ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ドロの使い魔-9

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匿名ユーザー

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その深夜、セッコは彼にしては珍しく悩んでいた。
ルイズは“フリッグの舞踏会”の疲れか、完全に眠りこけていた。

学院長室でのやりとりを思い出す。

「でも?」
「何も分からんでも、恨まんでくれよ。記憶を~」

あのヒゲジジイ、分かっても教える気がねえんじゃねえだろうな。
だが調べようにもここの図書館へは、使い魔や平民は入れんらしい。
そもそも入ったところで字が読めねえ。
元々読めなかったのか、それともここの字がダメなのかは分からねえ。
この時点で自力という選択は却下だ。
誰かに、ヒゲではない誰かに調べてもらうしかねえ。
第一案。
目の前で寝ているルイズを見る。左手の印も見る。
怖いし却下だ。
第二案としてギーシュの顔が浮かんだ。あいつなら何でも聞いてくれるだろ。
だがなあ。
「やっぱし、馬鹿もダメだあ。」
つい口に出しちまった。うう・・・

そうだ。頼めそうな奴がもう一人いるじゃねえか。頭もオレよりよさそうだ。
まだ起きてるかなあ、やるなら早い方がいい。

ルイズは自分のベッドの上で、夢を見ていた。昔の夢。
舞台は生まれ故郷のラ・ヴァリエールの領地にある屋敷。
「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの?まだお説教は終わっていませんよ!」
「ルイズお嬢様は難儀だねえ。」
「まったくだ。上の二人のお嬢様はあんなに魔法がおできになるっていうのに・・・」

もうやだ、逃げなきゃ。頑張ってるのにお小言ばっかり。

「泣いているのかい?ルイズ」
後ろから声をかけられる。何で、何でこんなときに憧れの子爵様が。
はずかしくて仕方ない。
「子爵様、いらしてたの?」
幼いルイズは、慌てて平静を取り繕った。

「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あのお話のことでね。」
「いけない人ですわ。子爵様は・・・」
「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」
「いえ、そんなことはありませんわ。でも・・・わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」
ルイズははにかんで言った。
「ミ・レイディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじき晩餐会が始まるよ。」
「でも・・・」
「また怒られたんだね?安心しなさい。僕からお父上にとりなしてあげよう。」
手が差し伸べられる。大きな手、憧れの手。

その時、足元が突然崩れだした。風景が、地面が歪む。
子爵は“フライ”で飛び去ってしまった。
ルイズは飛べない。足が、腰が、沈んでいく。
「た・・・すけ・・て・・・セ・・・」

「あ、あら?!」
とんでもない悪夢だったみたい、このわたしが途中で目覚めるなんて。ひどい汗。
今日はいろいろなことがありすぎて、神経が昂っていたのかもしれない。
「セッコ、水汲んできて。」
反応がない。こんな深夜にどこへ行ったのだろう?
いや、あいつがいつの間にかいなくなるのは毎度のことなのだけれども。
「セッコ!」

      • 反応がない。
今まで大声で呼んで来なかったことは一度もなかった。
気になるわ、探してみようかしら。視聴覚の共有ができないって不便ね。


ルイズが目覚める少し前。

「確かに、前シルフィードが止まったのはこの部屋だったと思うんだがなあ」
いくらドアを叩いても反応がない。しかもカギがかかっている。
“潜って”もいいかな?
タバサには学院長室で壁から出てくるところを見られているはずだ。
なら、隠さなくてもいいだろ。多分。

セッコの脳に、倫理的な問題云々などという項目はないのであった。

タバサはちょうど“今日の分”を読み終わろうとしていた。
と、ドアがノックされている。
どうせキュルケだろうけれど、こんな夜更けになんだろう?
無理矢理押し入ってこないということは、非常時ではない。無視して寝よう。
パジャマに着替えてからドアと壁に“サイレント”を掛け、静けさを手に入れる。
しかし安息は訪れなかった。

「なあー。」
何者かにいきなり肩を叩かれた。すわ刺客か?慌てて枕元の杖を掴み飛び下がる。
「そんなに驚かなくてもいいじゃねえか。」

幾分しょぼくれた表情のセッコがそこにいた。
「驚くなと言う方がおかしい」
「そうかなあ。」
無邪気そのものの表情で即答された。
セッコの感覚は間違いなく普通とかけはなれている。
人のことは言えないかもしれないけれど。

「で、何?」
「こっそりと頼みがある。」
妙に真剣だ。嫌な予感がしなくもない。
まあ、こちらから訊きたいことも多かったし聞いてもいいか。
「質問に答えてくれるなら。可能な範囲で聞く」
「わかった。」

「うーん、セッコが深夜に行きそうな場所なんてねえ。」
誰に聞かせるでもなくルイズは呟いた。全く行きそうな場所が思いつかない。
夜の学院事情なんて知らないわよ。

ああそうだ、夜に詳しい奴が隣にいたじゃない。あんまり頼りたくないけど。
まだ起きてるかしら?
ドアをノックする。
「なによ、眠いんだけど。」
反応があったわ。さすがね、お肌に悪いわ。
「ちょっとお願いがあるんだけどいいかしら。」
「物凄く珍しいわね。やれることよりやらないことの方が多いわよ?」
キュルケがぶつぶつ言いながらも部屋から出てきた。
いつもながらこの乳むかつくわね。
そうだ、今はそんなこと考えてる場合じゃなかったわ。
「セッコが行きそうな場所とか知らない?」
「いきなりどうしたの?」
「気づいたらいなかったのよ。いつもと違って呼んでも来ないし。」
「そんなこと言われても知らないわ。
私の魅力より朝食の方が大事な男にはさすがに興味ないし。」
あの朝の事をわりと根にもってるみたい。心の中でセッコを褒めておく。
「やっぱり聞かなければ良かった。」
「うるさいわね。ああ、タバサなら知ってるかもしれないわ。」
「なんでよ?」
「シルフィードとえらい仲よさそうだったわよ、セッコ。」
ああ、そういえばそうだわ。
「案内して。」
「はいはい、恩にきなさいよヴァリエール。」
キュルケについていく。

「あら、ノックする前からサイレントが掛かってるなんて珍しい。」
「それじゃ起こしようがないじゃない。」
「多分起きてるわよ。」
そんなこと言われてもね。
「でも、音が通らないんじゃ気づいてもらえないわ。」
「タバサに話訊いてみたい?」
「そりゃきけるもんなら訊きたいけど。」
サイレント掛かってるんじゃないの?
「・・・アンロック」
「ちょ、ちょっとキュルケ!」
「あなたが話訊きたいって言ったんじゃない。」
「まあそうだけど。」

「と、取り込み中だったかしらあはははは」
キュルケが、気まずそうに言った。
「・・・・・・」
目に飛び込んできたのは、二人の予想を遥かに超越した光景だった。
タバサとセッコがベッドに座って何か話している。
しかもタバサはパジャマ姿だ。
これが意味するものは一つね。一つ・・・

「うお、何かあったのかルイズ?」
セッコが何か言ってるわ。何か。じゃあないわよね。
「ねえ、セッコ」
「うん」
「あんたが誰とつきあおうが、あんたの勝手。」
「おあ?」
「でも、でもね」
タバサをちょっと見る。うん。間違いない。
「[それ]は犯罪でしょうーーーーーーーー!!」

絶叫と同時に右ストレートでセッコをぶん殴る。
「い、いてえええ!な、なんなんだルイズオメー」
「何じゃないわよ!どう見たって犯罪よ犯罪!!!帰るわよ!」
セッコの足を掴んで引き摺る。
「おああ、おいちょっと待て」
パシッ
「待たないわ。」
「話を聞けっ、よ、寄るなあぁー」
バシッ
「うるさい黙れ。」
「うおあオレ悪くねえ!」
メキッ
「そういう問題じゃないわ!」
「いでえ、何怒ってんだあ!」
ガッガッガッ
「うるさいうるさいうるさい」
「アギェー」

キュルケはセッコを引き摺りながら部屋に戻っていくルイズを見送り、タバサに声を掛けた。
「なんだかんだ言って、よろしくやってんじゃない。」
「だから。勘違い。」
「そうかしら」

セッコがその思慮の浅さにより、ルイズに散々とっちめられている頃・・・。

遠く離れたトリステインの城下町の一角にあるチェルノボーグの監獄で、土くれのフーケはぼんやりとベッドに寝転んで壁を見つめていた。
「まったく、か弱い女一人閉じ込めるのにこの物々しさはどうなのかしらね?」
苦々しげに呟く。全く杖のないメイジは無力極まりない。
それからフーケは、自分を捕まえた奴のことを思い出した。
「たいしたもんじゃないの、あいつらは!」
とても人間とは思えない素早い動き。
そして、ゴーレムに塗り込めたと思ったのにいつの間にか背後にいたこと。一体何者だったんだろう?

しかし、今となってはどうでもいいことだ。
貴族たちを散々振り回したのだ。きっと来週にも死刑だ。
自分の編み出した様々なテクニックも永久に失われてしまうだろう。
諦めて寝ようとすると、聞き慣れない足音に気づいた。
しかも、その足音はフーケの前の鉄格子で止まった。さっと身を起こす。

「おや、こんな夜更けにお客さんなんて珍しいわね。」
黒マントに白い仮面という露骨に怪しい人物が自分を見下ろしている。
杖も携えている。おそらくメイジだ、正直刺客としか思えない。

「[土くれ]だな?」
「誰がつけたか知らないけど、確かにそう呼ばれているわ。」
「話をしにきた」
「話?」
「そうだ、土くれもといマチルダ・オブ・サウスゴータ」
誰も知るはずのない、捨てさせられた自分の本名。
「・・・聞かない、という選択肢はなさそうね。強制かしら?」
「まあ、そうだな。」
「弁護でもしてくれるって言うのかい?」
「弁護どころか、扉を開けてやれるんだがな。こちらの組織に身を寄せてくれるなら、だが。」
「寄せなかったら?」
「この場で殺す。」
「ふん、そうかい。じゃあ仕方がないね。」
「手伝ってもらえるな?」
「ああ。組織の名を教えてくれるならね。」
 男はポケットから鍵を取り出し、錠前に差し込んで言った。
「レコン・キスタ」




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