ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

条件! 勝利者の権限を錬金せよ その③

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匿名ユーザー

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条件! 勝利者の権限を錬金せよ その③

ルイズが目を覚ました時、すでに授業が始まっている時間だった。
寝惚けた頭で思い出す。
ええと、今日は、じゃなくて、昨日は、どうしたんだっけ。
小石を集めて、錬金の練習をして、失敗ばっかりして、爆発でボロボロになった。
おかげでギーシュが夜中に先生を呼びに行って、先生から治癒の魔法をかけてもらった。
……秘薬の代金はもちろん、自分が払わなければならない。
特にお金を使う予定は無いけど、大きな出費だった。
怪我は結構酷くて、まだ身体の節々が痛い。特に右手がまだズキズキする。
ルイズは上半身だけ起こして、恐る恐る両手を出す。
左手は、転んだ拍子に擦った程度の傷だったから魔法で治っている。
右手は、爆発を一番近くで受け続けたためまだ指の皮が痛々しく剥けている。
「うっ……」
よく見れば人差し指の爪にヒビが入っていた。
さらに手の甲には火傷の痕が残っている。治癒の魔法を何度もかければ消えるだろうけど。
どうやら右手以外の怪我はたいした事ないらしい。ルイズはホッと胸を撫で下ろす。
それから――思い出す。
小石を青銅に錬金した事を。
「せ、青銅! 青銅は!?」
慌てて周囲を見回すと、机の上に昨晩錬金した青銅の塊が転がっていた。
それを見た瞬間――ルイズは目頭がグッと熱くなった。
そして、誰にも見られていないから、素直に、嬉し泣きをする。
ようやく、ようやく長年の努力が実った。
系統魔法が成功した。
真面目に授業を受け、何度失敗してもあきらめず、練習を繰り返したおかげだ。
努力が――報われた。
(一生大切にしよう、一生の宝物にしよう、この小さな青銅を)
パッと世界が広がったような開放感の中、ルイズはいっぱいいっぱい泣いた。


これで家族のみんなも私を認めてくれる。
学院のみんなだって私を認めてくれる。
土系統の初歩、一番簡単な錬金とはいえ、ようやく成功できたんだもの。
もう誰にも『ゼロ』だなんて言わせない。
でも、ゼロじゃなくなったら私の二つ名は何になるんだろう?
青銅を錬金できたから青銅? 駄目だ、ギーシュとかぶってる。
錬金を成功させたという事は、自分の系統は土なのかな?
ギーシュと同じ系統……ちょっとヤだ。かといって火なんてもってのほか。
風か水ならいいな、なんか綺麗な雰囲気があるし。
怪我が治ったら、風と水の初歩的な魔法の練習も始めてみようかしら?
多分、また失敗しちゃうだろうけど、何度も練習すれば必ず成功する。
だってほら、私はできたじゃない。だからできる、絶対にできる。
まるで自分が自分じゃないみたいだった。
ベッドから降りた時、自分の身体が羽根のように軽く感じて、
レビテーションやフライなんか使わなくても空を飛べそうな気がした。
意気揚々とした気持ちでルイズは着替え、
それから右手の傷を隠すために絹の手袋を両手にかぶせ、寮を出た。

教室に入ると、ちょうど『土』の授業で『錬金』のおさらい中だった。
ルイズは今日欠席という事になっていたので教室のみんなは驚いたが、
ルイズは「遅刻扱いしてください、私は授業を受けます」と言い着席する。
そして、計ったようなタイミングで――前回『事故』により中段となった、
『錬金』のおさらいを、またやりましょう、という話になった。
教師のミセス・シュヴルーズが『誰』に錬金してもらおうかと、挙手を取らせた。
ルイズが真っ先に手を上げた。
するとどうだろう、クラスメイト全員が手を上げた。それはもう高々と!


「…………ミセス・シュヴルーズ! 私に――」
ルイズが自信たっぷりに言い出した瞬間、
ミセス・シュヴルーズは慌てて一人の生徒を指した。
「で、ではミス・ツェルプストー。前に出て錬金なさい」
「はい。私は破壊と情熱を司る『火』の系統ですが、
 少なくとも『錬金』で破壊をお見せするつもりはないのでご安心ください」
ドッと生徒達が笑う。笑ってないのはタバサとギーシュだけだ。
教壇の前に立ったキュルケは、軽やかに石ころを真鍮に錬金して見せる。
「よくできました、ミス・ツェルプストー。
 基礎はとても大切です。ラインやトライアングルのような、
 高等スペルを習うには、こういった基礎をしっかり習得する必要が――」
ルイズはキュルケが自分を挑発するようにウインクするのを見ると、
手に握っている羽根ペンが折れんばかりにギリギリと握ろうとして――。
ズキン。右手がまだ完治してない事を思い出し、涙をこらえた。

ミセス・シュヴルーズの授業が終わり休み時間となると、
キュルケが馬鹿にした笑みを浮かべてルイズに近づいてきた。
「見た? 錬金っていうのは、ああやるのよ」
「知ってるわよ、それくらい」
強気に言い返すルイズだが、いつもの通り強がってるだけだとキュルケは思った。
「ルイズも錬金程度の魔法ができるようにならないと、
 本格的にジョータローに見捨てられるわよ?
 ギーシュはドットだけど、彼をあんなにも鮮やかに倒すなんてすごいわ。
 ゼロのあなたにはすぎた使い魔よね。私がいただいちゃおうかしら?」
ガタン、とルイズは席を立ってキュルケを睨んだ。
「お生憎様、私は――ムグッ!?」
反論しようとするや、いきなり後ろから口をふさがれた。


「ま、待ちたまえルイズ!」
「あら、ギーシュじゃない。どうしたの?」
親切にもキュルケがルイズの後ろにいる人物を教えてくれた。
ルイズは、思い切りギーシュの爪先を踏んでやろうかと思った。
が、昨晩先生のところまで運んでくれた義理もあるので、グッとこらえる。
「いや、その、ちょっとルイズに用があってね。すまないがお借りするよ」
「ああ、そういえばあんたの所に行っちゃったのよね。
 ジョータローは元気? それと彼の好きなワインは何か知らない?」
「えっと、ビールが飲みたいって言ってたような気がするな。それじゃ!」
そう言ってギーシュはルイズの口を押さえたまま教室から逃げるように出て行く。
残されたキュルケは首を傾げる。
「ビール……そんな銘柄のワインあったかしら?」
そしてルイズもキュルケもギーシュも気づかぬところで、顔を赤らめる少女が一人。
「ぎ、ギーシュったら。今度はゼロのルイズにまで手を出すつもり? ゆ、許せない……!」
香水のモンモランシーの怒りは沸騰したお湯のようにグツグツと煮えたぎった。

廊下に出たギーシュは、ルイズの手を握って人気の無い方へ連れて行く。
ルイズは苛立ちながらも、ギーシュになぜ邪魔をしたのか問いただした。
「ジョータローと約束しただろう、賭けの事は秘密にするって!」
「それは……そうだけど、でも! 錬金が成功した事くらい話したっていいじゃない!」
「うっ……えっと、し、しかしだね!
 一度成功したからって、次も成功するとは限らないじゃないか。
 基礎は反復練習が大事なのだから、一度の成功で過信するのはよくないと思うのだよ」
「ん……まあ、そうかもしれないけど」
「とにかく! ジョータローとの賭けの時間まで、みんなの前で錬金するのはやめたまえ」
ギーシュの意見を聞き、ルイズは少しうなってから首を縦に振る。



「なるほど……いきなり成功させて驚かせる作戦ね!」
「いや、まあ……うん、そんな感じ」
「そのためには約束の時間までに錬金のおさらいをしなきゃ!
 事情が事情だから、今日は授業を休んでヴェストリ広場で錬金の練習をするわ」
「あー、ほ、ほどほどにね。ああ! そうそう、もう昼食の時間だ。
 練習はそれからでも遅くないと思うなぁ……はははっ」
「うーん……それもそうね。朝食抜きだから、お腹空いちゃったし」
「では食堂へ行くとしようか! …………ふぅっ……」
なぜだか疲れた様子のギーシュだったが、
あのジョータローに部屋を乗っ取られたのだから仕方ないだろうとルイズは思った。

「シエスタ、いるか? 昼食の余り物をもらいたいんだが……」
昼休みが始まる少し前、厨房に承太郎がやってくると、シエスタが大慌てで出迎えた。
「こ、こんにちはジョータローさん! あ、あの、昨日は失礼しました」
「いや、謝るのはこっちの方だ。騒ぎを起こしちまったしな……すまねえ」
「い、いえ。メイジの方にご迷惑をおかけになってしまって、本当、申し訳ないです」
なぜかシエスタの態度がよそよそしい。
「ギーシュの事なら気にするな。二股かけてたあいつが悪いんだからな……」
「いえ、ミスタ・グラモンの事ではなくて、ジョータローさんがメイジだなんて知らず……」
「……メイジ? 俺が?」
「だ、だって、ミスタ・グラモンを強力な魔法でやっつけたって……」
「……やれやれ、そんな風に伝わってるのか」
平民同士として親しく接してくれたシエスタの態度が変わった理由を知り、
承太郎は素直に残念だと思った。
魔法という固定概念を持っているこの世界の住人に、スタンド能力をどう説明したものか。
かといって正直にすべて話す訳にはいかない。メイジにはスタンドが見える。
スタンド使いにとって、自分のスタンド能力を教えるという事は命を預けるのに等しい。
特に敵対するメイジはいないが、教えなくていいものを教える必要は無い。


「…………シエスタ。俺がメイジだというのは誤解だ。だからかしこまるこたーねーぜ」
「でも、ジョータローさんが魔法を使ったって、みんな噂してますよ」
「……俺が使ったのは……『スタンド』だ」
「……スタンド?」
シエスタが首を傾げるのを見て、試すならいい機会かとも思い、
スタープラチナの右腕だけを出してシエスタの目の前で拳を握ってみせた。
だが、シエスタは不思議そうに承太郎の顔を眺めたまま。
目の動きにも不自然な点はない。つまり……スタンドが見えてない。
(なるほど……どうやら『メイジ』には『スタンド』を見る力があるらしいな。
 魔法を使えない平民は、スタンドを使えねー普通の人間と同じって事か)
スタープラチナの腕を引っ込めて、承太郎はどう説明したものかと思案した。
昨晩、ギーシュが寝巻きに着替える時、衣類を杖で飛ばしているところを見ている。
だからスタンドで物を持ってみせたりすれば、やはり魔法だと勘違いされるだろう。
杖を持ってなかったとしても、やはり固定概念というのは崩し難いものだ。
「スタンドってのは、俺の故郷の一部の連中が使える不思議な力の事さ」
「不思議な……力……」
「だがそれは魔法じゃねーし、俺は貴族でもメイジでもない。
 そこんところだけ解ってくれ」
シエスタは難しそうな顔をしてしばし考え込んだが、
笑顔を浮かべて承太郎に応える。
「私、魔法とかスタンドとかよく解りませんけど、
 ジョータローさんがそう言ってくださるなら、そう思う事にします」
こうして承太郎は一応の理解を得て、シエスタから余り物の食事を分けてもらった。
そしてのんびり食事をしていると――厨房の外、ちょっと離れた場所で爆音がした。
「な、何の音でしょう?」
シエスタが不安げに承太郎に問いかける。承太郎は溜め息をついた。
「やれやれ……昨夜もうるさかったが、まだやってるみてーだな」


「痛たたた……」
ヴェストリ広場の真ん中でルイズは引っくり返っていた。
うまくいく、と確信して錬金をしてみたら、やはりというか爆発した。
「うぅ~……失敗? いえ、昨夜成功した時も爆発はしちゃってたし……」
恐る恐る、ルイズは椅子の上に置いた小石を見る。
そこには青銅……ではなく、砕けた小石があった。
「……ま、まあ一度成功したからって百発百中とはいかないわよね」
ルイズは気を取り直してもう一度錬金した。
爆発した。小石のままだった。
「……だ、大丈夫よ。一度は成功したんだから、自信を持ってやらなきゃ」
ルイズは自分にそう言い聞かせもう一度錬金した。
爆発した。小石のままだった。
「い、痛い……。でも! 次こそ……うまくやってみせるわ!」
ルイズはポケットから昨夜錬金した青銅を取り出して握りしめた。
勇気と自信が湧いてくる。
よぉし今度こそ、と青銅をしまって小石に錬金をかけた。
爆発した。小石のままだった。
「な、何で……」
昨夜、一度きりの成功は偶然だったのだろうか。
偶然ならもう一度くらい起こってもいいのに。
それとも一晩寝たせいで集中力が途切れたとか、コツを忘れたとか……。
「こ、こうなったらあの時と同じ状況で錬金すれば……」
あの時の状況=失敗しまくって意識が朦朧として全身ボロボロ。
同じ状況を作るのはかなりヘヴィだった。
「……ど、どうしよう」
今は昼休み。約束の時間は夕食後。大丈夫、まだ時間はある。
こうなったら午後の授業全部欠席して錬金の特訓あるのみだ。
ルイズは再び特訓に打ち込み、爆発音は一時間ほど続いた。
「な……何で、成功しないのよ……」
そう呟いてルイズはぶっ倒れた。

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