ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-46

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匿名ユーザー

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ルイズとワルドの二人は、朽ちた村の小屋で一晩を過ごした。
翌日、昼頃に目を覚ますと、ルイズがどこからか取ってきた野ウサギを解体していた。
ルイズの細腕がウサギの毛と皮をむしり取る姿は、どこか年期のいったものに見えるほどだった。
あらかじめ血抜きをしておいたのか、それとも血を吸ったのか、ウサギの肉は思ったよりもあっさりとした味だった。
ワルドはルイズに『手慣れているね』と軽い気持ちで言おうとしたが、今の自分がどんな立場なのか思い出して、結局何も言わずにいた。

料理などしたこともない公爵令嬢が、吸血鬼となって家名を捨て、傭兵に混じり生きてきたのだ。
太陽の下を歩く吸血鬼!ディティクト・マジックですら吸血鬼と人間は判別できないのに、太陽の下を歩けるとなれば、いよいよその区別はつけれられなくなる。
昨日、ルイズが自分の身に起こった出来事を語ってくれたが、それが本当ならばルイズは家名を捨てる必要など無かったはずだ。
しかしルイズは家名を捨てる道を選んだ、そこにどんな思惑があったのか、そこにどんな葛藤があったのかワルドには解らない。
だが、少なくとも自分よりも先を見ている気がするのだ。
聖地、聖地、聖地、いつか聖地へとたどり着きたい、その願いがワルドをレコン・キスタへと走らせた。
そこに何があるのか解らない、けれども、何か納得できるかもしれない。
ワルドの考えはせいぜいそこまでだった。

ルイズは違う、自分の思うように生きている、自分で自分に制約を課して生きている。
小さな小さなルイズは、いつの間にか自分よりも大きな、揺るぎのない存在へと成長している気がした。

食事を終えた後、ルイズは小屋の裏手で、地面を掘った。
驚異的な腕力で指を突き立て、重いタンスをひっくり返すように地面を持ち上げる。
地面に突き刺した腕を中心にヒビが広がっていき、スコップを用いることなく地面に手頃な穴ができあがる。
そこにたき火の灰や、ウサギの骨などを埋め、この村に滞在した証拠を念入りに隠した。


ルイズが小屋に戻ると、ワルドの手を取った。
「あなたの足じゃ時間がかかり過ぎるわ、私が貴方を背負う、いいわね」
「拒否権は、無いのだろう?」
「ええ」

ワルドはルイズに手を引かれて立ち上がると、背を向けたルイズに寄りかかった。
吸血馬の骨が埋まっているので、ルイズの身長は普段より大きい、それでもワルドよりは小さいので、少々不格好な背負い姿になる。
ルイズが両手を後ろに回し、ワルドの尻を持ち上げると、ワルドはルイズの首に手を回した。
「首を絞めるつもりでつかまないと、落ちるわよ」
ルイズは一言呟いてから、ゆっくりと第一歩を踏み出した。
一歩、また一歩と、大地の感触を確かめるようにして足を進めていく。
最初歩くよりも遅かったが、次第に速度を増し、空に星が見える頃には馬以上の速度に到達していた。


ひゅん、と音を立てて、顔のすぐ側を木の枝が通り過ぎていく。
まるで風になったようだと、ワルドは思った。
一方、ルイズも自分の体が妙に走りやすくなっているのに気づいた、足の感触が今までと違うのだ。
以前よりも繊細に大地の感触が伝わってくる上に、地面を蹴る足の力が以前よりも上がっている気がする。
吸血馬が力を貸してくれているのだろうか?と思えるほどだった。

ルイズは気づいていなかったが、地面に残る足跡はU字をしており、馬蹄の跡にしか見えなかった。

ルイズは森の中を走り、時には街道を横切り、ワルドの元領地へと走っていった。
ラ・ヴァリエールの領地のどこに街道があるのか、どこに旅籠があるのか、どこに集落があるのか、ルイズはすべて記憶している。
人に見つからない、それでいて最短のルートを想像し、ルイズは走った。

不意に、トリステイン魔法学院に入学する時のことを思い出す、ラ・ヴァリエール邸を馬車で出発したルイズは、丸一日近い時間をかけて魔法学院にたどり着いた。
それが今はどうだ、ラ・ロシェールから離れた名もない村から走り出し、そこから夜が明けぬうちにワルドの領地に差し掛かっている。
自分はいったいどれぐらいの速度で走っていたのだろう?
少なくとも、馬が全力で走るのと同じだけの速度はあるはずだ、しかし物足りない。
吸血馬は圧倒的なパワーを持っていたが、驚異的な速さで走ることはできなかった。
しかし全力を丸一日以上出し続けられる体力があり、結果として吸血馬は馬よりもグリフォンよりも早く地上を駆けることができた。

吸血馬の姿を思い出すと、手首と足首に埋め込んだ骨がうずく。
肉腫を脳に埋め込み、吸血馬を操り、挙げ句の果てに骨になってもまだ利用する自分が、とても浅ましい存在に思えた。

それなのに、これからワルドの母を食屍鬼として蘇らせようとしている。
ただ蘇らせるのではない、ワルドを操るために蘇らせるのだ。


木々の隙間から見られる空が、白みがかったと思われる頃、背負われていたワルドが声を上げた。
「止めてくれ」
ルイズは無言のまま速度を落とし、50メイルほど足踏みをしてから止まった。
「…ふう」
ため息をつきつつ、ルイズはワルドを降ろし、地面に膝をついた。
「けっこう疲れるわね。あの子みたいにはいかないか……」
吸血馬の体力を思い出しつつ、自分の体を見た。
夜目の利く目で自分の足を見ると、細い足に筋肉の筋が浮かんでいるのが解った、それは屈強なドラゴンの足を思わせるほどの堅さと、グリフォンの翼のようなしなやかさを兼ねていた。
筋肉の緊張を解くと、浮き出た筋は溶けるように消えていき、柔らかい少女の足へと変わっていった。

「さっき横切った街道から見て…西側に館があるはずなんだ。今はもう封鎖されているか、人の手に渡っているかもしれない」
そう言ってワルドが空を指さす、月と星の位置から西がどちらかを割り出したのだ。
「……私もそのあたりのことは聞いてないわね。お母様の遺骸はどこにあるの?」
「墓地は離れた場所にある、西に丘があるんだ、母はそこに眠っている」
ルイズは再度身をかがめようとする、ワルドを背負うためだ。
だが、ワルドはそれを断った。
「歩かせてくれ、ここを、歩きたい」
「…いいわよ」
ルイズは立ち上がると、ワルドの手をって歩き出した。
ワルドは足にまだ違和感が残っているためか、ひょこひょこと足を引きずるように歩いた。

ぽつりと、ルイズの頬に冷たいものが落ちた。
見上げると白みがかった空には、黒い雲が浮かんでおり、この時期には珍しい雨が降り出そうとしていた。
「好都合ね」
ルイズはそう呟くと、ワルドと二人で歩いていった。


二人が墓地に着いた頃には、空は黒い雲に覆われていた。
ザァザァという雨の音が、二人の足音と臭いを消している。
薄暗い墓地を歩く二人の姿はとても異様だった、半裸の少女と、ボロボロの魔法衛士隊が並んで歩いているのだから、人が見たら何事かと思うだろう。

小高い丘に作られた墓地の、一番高いところに、白い塀と茨のツタで囲まれた一角があった、扉には紋章が刻まれており、それを見ればここがワルドゆかりの地であると解る。
高さ2メイルほどの塀に囲まれたそれは、貴族の墓地としては小さい方だが、名前の刻まれた石の並ぶだけの石と比べて、遙かにその規模は大きい。
平民の墓地は石が並ぶだけだが、ワルドの両親の眠る墓は、魔法学院でルイズが暮らしていた部屋よりもはるかに大きい。
平民の墓地と比べ、明らかな雲泥の差、死後も彼らとは立場が違うのだ。

ルイズが目をこらして周囲を見回す、周囲に人の姿は見られない。
仮に鳥やモグラなどの使い魔がいたとしても、ルイズの目はそれを容易に捕らえる、誰にも見られていないと判断して、ルイズはワルドの腰に手を回した。

ルイズはワルドを軽々と持ち上げ、槍状の棘が並ぶ塀へと飛び上がった。
太さ1サント、長さ15サントほどの棘がルイズの足に突き刺さる、だがルイズはこともなげに足を持ち上げ、塀の内側へと跳躍した。
着地の瞬間、膝を折り曲げて衝撃を逃がしたので、石畳はひび割れることなくワルドとルイズの重量を受け止めた。
ワルドを降ろしてから、墓地の入り口を見る。
鋼鉄の扉から続く石畳が、墓地の中央から奥の廟へいざなう、両脇には薔薇が植えられていたが、誰にも手入れされていないせいか、乱雑に枝が伸び、一部は塀の裂け目から外へと飛び出ているようだ。

奥の廟はトリステインでは珍しい形式で、遺体を安置する館と言えるだろう、観音開きの扉は大人二人が並んで入れるほどの大きさがあり、中は魔法学院の寮と同じぐらいの広さがあるだろうと容易に想像できた。

「杖が無いな」
ワルドの呟きを聞き、ルイズは何のことかと首をかしげた。
「いや、”アンロック”だよ」
「アンロック?そんな時間無いわ、力づくで開けるわよ」
廟の扉には鍵がかかっているのだろう、ワルドはそれを心配していたのだ。
ルイズはずかずかと廟の扉に手をかけると、鍵がかかっているかを確かめるために、軽く取っ手を引っ張った。
ギィ、と音を立てて扉が開く。
「……改めて見ると、すごい力だな」
感心したようなワルドの呟きに、ルイズはふと疑問を感じた。
扉を開いたとき、まったく抵抗を感じなかったのだ。
「ワルド、鍵は壊れてないわ…何の抵抗も感じなかったもの」
「なに?」
ワルドが扉の裏側をのぞき込むと、確かに鍵にはなんの損傷も見られなかった。
「この扉を最後に閉じたのはいつ?そのとき、ロックはかけた?」
「父が戦死して、母が死んで……埋葬した後には誰もここには来ていないはずだ」
「平民の盗賊だったら鍵なんて壊すでしょうね、でも見て…なんの傷跡もない、アンロックで開けられた扉よ、これは」

ワルドはルイズを押しのけるようにして廟の中に入っていく。
廟の内側には、壁に歴代当主の名前が刻まれていた、よく見ると遺品なども飾られている

その中央に、ひときわ高い大理石の棚がもうけられ、上には漆黒の棺桶…ではなく、炭のようなものが置かれていた。
それを見たワルドの目が、大きく見開かれた。
「そんな!…そんな…馬鹿な…馬鹿なッ! そんな!誰が、誰がこんな!こんな事を!」
炭を手に取り、ワルドが叫ぶ。
手の隙間から風化した炭がボロボロと崩れ落ちていく、それをかき集めるように、ワルドは炭に手を入れた。

「ワルド!落ち着いて。説明してよ、どういう事なの?」
ルイズがワルドの左腕をつかむ、狼狽えていたワルドの体が、ルイズの腕力で静止した。
ルイズの握力に顔をしかめつつ、ワルドは興奮を押さえようと、右手で自分の胸を押さえ、呼吸を整えた。

「僕は、母の遺骸をここに安置した、白い棺桶の中に眠る母に、花を沢山添えて、固定化の魔法までかけたんだ」
ワルドの声に、焦りから怒りが見え始める。
「遺骸がミイラ化することはあっても、誰かが手を加えなければ、こんな、こんな炭になるはずはない、そうだろう。そうだろう!?」

ワルドは怒りと怯えの混じる目でルイズを見た、ルイズはワルドの腕から手を離すと、ワルドを押しのけ、炭の中から頭蓋骨を探した。

「ワルド…ねえ、おばさまを生き返らせる前に、言っておきたいことがあるの。よく聞いて…」
「生き返るのか?骨でも?」
ルイズが無言で頷くと、ワルドはつばを飲み込み、ごくりと喉を鳴らした。
「もし、おばさまが吸血鬼の本能に負けたら、手当たり次第に食屍鬼を増やす化け物になるわ。吸血鬼の本能に勝てる自信はある?」
少しの沈黙の後、ワルドは「母は誰よりも誇り高い人だ」とだけ言った。
「もし、本人に生きる意志が無ければ、すぐに体が崩れていくわ。二~三言の会話しかできないと思う……」
「かまわない、やってくれ」

ルイズは頭蓋骨を棚の上に置き、その上に左手を掲げ、右手の爪で左腕を切り裂いた。
ぽたっ、ぽたっ、と音を立てて、ワルドの母の頭蓋骨に血が落ちる。

およそ一分間、ルイズは頭蓋骨に血を垂らしていった。
ガタッ、と音がして、頭蓋骨が独りでに揺れる。

ボコボコボコボコと音を立て、まるで泡立つように頭蓋骨の中から血がしみ出し、しばらくすると頭蓋骨の焦げ跡は消えてしまった。
更に血を垂らし続けると、今度は頭蓋骨の表面に少しずつ皮のようなものが浮き出て来る、そこでルイズは血を止め、再生されていく頭蓋骨をじっと見つめた。

(私は今、ワルドを騙そうとしている)
ルイズは、ワルドの母を生かすつもりは無かった。
なぜこんな依頼を引き受けたのか、なぜ食屍鬼を作る気になったのか、はっきりとした理由が思いつかないのだ。

あえて理由を見つけるとしたら、二つのものが思い浮かぶ。
一つは、ワルドの母がなぜ自殺したのか、その理由を知りたいと思ってのこと。
もう一つは、母への依存心が気に入らないという理由だ。
もしかしたら、ルイズはワルドの母に嫉妬してしまったのかもしれない。
今のワルドは、まるで母に呪縛されているようではないか、それがルイズには気に入らない。

ワルドは自分だ、ワルドはルイズと同じように母に呪縛されている。
いつの頃からだろうか、ルイズは、母を恐れ、母を尊敬し、母のようなメイジになりたいと思っていた。
ゼロと呼ばれていた自分が虚無の使い手だった!それを母に言ってやりたい、姉たちも父も私を見返してくれる!
でも、それはもう、できない。

自分の代わりに、ワルドを使って、母との決別をさせようとしているのかもしれない。
私は、いつからこんな考えをするようになってしまったんだろう……

びくん、びくんと動く頭蓋骨は、いつの間にか髪の毛が生え、眼球ができあがり、口をぱくぱくと動かしていた。
「ウ……」
生首がうめき声を上げ、目を開けた。
「オ……オオォォォォー……ジャン……わたしの…ジャン……」
「あ、あああ!!母さん!」
「ワタシノオオオオオオ
   ジャンンンンンンン!」
くわっ、と生首の口が開かれ、牙となった犬歯をむき出しにした、次の瞬間髪の毛がバネのように動き、生首が宙を舞った。
「!!」
ルイズは咄嗟に手を出し、生首の動きを遮った。
しかし、ずぶりと牙がルイズの手首にかみつき、そのままゴキゴキと音を立ててルイズの骨を砕き始めたのだ。
「くっ…」
ルイズは髪の毛を伸ばし、生首の顎を掴んで無理矢理開かせ、腕から引きはがした。
同時に一部の髪の毛を後頭部から脳髄へと差し込んでいく。
「乾ク…乾クノオオオォォォォ」
「か、かあさん!僕の血を、僕の血を使ってくれ!ルイズ、母は苦しんで居るんだ、血を…」
「駄目よ!これを乗り越えられなければ、理性のない吸血鬼になるわ!母親を信じなさい!」
ルイズは、驚くほど自然に嘘をついた。
乗り越えられるはずがないのだ、五体満足で吸血鬼になったルイズと違い、食屍鬼となったワルドの母が理性を保てるはずがない。
ただ、一つだけ理性を取り戻させる方法があった、それもルイズが作り出した理性のようなものであり、本人の人格とは遠いかも知れない。
ルイズは髪の毛を肉腫として脳内に仕込み、忠誠心を呼び起こす応用で、『乾き』を麻痺させようとしていた。
「ウウウオオオオオオアアアアアア」

「アアアア…オオオオ」

「………オ…ォ…」

次第に凶暴な顔つきは、穏やかな顔になって、ワルドの覚えている母の顔に近くなっていった。
ワルドと同じ灰色の髪の毛と、整った顔立ち、そして優しそうな眼。
ワルドの母は、美女と呼ぶに相応しい雰囲気を漂わせていた。
「母さん…」
「おお…ジャン…私の…ジャン…わたしは、わたしは…」
「かあさん、もうすぐ体も元通りになれるんだよ、母さん」
ワルドは、ルイズに抱かれている生首の頬を、愛おしそうに撫でた。
ワルドの母は慈しむような眼差しを返したが、その表情はだんだんと曇っていった。
「かあさん、どうしたんだい?なぜ泣いているのさ」
「ああ…なぜ、なぜわたしは生きているの、辱めを受けた私をそのまま死なせてくれなかったの」
「…え」
「リッシュモンが…ああ、にくい、あのおとこが、あのおとこが、あのひとをヲヲヲオオオオオオ」

ガタガタと生首が震え出し、表情がまた険しくなっていく。
ルイズの埋め込んだ髪の毛でも、ワルドの母を制御することはできなかった。
ルイズは少しずつワルドの母から血を吸い取っていく、みるみるうちに顔にはしわが刻まれ、目は落ちくぼんでいった。
「か、母さん!どういうことなんだ、リッシュモンが、どうしたって言うんだ!教えてくれ母さん!」
「アアアァ……アノヒトハ…戦死ジャナイ……リッシュモンニ…殺サレ……私ヲ手ニイレルタメニ……ゴメンナサイ アナ タ」

ボロボロと崩れ落ちる頭蓋骨、その粉をワルドは必死で拾い集めた。
ルイズはただ、呆然と、腕の中で崩れていくワルドの母の姿を見ていた。
「ああああ…母さん…母さん…」
もう涙も出ないのだろうか、ワルドは地面に落ちた母の骨…の粉を握りしめていた。
「……」
ルイズも、ワルドと同じように、どうしていいのか解らなかった。
髪の毛で作り出した肉腫は、生物の脳から感情を引き出したり、押さえることが出来るはずだった。

しかし今回は、リッシュモンへの恨みと、死にたいという感情がルイズのコントロールを上回り、落ち着かせる事ができなかった。


そして、アンリエッタの信頼厚いリッシュモンの悪行。
アノヒト、というのはワルドの父のことだろう、戦死したと聞いている。
そしてワルドの母も、リッシュモンにいいようにされていたのだとすれば、なぜ死体が焼かれていたのか、その理由が想像できる気がした。
「…レコン・キスタ」
「………何?」
ルイズの呟きを聞き、ワルドが顔を上げた。
「アンドバリの指輪は、水の先住魔法が込められた指輪、それこそ死者をも蘇生する力を持つわ。でも遺骸が無ければ蘇らせることも出来ない」
「どういうことだ」
「あなたの母は、あなたに知られては困る情報を持っていた。だから死後念入りに焼かれた…もっとも、頭蓋骨は半分形をとどめていたけれど…」
「じゃあ、まさか、僕は、リッシュモンは」
「十中八九、レコン・キスタと繋がっているでしょうね。貴方はまんまとハメられたのよ」

ゆらりと、ワルドが立ち上がった。
「はは…そうか、そうか」
おぼつかない足取りで、ワルドは廟の外へ出ていく。
一歩、また一歩と、歩いていった。
出遅れたルイズが廟の扉を閉め、急いでワルドの隣に並ぶ。
「いっそ、殺してくれ」
「だめよ」
「生き恥を晒したくない、母と一緒に、僕を葬ってくれ……いや、レコン・キスタに関する情報を根こそぎ喋ってから、拷問されて殺されてもいい」
「それも駄目よ」
「なぜだい?ルイズ、僕を哀れんでいるのか」
「違うわ、違う。拷問よりも、死ぬよりも、先にやることがあるでしょう?」
「…やること、とは」

「一緒にリッシュモンを殺しましょう?」

ルイズの犬歯がきらめき、吸血鬼独特の牙に変化した。

それを見たワルドは、明らかに恐怖とは違う何かが、背筋に走るのを感じた。

ルイズの手を取り、その指にキスをする。

遠くどこかの世界、画集に収録されたモナリザの手を見て、勃起した男がいた。
ワルドもそれに似ていたのかもしれない、欲しいものを見つけたのだ。
空虚なワルドの心に、ルイズの狂気に満ちた笑みが入り込んだ。




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