ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの来訪者-38

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匿名ユーザー

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「はい?」
エレオノールの言葉に世にもマヌケな声をあげてしまう育郎。
「だから、私の胸をもうちょっと大きくできないか聞いてるのよ!」

エレオノールは、いわば才色兼備を地で行く女性である。
魔法の腕は言うに及ばず、学問を良く修め、若くしてアカデミーの研究者として
その非凡な才を発揮している。容姿に関しても、特殊な趣味の人間でもない限り、
彼女が美しくないと言う者はいないだろう。
無論、それは生まれついての才だけでなく、彼女自身の努力によるものも大きく、
それゆえに揺ぎ無い自信と誇りを培っていた。
だからこそ、とある事を成せぬ理由が

    『 結 婚 で き な い 』

のが何故か、彼女にはわからなかった。
ただ単に性格が半端なくきついからだけなのだが、残念ながら彼女はその事に
気付いていない。
己を完璧とまでは言わずとも、そこらの淑女になど劣らぬという自負もある
エレオノールにとって、同年代の友人たちが次々と結婚していくなか、一人
取り残されるという現状は耐え難いものであった。
そんなエレオノールであるが、唯一つ、己自身欠点と認めている部分があった。

胸が小さい事である。

どっちかというと、胸がないと言った方が正しい。
となれば、『胸を大きくして』と言うよりも『胸をあるようにしてほしい』と
言う方が正しい表現な気もするが、どうでも良い事なので放っておこう。
と言う事で、バーガンディ伯爵との婚約を解消されたエレオノール嬢にとって、
婚約解消の原因、とまではいわずとも、この…機能的な胸がもうちょっとこう…
なんとかなっていたら、なんとかなったのではないかなぁ、そう考えたのである。
もちろん彼女自身も努力をしなかったわけではない。数々の豊胸グッズや
民間治療?を試してきたのだが…当然の事ながら失敗を積み重ねていた。
さすがのエレオノールも諦めかけていたその時、彼女の目の前に長年身体の
弱かった妹を、非常識なまでに健康にした医者が現れたのである。
この男ならなんとかしてくれるのではないかと、一縷の希望を胸に秘め、
婚約解消の傷心の中、エレオノールは恥を忍んで、忍びきれないので酒の力で
勢いをつけて育郎の部屋までやってきたのである。

「あの…そういうのはちょっと…」
が、即座にその希望は潰えた。
「う、嘘おっしゃい!この私の言う事が聞けないって言うの!?」
エレオノールが赤い顔をさらに真っ赤にして育郎につかみかかる。
「別にカトレアぐらいにしろって言ってるわけじゃないのよ!?
 ちょっと!ほんのちょっとでいいから!」
「お、落ち着いてくださいエレオノールさん!
 ほら、随分と飲んでるみたいですし」
「それがどうしたのよ!?しらふでこんな事頼めるわきゃないでしょ!」

「むう、やはり駄目だったか…」
扉の前で聞き耳を立てていたヴァリエール公爵が、エレオノールの大声に思わず
そう呟いてしまう。一瞬『やはり』とか考えるのは親として如何な物か?
と思ったが、それは平民が貴族に言い寄られて恐れ多いから、と無理やり
思うことにする。
「さて、どうするか」
このまま部屋に入っては、下手をすればプライドを傷つけられたエレオノールが
あの平民の首の一つでもしめている光景を拝む事になりかねない。そうなれば
責任をとらすどころか、我が娘の凶行を必死で止めねばならなくなる。
となれば暫く様子をうかがう方が良いだろう。もしかすると耐えられず部屋から
逃げ出す平民を捕らえる事ができるかも知れない、そうなればこっちのものだ、
無理やり責任を取らせばよい。
しかし問題がないわけではない。
下手をすればエレオノールが怒りのあまり、あの平民を半殺しどころか全殺しに
してしまう可能性も否定できないのだ。
「まあ、その時は無かった事にするか」

「落ち着きましたか?」
育郎はつかみかかるエレオノールを、なんとかなだめて、椅子に座らせることに
成功させていた。
「ええ、落ち着いたわ。だからどうして私の頼みが聞けないか答えなさい」
「いや…そんなこと言われても」
むしろどうして自分が胸を大きくできると確信しているのか、逆に聞きたい
ぐらいなのだ。そんな事言われても困る。
「言えないなら私の胸を大きくしなさい」
「………」
どうやら酔いと執念とか渇望とか、なんかそんな物が混ざり合って思考が
おかしくなっているようだ。
「そもそもなんでそんなに…その…」
『必死なんですか?』という言葉が出掛かるが、なんとか飲み込む。
「大きくしたいんですか?」
「なんで…ですって?」
ゆらりと幽鬼の如く立ち上がるエレオノール。
「あの…エレオノールさん?」
「そもそも男が胸の大きい娘が好きなせいでしょうが!
 あんな脂肪の塊の何処がいいのよ!何処のがいいのよ!
 なんで私には無いのよ!ちくしょう!」
迫り来る拳を見ながら育郎は、『何処の世界でも酔っ払いはたちの悪いものなん
だなぁ』などと、何処か諦めながら考えたのだった。


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