ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アバッキオ-3

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翌朝、ワルドはアバッキオの部屋を訪ね、ノックしようとしたら先にドアが開いた。
だが部屋から出てきたのは同室のギーシュであった。
ワルドはアバッキオは居るかとギーシュに尋ねる。

「彼ならまだ眠っていますよ。グッスリですから起こさないであげてください」
実はアバッキオと勝負をしようと考えていたワルドだが、
寝ている相手を無理やり起こして勝負しよう、と言っては相手にされる訳もない。
仕方なく今は諦めて、ワルドはアバッキオが起きてくるのを待つことにした。

しかしアバッキオが起き出してきたのは、もう昼も過ぎたころであった。
もう待ちくたびれたワルドは早速勝負しようと持ちかける、だがアバッキオは相手にしない。
そこでワルドはアバッキオの興味を引く話を持ち出す。

「君の左手のそのルーン。それはガンダールヴのルーンだ」
アバッキオが聞いているかどうかも知らずに、ワルドは喋りだす。
ガンダールヴ、始祖ブリミルの使い魔が持っていたルーン。
武器を持ち、ブリミルが魔法を詠唱する隙から守ったという使い魔。

だがアバッキオはワルドの話に見向きもせずに顔を少し俯かせて、
右手にパン左手にお茶の入ったカップを持ち、遅い朝食(昼食)を食べ始めた。
ピグピグとワルドの眼輪筋が引きつるが、何とか怒りを見せまいと抑える。

ワルドはどうにか勝負に持ち込もうとするが、アバッキオは話に耳を傾ける素振りさえ見せない。
結局アバッキオは食事の最中に、いつの間にかワルドの視界の中から消えていた。
そのテーブルにパンの食べかすや、お茶の飲み終わったカップなどは一切残っていなかった。

そして夜、事態は急転する。
以前アバッキオが捉えた土くれのフーケが、宿に襲撃を仕掛けてきたのである。
狙いは恐らくルイズの任務の阻止。

フネでアルビオンへ逃げるにしても、明日にしかフネは出ない。
ワルドは風のスクウェアなのでフネの飛行補助が出来る。
よって二手に別れ、一方が敵を引きとめ、一方がアルビオンへとフネで行くべきだとワルドが言い放つ。

では自分達が残ると、キュルケとタバサが言った。
ルイズはそれを止めようと思ったが、アバッキオが手で制した。
「任せて、いいんだな」

答えの分かりきったことを聞くアバッキオに、二人は自信を持って答えた。
任せろ、と。そう言い切った。
そしてギーシュも残ると言い出し、少し震える手で杖を取り出した。
ギーシュに対するアバッキオの問いかけはない。
ただ少し鼻を、フンッと鳴らしたきりだ。

ルイズも迷いをフッ切り、キュルケにいつもの憎まれ口を叩く。
それにキュルケも軽口で応えた。
「なら、さっさと行くぞ」
アバッキオがデルフリンガーを引き抜き、左手のルーンが光る。

そのまま宿の壁を、デルフリンガーでブッ叩くように破壊し外に脱出。
まるでつるはしのような使い方にデルフリンガーは嘆くがアバッキオは相手にしない。
抜き身のデルフリンガーを引っさげて、アバッキオ、ルイズ、ワルドは道を駆ける

後方にフーケのゴーレムがいるが追ってくる様子はない。
微熱と雪風と青銅が何とか食い止めているようだ。
だがこのまま上手く事が運ぶと思うほど、アバッキオは楽観的ではない。

そして閃光が閃いた。
瞬間ワルドがルイズを庇おうと間に入る。が。
それより早く、とっさにルイズを庇って地面を転がるアバッキオ。

アバッキオ達が今いたところが焼け焦げる。
「電撃、いや雷か……」
冷静に敵の攻撃を見切るアバッキオ。
夜の闇に紛れての攻撃は脅威だ。しかし一向に次の攻撃はない。

「行くぜッ、ルイズッ!」
腕の中のルイズを引っ張り起こして、手を引いてアバッキオは駆け出す。
そしてフネの桟橋へと辿りつく。
だがそこで仮面を付けた者が待ち構えていた。

仮面のメイジは杖を構えて即座に詠唱を開始。
早い詠唱。アバッキオがルーンの力で駆けても止めることは出来ない。
そう読み取ったアバッキオは、さっさとルイズの手を引いて後ろに下がる。

そして生まれる稲光。しかし雷は誰にも命中することなく、どこか中途半端な地点に落ちた。
アバッキオの腕の中のルイズが杖を構える。唱えるのは簡単なコモンマジック。
だが結果は見えている。そしてルイズ自身にも見えていた。

ドッオオォォンッ!

生まれる爆発。不発に終わった魔法。しかし元々ルイズには攻撃の意思はない。
そもそも攻撃用の魔法を唱えた覚えもない。唱えたのはただのアン・ロックだ。
呼吸を計ったタイミングで自分が出来ることをした。それだけである。

すでにアバッキオはルイズを抱えてはいなかった。
いや、傍目ではアバッキオがルイズを抱えているように見えるのだが、それは違う。
それはアバッキオを模した『ムーディー・ブルース』。俯いて見えないが、額のタイマーがその証拠だ。

ワルドが詠唱を開始するが、それより早く動く疾風のような影。
デルフリンガーを構えたアバッキオである。
ルイズの爆発魔法を目くらましにムーディー・ブルースと入れ替わっていたのだ。
「オラァッ!」
ルーンの力で疾風と化したアバッキオが、棍棒のようにデルフリンガーを使って殴りつけるッ!

「ボォハッ!」
額をガンダールヴのルーンの力を込めて強打されたならひとたまりもない。
顔は見えないが苦悶の表情を見せる仮面のメイジ。
足元はふらつき最早戦闘不能だ。

「さて、と。それじゃあオメーのツラを拝ませてもらおうかッ」
アバッキオはそう言い放ち、ふらつく仮面のメイジに近寄る。
ワルドは一体何故ルイズの傍にいたハズのアバッキオが、偏在を倒したのか全く持って理解不能。
しかしその顔を見られるわけにはいかないワルドは偏在を操作する。

足元がふらつく偏在が最後の力を振り絞り、目も眩む突風を生み出した。
即座に偏在は足をもつれさせながら駆け、桟橋の荷物の影で仮面が砕けながら魔力へと還る。
「ちっ、逃げやがったか」
姿の見えない仮面のメイジに舌打ちして、辺りを見回すアバッキオ。

「ルイズ、ワルドと一緒にフネの船長に話しつけて出航させろッ。俺は外で今のヤツがまた来るか見張ってるッ!」
今はアルビオンへ向かうのが先決だ。
時間を掛ける余裕のないこちらには、それがベスト。

「分かったっ、行きましょうワルドっ!」
ルイズに促されたワルドも、外をアバッキオに任せてフネへと走る。
そして二人が見えなくなったころ、アバッキオはムーディー・ブルースを現す。

ムーディー・ブルースのタイマーが動き出した。

フネに乗り、一路アルビオンを目指すルイズ達。
途中空賊に襲われたが、何とそこで目的の人物ウェールズ皇太子と出会う。
ウェールズにアンリエッタから恋文を返してもらうべく来たと水のルビーを見せ親書を渡し、手紙のあるニューカッスル城へと招かれる。
「これがその手紙だ。確かにお渡しした」

手紙を慈しむように愛でて、ルイズに渡したウェールズ。
ルイズの表情が苦渋に滲む。
アンリエッタからの親書にはおそらくウェールズにトリステインへ亡命するように記してあっただろう。
しかしウェールズはそんなことは一言も話さずに、恋文をルイズに渡した。

ルイズには分かる。ウェールズはルイズが亡命を薦めても首を横に振るだろう。
たとえアンリエッタからの薦めだとしても、それをしないウェールズなのだ。
ルイズが何を言ったとしても首を縦に振るわけがない。
それがウェールズにとっての「真実に向かおうとする意思」なのだ。

だからルイズは何も言えなかった。その後ろでアバッキオも黙って見ていた。
その晩。アルビオン最後の晩餐会が執り行われ、ルイズ達も最後の客として招待される。
皆明日の大戦で命を落とすと知りながら、明るくルイズ達をもてなすその姿はどこか誇り高い姿であった。

アバッキオもテラスで酒を飲みながら美味い料理に舌鼓を打つ。
そんなアバッキオにウェールズが話しかけてきた。
「トリステインでは人が使い魔なのかい?」

ウェールズの疑問にアバッキオは答えない。沈黙が答えである。
それどころか逆に質問を返した。
「アンタは戦うことで何処に向かってるんだ?」

僅かに考えてウェールズはこう言った。
「僕は自分の正しさを貫けないことが一番してはいけないことだと思っている。
僕は明日、圧倒的な数の敵に押し潰されてしまうだろう。
だが僕はこれでも皇太子なんだ。使命って訳じゃあないが、最後まで戦い抜くことが僕の責任でもある」

ウェールズが静かに空を見上げる。
「それが僕の中の曲げてはいけない部分。それを曲げたら僕はただの「負け犬」になってしまうから。
きっとそういうことなんだよ。質問の答えにはなっていないけどね。ホント、我ながら頑固な石頭だよ」

アバッキオは黙してその言葉を聞いた。
「そうか。ツマラネェこと聞いたな」
ぶっきらぼうにそう言ったアバッキオにウェールズは笑った。
「構わないさ。それより明日君のご主人とワルド子爵が結婚するということらしいが、明日君はどうするんだい?」

アバッキオはその聞き捨てならない言葉に眉根を寄せた。
「おや。知らなかったのかい?先ほどワルド子爵が僕に仲人を頼んできてね。
明日の朝、結婚式をする予定なのだが。はて、一体どういうことだ?」

ウェールズが首を捻って唸る。
アバッキオは眉根を寄せたまま沈黙を守り、そして口を開いた。
「頼みがある。ちょっくらツラ貸してくれ」

あくる朝。いい風の吹く清清しい朝である。
しかしルイズにとっては全く清清しくない。
昨晩ルイズはワルドに唐突に結婚式を挙げようと告げられた。
驚いて反論も何もルイズが言えない内にワルドは行ってしまった。

しかも仲人はウェールズ皇太子だというのも、ルイズの背中に責任として重くのしかかっている。
別にワルドが嫌いだとか言うわけではない。
いつかは貴族として婚約者と結婚しなければならないだろう。
だが幾らなんでもこんな時に結婚式を挙げるなど考えたこともない。

それとワルドの話では、すでに城を脱出する者達と共にアバッキオはトリステインへ向かったと言う。
それも心に引っかかっていた。
寂しいとか、心細いとかという話ではない。
あのアバッキオが「任務」の途中で帰ってしまうということがあるのだろうか?

脱出用のワルドのグリフォンは二人乗りだ。
ならばそれも仕方のないことなのだろうか。
心に引っかかりを感じたままルイズは結婚式へと臨む。

場所は城の聖堂。
窓から空を望める絶景の神聖な場。
その人のいない閑散とした聖堂でワルドとルイズは儀式を迎えた。

装飾の施された戦装束で身を包んだウェールズが二人に問いかける。
ワルドにルイズを永久に愛することを誓うのかと。
ワルドはお決まりのような文句を答えた。
「始祖と我が真実の心に誓って」

今度はルイズにウェールズは問いかける。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、汝はワルド子爵を永久に愛すると誓うのかと。
ウェールズが言葉を発する度に、戦装束の鉢巻がなびいた。

ルイズは問いかけに答えることが出来ない。
思い出すのは使い魔のこと。
今のルイズの頭の中は使い魔を召喚してからのことで全て埋め尽くされていた。

ギーシュと決闘した使い魔。
フーケから破壊の杖を奪還した使い魔。
魔法の使えない自分でも構わないと言ってくれた使い魔。

自分にたくさん勇気と自身をくれた、アバッキオ。

ルイズの心は決まった。今の自分の真実を見つけた。
「ワルド、あなたとはまだ結婚なんて出来ない。わたしはまだ真実に向かっている途中だから。
だから、あなたと結婚することは、まだ、出来ないわ」

ワルドは表情を変えない。
堅く表情を崩さずにルイズに微笑みかける。
何を言っているんだ、と。君はちょっと興奮しておかしな事を言っているだけなんだ、と。
だがルイズはワルドの表情の奥にある、瞳に巣くったドス黒い邪悪を見取る。

「アナタはもうわたしの知っているワルドじゃあなくなっていたのねっ。
もうそんなアナタは婚約者でも何でもないわっ!」
一変。ワルドは邪悪な意思を滲ませた表情に変わった。
ルイズの肩を掴んで、駄々っ子に物事を教え込むように静かに喋りだす。

「ルイズ、僕は手紙を回収する任務の他にやらなきゃあならないことがあるんだ。
一つは君を手に入れること。もう一つ、それはね……?」
ワルドが紡ぐように呪文を詠唱する。その口元はウェールズからは見えない。
風がワルドの杖に収束する。その魔法はエア・ニードル。
「ウェールズ皇太子を殺すことなんだ」

ワルドは恐るべき速度で反転してウェールズに向かって杖を突き出す。
エア・ニードル、風の螺旋錐で貫かれれば命はない。
「ウェールズ様っ!」

人であれば必死のタイミング。ワルド自身も殺ったと思った。
確かに普通はそう思うであろう。対象が『人』であればの話だが。
パシン、と乾いた音がしたかと思うと、ワルドの突き出された腕がウェールズに捕まえられていた。

そのままワルドの腕を掴みつつ、ウェールズは拳の連撃を叩き込むッ!
ワルドは軍人としての条件反射で防御の姿勢をとり、ガードするもあえなくブッ飛ばされる。
地面にキスするようにブッ飛んで転がるワルド。
その顔は驚愕に満ちていた。

「グフゥ…何故、今のは必殺の…タイミングで。そんなバカな。アグッ、一体、何の、からくりが……」
無様に喘ぐワルドの目の前のウェールズは沈黙するのみ。
静かにワルドを見下ろすウェールズにはある種の隔絶感を感じさせる。

「『無様極まりないとは正しく貴君のことであろうな、子爵よ』」
「っ!?」
目の前のウェールズから吐き出された言葉。
しかし風の使い手のワルドは言葉の違和感を感じ取った。

今の言葉は二つの声が重なっていたものだ。
一つは目の前のウェールズから。もう一つは背後から。
背後を振り返り見ると、そこにはルイズの傍に立つウェールズの姿。
そしてもう一人。何時もと同じくルイズの傍にいる者がいた。

「何故キサマがここにいるッ、使い魔ァァアァッッ!!」
ワルドは激情の怒声を上げる。
レオーネ・アバッキオ、ゼロのルイズの使い魔がそこにいた。


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