ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ドロの使い魔-18

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匿名ユーザー

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空賊船もといアルビオン王国最後の軍艦、イーグル号に乗って雲間を進んでいくと、大陸から突き出た岬と、
その上に建つ城が見えてきた。ウェールズによるとそれがニューカッスル城らしい。

「なんか、今にも折れそうな所にたってんなあ。」
「はは、実際そうだから何も言い返せないな。皇太子失格かもしれないね」
ウェールズが少し寂しそうに答える。
「ちょっと黙ってなさいよ」
空気の読めない発言をしたセッコをルイズが思い切り叩いた。
「いでえ・・・う、うおっ うおああっ!ルイズ、ルイズよお」
「いいから黙ってなさい」
「ちげーって、あれ、あれなんだ!あれ!」

あまりに騒がしいので仕方なく指差した方を見たルイズは、ぽかんと口を開けた。
「・・・」
曲がりなりにも軍艦であるイーグル号の軽く2倍、いや3倍はありそうな巨大な船が城の上空に陣取っている。
よく見ると船体から無数の大砲が突き出し、周囲には竜が舞っていた。

「あれは、ロイヤル・ソヴリン号。いや、今はレキシントンに改名されたのだったかな?
叛徒どもの旗艦で、ニューカッスルの空を封鎖している。もとは本国艦隊の旗艦だったのだがね、因果なもんさ」
ウェールズが説明した。
「さて、あんなものと正面切って戦えるわけもないので迂回するぞ。岬の下側にまだ知られてない港があるのだ」

雲中を通り、大陸の下に出ると、あたりは真っ暗になった。
「この辺りは貴族派の船が絶対に近づかない安全地帯さ。
もっとも、かなり熟練してないと座礁の危険があるがね。
なに、王立空軍の航海士にとっては造作もないことさ」
あいつらは、空に関しては錬度が足らないのさ、とウェールズは付け加えた。

しばらく闇の中を進んだところに開いた穴の中をゆっくりと上昇していくと、巨大な鍾乳洞の中に出た。壁が白く光っている。
岸壁の上には大勢の人が待ち構えていた。

「まるで空賊の秘密基地ですな。殿下」
「まさに空賊なのだよ。子爵」

ウェールズと共にタラップを降りると、一人の老メイジが走り寄ってきた。
「ご報告がございます、殿下。叛徒どもは明日の正午に攻城開始すると通告してきました。」
「してみると、間一髪だったわけだな。戦に間に合わぬは、これ武人の恥だからな!
そうそう、こちらからも報告することがあるぞ、パリー。」
ウェールズは、にやりと笑った。

「喜べ、皆の者!硫黄だぞ!!これだけあれば無駄死にではなく、王家の誇りと栄誉を示して敗北することができる!」

ウェールズの実に嬉しそうな叫びに、周囲から歓声が上がる。
パリーと呼ばれた老メイジは、目に涙を浮かべて答えた。
「先の陛下におつかえして60年、こんな嬉しい日はありませぬぞ、殿下。して、その方たちは?」
パリーはルイズ達の方を見た。

「トリステインからの大使殿だ。重要な用件で、王国に参られた」
「これはこれは大使殿、殿下の侍従を仰せつかっておりまする、パリーでございます。
遠路はるばるようこそこのアルビオン王国にいらっしゃった。
たいしたもてなしもできませぬが、今夜はささやかな祝宴が催されます。ぜひとも出席してくださいませ」
パリーが、深く、深く頭をたれた。

“余計なことを言い出さないように”置いていかれたセッコは、給仕に案内された客室でボーっとルイズとワルドを待っていた。
パーティまではまだ時間があるらしい。
待っていると、扉が開いて悲しそうな表情のルイズだけが戻ってきた。
「あれえ、おっさんは?」
「殿下とちょっと話があるんですって。後、城内もちょっと見て回りたいとか。」
「ふうん。で、手紙はどうなったよ?」

ルイズは、懐から封筒を取り出した。
「もちろん、ちゃんとここにあるわよ。・・・やっぱり、恋文だったらしいわ。
何度読まれたのか判らないぐらいぼろぼろで、宝箱に入ってた」
「らしくねえなあ。ところで、どんなことが書いてあったんだ?
アンリエッタの感覚ではやばい内容みてえだがよ。」
「それは、判らないわ。当たり前だけど読んではないもの」

全く、律儀な奴だなあ。

「読めばいいじゃねえの。」
「そんな無礼なことできるわけないでしょ!」
「いや、アンリエッタは取り返せと言ったけど、見るなとは一言もいわなかったしよお。
それに、その封筒、封されてねえじゃん。ウェールズも別に気にしないと思うぜえ。」
「そ、そうかしら」
「そうそう。」

「そ、そうよね、うん」
ちょっと躊躇ったものの、結局手紙を読み始めたルイズの顔が段々赤くなってきた。
どう見たって動揺してやがる。

「な、なにが書いてあるんだあ?」
「え・・ええ・・・えい・・・永遠の・・・」
「なんなんだよお。」
「ちちち誓う・・・」
「おいルイズ正気に戻れ。」
ルイズが落ち着くのを(セッコにしては)辛抱強く待ってもう一度声をかけた。

「なにが書いてあったんだ?」
「・・・始祖に誓う、愛」
「はあ?」
「要するに、結婚の時言うようなセリフよ、永久に思い出になるようなね。
確かに、結婚相手に見られたらまずいわ。重婚扱いになるかもしれないし」
「で、それがアンリエッタ以外の手に渡るとどうなんの?」
「婚約破棄、同盟解消で済めばいいけど、ヘタしたら敵対かもね。
でも、姫様の大切な思い出なのよ。ちゃんと、返してさしあげないと」
・・・
「ルイズよお、それちょっと貸して。」
「なんでよ。あなたこの国の字は読めないんじゃなかったっけ?」
「いいから。」
・・・
「わかったわよ」
ルイズは渋々セッコに手紙を渡した。

「こんな、こんなオレが、オレ達が生きるのに邪魔になるだけの秘密おあああ」
「何よ?」
「オレは、この秘密は、欲しくねええええええええええ!」
「ちょっとセッコ!何すんの!」

思いきり、手紙を握り潰す。一滴の泥が、セッコの右手から滴り落ちた。

「あ・・・ああ・・・この・・・この馬鹿ああああああああああああああ!!」
ルイズが絶叫する。
「どう、どうやって姫様に説明すればいいのよ!ワルドにだってこんなこと言えないわ!あんたなんか知らない!」
「いや、ちょっと待てってルイズ。」
「待たないわ!知らないって言ったでしょ、もう勝手にしなさい!」
「おいいいいい」
ルイズは、それきり部屋を出て行ってしまった。うう・・・

セッコが呆然とルイズを見送ってしばらくすると、ワルドが入ってきた。
「パーティが始まるらしいぞ。君も出席するんだろう?」
「んん、わかった、おっさん。・・・違った、ワルド。」
「まあ好きに呼んでくれて構わんさ。しかし、使い魔が主人を泣かせるのは感心せんな」
「オレは、悪くねえ。」
「そうは見えないが」
「けっ。」

パーティは、城のホールで行われていた。
簡易の玉座にはアルビオンの王、老いたるジェームズ一世が鎮座し、集まった貴族や臣下を見守っていた。
明日が決戦、しかも敗北は決まっているというのに、皆やたらと明るい調子だ。
セッコとワルドは会場の隅でそれを眺めていた。

「明日戦争だっつーのにこいつら何やってんだ?今から準備すりゃ一人でも多く殺せるかも知れねえし、
逃げるなら全員助かるかも知れねえのによ。飯が豪勢なのはいいんだけどな。」

それにしても、話し相手がいけ好かないワルドだけってのは気が滅入るなあ。
ルイズは怒り狂って何処かに出て行ったまま戻ってきていない。
ウェールズと話してみたかったが、ジェームズ一世の横まで行くのはさしものセッコにも躊躇われた。

「それが、誇りって奴だ。貴族でないきみにはわからないだろうがね。・・・逆もまた真なり、かもしれないが」
ワルドが珍しく、ゆっくり言葉を選んでいるような調子で答えた。
「そうかなあ。」
「そろそろ、開式の演説が始まるようだぞ。我々は所詮余所者だ。静かにした方がよかろう」

ジェームズ一世がよろよろと立ち上がると、会場の全員がいっせいに直立した。
そして、とても老人とは思えないよく通る声で演説を始めた。

「諸君。忠勇なる臣下の諸君に告げる。
いよいよ明日、このニューカッスルの城に立てこもった我ら王軍に
反乱軍[レコン・キスタ]の総攻撃が行われる。
この無能な王に、諸君らはよく従い、よく戦ってくれた。
しかしながら、明日の戦いはこれはもう、戦いではない。
おそらく一方的な虐殺となるであろう。朕は忠勇な諸君らが、傷つき斃れるのを見るに忍びない。
・・・したがって、朕は諸君らに暇を与える。
長年、よくぞこの王に付き従ってくれた。厚く礼を述べるぞ。
明日の朝、巡洋艦イーグル号が、女子供を乗せてここを離れる。
諸君らも、この間に乗り、この忌まわしき大陸を離れるがよい」

しかし、返ってきた返事は全て「我も戦いたい!」「耳が遠くなった」「冗談じゃない」等、様々な意味で勇ましいものばかりであった。
それを聞いた老王は、涙をぬぐい、勇ましく杖を掲げた。
「よかろう!しからば、この王に続くがよい!さて、諸君!今宵はよき日である!
重なりし月は、始祖からの祝福の調べである!よく飲み、食べ、踊り、楽しもうではないか!」

辺りは喧騒に包まれた。こんなときにやってきたトリステインからの客が珍しいようで、
王党派の貴族たちはかわるがわるやってきてワルドとセッコに酒や料理を勧め、思い出話や冗談を言うのだった。
「大使殿!その鳥は中身ではなく蜂蜜を塗った皮を食すのですぞ!」
「あっ、それはスープではありません!
それ、そこのパンとソーセージをからめて食べてごらんなさい、うまくて、頬が落ちますぞ!」

適当にそれらの会話に相槌を打ちながら、勧められる料理を平らげていたセッコは、ふと思い出し口を開いた。
「ところでよお、ルイズはどこ行ったんだ?」
「何をしたのか知らんが、きみが怒らせたんじゃないのかね。まあ、僕が探してこよう」
「そうか。」

それにしても、こいつらは本当に何を考えているんだろうなあ。
ワルドは誇りがなんとか、と言っていたがさっぱり意味がわからなかった。
ウェールズのほうを見ると、王の傍から離れ普通に談笑していた。

「よお、楽しそうだなあ。ウェールズ・・・じゃなくて、王様・・・は違う・・・空軍大佐・・・でもなくて・・・」
「はは、ウェールズで問題ないよ」
ウェールズはにこやかに笑った。
「わかった。」
「君は確か、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔だったね。
しかし、人が使い魔とは珍しい。トリステインは変わった国だな」
「やっぱ珍しいのかあ?オレとしては、部下は動物より人の方がいいんじゃねえかと思うけどなあ。」

やっぱり、オレがおかしいのか?それともここが変なのか?
「それはそうかもしれないね。ところで、何か聞きたいことでも?」
「んん・・・うーん・・・」
「あるんだろう。構わないから好きに言ってくれ」
「じゃあ聞くがよお、オメーらはなんで逃げねえんだ?
おっさ・・・ワルドも、ルイズもオレにわかるように教えてくれねえ。」

ウェールズは、少し首を捻ったが、力強く答えた。

「・・・守るべきものがあるからだ。君にも一つぐらいはあるだろう。
我々300人は、その守るべきものが同じ、というだけなんだろうな」
「難しいなあ、オレの守るべき一番大事なものは、オレだ。次に主、かなあ?
だから、そう言われてもピンとこねぇ。」
「君は、純粋だな。まあ、わかるときは来るさ」
「あんまりわかりたくねえな。」
「我々は、そんな生き方しかできないのさ。そうだ大使殿、一つだけアンリエッタに伝えておいて欲しいことがある」
「なんだ?」
「ウェールズは、勇敢に戦い、勇敢に死んでいったと。
明日の朝には、イーグル号がトリステインに出発するだろう。君たちもそれに乗って帰ればいい」
「・・・わかった。」
そう言うとウェールズは王の傍へと戻っていった。

うぐぐ、どいつもこいつも・・・自分より大事なものが、この世にあってたまるかよ。
なんだか不愉快だ、もう寝るかあ。

セッコが用意された客室に戻ろうとホールを出ると、ちょうどルイズを伴って戻ってきたワルドと鉢合わせた。

「おや、もう戻るのかね?」
「腹はいっぱいになったし、ウェールズにも挨拶したからなあ。
それと、ここを脱出するのは明日の朝らしいぜえ。来るときの船に乗っけてくれるってよ。」
「そのことなんだがね、きみに言っておかねばならぬことがある」
ワルドの声がいつもに増して低くなった。
「うあ?」

「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」
「意味わかんねえんだが。戻ってからじゃだめなのか?」
「ぜひとも、僕たちの婚姻の媒酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。
皇太子も、快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕たちは式をあげる」
「ちょっと待て、どうやって帰るんだよ。帰りの船は朝一番だつってたぜえ?」

そのとき、ひどく憔悴した表情のルイズがセッコの肩を叩いた。
「大丈夫よ。ワルドのグリフォンで戻るわ。セッコは先に帰ってなさい」
こいつ大丈夫かなあ。
「それならいいけどよお、オメーまだあのこと怒ってんの?オレは・・・」
「その話は、あとから聞くわ。とりあえず一旦お別れね」
ルイズとワルドはパーティ会場の方に行ってしまった。

すげえ・・・怒ってるんだろうな、畜生。
結婚して丸くなってくれりゃいいなあ。・・・無理かなあ。

そんなどうでもいいことを考えつつ、セッコは部屋に戻り眠りについた。




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