ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ドロの使い魔-17

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匿名ユーザー

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空賊に捕らえられたセッコたちは、船倉に閉じ込められた。
元の船の乗組員たちはそのまま船の曳航を手伝わされているらしい。
セッコは剣を取り上げられ、ワルドとルイズは杖を取り上げられていた。
周りには砲弾やら火薬樽やら酒樽やら様々なものが雑然と置かれている。
ワルドはそれらを興味深そうに見て回っていた。
考え事をしていたルイズが、暇そうに寝転がっているセッコに向かって声をかけた。
「ねえ、こっそり外の様子を見てきてくれないかしら」
「こっそりは無理だ。」
「なんでよ?」
ワルドが代わりに答えた。
「扉の外に看守がいるし、他にも見張りはいるだろう」

いや、そういうことじゃねえんだけどな。
ワルドに聞かれたくなかったのでルイズの傍に寄る。
(壁や床が、薄すぎる。中に隠れられねえし、通った後に少し穴が残る。)
「そう、困ったわね。なんとかならないの?」
(部屋から部屋へ渡り歩いて一人残らず死体にするぐらいならできるぜ?
ホラー小説みたいによお。)
ルイズの顔が引き攣った。

「あのね、セッコ?」
「なんだよお。」
「それは、絶ッッッ対、絶対に!駄目!」

面白そうだと思ったのになあ。
その大声に、あたりを調べていたワルドが戻ってきた。

「落ち着くんだ、ルイズ。僕たちはずいぶん丁重に扱われているぞ」
「杖を取り上げられて船倉に押し込まれてる、これのどこが丁重なの?」
珍しくワルドが正しい。気がする。
「だよなあ、ルイズはともかくよお、おっさんとオレが拘束の必要もない病人や子供に見えるかあ?」
まあ、オレに物理的拘束は意味ねえけどな。
「セッコ、ちゃんとワルドのこと名前で呼びなさいっていったでしょう。
・・・でも、言われてみればおかしいわよね」
ワルドが言葉を続ける。
「それも不自然ではあるが、この部屋には火薬まで貯蔵してあるようだ。
確か、今のアルビオンでは火薬や硫黄が、黄金かそれ以上の価値があるのではなかったかな?
もし、僕たちが自爆したらどうなるんだろうね」
「オレはまだ死にたくねえぞ。」
考えるのが面倒になってきたので再び寝転がる。
ワルドとルイズも腕を組んで首を捻った。
その時、突然扉が開いて痩せぎすの空賊が姿を現した。

「頭が、直々におめぇらを尋問したいとさ。」
なんだそりゃ?身代金を取るために家名でも聞くのかあ?
ルイズが泡を飛ばして突っかかる。落ち着け。
「空賊風情が、貴族に聞きたいことなんてあるのかしら?」
「細かいことはお頭に聞いてくれ。俺たちも仕事なんでねえ」
そう言って男は笑った。
「いいじゃないか、ルイズ。直接交渉できるならこれほど楽なことはないだろう」
ワルドがルイズを制した。
とりあえず、様子を見るべきかなあ。

狭い通路を通り、細い階段を登り、三人が連れて行かれた先は立派な部屋だった。
どうやらそこがこの空賊船の船長室らしい。
扉が開くと、豪華なディナーテーブルがあり、一番上座に眼帯を着けたヒゲ面の派手な男が腰掛けていた。
大きな水晶のついた杖を持っている。
頭の回りでは、ガラの悪い空賊たちがニヤニヤと笑って、入って来たルイズたちを見つめている。

入り口のそばにいた一人が声をかけてきた。
「おい、お前たち、頭の前だ。挨拶しろ」
しかし、ルイズはそれを無視して頭を睨む。
「失礼ね!聞きたいことがあるならそっちから挨拶しなさいよ!」
頭はにやっと笑って言葉を返した。
「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さてと、なら本題に入ろうか」
「何よ」
「実を言うと俺たちはな、貴族派の密命で、アルビオンに入る連中を監視してるんだよ。
貴族がこの時期のアルビオンに行くからには何かあるんだろう?旅行なんて言い訳は無しにしようや」

「そう、つまりこの船は反乱軍の軍艦なわけね?」
「いいや、それは違うな。俺たちはあくまで空賊。対等なビジネスさ」
「空賊と手を結ぶなんて本当にアルビオンの反乱軍は屑ね。
わたしはアルビオン王党派、いえ、アルビオン王家への使者よ。
曲がりなりにもあなた達が軍と対等な関係というのならば、大使としての扱いを要求するわ」
「なにしに行くんだ?あいつらは、明日にでも消えちまうよ」
「まだ、敗北宣言はしてないでしょう?それに、何のために行くかなんてあんたらに言うことじゃないわ」

頭は、妙に楽しそうな様子でこちらを見ている。そしてルイズに言った。
「成る程な。まあ俺たちはそんな重箱の隅みたいなことまでは気にしてねえさ。
金が入ってくりゃあそれでいいんだからな。ところで、今からでも貴族派につく気はないかね?
あいつらは、メイジを欲しがっている。礼金もたんまり弾んでくれるだろうよ」

ルイズは少し震えながらも、胸を張って答えた。
「死んでもイヤよ」
セッコはその様子を見ながら思った。こいつは、本当に強情な奴なんだなあ。
・・・確かフーケの時もこんなだっけなあ。
その精神構造は基本的に自分優先のセッコにとって納得できるものではない。

だが、“主”として信念を決して曲げないのは多分いいことなんだろう。
少なくとも、ワルドやアンリエッタよりはいくらかマシに違えねえ。
ワルドのほうを伺うと、神妙な顔で“頭”を見つめている。相変わらずよくわからねえ奴だ。

「もう一度だけ言う。貴族派につく気はないかね?」
大きく息を吸い、胸を張りなおしたルイズより先に、いい加減イライラしていたセッコが罵声を上げた。
「つかねえって言ってんだろうがよお。
どうしても寝返らせてえなら、腕を切り落とすなり今ここで現金積むなり
無理矢理従わせりゃあいいじゃねえか!オメーら訳わかんねえよ!何がしてえんだあああああ!」
「ちょ、ちょっとセッコ気持ちはわかるけど落ち着きなさい!」
ルイズが慌てて止める。それと同時に“頭”がセッコのほうをじろりと見た。
「貴様はなんだ?」
「使い魔だがよお、それがどうした」
「・・・使い魔?」

突然、頭が大声で笑い始めた。
「トリステインの貴族は、気ばかり強くって、どうしようもないな。まあ、どこぞの国の恥知らずどもより、何百倍もマシだがね」
言いつつ立ち上がる。セッコはいきなりの変貌を観察した。
ワルドとルイズも顔を見合わせている。

「いや、実に失礼した。貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはな」
頭はそう言うと、突然顔のパーツを剥がし始めた。
いつの間にかニヤニヤしていた取り巻きたちが直立している。
現れたのは、なんと威風堂々とした金髪の若者だった。

「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官だ。
もっとも、既にこの[イーグル]号しか存在せず、装わざるとも空賊と大差ない無力な艦隊だがね。
もっとわかりやすく表現するならば、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」

ルイズは口をあんぐりと開けた。
セッコは首を捻った。
ワルドは興味深そうに、皇太子を見つめた。
ウェールズは、笑みを浮かべると、ルイズたちに席を勧めた。
「アルビオン王国へようこそ。大使殿。さて、御用の向きをうかがおうか」
ルイズはいまだぽかんとしている。セッコは胡乱な目でウェールズを見た。
「なあ・・・おめえ本当に本物かあ?だってよお・・・」

今にもウェールズに掴みかかりそうなセッコを制して、ワルドが優雅に頭を下げた。

「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」
「ふむ、姫殿下とな。きみは?」
「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵。
そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢。そしてそこの男がその使い魔です」
「なるほど、して、その密書とやらは?」
ルイズが慌てて、胸のポケットからアンリエッタの手紙を取り出した。

しかし、ウェールズは手紙ではなくルイズの指輪を見つめている。

「あ、あの・・・どうなされました?」
「ラ・ヴァリエール嬢、その指輪はどこで手に入れたのかね?」
「これは、任務を受ける際に姫殿下から賜ったものです」
「やはりそうか!それはアンリエッタが嵌めていた[水のルビー]だな。そして・・・」

ウェールズは自分の手から指輪を外し、ルイズの手に近づけた。
「この指輪は、アルビオン王家に伝わる[風のルビー]だ。
水と風は、虹を作る。王家の間にかかる橋さ」
2つの宝石が共鳴し、虹色の光を振りまいた。
「すごい・・・」
ルイズが感嘆したように呟く。セッコとワルドも目を丸くした。
ウェールズは満足そうに微笑んだ。

「すまない、少し話が逸れてしまった。では密書を頂こうか」
ルイズが一礼し、手紙をウェールズに手渡した。
ウェールズは、しばらくの間手紙を恍惚とした表情で眺めていたが、花押に接吻し、開封すると真剣に読み始めた。

「姫は結婚するのか?あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い・・・、従妹は」
ワルドとルイズが無言で頷いた。
ウェールズの表情が少し曇ったが、最後まで読み終えた時には、微笑みに変わっていた。

「了解した。姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な、姫からもらった手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう」
ルイズの顔が輝いた。
「しかしながら、今、手元にはない。ニューカッスルの城にあるんだ。
姫の手紙を、空賊船に連れてくるわけにはいかぬのでね。多少面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい。
・・・そうそう、剣と杖を返さないとな」
ウェールズはそう言って笑い、甲板に出て行った。セッコたちもそれに続く。

「なあ、ルイズよお?」
「何かしら?」
「アンリエッタは手紙を回収しろつってたけどさ。」
「それがどうしたのよ、今から取りに行くんでしょう」
「受け取ったら、即焼き捨てた方がよくねえかな・・・」
「なんでわざわざ命令無視しなきゃいけないのよ」
「いや、ヤバい手紙なんだろ?どこにあったって爆弾じゃねえかあ?」

アンリエッタがどうなろうと知ったことじゃねえ。
だが、たかが手紙が原因で同盟破棄?戦争?冗談じゃねえ。
まだ死にたくねえつーの。

「馬鹿ね、トリステインなりゲルマニアなり、ちゃんとした城の中にあれば大丈夫よ」
「盗まれたらどうすんだよ。」
「まともに機能してる城にどうやって忍び込むのよ。[ディテクト・マジック]っていう魔法を探知する魔法だってあるわ」
「いやほら、オレとかヴェルダンデみたいに。」
「あ・・・」
「気づけよ。」
「ま、まあ取り戻して姫様に返す前にでも考えればいいわ、多分」
「ほんとかよ。」

ルイズとセッコが話していると、ワルドを伴ったウェールズがルイズの杖とデルフリンガーを持って戻ってきた。
ニューカッスル城まではまだかなりかかるらしい。

そういえば、今日はまだ何も食ってねえなあ。
セッコは、飴を女神の杵亭に忘れてきたことを後悔した。




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