ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ねことダメなまほうつかい-1

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匿名ユーザー

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 むかしむかしのお話です。
 ある国に貴族なのに魔法がまったくつかえないルイズという少女がいました。
 たくさん勉強してたくさん練習しても、いつもいつも失敗ばかりです。
 そんな彼女ですが今日ばかりは失敗するわけにはいきません。
 今日は一生を共にする使い魔を呼び出す大切な儀式の日なのです。

「それではミス・ヴァリエール」
「は、はいっ!」

 ルイズは胸を張って前に進み、右脳を左回転、左脳を右回転させて
 脳幹に生じる小宇宙的な精神力をのせた強力な呪文を高らかに唱えました。
 その威力はすさまじく、地面に隕石がぶつかったような大きな穴を開け、
 広場は戦場跡のような焼け野原になってしまいました。
 これにはいつもルイズをからかっている生徒たちもびっくりです。

「と…とんでもない威力だ」
「これじゃあ呼ばれた使い魔も死んでるんじゃないか?」

 まわりの生徒がざわめくなかで、ルイズはじっと土煙の向こうを見ていました。
 そのこころは不安でいっぱいです。
 やがて煙が晴れてルイズは爆心地の中心になにかを見つけました。
 それは麻袋の上でのんきに昼寝をする一匹の猫でした。

「ルイズが魔法に成功したぞ!」
「この状況で昼寝するとは図太い猫だぜ」

 ルイズは嬉しさのあまり、ひとつ歌でも歌いたい気分になりましたが
 それをぐっと抑え、猫に近づいて契約の口づけをしました。

「フギャアァーー!!」
「こ、こら!暴れないの!」

 ルーンが刻まれる痛みに暴れる猫をルイズはぎゅっと抱きしめました。
 猫のからだを穴だらけにしてしまうぐらい、ぎゅっと抱きしめました。
 猫が爪でひっかきますがそれでも離しません。
 やがて猫も諦めたのか口から泡を吹いてぐったりとしました。 

「ふむ、珍しいルーンだな」

 猫に刻まれたルーンを霞のような目をした教師がメモに書き留めて
 そのあとに生徒たちに解散を命じました。
 ルイズはウキウキ気分で痙攣する猫を抱きかかえ、いっしょに呼び出された
 麻袋を引きずりながら寮へと戻っていきました。

「アンタの名前も決めなくっちゃね」

 気絶したように眠っている猫をお気に入りのクッションの上にのせて
 小さなタオルをかけながらルイズはそう呟きました。
 そして自分も寝巻きに着替えようと服を脱いだところで麻袋が目に入りました。

「そういえば、これって何がはいってるのかしら」

 麻袋を開けてみると手のひらくらいの丸いものがたくさん入っていました。
 芽が出ているので植物なのでしょうが、ルイズは見たことがありません。
 一番上の姉がアカデミーという魔法の研究所ではたらいていることを思い出し、
 ルイズはこのふしぎな植物を調べてもらおうと手紙を書いてから眠りにつきました。
 今日はいい夢が見られそうです。

 翌日、ルイズは教室の掃除をしていました。
 授業でまたもや失敗してしまったからです。
 以前なら敗北感でこころがいっぱいになるのですが、今日のルイズはちがいます。
 たったひとつ成功した魔法が目の前にあるからです。
 主人が掃除をしているのに、使い魔の猫はぐうぐう寝ていましたがルイズは気にしません。
 使い魔を見ているだけでこころの底から希望とやる気がムンムンわいてくるのです。
 ルイズはあっというまに教室を片付け、寝ている猫を抱きかかえて中庭に向かいました。

 中庭では生徒たちがお茶を飲みながら歓談に花を咲かせていました。
 その中でも薔薇の造花を持った少年がとても目立っています。

「なあギーシュ!お前、今は誰とつきあってるんだよ!」
「つきあう?僕にそのような特定の女性はいないのだよ」

 あれやこれやと話しかける級友の相手をするギーシュという少年は、カッコつけながら
 背中にベットリとした汗をかいていました。
 その理由はふたつあります。
 ひとつは、彼は同級生と下級生のふたりの少女とつきあっているのです。
 絶対にバレるわけにはいきません。
 もうひとつは、同級生からもらった香水を地面に落としているのです。
 そして、下級生の少女がこちらに向かっているのが見えます。
 いまの彼は、吸血鬼を騙そうと死んだふりをする老けた学生のような心境です。
 この状況をなんとかしたいのですが迂闊なことをすれば級友にバレてしまいます。
 そんな絶体絶命のピンチを救ったのは一匹の猫でした。

「ニャ?」

 その猫はきらきら光る香水のびんを珍しそうに前足で転がします。
 そして、ぺしぺし叩いて草むらへ運んでいきました。
 それを見たギーシュは胸を撫で下ろして、下級生の少女にこころの中で詫びながら
 猫のあとを追ってその場を立ち去りました。

「さあ猫くんこれを食べたまえ。僕からのお礼だよ」
「ニャオ」

 ギーシュはさっきのお礼としてさかなを猫へ与えました。
 猫は警戒しながらくんくんとさかなの臭いをかいでから、ぱくぱくと食べはじめました。
 おなかが減っていたのでしょう、すぐにさかなを食べ終わるとどこかへ行ってしまいました。
 ギーシュが猫の後姿を見ていると、手にお皿を持ったルイズがやってきました。

「ねえギーシュ、猫を見なかった?わたしの使い魔なんだけど」
「君の使い魔かわからないが、猫ならヴェストリの広場の方へ歩いていったよ」

 ルイズはありがとうと言ってヴェストリの広場へ駆けていきました。
 ギーシュも中庭に戻ろうとしてふと立ち止まりました。
 あの意地っ張りでいつも怒っているルイズがお礼を言ったのです。 
 珍しいこともあるものだとギーシュは思いました。
 それから中庭に戻り、二股がバレて枕を涙で濡らしました。

 猫を使い魔にしてからルイズは悩まされていました。
 なぜなら毎朝目が覚めると枕元にゴキブリやらネズミやらの死骸が置かれているのです。
 犯人はもちろん猫です。
 ルイズも猫とはそういうものだと二番目の姉に教わっていたので怒ることができません。
 ですが、今日はちがいました。
 いつものように枕元にはネズミが置かれていました。
 ただし、今日は半分生きていて半分死んでいる状態です。
 しかもそのネズミは学院長の使い魔なのです。
 ルイズは大慌てで学院長にあやまりに行きました。
 学院長は引きつった笑みを浮かべながらもルイズを許してくれました。
 ルイズは二度とこんな事がないように猫を叱りました。

「白いネズミはとっちゃダメ!それから今日はごはん抜き!」

 叱られた猫はしょんぼりしながらどこかへ行ってしまいました。
 ルイズはそれを見てちょっと言い過ぎたかなと思いました。

「どこにいるの~?返事くらいしなさ~い!」

 ルイズはお昼ごはんを食べたあと、さかながたくさん盛られたお皿を持って
 あちこちをさまよっていました。
 授業中に、猫が獲物を持ってくるのは自分を褒めて貰いたいからということを
 二番目の姉が言っていたのを思い出したからです。
 罰は朝ごはんを食べさせなかったことで終わらせて、お昼ごはんをいっぱい
 食べさせてあげようと猫を探しているのですが見つかりません。

「どこにいったのかしら?そうだわ、またあそこかも」

 猫がヴェストリの広場で唯一、日当たりの良い石の上で寝るのが好きなことを
 思いだして広場へと向かいました。
 思ったとおり、猫は石の上でぐでんと横になって寝ていました。
 ルイズはご主人さまとしての威厳を取り繕いながら猫に近づいていきました。
 ふだんなら猫は誰かが近づくとすぐに起きるのですが、今日はなかなか起きません。
 ルイズはおなかがすいているからだと思うと同時に、奇妙な違和感を感じました。
 猫が寝ている石はあんなに赤かったのでしょうか?
 なぜ猫はすぐ近くまで寄っても起きないのでしょうか?

「うそよ…こんなことって」

 猫は喉をぱっくりと切り裂かれて死んでいました。
 落としたお皿が割れた音で我に返ったルイズは、猫を抱きかかえると慌てて医務室へと走りました。
 ですが、いくら魔法でも死んだものを生き返らせることはできません。
 ルイズはわんわん泣きました。
 ルイズは朝のことをとても後悔しましたが猫はもう戻ってきません。
 ルイズは悔やんでも悔やみきれずに泣きつづけました。
 そうして泣いているといつの間にかギーシュが傍にいました。

「ミス・ヴァリエール、使い魔をなくした君の気持ちはぼくにもわかる。
 だが、彼をいつまでも放って置くわけにはいかない。ちゃんと弔ってあげよう」

 ルイズとギーシュはヴェストリの広場の隅に猫を埋めてあげました。
 猫が好きだった場所です。
 ルイズはさかなを、ギーシュは薔薇をたくさんお墓に供えてあげました。
 その夜、空も猫の死を悲しむようにしとしとと雨が降りました。

 翌朝、ルイズははじめて授業を休みました。
 ですが、授業を休んでも自分の部屋には居られませんでした。
 ほんの短い間でしたが猫とすごした日々を思い出してしまうからです。
 そうして俯きながらとぼとぼ歩いていると、男子生徒の会話が耳に入りました。

「昨日は傑作だったな!」
「ゼロのルイズに使い魔はもったいねぇよ!」

 ふたりの会話を聞いてルイズはさらに落ち込みました。
 自分に呼び出されたから猫は死んでしまったのだと、自分を責めたてました。
 ですが、男子生徒の次の言葉を聞いた瞬間、ルイズの中でなにかが切れました。

「でもよぉ、魔法の試し打ちにはちょうど良かったぜ!」

 誰かに羽交い絞めにされてルイズは我に返りました。
 まわりを見渡すと木が薙ぎ倒され、そこかしこに穴が空いていました。
 ルイズを止めたのは偶然通りかかったギーシュでした。

「ルイズどうしたんだね?!わけを話すんだ!」
「あのふたりが!あいつらがっ!」

 ノッポとデブと呼ばれているふたりの生徒を指差しながらルイズは叫びました。
 ギーシュも彼らが素行不良なことを知っていましたが、とても信じられません。
 なぜなら彼らも使い魔を先日呼び出したからです。
 他人の、ゼロのルイズの使い魔とはいえ殺したとは考えられませんでした。 

「テメエにゃ使い魔なんざ必要ねぇだろ!」
「俺たちに感謝するんだな、ゼロに仕える可哀想な使い魔を天国に送ってやったんだからな!」

 ノッポとデブはルイズを指差してギャハハと笑いました。
 怒りと悔しさで顔をクシャクシャにしながらルイズは叫びます。
 ギーシュも怒りを堪えられませんでした。

「けっ決闘よ!!」
「広場へ来な……ひさしぶりに…ブチ切れちまったよ…」

 広場にはたくさんの生徒が集まりました。
 ただし、それは決闘を見物しに来たのではありません。
 一心同体である使い魔を愛さない貴族はこの学院にはいません。
 広場に集まった生徒はみんな、ルイズとギーシュが負けてしまったら
 次にノッポとデブに決闘を申し込むために集まったのです。

「オラどうした!口先だけのキザ野朗!!」
「テメエらも使い魔といっしょにおネンネするか!」

 ノッポとデブはラインクラスでした。
 ドットのギーシュとゼロのルイズでは勝ち目がりません。
 ルイズは悔しくて泣きそうになりましたが、歯を食いしばって涙をこらえました。
 ノッポとデブは自分たちが置かれている状況を知らずに勝ち誇りました。
 そして、デブがふたりをバカにしたように鼻をほじったそのときでした。

「ギャース!!」
「ギニャアァーー!!」

 咆哮と共に破裂音が聞こえて、デブの指が鼻の穴をつきぬけました。
 よく見ればデブの指がヘシ折れているのがわかります。
 なにが起こったのかわからずに生徒たちがおどろき、声のした方を振り向きました。

「な、なんだこれは?!」
「生き物なのか…?」

 そこにはだれも見たことがない、ふしぎな草が生えていました。
 信じられないことですが、ルイズとギーシュにはその草がなんなのかなんとなく理解できました。
 その草が生えている場所は、猫を埋めた場所なのです。

「こ、この!潰れちまえ!!」

 ノッポが放った風の槌がふしぎな草に襲いかかります。
 ですが、風の槌はふしぎな草に届くことはありませんでした。
 ノッポは様々な魔法を唱えますが、そのすべてがふしぎな草を避けるようにして
 外れてしまいます。

「ギニャアァーー!!」

 またもや破裂音がしてノッポは悲鳴を上げて倒れ、動かなくなりました。
 だれもが混乱する中でルイズはその草に近づき手を伸ばしました。
 あぶないとだれかが叫びましたが、なにも起こりません。

「猫…なの?わたしの…使い魔の…」
「ウニャ?」

 その草の喉らしきところを撫でてやると、ゴロゴロと気味の悪い音が鳴りました。
 ふしぎな草の左のはっぱを見ると、そこにはルーンが刻まれていました。
 間違いありません。
 この草は死んだはずのルイズの使い魔なのです。
 ルイズは嬉しくてわんわん泣きました。
 ギーシュも涙を浮かべて感動に浸っています。
 まわりの生徒もようやくなにが起こったのかわかりました。

「主人を守るために生き返るなんて信じられない!」
「あの猫…草?どっちでも良いが、使い魔の鑑だ!」
「ミス・ヴァリエールの思いが始祖に届いたんだ!」

 生徒たちは口々にルイズと使い魔を褒め称えて拍手を送ります。
 猫草はルイズに抱きしめられて、うっとおしそうに鼻を鳴らしました。
 しばらくして騒ぎを聞きつけた教師たちがやってきて、デブとノッポは医務室に運ばれました。
 生き返ったとはいえ、他人の使い魔を遊びで殺してしまったふたりは退学処分になりました。
 そして、ルイズとギーシュも貴族同士の決闘が禁じられているのも関わらず、
 決闘を挑んだ罰として、学院長から三日の謹慎を命じられました。
 ルイズは喜んでそれを受けました。
 なぜなら三日間ずっと使い魔といっしょに過ごせるからです。
 ルイズは鉢植えに植え替えた使い魔を抱えながら、ウキウキと学院長室を後にしました。
 その夜、ルイズは猫草をベッドの傍に置いて眠りにつきました。
 今日はいい夢が見れそうです。


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