ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの奇妙な白蛇 第11.4話

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匿名ユーザー

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「私は・・・・・・ゲルマニアの皇帝に嫁ぐ事になりました」
窓の外の赤い月を見るアンリエッタの瞳の色は、悲嘆に染まっている。
それだけで、彼女がこの結婚に対してどう思っているかが、痛い程にルイズは理解できた。
「アルビオンの革命が原因なのですね」
「えぇ、彼ら革命軍―――レコン・キスタは、今にも王家を倒し、国を乗っ取る勢いです。
 いいえ、もう、事実上は彼らが乗っ取っていると言っても良いでしょう。
 何せ、王国軍はほぼ壊滅状態で、ニューカッスルの城に篭城する事でなんとか生き延びているらしいですから」
敗北は時間の問題。
そして、その時間は限りなく短い。
「レコン・キスタは、全ての王権の廃止を謳っている以上、我々にも牙を剥く事になります。
 悲しい事に、その時、彼らの進攻を防げる力は我が国にありません。
 ですから・・・・・・トリステインは、ゲルマニアと早急に同盟を結ばなければなりません。
 ふふ、そのような悲しい眼をしないで、ルイズ。
 王族として生まれた以上、好きな人と結婚とする事など疾に諦めています」
「・・・・・・姫様」
「私が自分の心を殺せば、幾万の民の命が救えると言うのならば、喜んで私は自分の思いに杖を向けましょう。
 王の命は民の為にあるのですから」
儚げに微笑むアンリエッタに、胸を締め付けられるような感覚を覚えたルイズは、どうしても彼女に同情の気持ちを抱いてしまう。
他人から羨まれて仕方の無い王族と言う彼女の立場。
しかし、果たして其処に居る事は、今、目の前で幸せを捨て去るしかない少女が望んだモノだったのだろうか?
「トリステインとゲルマニアの同盟・・・・・・これが結ばれたとなると、レコン・キスタも容易に手出しを出来なくなるでしょう。
 ですが、向こうの者達も、それが分かっているらしく、私とゲルマニアの皇帝との婚約破棄の為の材料を血眼になって探しているようなのです」
アンリエッタは言葉を区切り、ルイズの眼を真正面から見据えた。
「私を悩ます原因は、この婚約破棄の原因となりえる物がある事です」
「原因となりえる物・・・・・・?」
「えぇ。私が以前、アルビオン王家・・・・・・ウェールズ皇太子に宛てた手紙。
 その手紙が、ゲルマニア皇室に届けられたなら、恐らく、同盟どころの話では無くなるでしょう」
ルイズは、男性としてとても魅力的な事で有名なウェールズ皇太子の名前とアンリエッタの言葉の端々に散りばめられた感情から、
その手紙とやらの内容が、恋文である事が予想できた。
なるほど、大方、遠距離恋愛の文通の中で、戯れに婚礼の言葉でも書いてしまったのだろう。
ブリミルの教えの中で、重婚は重い罪である。
明るみに出れば結婚どころでは無いと言ったのは、どうやら比喩では無いらしい。
アンリエッタは、自分の胸の内だけに秘めた事柄を発した事により、先程よりも幾分、顔から緊張が解けていた。
対して、ルイズの表情は固い。
次に、アンレエッタが言ってくる言葉が予想できた為にだ。
「ルイズ・・・・・・今日、貴方の部屋に訪れたのは、この事に関係しています。
 率直に言うと、貴方にはアルビオンに赴き、ウェールズ皇太子の下から手紙を回収してきて貰いたいのです」
心苦しそうに眼を伏せるアンリエッタに、ルイズは、ほらキタと、心の中で盛大に溜め息を吐いた。
「フーケ討伐の噂は、私の耳にも届いています。
 幾多のメイジが苦汁を舐めさせられたフーケを捕らえたと言う貴方を見込んで、頼みます、ルイズ」
たかだか『土』のトライアングルのメイジを捕らえただけの生徒に戦場に行って来いと言うのか、この姫様は。
ルイズは、そのあまりの常軌を逸脱した頼み事に、ただ呆れるしかなかった。
温室育ちだと思っていたが、ここまではとは。予想外にも程がある。
だが、幾ら予想外と言えど、友人の・・・・・・しかも国の最高権力者の娘である人の頼みを無碍に断るのは、貴族として如何なものか。
「一つ、聞きたい事があります」
これだけは聞いておかなければならない。
「敵の数は、如何ほどですか?」
「・・・・・・・・・・・・五万、と聞いています」
五万人もの有象無象の敵の中に、切り込む自分の姿をルイズは夢想して、そのあまりの実現の難しさに頭を抱えた。
(ホワイトスネイク、あんた、五万の人間に勝てると思う?)
どの道、城に近づくには包囲しているレコン・キスタと事を構えなければならない。
ならば、せめてどのくらいの確立で勝てるかを己の使い魔に問い掛けたルイズであったが―――
(勝利ヲ前提トシテ考エルトナルト、君ト私ノ力ヲ最大限活カシタトシテモ難シイダロウ。
 ダガ、手紙ノ回収ダケヲ目的トシ、敵陣ノ突破ダケヲ考慮スルノナラバ・・・・・・マァ、ナントカハナルダロウ)
(あんた、五万人をなんとか出来るって言うの?)
―――割りと出来そうなニュアンスの言葉を返してきたホワイトスネイクに、思わず聞き返してしまった。
(数ハ、私ニトッテ致命的ナ脅威トナルコトハ無イ)
自身ありげな態度の使い魔に、胡散臭そう、と言った感じの視線を向けてから、ルイズは、アンリエッタの海色の瞳を覗き込む。
淡い色合いをしているその瞳の奥は、友人を死地へと送る罪悪感からか、どんよりと曇っている。
「姫様」
「・・・・・・はい」
「微力ながら、ルイズ・フランソワーズは、全力を尽くして目的の物を回収し、姫様へ届ける事を、此処に誓います」
「―――ルイズ」
ありがとうと、口元を押さえ俯くアンリエッタを見ながら、ルイズは拳を握り締める。
少なくとも、自分を訪ね、迷いを打ち明けた“この少女”は友人だ。
友人であるならば、自分は全力をもって彼女の苦痛を和らげなければならない。
それが、友達と言う関係であるのだから。



「頼みましたよ。ルイズ。
 それから、これは王家に伝わる水のルビーです。
 お金に困った時には、どうぞ、これを売り払って旅の路銀にしてください」
頼み事が済んだアンリエッタは、自分の指から引き抜いた指輪を手渡すと、
ルイズに一礼をしてから部屋の扉を開け、出て行こうとしたが、どうしても足が動かない。
「姫様?」
怪訝な顔をしたルイズの声に、アンリエッタは、あぁ、と悲しげに呻いた後に、マントから丸められた羊皮紙を取り出した。
「国よりも我を通す私は、きっと王族になど生まれてきてはいけなかったのでしょう。
 ですが・・・・・・それでも、私は・・・・・・」
今にも泣き出しそうなぐらいに悲痛な呟きを漏らし、手紙をルイズの手に確りと握らせてから、アンリエッタは言葉を続ける。
「自分の気持ちに嘘をつけない・・・・・・こんな王女を、誰も許してくれないのでしょうね」
懺悔にも似た響きを持つ音に、ルイズは何も言えなかった。
いや、空気を読める者ならば、この時、誰も何も言えなかっただろう。


「だ、だ、だ、誰が許さなくても、僕が許します、このギーシュ・ド・グラモンが許します!!」


空気の読めない馬鹿一名は、声高々に反応した。
ルイズもアンリエッタも、突然現れた人物に驚いて固まってしまう。
そんな二人の様子など、もはや眼にも入っていないのか、
先程からずっと部屋の壁に耳を当てて話を聞いていたギーシュは、やれ、悩みなんて即座に解決してみせますとか、
レコン・キスタなんて、僕のワルキューレでこてんぱんにしてやりますとか、
あからさまに己が領分を履き違えた台詞を言いまくっていた。
なんとかアンリエッタより早く再起動をしたルイズは、目障りな金髪少年を連れて行くように、自分の使い魔に目配せすると、
ホワイトスネイクは、ギーシュの首根っこを掴んで、ずかずかと何処かへ去っていった。
最初は、放したまえ、とか、気安く触れるな、とか、強気な声が聞こえていたが、何かを殴るような音が廊下響いた後は、
勘弁してください、とか、もう許して、とか、実に情けない声に摩り替わっていた。
「あ、あの、ルイズ?」
「すっぱりきっぱり、今の事は忘れてくださいませ、姫様」
笑顔でそう言うルイズに、アンリエッタはこくこくと頷くと、
そのままフラフラと部屋からルイズの部屋を出て行った。
その後ろ姿を、ルイズはぼんやりと眺めていたが、
ギーシュをフルボッコにしたホワイトスネイクが帰ってくると、廊下と自室を隔てる扉を閉めるのだった。





早朝と言うのは、どうして、こうも気が滅入るのか。
才人は、そんなことを考えながら溜め息を吐いた。
「何、ぼさっとしてんのよ。さっさと付いて来なさい」
勝気で、傲慢で、可愛らしいご主人様は、朝も早くから元気一杯らしく、
まだ寝ている才人を蹴りの一撃で文字通り叩き起こしてから、
有無を言わせずに、剣を握らせて自分の後を付いて来るように言い放ったのだ。
ルイズと才人のどたばたに目覚めて、あからさまな不快感を隠さずにルイズを無言で見つめていたシエスタに、
出掛けて来る事を一応言っておいたが、あの顔はまったくもって納得していない顔であった。
帰ってきたら、多分、修羅場なんだろうなぁ、とか才人が考えている内に
ルイズは目的の場所に付いたのか、早足だった歩調を止めた。
そこは、寮の五階ある一室の前であった。
「タバサ、起きてる?」
こんこん、と軽くノックをしてから返事を待つルイズであったが、三秒後には扉を抉じ開ける。
「ちょっと、入るわよ~」
良いのかよ、とか才人は思ったが、意見を口に出したら返答は蹴りか裏拳なので、何も言わない。
と言うか、言えない。
「何、まだ寝てるの?」
ベッドの上、ルイズ達が入ってきた事も気付かず、すぅすぅと眠っているタバサは、
上等なピスクドールのように、生きている、と言う単語から掛け離れた可憐さを持っている。
密かに、起こさずにこのまま寝顔を鑑賞したいと変態チックな考えに浸っていた才人を尻目に、
ルイズはベッドの真横に立つと、そのまま軽くタバサの頭を小突いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・イタイ」
「起きたみたいね」
小突かれた頭を右手で押さえながら、タバサは恨めしそうに痛みの原因を作った人物を見たが、
そんな視線など気にもならないのか、ルイズはさっさと本題を口にする。
「あんたの使い魔。悪いけど、貸してくれない?」
あまりにもあまりな物言いに、流石のタバサも溜め息が口から出るのを止めることは出来なかった。



「アルビオン?」
「そう、急な用事でね」
自分の使い魔なのだから、どうして必要なのかを訊ねるタバサにぶっきらぼうに返答するルイズ。
その返答に、タバサは昨晩、彼女の部屋に王女が訪ねてきた事を思い出し、
恐らく国許からの頼まれた用事である事を看破したが、その内容までは流石の彼女も分からなかった。
「あんた相手に押し問答をする気も無いわ。
 貸すの? 貸さないの? どっち?」
人にモノを頼んでいると言うのに高圧的な態度を崩さないルイズに、タバサは母国の勝気な従姉妹を思い出したが、
すぐに今の状況とは関係ないと彼女の顔を頭から追い出す。
「早く返事しなさいよ。こちとら竜が借りられないなら、馬で出発なんだから」
苛立たしさげに口調を荒げるルイズを宥めようと才人が、まぁまぁと声を掛けるが、返答の裏拳で沈黙する。
ふんっ、と鼻息荒く裏拳を放った拳をプラプラとさせて殴った痛みを散らせているルイズに、
タバサはベッドから立ち上がり、枕元に置いてある自分の身の丈程もある杖を手に取った。
「何のつもりよ?」
「使い魔は一心同体」
だから、と続きを紡ぐタバサは、大きな杖を確りと構え淡々とした声で告げる―――
「私も同行する」
―――パジャマ姿で。
「・・・・・・どうかと思うわ」
本当に



緩やかとは掛け離れた風に身を委ねるタバサは、ルイズに注意された所為で、
パジャマでは無く学生の正装である制服姿となっている。
「うわっ! すげぇ! この竜すげぇ!!」
「五月蝿い!!」
背後の雑音に気を取られる事も無く、自分達を凄まじい勢いで運ぶ使い魔の首を撫でるタバサの顔は、睡眠不足の為か、幾分眠たそうであった。
「大丈夫、あんた?」
「問題無い」
普段通りの無愛想なタバサに、ルイズは、そう、と別段追求もせずに進行方向とは逆。
つまり、自分達が出発してきた学院の方へと視線を向ける。
「キュルケの奴・・・・・・どうしてるのかしらね?」
そういえば、あの赤毛の少女には何も言わずに出てきてしまった。
伝える義理が無いと言えば無いが、やはり友人に一言も無しに居なくなるのは、心苦しいものがある。
例え、それが伝えられないであろうものだとしてもだ。
「あんた、どう思う? キュルケが、今、何をしているかって」
ルイズの問い掛けに、タバサは暫く考え込むと、ルイズの方へと振り向き口を開く。
「怒っている」
「でしょうねぇ」
こりゃ、帰ったら大変ね、とルイズは頭を抱えるのだった。





ちなみに、同時刻。
もう出発したとも知らずに、ルイズ達を正門の前で待ち続けている、
髭を蓄えた凛々しい男が、何時まで経っても来ない彼女達に、ルイズと同じように頭を抱えているのは、
別にどうでも良い話だったりする。


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