ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-22

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匿名ユーザー

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そろそろ日が傾きかけてきた頃。
マザリーニを探す康一とアンリエッタは城の奥にある資料庫へと向かっていた。
辺りはシーンと静まり返っている。
この奥まった場所の辺鄙な廊下には城の奉公人は殆んど居ないからだ。

何故こんな取りに来にくい場所に資料庫があるのか。
理由はもちろん、その資料を守るためである。
資料は紙であり、紙は火に弱い。火の回りにくい城の奥に資料庫があるのは合理に敵っている。

そしてもう一つは資料を盗み出そうとする輩への対策だ。
国の核となる資料を集めた場所であるだけに警備は厳重。
静まり返る廊下だが人がいないわけではなく、そこかしこに警備の衛兵が立つ。
平民の衛兵だけではなく、魔法衛士隊の隊員も混じり万全を期している。

しかもつい十日程前にアンリエッタへの襲撃事件が起きた。
そのため普段よりも警備は倍増していて、一見平穏そうだが物々しさは事件前とは比べ物にならない程である。
一応アンリエッタと康一も、ここに来る前に魔法でチェックを受けて通ってきた。
厳重な警戒をされる城の中でも一・二を争うほどの守りが敷かれているのがここなのだ。

「資料庫にマザリーニさんがいるってことは、もしかして「アレ」ですかね?」
「ええ、その可能性はあります」
意思の疎通が完璧な主従は、それだけで何が言いたいのか通じ合っていた。
康一の言う「アレ」とは、マザリーニが現在調査中である件の「書類」のことである。

今のところマザリーニが調査を続けているが、今一つ思うように行かないのが現状。
書類以外にも敵の手がかりとなりそうな件は見つからない。
行き詰った現状を何とかしようと、マザリーニは根気強くあらゆる可能性を考慮して調査を続行中だ。しかし。

「まぁ、そんなに上手くはいかないモンですよね」
やれやれ、といった表情の康一。
「ですが枢機卿は優れた人物。彼なら何かを掴んでくれるとわたくしは信じています」
そう強く言ったアンリエッタだが、彼女もまたどこか表情に陰りがあった。

もどかしいジレンマが二人を苛み、見えない糸が絡みつくような、嫌な感覚が纏わりつく。
歩きながら腕を組んで康一は考える。
「でも…何だか引っかかるんですよね」

「というと?」
「いや、それが何なのかは分からないんですけど。
ボク、前に一度故郷で同じ様な調査をしたことがあるんです。
調査っていうより聞き込みって言った方がいいんですけど、似た感じのことをしました」

アンリエッタは康一にこういった調査の経験があることに、内心少し驚く。
どんな調査だったのかという疑問が浮かぶが、それは今聞くべきことではない。
康一が話すことを聞き取ろうと耳を傾ける。

「僕と仲間達で、ある「スタンド使い」の事件を捜査をしていたんです。
どういう事件なのかは省きますけど、とにかくその事件の手がかりはゼロに近いレベルでした」
スタンド使いの事件、それはスタンド使いにしか分からない超常の事件だ。

一般の能力を持たない人間達には、犯人が誰か特定は出来ない。
それ故に捜査はスタンド使い、及び能力は持たないがスタンドの存在を知る人間が行う。
康一もスタンド使いであり、その理由で捜査に参加していたのだろう、とアンリエッタはあたりをつけた。

「僕たちはたった一つの手がかりを元に色々調べたんですけど、調査は行き詰ってた。
もう思い当たる聞き込み先がなかったんです。でもあるとき、スゴク簡単な「見落とし」を見つけた」
「見落とし?………わたし達も何かを見落としている、と?」

難しい顔をして康一は悩む。
「そう。ホントに何か簡単なことを見落としてる気がするんです。
簡単すぎて逆に気が付いてない、何かがあるような………」

アンリエッタも確かにそれは充分にありうると思う。
あのマザリーニ卿が手を尽くして調査しているのに、今だしっぽを捕まえることが出来ないのだ。
何故だろう。偶然か、その敵の権力故か、それとも本当に何かを見落としているのだろうか?
判然としないが、一考の価値はあるとアンリエッタは思う。

「確かにこれだけ手を尽くして調べ上げているというのに、一向に手がかりすら見つからない……
偶然なのか、それとも。一度皆さんを集めて、話し合ってみるべきなのかもしれません」

康一とアンリエッタ、二人は思考に意識を割いて歩を進める。
それ故に背後から近づく足音にも気付くことがなかった。
「興味深い推察ですな……。いやはや、とても興味深いですぞ」

重苦しいような、威厳の篭った重厚な声質。
反射的にアンリエッタは振り向き、康一はACT3を発現させる。
振り向きざまACT3のルーンが刻まれた右拳が鉄槌のごとく叩き込まれるッ……、と思いきや寸前で止まった。

「…枢機卿、ですかっ。驚かさないでくださいまし」
二人の振り向いた先にいたのは、国の政務を司る枢機卿マザリーニその人であった。
康一はホッと溜息一つ付いて、冷汗をかく。
危うく味方のこの人をブチのめしてしまうところだった。

『オウッ、S・H・I・T。危ナカッタデス』
(ナイスッ、ACT3!)
今の攻撃は康一の意思で止めたのではない。ACT3が自分の意思で攻撃を中止したのだ。

今のタイミングではACT3が自意識を持つスタンドでなければ、康一が咄嗟に拳を止めることは出来なかった。
もちろん「3・FREEZE」で重くして動きを止めるだけのつもりではあったが、それでも多少のダメージは受ける。
自意識を持つスタンドならではの、上手い状況判断であったと言うべきだろう。
(助かったよ、ありがとう)

康一の謝意に対して、ACT3は大げさな肩竦みをしてみせるだけだ。
そのままACT3は、康一の体へと戻り姿を消す。
スタンドが見えないマザリーニは、自分の身に降りかかりそうになった危機に気付かずに頭を下げた。

「申し訳ありませぬ、姫さま。しかしとても興味深いお話でしたので、声を掛けるのが躊躇われたゆえ」
深々と頭を下げながら、詫びの言葉を語るマザリーニ。
康一とアンリエッタにしてみれば、驚いただけで実害はなかったので問題は特にない。

「もう宜しいです、マザリーニ卿。面をお上げください。
それよりもわたくし達の話が興味深いと言いましたが、真ですか?」
マザリーニの行動はさて置き、それよりも気になるのはその発言。
二人の会話への興味とは一体何なのかをアンリエッタが問う。

「真にございます。わたしも今回の事件の調査は少々手がかりが「なさ過ぎる」と思っておりました」
「それのどこがおかしいのです?」
「わたしの経験から致しますと、もっとこの手の事件は手がかりが残るように思われるのです。
しかし手がかりは、ほぼ無いと言ってもいい。そこにわたしは不自然さを感じておりました」

マザリーニの人生の中で積み重ねられた経験が不自然さを感じ取る。
偶然で収まる範囲ではあるが、それを見逃すことは出来るはずがない。
「それ故に使い魔、コーイチ殿の見落としがあるのでは、とのお話は大変興味深いものでありました」

「ではこれからどうしますか。マザリーニ卿、あなたの意見をお聞かせ願います」
意見を求めるアンリエッタに対し、マザリーニは周囲に目を配ってから言った。
「それはこのような廊下で話すべきではありますまい。
今晩は「雪風」殿も来られることになっておりましたし、その場で話すのがよかろうかと」

それももっとも。
このような誰が聞き耳を立てているか分からぬ場所で、これ以上話し合うのは得策ではない。
「それでは今晩、わたくしの居室においでください。ところで、これからどちらに?」
「数日後の舞踏会の準備がまだ残っておりますのでそちらの方に」

あっ、と康一は思い出したように声を上げた。
そう。康一とアンリエッタの元々の目的はその舞踏会でのことを聞くためにマザリーニを探していたのだ。
「そーですよ。舞踏会ですよ、舞踏会っ!元々そっちでマザリーニさん探してたんでした」

「舞踏会、ですとな?」
康一が何故舞踏会のことで自分を探すのかと、マザリーニは疑問の表情を浮かべる。
「舞踏会で僕がアンリエッタさんの傍にずっといるのはマズイんじゃないかなと。
それでどうしたモンかなと、マザリーニさんに相談しようと思って探してたんですよ」

成る程、合点がいったという顔を見せるマザリーニ。
確かにその点までは考えが及んでいなかった。一体どうすれば良いものだろう?
「むぅ…即答はしかねますな。その話も今晩ということでいかがでしょう。
その時までには考えを纏めておきますゆえ」

特に急ぎでもないので、康一としてもそれで問題はない。
「僕はそれで大丈夫です。別にいいですよね、アンリエッタさん?」
「わたくしもそれで宜しいと思います」

「そうですか。それではわたしめはこれで失礼致します」
了承の意を得たマザリーニは仕事へ向かうべく歩き出し……、立ち止まった。
「そうそう、一ついいお話が。舞踏会用のワインなのですが、珍しいモノの上物が手に入りましてございます。
ワインセラーへ入っておりますので、お一つ試されてはどうでしょう?」

マザリーニの唐突な薦めに首をかしげるアンリエッタ。
が、何かピンときたように目が見開かれた。
「珍しい、とは。もしや以前一度飲んだことのあるアレでしょうか?」

「はい。姫様が以前飲んだ際、とても気に入っておられたので、手に入ったらお知らせしようと思っていたのです」
深く顔にしわを刻み、微笑みながらマザリーニは答える。
「まぁっ。ありがとうございます、マザリーニ卿っ!
あのワイン、とても不思議な口当たりで、もう一度飲んでみたいと思っていたんです!」

年頃の女の子が甘いお菓子を貰ったように、はしゃいで語るアンリエッタ。
お菓子などの甘いものと、ワインなどの酒が同列のように語られるのは康一にはかなり違和感がある。
康一としてはお酒は二十歳になってからと思うが、異世界に来てその法律があるとは限らない。

実際日本でも結構最近になって出来た法律らしいし、この世界では二十歳以下が酒を飲むのは普通なのだろう。
むしろ消毒されてない水を飲むよりは安全なのかもしれない。
世界も違えば文化も違ってくると言ったところだろうか。

「今夜のお楽しみですね、コーイチさん」
「ぇ゛」
別に酒を飲むつもりはない康一はあからさまにどもる。

もちろんアンリエッタは康一が酒を飲まないのを知った上で言っている。
召喚されてから食事で一度も酒には手をつけてないのを見ていたし、
一度も康一が自ら酒を求めたこともないのに気付いたからだ。
康一がアンリエッタの傍を離れなかったのが災いしていると言っていい。

「あら…わたくしのお酒は飲めませんか?」
「いや、僕はお酒は」
「メイジと使い魔は一心同体。ならばメイジの頼みを断りは致しませんよね?」

康一としても召喚されてから世話になっていることもあり、かなり断りづらい。
ふふふ、と康一をからかうのを楽しんでアンリエッタが笑っている。
それが何とも可愛らしい邪気のない笑い方なので、ある意味さらにタチが悪い。

(いやホントどうしよ…困ったなぁ)


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