ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

21 生存本能、防衛本能

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21 生存本能、防衛本能

予想だにしなかった。恐るべき衝撃が走り、彼女の使い魔が目の前からいなくなる。地面に重いものが落ちる音。
使い魔だけではない。無様な決闘。目の前で盗みを働く盗賊。みすみす逃した自分達。汚名返上とばかりに、名乗りを上げた自分。居並ぶ教師の、あの人を見下した目つき。眠る使い魔。そしてゴーレム。自らの死。救済。そして――
すべてが吹っ飛ぶ。それほどの衝撃を受けたことが衝撃だ。ルイズは使い魔をゆるゆると見る。さらなる衝撃。


殴られて吹っ飛んだだけで、全てが済めばよかった。現実はそう甘くない。土と草と血の味、それらが痛みと交じり合う。デーボは草地を無様に転がる。
言葉にならない悪態をつく。跳ね起きる。ゴーレムはこちらを見ていない。立ちつくす標的をどう料理しようか、思案するように動かない。
ルイズも動かない。何をボサっとしてる? 逃げろ。早く。行動しろ。動け。後手に回る気か。焦燥が募る。またか。
あの高慢な貴族が死ぬ。自分を縛る主人が死ぬ。万々歳のはずが、どうだ。目の前の少女が死ぬ。この最悪の心持ち。異常なまでの嫌悪感。
「おい、お前さ……」 剣が不安げな声を出す。黙ってろ。あとだ。
何かに追われるように、ルイズに向かって再び駆け出す。剣を握りなおす。腕に痛みが走る。あれに殴られたのだ。痛いに決まっている。ゴーレムを見上げる。まだ動かない。何故だ。何かを待っているのか。何を?

一歩進んだ所で、大きな衝撃が右腕を貫く。確かめようと、腕を見る。頬に何かが刺さった。
「っ!」 反射的にのけぞる。顔を引きつつ右手を見る。
腕はだらりと垂れ下がり、鮮血に染まっている。動脈をやったか。なにで? 決まっている。赤く白いものが上腕から突き出ている。
骨だ。中途で折れた上腕骨だ。髄まで見える。刺さったのはこれだ。皮膚を突き破り、腋をかすめて顔に伸びている。
脱臼でもすればよかった。剣で抑えたのが裏目に出たか、梃子のように骨をへし折ったらしい。
とっさに考える。さっきの食事にでも何か混ざっていたのか? 痛みが少なすぎる。これだけの出血、筋繊維もどれだけ千切れているか。なのになんだ、この鈍い痛みは?

答えはすぐにやってきた。力を抜く。剣を地面に落とす。その瞬間はなんともなかった。左手の光が消える。怒涛というべきか、烈火と呼ぶべきか。痛みの渦が押し寄せる。神経が悲鳴をあげる。
膝をつく。歯を食いしばる。痛い。とっても痛い。この痛み、この苦しみ、この恨み。晴らさなければならない。
誰にだ? 目の前のこいつを動かして、切腹でもしようというのか。自分で自分を? 無意味だ。脂汗の滴る頭では考えが纏まらない。
今必要なことはそれじゃない。左手をポケットに入れる。短剣を鞘から取り出す。左手が鈍く光る。痛みが少し、軽くなる。
体の上に影がさす。ゴーレムが向きを変えたようだ。待ちくたびれて向こうからやってきたか。
痛み止めに掴んだ短剣を、匹夫の勇と解釈したゴーレム。踏み潰そうと、足を高々と上げる。デーボは横に飛んで避ける。
多少は冷静になった。上った血が抜けただけか? ゴーレムは素早くはない。かわし続ける。時間稼ぎだ。その間に、操っている人間を見つけ出す。
見つけて駆け寄って、左手一本、短剣一本で渡り合う? 実に分の悪い賭けだ。時間制限までついている。足元の草が血まみれだ。
業を煮やしたのか、ゴーレムが不意に攻撃方を変えた。踏み付けと見せて、地面ごと蹴り飛ばす。見切ったつもりだった。バックステップ。失敗。
血塗られた草にバランスを崩す。血液を失いかけた脳が判断を遅らせる。前面を蹴られた。腹も胸も全部だ。デーボは小さな放物線を描く。受身が取れない。背中も打ちつける。
右目が霞む。空に竜が飛んでいる。ああ、あの青い髪のやつだ。あの二人は逃げ切れたのか。そして自分の主人は? ふらつきながら起き上がる。ゴーレムが止めを刺しにやってくる。

ゴーレムの足が止まる。その場で方向転換。真後ろを向く。なんだ。くそ、まさか、向こうにまだ。
土製の足の間から、ルイズと目が合う。青くなっている。震えている。手にはM72LAW。
何を震えている。目の前のこいつが怖いのか。だったら何故、早く逃げなかった。万感の思いを込めて主人を睨みつける。伝わるとは考えちゃいない。

案の定伝わらなかった。それどころではない。ルイズは奥歯を噛み締め、ゴーレムに向かいロケットランチャーをでたらめに振り回す。
何も起きない。当然だ。そうと見るや、逆さに持ち替える。また縦横に振る。振りかざす。何も起きない。
何をやっているか、何をやりたいか。手に取るようにわかった。
そしてもうひとつ。この世界でのあれはイレギュラーだ。使い方も知らず、それでも盗まれるほど貴重なものだ。なんとかして手に入れたいが――。


冷静にものを考えられるのはそこまでだった。じっとルイズを眺めていたゴーレムが動き出す。石ころを転がすような、爪先での無雑作な蹴り。悲鳴。跳ね飛ばされるルイズ。破壊の杖は放さない。

デーボの心臓が早鐘を打つ。腕からの出血量が増える。そんなものは、そんなものは気にするな。今大事なのはなんだ? 考えるまでもない。
主人を守ることだ。本能がそう告げる。食って寝て交わるだけの昔から、それは決められていたことだ。すべてはその為にある。生きることと同じように、守ることが第一だ。
その為になにをする? 目の前のこれを止める。どうやって? 簡単だ。

「エボニーデビルッ!!」
青くぬめる悪魔がゴーレムに取り付く。砂地に水が染みこむように、目標に浸透する。ゴーレムの右腕が音を立て、途中から崩れ落ちる。



ルイズが立ち上がった時には空気が変わっていた。舞い上がる土煙のせいか。違う、そうじゃない。この底冷えする空気。使い魔だ。
何をしたかと思う暇もなく、頭上から声が響く。
「ア……アギ……ギギグ……グフッ…フクク…クケケケ…」 軋るような笑い声。見上げる。
「グケケケケ…これだけデカくてもよォォーー、しょせんは人形! おれにはかなわねーなァーーッ!」 森中に響く高笑い。
巨大なゴーレムが笑っている。何もなかった顔に、大きく口が裂けている。右手が崩れている。それを見て全てを承知した。
「デーボ!」 ゴーレムから目をそらす。思わず呼びかける。
「なんだよ」 またもや頭上から声。そうじゃなくて、お前じゃなくて!
「どっちも大差ねーよ、スタンドも本体もよォ」 それより、と幾分真面目な声になって続けるゴーレム。とっとと片付けて帰ろーぜ。
「片付けるって……」 どうするのよ。使い魔のスタンドが取り憑いたゴーレムが、呆れたような声を出す。飲み込みが悪りぃなオメーはよォ。
「ブッ壊すんだよ。それで、これを」 やけに明るく言い放つ。ルイズは手元の破壊の杖を見る。
「使い方が……」 おれは知ってるぜェー。楽しげな声と裏腹に微動だにしない。口伝で使用法を教わる。
後部のピンを抜く。カバーベルトを外す。筒を引き伸ばす。固定。上部の照尺を立て、肩に担ぐ。照準を覗き込む。腹を狙う。
「ねえ。これって使うとどうなるの?」 ふと疑問に思い、狙った相手に聞く。破壊。それだけではよくわからない。
「撃ってみてのお楽しみだ。いいから早くしろよ」 口調に余裕がなくなっている。不審に思い、杖をおろす。使い魔が怒りだす。
「なにしてやがるッ!………グ、グギ…」 なに? ゴーレムの体が小刻みに震えている。本体を見る。全身の筋肉が怒張している。地面に血溜りのひとつもできそうな出血。
「どうなってるのよ!」 問い詰める。やや苦しげに、ゴーレムが答える。
「どっか近くで、こいつの持ち主が命令を出してんだ。おれの動きと違う命令を」 近くにフーケがいる。こっちを観察している。いや、それよりも。
「つまり、そのせいでうまく動けず、ゴーレムが苦しんでる」 そうだ。頷くゴーレム。
「ゴーレムが苦しむと、人間の方も苦しむ」 よくわかったな。頷く使い魔。見ればわかるわよ。じゃあ、じゃあ。
「この破壊の杖でゴーレムをブッ壊すと、人間の方もブッ壊れる」 使い魔は答えない。
「使えるわけないでしょう!! 何考えてんのよ!! このバカ!!!」 「バカはテメーだッ!! さっさとやりやがれ、このトンチキがッッ!!」
対峙する二人と一体。未だ決着はつかない。

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