ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロいぬっ!-18

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ゴーレムが折れた大木を掴む。
それが錬金によって瞬時に鋼鉄へと変わる。
巨人より放たれる規格外の投擲槍。
それをバオーはデルフリンガーで迎え撃つ。

衝突する鋼と鋼。
雷に打たれたように火花を散らしながら裂ける幹。
二つに分かたれた鉄の樹木がバオーを避けて背後の木に突き刺さる。

その直後に振り下ろされる巨人の足。
どんな流派、どんな剣技であろうとも剣を振った直後は隙となる。
ましてや体全体を使うのなら尚更だ。
それを狙い澄ましての一撃。
だが、それも今のバオーには通用しない。
飛び退きながら繰り出されたバオーの前足とゴーレムの足が交差する。

地響きを立てて地面に落とされた足に鋭い傷跡が刻まれる。
それはバオーのセイバー・フェノメノンによるもの。
刀身が短い為に深くは切れないがデルフリンガーとは切れ味が桁違いだ。
軽く振っただけでもゴーレムの外皮を切断するには十分。

そして跳躍したバオーが空中で反転しながら木を蹴り飛ばす。
その反動を利用し再びゴーレムの足へとバオーが飛来する。
全身を弾丸に変えてのデルフリンガーの一撃。
打ち込まれたのはセイバー・フェノメノンで付けた傷の上。
入れられた切り込みは衝撃を余す事なく受け止め、岩壁のようなゴーレムの足が爆発四散した。


「ちっ……!」
フーケが舌打つ。
今回は余りにも調べが足りなすぎた。
本来、盗みに入る先の調査は徹底して行われる。
僅かな情報の差が成功と失敗を分けると彼女は知っていたからだ。
今回も魔法学院に潜入し、時間と手間を掛けて多くの情報と信頼を得た。

だが、あの使い魔だけは別だ。
あれが何なのかさえ自分は知らない。
だが知り得た情報から勝てる可能性を導き出した。
しかし、それが間違いだった。
決闘の時に見せたものが実力の全てではなかった。
それを読み違えた自分の失態だ。

(それしにしても…まだ手の内を隠してたとはね)
自分の全力を見せず、相手の油断を誘うつもりだったのか。
まだ他にも何か隠しているかもしれない。
一撃でも当たれば形勢は逆転するが希望的観測は避けるのが無難だ。
そろそろ引き際と考えた方がいいだろう。


斬り、砕き、溶かし、あらゆる手段を持って破壊を行う。
しかし、その度にゴーレムは再生する。
実力を読み違えたのはデルフも同じだった。
底無しかと思う程に魔力が有りやがる。
しかも土が素材である以上、幾らでも魔力が続く限り戦える。
相棒の体力とフーケの魔力、どちらが最後まで持つかという勝負だ。

勝ち目は十二分にあるが油断は出来ない。
何しろ、あの体格差だ。
下手をすれば一発で終わってしまう事だってある。
こちらは一撃で致命傷を与える事は出来ないが、向こうは出来る。
どこまで相棒が集中力を保っていられるか。
フーケの残り魔力次第だが、長引けば不利になるだろう。

「せめてフーケの居場所が判ればな…」
一番確実なのは術者であるフーケを倒す事だ。
だが、これだけの広い森の中だ。
どうやったって探し出すのはまず無理だ。
しかも気配を探ろうにも横では巨人が暴れている。
他の事に気を取られたら、その時点でお陀仏になりかねない。
嬢ちゃん達だってフーケを上空から探している筈だ。
上手くすれば向こうがフーケを見つけてくれるだろう。
それまでの辛抱とデルフリンガーが考えた直後だった。

「おい……相棒?」
急にバオーの気配が変わった。
その事に気付いたのは傍にいたデルフだけ。
あれだけ発していたバオーの殺意が形を潜めていく。
まさか集中力が途切れたのかと狼狽するデルフを余所に、
バオーは全神経を集中させていく。


ゴーレムが動く度に散らされる周囲の気配。
だが、バオーには嗅覚も視覚も聴覚も関係ない。
感覚は全て頭部の触角でまかなわれる。

そして、バオーは周囲の敵意を探り出した。
自分の気配で紛れぬように殺気を押し隠し、
まるで鮫が血の匂いを数km先からでも嗅ぎ分けるように、
最先端のセンサーさえも上回る鋭敏な感覚を研ぎ澄ましていく。
目の前の巨人から伝わる敵意。
これは違う、あくまでも武器に過ぎない。
そこから伝わる敵意の流れ、その上流へと登りつめる。

ゴーレムと戦いながらの索敵。
精密な作業と同時に行われる戦闘は彼の気力を著しく損耗させた。
だが、どちらの手も休める訳にはいかない。
歯を食いしばり自分とデルフに力を込める。

そして、ついにその勝機は訪れた。
傷ついたゴーレムが修復する僅かな瞬間。
その直後、バオーはフーケの敵意を感知したのだ。
触角が魔力までも感知できたかは定かではない。
だが、それに乗せられたフーケの敵意を彼は確かに感じ取ったのだ。
決着をつけるべく、バオーがフーケへと駆ける…!


「ひっ………!」
フーケの驚愕が悲鳴に変わる。
視線をこちらに向けた瞬間、背筋に冷たいものが走った。
だがこれだけ離れた距離から、しかもゴーレムと戦いながら自分を見つける事は出来ない。
ただの偶然に過ぎないと自分を落ち着かせようとした瞬間、怪物は走り出した。
何の躊躇もなく、ひたすら一直線に自分へと向かってきたのだ。
自身のゴーレムでさえ勝てない怪物。
もし遭遇してしまえば一瞬の内に自分は殺されるだろう。

フーケは逃げた。
逃げながらも冷静にゴーレムに指示を飛ばす。
命を受けたゴーレムが自身の腕を千切る。
錬金によって切り離された腕が鋼鉄へと変わっていく。
それを持ちながらゴーレムは弓を振り絞るかのように体を捻る。
その動きが意味するのは全力での投擲。

狙う先にはシルフィード。
不意を突かれた形となった彼女が身を翻す。
だが、腕の力だけで投げた木でさえあのスピードと破壊力。
果たして避け切れるのか、最悪の事態に備え彼女は低空を目指す。
たとえ自身が殺されたとしても、背に乗せた主やその友達が助かるように。

バオーが地を蹴り反転する。
弾丸じみた速度からの急停止と急ターン。
並外れた筋力が可能とする曲芸をこなし、再びトップスピードに乗る。
そして、その勢いのままゴーレムの足と激突した。
伸ばした前足が放つメルティッディン・パルムが岩壁に穴を穿つ。


まるで火の輪潜りのように足を貫通するバオー。
抉られた足が穴を境に上下に分割される。
バランスを崩した巨人の投擲が彼方へと消えていく。
そして役目を終えた巨人がゆっくりと倒れた。
土同士の結合も解け、ただの土砂の塊として崩れ落ちる。
“時間稼ぎは終わった”フーケの言葉をそう代弁するように。

押し留めたバオーの怒りが再び火山の如く噴き上がる。
フーケは知っていたのだ。バオーが背後の風竜とそれに乗った主達を守っていると。
それを知って利用したのだ。シルフィードを狙えばバオーが必ず庇うと
自分が逃げ延びる為だけに彼女達の命を危険に晒した。
それが何よりもバオーには許せなかった。

しかしフーケの敵意は消えかけている。
これ以上、距離が離れれば追跡は不可能になる。
だが自分の脚力ならその前に追いつける。
そう判断した彼の前に異様な光景が広がっていた。

周囲に広がる泥粘化した大地。
地に根を張っていた木々も支えを失い傾いていく。
これも錬金の一種なのか、風景が一変している。
恐らくはゴーレムに要していた魔力の分、余裕が出来たのか。
フーケが自分を追って来れないようにしたのだろう。
バオーとはいえ泥の中を駆ければ足取りも遅くなる。
木々を足場にしようとしても、この状態では無理だろう。
だがバオーはその程度では止まらない。
彼は既に学習している。
奇しくもフーケからそれを学んだのだ。
“時間が足りなければ、時間を作り出せばいい”と。
フーケが“逃げる時間”を稼いだなら、今度は自分が“追う時間”を稼げばいい。


イメージするのは魔法やフレイムの吐息。
剣では届かない、離れた相手にも届く武器。
メキメキとバオーの体毛が逆立っていく。
彼は自分の意思で“セイバー・フェノメノン”を発現した。
だから、自らの武装を作り上げるコツはその時に掴んでいた。
そして第二の武装現象に次ぐ、新たな武装現象が発現する!


「はぁ……はぁ……」
息を切らせながらもフーケは走るのを止めない。
追って来れないようにしてはいるが相手は怪物。
既に何度こちらの予想が覆されただろうか。
もはや絶対などという言葉は無い。
どれほど引き離しても安心は出来ない。

刹那、フーケの背後から何かが通り過ぎた。
風を切って飛来したそれはフーケの進路上にある木に突き刺さった。

振り返るフーケ。
だが背後には誰もいない。
木に食い込んだそれは細長い針か何かのようだ。
だが飛針の射程距離などたかが知れている。
投擲しようと吹き矢で放とうとも目に届かぬ距離からでは届かない。
少なくとも捜索隊の放った物ではない筈だ。
他の誰かが潜んでいたのかとフーケが警戒する。


直後、突き刺さった針が木を巻き込んで燃え上がった。
その火勢は強く、たちまち周囲が煙で満たされていく。
何が起きたのか判らにまま、咳き込むフーケの横を再び針が通過する。
一瞬だが彼女は通り過ぎる針を目視した。
その色はあの怪物と同じ鮮明な蒼。

その瞬間、彼女は体感した。
背骨に氷柱が突き刺さったような恐怖を。

彼女は理解したのだ。
自ら火を放つ針の正体が“バオーの放った体毛”であると!

圧力を加えられ射出されたバオーの硬質化した体毛。
それは体から抜けると同時に成分を変化させ、周囲の温度によって自然発火する火矢となる。
これこそが第三の武装現象“バオー・シューティング・ビースス・スティンガー・フェノメノン”
一瞬にして燃え広がるその針に触れる事は死を意味するッ!


燃え盛る火に行く手を阻まれフーケの足が止まった。
同時に地上からはバオー、上空からはシルフィードが迫る。
ここまでかと諦めかけたその時、誰かの声が高らかに空に響いた。
何事かと上を向いたフーケのフードがずれる。

「はははは、ここまでだな“土くれのフーケ”!
僕達のチームワークの恐ろしさを思い知ったか!
とどめはこの僕、『青銅』のギーシュ自ら刺してやろう!」

その視線の先にいたのは!
バランスが崩れると嫌がるシルフィードの上に仁王立ちし、
口に薔薇を咥える貴公子、もとい奇行子!
誰ならぬギーシュ・ド・グラモンその人であった!

彼はずっと考えていた。
どうやったら自分の見せ場が作れるか、どうしたら最後に活躍できるのかと。
他の仲間が援護している間、ほとんど魔力の残ってない自分は見ている事しか出来なかった。
ルイズもそれは同じだったが、彼女の使い魔は大活躍していた。
その時、ギーシュは気付いてしまった。
(あれ? 僕が来た意味ってなんだろう?)
早々にワルキューレを残らず潰され、後はシルフィードのお荷物。
彼の考え方やヴェルダンデの脱出方法などは間接的に彼の役に立ったのだが、ギーシュにはそれが分からない。
どうにかして活躍しないと立場が無い、その焦りが彼を突き動かしていた。


「喰らえ正義の鉄槌! 『錬金』!」
ひらひらと舞い落ちる薔薇の花びらが油に変わる。
それは一瞬にして引火し周囲は炎の海と化す。
突然発生した火の壁に、バオーもシルフィードも遮られる。
轟々と燃え上がる火の手に近寄る事さえ出来ない。

そして臭いも音も光も全て炎に掻き消されてしまっている。
空気の流れさえも読める触角も炎に邪魔され上手く機能しない。
敵意が薄れた今、フーケを追跡できる術はなくなってしまった。

「やった! やりました父上!
遂に、このギーシュ・ド・グラモンが盗賊フーケを倒しました!」
「このバカッ!!」
勝ち誇るギーシュをキュルケが張り倒す。
何で怒られてるのか分からないギーシュの胸倉を掴み引き上げる。
「アンタね! こんなに火が広がったら山火事になるじゃないの!
それにフーケを捕まえないで焼き殺してどうするのよ!?」
「どうせ縛り首なるんだからいいじゃないか。
火はミス・タバサにでも消して貰えばいい…しィィィィ!?」
炎を避けようとしたのか、シルフィードの背が大きく揺れた。
直後、再び足を踏み外したギーシュとそれに巻き込まれたキュルケが落ちそうになった。
咄嗟にキュルケ『だけ』に掛けられるタバサのレビテーション。
ああああぁぁぁ、と残響を残しギーシュはそのまま炎の渦に自由落下していく。
それを別段気に留める事もなくタバサは消火作業に入った。
黙々と仕事をこなす彼女に、キュルケは空恐ろしい物を感じ尋ねる。


「……ねえタバサ、貴方怒ってない?」
「別に」
「だって、さっきシルフィードに何か話しかけてなかった?」
「気のせい」
「……本当にそう?」
「そう」

嘘は言っていない。
ギーシュの暴走の後始末をしなければならない事を怒ってはいない。
魔力も残り少ないからといって、そんな事で腹を立てたりはしない。
ただ、ちょっとカチンと頭に来ただけ。
それにシルフィードに話し掛けてもいない。
ただ独り言で「落ちればいいのに…」と呟いただけ。
そのせいでシルフィードが何か勘違いしても仕方がない事。
そう自分に言い聞かせて、彼女は目の前の作業に集中した。

迅速な消火活動の甲斐あってか、火は簡単に消し止められた。
一応捜索したもののフーケらしき焼死体は発見できず、逃げられたのだろうと推測された。
キュルケの魔術やフレイムの炎に耐えれるゴーレムを作り出せるのだ。
自分の逃げ道ぐらい確保する術はあっただろう。

一時は危ぶまれた“光の杖”の安否だが、ちゃんとフレイムが回収してくれていた。
地中に隠れてたヴェルダンデもミス・ロングビルの避難を手伝うなど活躍していたようだ。
「ええ、いきなりゴーレムが出てきたので森に避難したら突然、火が……」
「フッ。ミス・ロングビル、それは災難でしたね。この僕が近くにいれば、そんな目に合わせなかったのに」
丸焦げになったギーシュがミス・ロングビルを慰める。
というか全面的にギーシュが悪い。
それなのに白々しい態度を取っている事に腹が立つ。
そんな目で見ているせいか、何故かギーシュを見るミス・ロングビルの目が険しいものに見えてきた


フーケには逃げられたけど、とりあえず“光の杖”は奪還した。
色々大変だったけど皆無事だったし、めでたしめでたしといった所か。

「アンタもお疲れ様」
明らかに定員オーバーの風竜の背の上で静かに眠る自分の使い魔。
あれだけの激闘の後とは思えないほどスヤスヤと穏やかな寝息を立てている。
頭を撫でてやると、くすぐったそうに身をよじる。
その仕草はどうしたって、ただの犬しか見えない。
あの姿が真昼に見た幻のように思えてくる。

でも、そんなの構わない。
こいつの正体が犬だろうと怪物でも関係ない。
こいつはこいつ。姿は変わっても中身は変わらない。
私の、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔なのだから…。

彼が安らかな眠りから目覚める頃には、
彼等を乗せたシルフィードは学院の上空へと舞い戻っていた。


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