ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-35

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シルフィードが空の色に溶け込むように大空を舞う。
その背にはタバサのみならずキュルケも同乗していた。
「んー、やっぱり風が気持ちいいわね。ねえタバサもそう思わない?」
「……………」
いつもならタバサも頷いて同意してくれるのだが今日は違う。
彼女の視線はじぃーと私の顔を見続けている。
分かっている、素直になれと彼女は言いたいのだ。
でも、それを口にしたら私が意固地になると分かってて彼女は言わない。
ったく、気心の知れた友達というのも楽じゃないわね。
こっちの考え、全部筒抜けじゃない。
この遠乗りには私がタバサに頼んだ物だ。
学院に居辛かったので気分転換を兼ねて空の旅を満喫している。
目的地も決めずにいたのでタバサにはすぐ勘付かれたようだ。

「分かってるわよ。でも恥ずかしいものは仕方ないでしょ」
フーケのゴーレムとの戦い、それに今回の惚れ薬騒動で彼女には大きな借りが出来てしまった。
どちらも私一人では解決できなかっただろう。
彼女がいなかったらどうなっていたか考えるだけでも恐ろしい。
ゴーレムの時には使い魔の力だと思って、あまり気にも留めていなかった。
だけど今回の事件でハッキリと彼女自身が変わりつつある事を認識した。
ライバルに先を越された悔しさと同時に彼女が成長した事を嬉しく思う。
だけど今までからかっていた相手に助けられたのが恥ずかしくて顔を合わせられない。
複雑と思うかもしれないが、乙女心とはそういうものなの。
そもそも借りを作りっぱなしというのは釈然としない。
貸しを作るのはいいけど逆はダメ。
「こう、パーっと一気に借りを返す機会とか無いかしらね」
「同感」
こくりと彼女がようやく頷く。
彼女も私ほどではないだろうけどルイズに貸しがあるらしい。
お互いの目的が一致し色々とアイデアを検討する。
第一弾、プレゼント大作戦…って前に私達の方が貰ってたわね。
第二弾、貴方の夢叶えます大作戦…って胸を大きくする方法なんて知らないし。
その言葉にタバサも反応を示す。
じとっとした目で見つめるのは私の胸元。
ついでに自分の胸にもぺたぺたと手を当ててる。
そんな顔されても本当に秘訣なんてないってば。
生まれつきよ、生まれつき。

「きゅいきゅい」
突然、シルフィードが何かを見つけたのかタバサに話しかける。
ふと視線を下に向けると疾駆する一台の馬車が目に入った。
装飾の施され様からして乗っているのは高級貴族だろうか。
このままの進路を取ると目的地は魔法学院だ。
勅使であるモット伯ならともかく、そんな所に何の用があるというのか。
それを追跡するようにタバサはシルフィードに指示を飛ばす。
目を丸くする私に彼女が簡潔に説明する。
「アカデミーかもしれない」
「何でそんなのが学院なんかに」
「彼の事を知られた可能性がある」
「っ……! どうやら思ってたよりも早く借りが返せそうね」
唇をきゅっと結び、シルフィードの加速に耐える。
壁のように感じる風圧を受けながら彼女達は学院へと舞い戻った。


「そうか。ようやく決心が付いたか」
「はい。学院長の仰る通り、一度里帰りしてみようと思いまして」
オスマンの前に立つミス・ロングビル。
彼女の手にはやや大きめの旅行鞄がぶら下がっている。
オスマンは休みの期間も故郷の場所も問いはしない。
ただ黙って旅立つ彼女を見送る。
「うむ。故郷で一度、自分の原点に立ち返るのもいいじゃろう。
人は前だけを見て進むのではなく時折立ち止まり振り返る事も必要じゃ。
自分の歩んできた道、そして歩みべき道を見失わないようにな」
「……ええ、そうですわね」
何か過去の傷に触れてしまったのか。
餞別代りの言葉を聞いて彼女の表情が曇る。
それをはぐらかす為に下ネタを振ろうとしたが咄嗟に思い付かず、
気付けば彼女は既に扉に手を掛けていた。
「それでは失礼します」
「良い旅を」
結局は他愛も無い挨拶で幕を閉じた。
まあ、これが今生の別れではない。
もし彼女が帰ってこなくても、それはそれだ。
彼女が帰るべき場所を見つけたのならここにいる必要は無い。
新たな旅立ちを祝福すべきなのだ。
「ああっ、でもあの乳と尻が別の男のものになるのはイヤじゃな…」
旅行から帰ってきたコルベールは自分の研究室に篭りっきり。
一人寂しく悶々としていたオスマンは今度モット伯に頼み込んで、
『異世界の書物』を見せて貰おうかと本気で悩んでいた。


白紙の祈祷書、白紙のノート、ついでに私の頭の中も白紙。
詔なんて何も思い浮かばない。
勉強なら自信はあるんだけど詩や文学には疎かった。
モット伯やタバサなら簡単に浮かぶのだろうか。
ギーシュもやたらと歯の浮く台詞を言えるから得意そうだし。
ちょっと参考代わりに聞いてみようかな。
…ダメ、ダメよルイズ。まだ婚姻の事は公にされていない。
そんな事を聞いて知れ渡ったら私の責任だ。
それに、これは姫様立ってのお願い。
だから私がやり遂げなくちゃいけないんだ。

しかし、勢い込んで見たものの前途は闇。
まるで見通しが立たないというのは最悪というべきだろう。
私がそんなだからか使いの魔の顔もどこか憂鬱に見える。
その時、トントンと扉を叩く音が響いた。
全く…こんな時間に誰よ。
人がせっかくやる気を出したというのに妨害するなんて、このモチベーションの高まりをどうしてくれるのよ。
そんな言い訳じみた事を考えながら扉を開いた。
その時点でよく考えるべきだったのだ。
私の知り合いにノックをするような常識人はほとんどいないって事に。
開けた視界の前にはフードを被った二人組の姿。
どこかの押し込み強盗かと疑ってしまうような風体に顔を顰める。
「久しぶりね、ルイズ」
しかしフードの下から出てきたのは花も綻ぶような笑顔。
それを見間違える筈など無い。
幼き日を共に過ごした友であり自分の主である人物、アンリエッタ姫殿下を。
「ひ、ひ、ひ…姫様ーー!!?」
「ああ、ルイズ。会いたかったわ」
アンリエッタにとっては唯一ともいえる親友との再会。
その感動的な再会はバタンと閉じられた木造の扉に遮られた。


「ル…ルイズ、一体どうしたというのですか? ここを、ここを開けてください」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!
まだ出来てないんです、でも期日中には間に合わせますからっ!」
「違うの。今日はその事ではなくて…」
「全く出来てないって訳じゃないんですけど。
でも、今出来ている分だけでも見せろと言われても困るんですっ!」
「だから違うの! お願いルイズ、話をちゃんと聞いて!」
トントンと叩いていたノックの音がドンドンと重く変わる。
その音に怯え室内から扉を押さえつけるルイズ。
話がまるで噛み合わない光景に溜息を漏らしアンリエッタの従者が動く。
フードを取り払い短く切り揃えた短髪を靡かせる。
「姫様。お下がりを」
「あ、アニエス。あんまり乱暴な事は…」
アンリエッタの顔には明らかな怯えがあった。
未だに収まらぬルイズの弁明にアニエスは限界気味だった。
扉が開かない事よりも彼女はルイズの安全を優先したのだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ……」
「ええい、やっっっかましいィィィ!!」
しかし彼女が言い終わる間もなくアニエスは扉を蹴り飛ばす。
火薬で吹き飛ばされたように開け放たれる扉。
その威力の前には彼女程度の重しなど台風の前のぬいぐるみ。
抑え付けていたルイズが部屋の端までゴロゴロと転がって倒れた。
「……きゅう」
「だ、大丈夫? ルイズ」
目を回しているだけなのか、それとも頭を打ったのか。
倒れたまま起き上がろうとしない彼女の下にアンリエッタが駆け寄る。
ゆさゆさと揺するものの反応がない。
それはルイズの睡眠不足が故なのだが彼女はその事を知らない。
あわや感動の再会が悲劇の別れになるかと困惑する。
彼女が期待していたような感動の再会は完全に台無しだった。

突然の侵入者に彼が慌てふためく。
何しろ周りには悪意の匂いがまるでしなかったのだ。
それで無警戒だったのだがルイズは吹き飛ばされ部屋に踏み込んできた。
とりあえずルイズや自分に危害を加える様子はないようだが…。
念の為にもう一度匂いを確認する。
ちょっと鼻先にドレスの裾が当たってむず痒いんで前足で除けて、と。
「きゃっ…!」
「何をしておるか! このエロ犬ッ!」
「きゃうん!」
瞬間、首根っこを上から抑えつけられ潰された。
床に張り付けにされたまま、彼女達の匂いを嗅ぎ続ける。
二人とも悪意はない……無い筈なんだけどこのアニエスって人、ちょっと怖い。

「姫様。念の為にこの部屋にサイレントを」
「は、はいっ!」
ディテクト・マジックで監視の有無を確かめ一息ついたアンリエッタにアニエスが指示を飛ばす。
本来は主であるべきアンリエッタがアニエスに従う異常な光景。
人の良さ故か、それとも目の前の光景が余程恐ろしかったのか。
恐らくはその両方だろうとデルフは思った。
それよりも姫様がここに来たって事の方が遥かに重大だ。
いくら親友に会う為とはいえ、王宮を抜け出してくるなんて有り得ねえ。
ましてや婚姻を前にした重要な時期にだ。
(なにやら雲行きが怪しくなってきやがったぜ)


「お久しゅうございます姫殿下」
膝を付き頭を下げ恭しく礼をするルイズ。
その傍らには頭を押さえつけられて伏せられた彼の姿。
親友の跪く姿を見てアンリエッタが動揺する。
「止めてルイズ! 私たち友達じゃない、そんな堅苦しい行儀なんて必要ないわ」
「しかし姫様」
「まあ今更体裁を取り繕った所で意味はないかも知れんがな」
先程の光景を思い出してかアニエスがふふんと笑う。
アンリエッタの横に立っているアニエスからルイズは見下すような視点になる。
別に彼女に傅いている訳ではないのだが何故か無性に腹が立つ。
本当なら平民と公爵家では同じ空気を吸う事さえ許されない程の差があるというのに。
もっともルイズは権力を振るかざすつもりは毛頭ない。
すくと立ち上がると彼女を指差しながら問う。
「うるさいわね。何でアニエスが姫様と一緒にいるのよ?」
「あ、彼女はマザリーニ枢機卿から私の監視役として…」
そこまで口にしてアンリエッタはハッと気付いた。
「どうして彼女の名前を知ってるの?」
「う……」
実はですねー、私、違法な魔法薬を盗み出してる所でアニエスと会ったんです。
その時、男の子の格好してたから分からないと思うんですけど。
あ、その時一緒にいたモット伯は脅して共犯者にしました。
…そんな事、言える訳が無いでしょうが!!
百年の友情も一瞬でブッ壊れます。
今後は敬語で話しかけてくださいねと笑顔で言われかねない。
ある意味、その方が気楽かもしれない。詔も考えなくて済むしね。

「ルイズと知り合いだったの?」
「いえ、私には覚えがありませんが」
突然、言葉に詰まったルイズから今度はアニエスに振る。
彼女はルイズをよく観察し思い起こしながら答える。
しかし、どこか引っかかる物があるのか顎に手をやって悩む。
「ああ、町でちょっと見かけたのさ。派手にやってるって噂になってたからな」
それを遮ったのはデルフの一言だった。
この場には他に誰もいない状況で突然響いた声にアニエスの警戒心が高まる。
しかしカタカタと鍔元を鳴らす剣の姿を認めると彼女の気配が和らぐ。
そして、それを確かめるようにデルフに語り掛ける。
「インテリジェンスソードか?」
「おう。デルフリンガー様だ、よろしくな。
ところで姉ちゃん。一つ聞きたいんだが裏路地寄りにあった武器屋、知ってるか?」
「剣如きに姉ちゃん呼ばわりされる筋合いはない。
それに、そんな場所に武器屋など無かった筈だが?」
「ありゃ、じゃあ潰れちまったかな」
もしくは親父が夜逃げしたかだ。
前に何度か貴族相手に名剣だってホラ吹いて観賞用の剣を売り飛ばしたからな。
査察が入ってたら捕まっているかもって思ったんだが。
まあ、殺したって死ぬようなタマじゃねえか。


不思議な質問にアニエスが首を傾げる。
それを見ながらルイズは心の中で親指を立てた。
(ナイス、デルフ!)
完全に話題は別の物に切り替わった。
もはやアニエスが思い出す事は無いだろう。
だが念を入れて最後の駄目押し!
「姫様。一体何があったんですか!?」
ルイズは自ら本題を切り出した。
いくらなんでも姫様が自分に会う為だけに来る筈が無い。
何かしらの相談や悩み事があると見るのが普通だろう。
それが分かるぐらいにはルイズは大人になっていた。
その言葉でアンリエッタの表情に僅かに浮かぶ喜色。
しかしそれを押し込めるような仕草をした後、彼女は決心して口を開いた。

「ルイズ、私を助けて!」


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