のせいにしておきました。
 ルイズたちはこの場をギトーたちに任せて裏口から桟橋へと向かいました。

「見ろよ!船は無事だぜ!」

 キュルケがそう叫び、ルイズは空を見上げます。
 月明かりに照らされた大きな木に木の実のように船がぶらさがっていました。
 アニエスを先頭に、キュルケ、ルイズ、ギーシュと続き、タバサが後ろを守りながら大きな木の中に作られた階段をのぼっていきます。
 ギーシュは薔薇の造花をつけた自分の杖から花びらを一枚取ると、それをルイズにそっとつけました。
 この一枚の花びらがルイズを救うことになります。
 ルイズたちはひたすら階段をのぼります。
 そうして船のある枝に辿りつくと。一人の人物が待ち受けていました。
 はね帽子をかぶり、グリフォンの刺繍が縫いつけられたマントを羽織ったその人物は、
 アンリエッタ姫を裏切り、猫草によって吹っ飛ばされたワルド子爵でした。


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