ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は天国への扉を静かに開く-4

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匿名ユーザー

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「下着のようなデリケートなモノは私に任せてください。慣れてないと生地を傷めます」
「あぁ、ぜひお願いするよ」
水場で肩を並べて洗濯しているのは、シエスタと露伴だ。
昨夜ルイズに洗濯しておくように言われたシャツ、スカート、下着に合わせ、ベッドに掛けられていたシーツも。
衣類三つはシエスタに任せ、露伴は一際大きいタライにシーツをひたし、裸足になって踏むように洗っている。
今朝はルイズの絶叫にて起こされた。それと同時に静の泣き声の協奏曲だった。
どうと言うことはない、ただ単純に静がおねしょしただけの事だ。
生後一年に満たない赤ん坊だ、おねしょして当然だろう。
しかし、突然生暖かいモノに襲われたルイズの驚きようは尋常じゃなかった。
塔全体に響き渡りそうな絶叫だったが、不思議と聞きとがめて覗きに来るようなモノはいなかった、何らかの魔法を使っているのだろうか。
とりあえず静を裸にして、汚物にまみれた服とシーツと、ルイズの服もまとめて洗濯している。
シエスタには洗い場を探しているときに遭遇したのだ、お約束である。


とりあえず汚れの酷い静の服と、シーツを重点的に洗う。
赤ん坊の排泄物はさほど匂わないと聞いていたのだが、離乳の始まる生後半年頃にもなるとすっぱい匂いを確認した。
コレで赤ん坊を書くときよりリアルな描写が出来るぞ、と思いつつ露伴は踏み洗いを続行する。
「そう言えばロハンさん。シズカちゃんはロハンさんの……?」
「ん? あっはっは。何を言ってるんだ、ぼくはまだ二十歳だぞ。それに人付き合いという煩わしいモノより大切なモノがあるからね」
静は知人からの借りものさ。言ってなかったっけ? と露伴が言う。
「え……ですが、十代で結婚は普通だと思うんですが……」
「そうなのかい。なるほど、それは勉強になった」
この間、露伴はシエスタの顔を一度も見ていない。
顔を見ようとしない露伴にシエスタは怪訝そうな顔をするが。
「あの、ロハンさん。ロハンさんってどんなところに住んでたんですか? ミス・ヴァリエールへの対応が平民とかけ離れてるように思えて……」
「杜王町という町だ。特に都会というわけではないが自然が一杯で静かで、仕事がやりやすい、良いところだよ」
露伴の言葉『自然が一杯』と言うフレーズでシエスタは己の故郷、タルブの村を思い起こす。
「お仕事、されてたんですか。どう言った?」
「ぼくの生業は作家だよ」
「作家さんですか……どう言った物を書いていたんですか?」
「タイトルは『ピンクダークの少年』という。最近はちょっと事情があって休載していたがね。そろそろ再開しないと。ははは……」
聞いたことのないタイトルにシエスタは首をひねるが、『イーヴァルディの勇者』みたいなモノだろうかと想像する。
活版印刷のないこの世界で、出版物としての物語でポピュラーなのは『イーヴァルディの勇者』という叙事詩である。
シエスタも幼い頃、母に読んでもらったことは覚えている。
「ここでの経験は素晴らしいよ!! 今こうしているだけでも創作意欲がわいてくる。しかし道具がないのが悔やまれるな……どうにかして調達しないと」
踏み洗いしながら露伴は呟く。
「コレからいったい何が起こるのかぼくには全く予想が付かない………
まぁ、あちらに残してしまった事をそのままにしておく訳にもいかないから、帰らなくちゃ行けないんだけどね……」
そう言って沈黙した露伴に、シエスタは何か言おうとして口を噤んだ。
自分では理解できない思いで露伴が悩んでいることを察したからである。
「きっと………帰れますよ」
「……あぁ、赤ん坊のためにも、見つけ出さないとな」
丁度、汚れがキレイに落ちた。


汚れは落ちたと言ってもまだ濡れている。
日干しをシエスタに任せて露伴は急ぎ足で部屋へと戻る。
途中何人かの生徒と擦れ違い、その度に指差されて笑われたが、露伴はそれらを全て無視した。
ノックもせずドアをガチャリと。
「ん? 鍵締めてなかったのか」
そう呟いて内開きの扉を押して開く。
するとそこには、部屋の真ん中で困惑した様子で静を抱くルイズの姿があった。
「ちょっとロハン遅いわよ。はい」
そう言ってルイズは静を定位置へ、露伴の腕へと帰す。
一着しかない服は洗濯しているため、その代わりにタオルケットでくるまれている。
「もう、この子、人の胸ばっかまさぐってくるのよ」
「お腹がすいたんだろうな。吸わせてやれば良かったじゃないか、良い経験になる」
「っ…………」
落ち着け、落ち着け~、とルイズは自制する。
こいつの性格はまだ一日しかたってないがすこし把握した。
こいつは『全て良い経験』で片付けてしまう節がある。
下心も何もあったもんじゃないと言うことを把握した。ニヤニヤ笑っていれば冗談で言っているのがわかるが、真顔で言うのだから抗議のしようがない。
「吸わせてやってもいい気になったら言ってくれ。ぜひその場をスケッチさせてもらいたい」
前言撤回、こいつはどうにか自重させなければ……。
「ところでもう着替えたのか」
露伴の言葉に、ルイズは呆れたような口調で応える。
「だって仕方ないじゃない。シズカのおねしょで服汚れちゃったし。汚れたままあんた待つってのもおかしいし」
「そうか、てっきり着替えさせろとでも言うかと思ったのだがね」
「させようと思ったわよ。でも汚れたまま待つのもイヤだし。服脱いで全裸で待つのもイヤだし」
「ぼくとしてはぜひさせてもらいたかったというのも少しあるかな。人の服の着脱をしてやるというのも良い経験になる。もちろん君の頃の女子の肌がどんな感触かも確かめさせてもらうがね」
露伴がそう言った途端、ルイズは紅潮し両手で肩を抱くようにして引いた。
「………どうした、使い魔に裸を見られてもどうって事無いんじゃなかったのか? それに恥ずかしがるような体型でもないだろう」
「ぁ、あんたの言い方がいちいち卑猥なのよ! なんであえてそんな言い方するのよ! 一言おおいのよあんたはっ!」
「違うな。卑猥なのはぼくじゃない、それを卑猥だと感じる君の方が卑猥なんだ」
「な…………なんで私がっ!!!」
「ぼくは常に知識を増やそうと努力している。その為ならばたとえどんなことだろうと甘んじて受け入れる『覚悟』をしている。そしてその知識には卑猥とか卑猥でないと言った区別は『ない』のだ。判断してるのはルイズ君だ」
「………なんかあんたと話してると頭いたくなってくるわ……良いわよもう、好きにしなさい」
そうさせてもらうよ、と露伴は応え。部屋を出るルイズの追従する。
それと同時に、隣の部屋のドアが開いた。


こいつは、確かキュルケと言ったか。
ヴァリエールの領地の隣、ゲルマニアのツェルプストーの一人娘。
確か歳は十八、ルイズの記憶によると男遊びが過ぎてゲルマニアにいられなくなってトリステインに来るようになった、とか書かれていたな。
しかしそれはあくまでルイズの記憶、ルイズの感想でしかないからあまり参考にはならんな。
後でこいつも直接読むか……。

なんて、露伴が考えていることを想像だにせず、等の二人は廊下のど真ん中でぎゃあぎゃあと叫いていた。
厳密に言えば、叫いているのはルイズだけで、キュルケはそれをさらりと流しているだけだったが。
「やっぱり使い魔はこうじゃなくっちゃね~。フレイム」
そう言ってキュルケの部屋からのそのそと出てきたのは真っ赤な何かだった。
「むっ、しっぽに炎があるデザインなのか。トカゲのようだが鱗は……なるほど、ずいぶん細かいな。体長は190ほどか。足はさすがに短いな」
フレイムが出てきた途端、露伴は飛びついてなで回し始めた。
もちろん、その腕のシズカはキュルケに押しつけた。
突然なで回されてフレイムは当惑しているようだったが。キュルケはそんな露伴の行為に満足そうに笑みを浮かべた。
「火竜山脈のサラマンダーよ。タバサのシルフィードには劣るけど、それでも一級品の使い魔よ。その辺の好事家に見せたら値段なんてつかないわよぉ~」
「ふん、あんた『火』属性だしね。そりゃよかったわね」
「えぇ、微熱のキュルケですもの、でもそれで男の子とはイチコロ、あなたと違ってね」
そう言ってキュルケが胸を張ると、豊かなバストがぷるんと震える。
負けじとルイズが胸を張るが、戦力不足は否めない、見ている露伴が惨めな物を見る目つきになっている。
「わ、わたしはこれからなんだもん! コレから大きくなるもん!」
「十六でそれでは絶望的だがな……」
ぽろりと零した言葉に、ルイズは殺気を込めて露伴を睨んだ。
「あなた、名前は?」
ルイズとのコミュニケーションをほどほどに切り上げて、次にキュルケは露伴に話しかける。
「岸辺 露伴」
「キシベロハン? 変わった名前ね」
「ロハンが名前だ」
顔を上げることなく露伴は未だにフレイムのしっぽをなで回してる。
時たま「あちっち」としっぽの炎に触れてる。
満足したのか、露伴はすっくと立ち上がり、キュルケから静を受け取る。
「可愛いわね。あなたの子?」
「違うわよっ! あんたわかってて言ってるでしょ!」
「当然じゃない。子供どころかあんたには付き合ってる男の子すらもいないものね。じゃあお先に失礼」
ほーっほっほと笑いながらキュルケが去ると、フレイムも図体の割に可愛い足取りでちょこちょこと付いていった。
「きぃーーーーーっ、悔しい、何よ自分が火竜山脈のサラマンダー召喚したからって調子に乗って!」
「良いじゃないか、別に何を召喚しても」
「良くないわよ! メイジの実力を見るには使い魔を見ろって言われるくらいなのよ!? それなのになんであのバカ女がサラマンダーで私が平民なのよ!」
相当悔しいらしい、露伴から見ても哀れに思うくらいだから相当なモノだ。
「キュルケはフレイム一匹でお前はぼくら二人じゃないか、その時点で大当たりじゃないのか」
「平民なんて物の数じゃないわよ! いぬと狼くらいの違いがあるわよ! あぁもう、せめてなにか自慢できるようなことがあればいいのに、もうっ」
発狂寸前である、露伴が『お前』と呼んだ事にも気付かないほどだった。


何を血迷ったのか。
露伴はそう悔しがるルイズに、言ってしまったのだ。
「君がそう思うならその内見せてやるよ、ぼくのチカラを」


「……ねぇ露伴今なんて?」
「赤ん坊がお腹を空かせている、早く厨房に行こうじゃないか。ぼくもお腹がすいた」
「ねぇ露伴今なんて言ったの? ひょっとして何か特技でもあるの?ねぇ今確かに言ったわよね? 今すぐ見せてみなさいよ。あ、ひょっとして昨日『見えない』とかなんか言ったことが関係あるの? ロハン! ご主人様の命令が聞けないの!? ちょっとっ」
つい言ってしまった事をほんの少し後悔しながら露伴は歩く。
その後ろを、瞳をまるで子供のような好奇心一杯で輝かせるルイズを、力の限り無視しながら。
こんな生意気なガキは嫌いなはずなのに。


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