ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-21

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匿名ユーザー

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そこには普段の面影の欠片もない、ただ蹲る者がいた。
アニエスは仕立て部屋に連れ込まれた後、何だかスゴイことがあったらしい。
部屋から出てきたら、廊下に崩れ落ちるように蹲ってしまったのだ。

そして負のオーラを撒き散らし、廊下の隅っこで膝を抱えるアニエスは呟いた。
「もう…お嫁に、行けない…………」
そんな感じだったらしい。

暫く再起不能であろうアニエスはほっとくとして、康一とアンリエッタはこれからどうしようかと思案する。
「でも、どうしましょーか?ヒマなんで、何かやることないですかねぇ」
「そうですね。舞踏会のことでマザリーニ卿と相談するというのはどうでしょう?」
康一もそれは気になっていたので同意し、二人でマザリーニの居そうな場所に行ってみることにした。

まずは順当にマザリーニの執務室を訪れた二人。
アンリエッタがドアをノックしてみる。しかし返答はない。
「留守、でしょうか?」
「みたいですね。どこ探します?」

しかし眉根を寄せてアンリエッタは疑問を問う。
「ですが、どこにいるのでしょう?」
確かにそうだ。どこにいるのか分からないのでは探しようがない。
康一は少し考えて思いついたことを、当てずっぽうに言ってみた。
「んー。もしかしたら舞踏会のことで城の中を回ってるんじゃあないんですか」

あ、とアンリエッタが声を漏らした。
自分達が舞踏会のことを聞きに来たのだから、マザリーニが舞踏会の準備を行っている可能性は充分ある。
「まぁ見つからなくても、これはこれでいい暇潰しになりそうですよね。
あんまりお城の中って回ってないから、何か楽しそうです」

康一の男子としての冒険心が疼くのだろうか。
どことなくワクワクしたような雰囲気が滲み出ていた。
アンリエッタは康一の心を察し、やっぱり男の子なんだなぁ、と内心苦笑気味に思う。
「では舞踏会の会場になる広間から色々と回ってみましょう」

城の中は広く、さほど逗留期間が長くない康一には迷路のように感じられる。
いつもアンリエッタの傍にいるのは、彼女の身の心配だからだけではなく、この迷路のような城内で迷わぬようにという意味もあった。
康一はあまり古い国だとかに興味はないが、探検するというのであれば話は別だ。
男の子はいつだって冒険心に溢れている。康一も例外ではない。

広間に行く途中で康一とアンリエッタはいろんな場所を見て回った。
普段は殆んど使われない通路を二人で通ってみたり。
舞踏会用の楽器を置いてある物置なんかも覗いてみたり。
二人一緒で馬鹿みたいにはしゃぎ楽しんで歩いた。

アンリエッタにとっては襲撃から大騒ぎの慌しい日々が続いていた。
だが何であろうか。康一と一緒にいると、どんなに慌しくとも時間がとてもゆっくりと感じられる。
こんなゆっくりな時間が、この世にあるのであろうか。
それほどアンリエッタにとっては楽しき貴重な時間であった。

そうして寄り道しながら、とりあえず広間にやってきた二人。
「おお~~~。広いですねー」
「広間ですから」
当たり前すぎる会話を交わす二人の目の前に広がる広大な空間。

様々な絵画や壷などの骨董品であろうか、高そうな物がずらりと置かれ。
壁面そのものにも彫刻が施され、見る者たちを飽きさせることはない。
しかし広間の絢爛さに康一が思うのは、壷一つ割っちゃったら弁償代幾ら掛かるかな、という感想ぐらいのものであった。
別に古いものにあんまり興味のない日本の高校生としては、妥当で健全な感想であろう。

「でもマザリーニさん、ここには居ないっポイですよね」
感想は心の中に閉じ込めて、目的の人物が広間にいないらしいことを呟く康一。
「ここかと思っていたのですが。誰か人にマザリーニ卿の居場所を尋ねてみましょうか?」
キョロキョロ、と広間を見渡すアンリエッタ。
すると、その目に一人奉公人と思しき者が目に止まった。

「もし、失礼。少々お尋ねしたいのですが」
アンリエッタが奉公人、どうやらメイドらしい少女に声を掛ける。
メイドはどうも掃除の真っ最中だったようで、鼻歌まじりに仕事をしていてこちらには気付いていなかったようだ。
「えっ、はい。何で、しょ…う……。ひ、姫さまっ!」

アンリエッタだと気が付いて、驚いたあまりメイドはすってんころりとスベッて転んでしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
何だか可愛らしいような、面白いような展開に、康一は苦笑しながらメイドに手を差し伸べる。
床にへたり込んだメイドは差し出された手を掴んで、顔を真っ赤にし慌てて立ち上がった。

「申し訳ありませんっ!何の御用でしょうか!?」
普通に緊張しまくりのメイドさんに、アンリエッタも苦笑しながら尋ねた。
「マザリーニ枢機卿を探しているのですが、アナタどこに行ったかご存知ありませんか?」

「あっ、少し前までこちらで舞踏会の準備の指示を出しておられたのですが、
何でも昨年の舞踏会の資料が必要だとかで、資料庫の方に行かれました!」
変わらず緊張した面持ちで、メイドさんは元気よく答えてくれた。

「そうですか、助かりました。ありがとう、仕事に戻ってくださって結構です」
何となく微笑ましいメイドさんに和んで、アンリエッタは笑いながら礼を言った。
「ハイィっ!」
声が裏返り、可哀想なほど緊張して頭を下げるメイドさん。

そのまま仕事に戻ろうと、身を翻してパタパタと駆けていく。
アンリエッタもそれ以上は何も言わずに立ち去ろうとするが、少しメイドさんの服に目がいった。
「あら?ちょっとお待ちなさいな」

アンリエッタに呼び止められ、ビクンッと背筋が震えて立ち止まったメイドさん。
何か失礼なことでもしてしまったのだろうか?というか、してしまった気がする。
すってんころり、と姫さまの前でスッ転んだ自分。声が裏返りまくりの自分。
あぁ~、どうしよーーー!!とか考え、アンリエッタに向き直ることさえも思い至らない。

そしてアンリエッタは自分に背を向けるメイドの服に手を伸ばし、その裾を掴んで軽くはたいた。
「え?」
てっきり何かお叱りを受けるものと思ったメイドは、間の抜けた声を漏らす。
「転んで少し汚れていますよ。女の子なんですから、身だしなみには気をつけなさい」

ふふっ、と面白そうに微笑んで、埃を落とすその行動さえも優雅にこなす。
パンパン、と粗方はたき落とし、クルリと一通り見回して満足気にアンリエッタは頷いた。
「はい、これで大丈夫。仕事に励みなさい」
さりげなくメイドの目を見つめて、言葉を伝えるアンリエッタ。

「行きましょう。資料庫はこちらです、コーイチさん」
康一の先を先導するように歩いてゆくアンリエッタ。
康一はその後ろに続き、そんな二人を呆けて見つめるメイドが一人熱い溜息混じりに呟いた。
「お姉さま………」

自分の先を歩くアンリエッタに、康一は感心していた。
「さっきのアンリエッタさんカッコよかったですよ。
僕と話してるときなんかと雰囲気が全然違ってましたし、何だか別人みたいでした」
「そうでしたか?まぁ、確かにコーイチさんと話すときとは、ちょっと違ったかもしれませんね」

そうかもしれないな、と何となく思いながら、その理由を考える。
しかし考える内に、何故自分はメイドを気遣うような真似をしたのだろうか、という考えがアンリエッタの中に浮かんできた。
普段の自分なら、そんなことにも気が付かずにただ通り過ぎてゆくだけであろう。
一体今日に限ってなぜ、そんな行動をとったのだろうか?
考えても答えは出ない。

今はまだ。

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