ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロのテキーラ酒売り

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「宇宙の果てのどこかにいるわたしのしもべよ。
神聖で美しく、強力な使い魔よ。わたしは心より求め、訴えるわ……
我が導きに、答えなさい!」
ルイズは呪文を詠唱すると、祈る思いで杖を振りかざした。
途端に爆発が起こり、同級生達が叫び声を上げる。
音にはもう慣れた。ルイズは目を細め、唇をかみ締めながら爆発地点を見つめる。

夕焼けと爆発の煙にぼやけ、うっすらと何かの影が見えた。 
「うそだろ、ゼロが」「何かの間違いだ!」「やっと帰れる!寝れる!」
好き勝手に騒ぐギャラリーの言葉もルイズの耳には入らない。
何十回もの失敗のすえの成功。嬉しさに顔がにやける。
危険は二の次、と影に歩み寄った。失敗しすぎて日が暮れかけている。
早く契約したかったし、何より間近で姿を見たかったのだ。

強風が吹いて、煙を一気に吹き消した。ルイズの心臓が一際強く跳ねる。

ゆっくりと立ち上がったその姿は、人間の男に似ていた。
体つきは人間そのもの。圧倒的な存在感を放つ高い背丈と逞しい体躯。
頭から十本ほど、細いものが角のように突き出ている。
不思議な装束を纏っている。薄い布地が身体に貼りつき、ずいぶん窮屈そうだ。
ルイズ達は息を呑んだ。
一瞬、その身体が夕焼けの光とも異なる奇妙な輝きを纏っているように見えたからだ。
ルイズの背後から「亜人……?」と呟く声が聞こえた。

ルイズの目線が亜人?の顔へと移り、そこで凍りついた。
亜人?と最も近い位置にいるのがルイズである。距離はほぼ3メイル。
ルイズ以外は遠巻きになっている為、15メイルは離れている。
だから最初に気づいたのは当然ながらルイズだった。

 亜人。亜人、よね?そうよねうんそうだわ。だってこんなに変なんだもの。
 眉なんか妙に黒くて太くって、目の周りなんて濃い紫色。頬もこてこての紅色で、
 分厚い唇は硬そうなのに真っ赤。どう見ても普通じゃない。
 でも、でも目つきや肌の色も人間っぽい。着てる物もよく見ればワンピース?
 角みたいなのはただの頭飾り?
 い、いやいや待っておかしいわ。そんな事あるはずない。
 だって「これ」が人間だとしたら180サント以上の筋肉男よ?化粧してたり
 スカートはいてたらへ、へへへ変態じゃない。だからこれは亜人。どっか遠くの
 部族の民族衣装かなにかよ。どんなに人間に似てても、にに人間なわけないのよ。

亜人は寝ぼけたような目できょろきょろしている。爆発のショックだろうか。
そのまま何故か足元に転がっているガラスビン数本をぼんやりと眺めていたが、
ルイズを見るやそのうちの一本を拾って差し出す。そして何事か呟いた。

「あらお客さま?あたしのドリンクいかが~~?お嬢ちゃんにはまだお酒は
早いから、冷たァいコーラでもどうかしら~~~~」

うわ言のように続けられるそれはどう聞いても人間の言葉だった。

ドッギャァアアアアン
ヴァリエール公爵家三女ルイズ・フランソワーズ・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの
使い魔はなんと人間で平民!しかも筋肉達磨の女装男に決定ッ!!

ルイズは耳を澄ました事を後悔し、立ち尽くした。

会話を交わしたかと思いきや、硬直して動かないルイズと亜人?の様子に生徒達が
不審を感じざわめき出す。
「もしかしてあれはただの人間なのでは?」と誰かが口にすると、すぐにからかいの
声も出始めた。だが、少数いた目端のきく者の「あれって女装した男じゃ」という声は
途中でどこかから放たれた炎によって遮られた。

(召喚したのが人間だった位なら笑いのネタにできるけど、“あれ”をからかったら
ルイズはもう立ち直れない。なんとなくそんな気がする)
普段ルイズのライバルを自称しているキュルケははらはらしながら杖を握りしめた。

ルイズの肩は震えていた。
やっと現れた使い魔である。贅沢は言わない、はずだった。
鼠や蛙でも文句はないし、いっそ虫でもいいやぐらいの覚悟は出来ていた。数分前までは。
(ミミミミスタ・コルベールやりなおしのきょかを)
自分の喉が乾ききってヒューヒューという音しか出していないと気づかないまま
ルイズが背後を窺うと、コルベールは首をかしげながら眼鏡を拭いている最中で
まだ何も口にする様子はなさそうだった。
ルイズの瞳が潤み、目尻に涙が溜まる。

 ……ミスタ・コルベールはどうせ再召喚を認めてくれないだろう。
 きっと「神聖な儀式だから」とか言って、取り付く島もないに決まってるわ。

絶望に心が埋め尽くされ、浮かんだ涙の一粒がこぼれそうになったところに、
ルイズの頭の中でチリペッパーをブチ込まれたような電撃が閃いた。

 ――なに、「再召喚を認めてくれないかも」ですって?
逆に考えるのよルイズ。
はっきり『認めない』と言われる前にこの女装男を消しちゃって、まるで
最初から何もいなかったかのように『またまた失敗しちゃいましたァァアン』と
ごまかせば万事解決――と考えるのよ。
だから急いでジョースター家の恥さらしであるそのマヌケを爆死させるんだルイズ。

 ってあれ?なんか途中から誰かが割り込んできたような感じだったけど……
「なかったことにする」。なんて盲点。この説得力、天の声と呼ぶべきね。
 コントラクト・サーヴァントをするふりして爆破。
 微妙に悔しいけど「いつもの失敗」って事ならコッパゲも信じるはず!

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン……この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
一気に言い切ると、ルイズは男に近づこうと一歩更に足を踏み出す。
(そう、あと少し。あと少し近づいたら至近距離で『レビテーション』を
食らわせてやるわ。勿論コッパゲ達に聴こえない超小声でッ!!)
ルイズは男と数サントの距離まで顔を寄せた。袖に潜ませた杖を男に向ける。
そのまま詠唱を始めようとしたルイズの唇は、
「むぐっ」というくもった音を残して――男の唇に奪われていた。

ルイズの失敗は「近づく前にしっかり男の様子を確認しなかった」に尽きる。
元々涙が滲んで視界がぼやけていた上に、ルイズは男を直視するのをためらい
無意識に視線を逸らしていたのであった。
だから、異変を感じた男が最初の発言以後沈黙し、現状把握に努めていたこと
に気づけなかったし、男の瞳が自らに近づいてくるルイズを観察していること
にも考えが及ばなかったのである。

「むむっ?ふ、むむ……」
『唇を塞がれていたら詠唱が出来ない』。ルイズが最初に思ったのはそんな事
だった。次第に気づいて抵抗し始めるが、男の手に両肩を押さえられており
身じろぎ程度にしかならない。
誰も止める者はいない。傍目からは何も問題のない契約の儀式だった。

ルイズは男の唇を噛んでやろうと思った。だが顎が動かない。
身体に流れ込む暖かさが安心感を呼び、抵抗していた手足の動きすら止めている。
その暖かさは、男の手と唇から流れ込んできていた。
男が右手をルイズの頬に添え、彼女の涙をそっと拭った。

契約中の二人を、キュルケが呆然と見つめていた。
(まさか、ルイズが素直にキスするなんて……絶対ゴネると思ってたわ。
ああルイズったらあんなに気持ち良さそうに!エロ光線か何かかしら。
ちょっと代わってほしいかも。この際見た目が不気味とか気にしないから。
あああルイズ目がとろんとしてる!羨ましいのよッ代わりなさいルイズ。
早く代われ私と代われェェエエエッ!!)

血走った目で赤い髪を逆立てていたキュルケの足をとんとん、と誰かがつつく。
キュルケの右隣に座って本を読んでいた親友、タバサである。
「ど、どうしたの?タバサ(今いい所なんだけど)」
「よだれ」
一言で返答すると、タバサは本の頁に目を向けたままキュルケにハンカチを差し出した。

二人の口付けは、ルーンによって男が左手に痛みを感じ始める数秒後まで続いた。

例え目の前に広がるのが見知らぬ土地であろうとも、例え相手から殺気を感じたと
しても、美少女とは一応キスをしておく――後でナチスの基地の場所と、ついでに
この娘がレズビアンなのかも尋ねてみよう。
召喚された男、ジョセフ・ジョースターの思考は現在、だいたいこんなものだった。
彼は自分の女装に絶対の自信を持っていた。

ジョセフには女装の才能の代わりに運を引き寄せる才能があった。
しかしこのキスが彼にとっての幸運になるかどうかは、まだ誰も知らないことである。



つづかない。

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