ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-19

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匿名ユーザー

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ルイズはニューカッスル城の裏庭で、石つぶてを投げる訓練をしていた。
指の力で投げるだけで、銃と同じか、それ以上の破壊力になる石つぶて。
しかし命中精度が悪く、ルイズは精度を上げるために日々考案と訓練を繰り返していた。
訓練を終えると、見張りの交代時間が迫っていたので、ルイズは裏口から城内に入っていった。

「そちらの芋を剥いたら、こっちのボウルに入れておいて下さい」
「あいよ!」
「ブルリンさん、貯め置きしていた水が足りなくなってしまって…」
「すぐ持ってくるぜ!」
「ブルリンさーん、倉庫から塩漬けの肉を持ってきてくださーい」
「わかった!」
「ブルリンさーん!」

「…何よアイツ、けっこう人気者じゃない」
たまたま裏口から厨房をのぞき見たルイズは、やけにメイド達に頼られているブルリンの姿を見て、呆れていた。
厨房でやたら人気の男、ブルリン。
とても傭兵として雇われたとは思えない程、嬉々として厨房を手伝っては、洗濯を手伝い、はたまた平民の衛兵を相手に力自慢などもしている。
ルイズはそんなブルリンの姿を見て、少し羨ましいと思った。

「君が傭兵の『石仮面』殿かな?」
ルイズが見張り台に立っていると、突然後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこには凛々しい金髪の男性、まだ年は若そうだがルイズよりは上、ロングビルと同じぐらいだろうか?
「で、殿下!このような所に来られては危険です!」
「なあに、彼らがその気なら、私はとっくに砲撃で殺されているよ」
「ですが…」
「石仮面殿、私は貴方に話があるのだが…私の身を案じてくれている部下のために、下までご足労願えるかな」
ルイズは殿下と呼ばれた男に礼を示すため、フードを取った。
「分かったわ。…殿下、とお呼びすればよろしくて?」
「失礼、私の名はウエールズ・テューダーだ、ウェールズと呼んで貰っても構わない」
ルイズはウェールズに連れられて、ウェールズの私室に入った。
ウェールズの私室は、とても王族の部屋とは思えない程簡素なものに見えた。
ルイズが部屋に通されてすぐ後、ブルリンも衛士に連れられてウェールズの私室に入れられる。

衛兵が扉を閉めたのを確認すると、ウェールズは父譲りの威厳と、若さのある声で話し始めた。

「もう聞いているかもしれないが、反乱軍からの通告があった、明日、このニューカッスルに総攻撃を仕掛けるそうだ」
「あ、明日、ですかい?」
「そうだ、その驚きようだと聞いていなかったようだな…君は、ブルリン君だったかな?」
「へい」
ブルリンが返事をすると、ウェールズはにっこりと微笑んだ。
その微笑みはどこかか、深い思惟の末に何かを決断した、そんな愁いを帯びた微笑みだった。
ウェールズは机の脇から、二つの箱を取り出した。
見事な装飾が施された箱は、リンゴが10個ぐらいは入るであろう大きさをしている。
かちゃりと鍵の音がして箱が開く、すると、その中には見事な金銀の食器が入っていた

「申し訳ないが、金貨の代わりとして受け取って貰えないか、新金貨で600枚にはなるだろう」
「報酬?私たちはまだ仕事を済ませていないわ」
ルイズの言葉にウェールズが苦笑する。
「成功報酬は払えない、この城で戦力となる人間がどれだけいるか、君も見ただろう。我々は約300、反乱軍はおよそ5万、これでは勝ち目はない」
この言葉で、ウェールズの微笑みの意味を理解した。
成功報酬が払えないという事は、敗北が確定しているという事。
ウェールズも、この城の者達も、きっと敗北を知って戦うか、それか逃げるのだろう。

「あ、姉御、どうしよう」
「……私は『反乱軍を相手に戦う』ために雇われた、それは相手が5万だとしても変わらないわ」
ブルリンはしばらく悩む仕草をしたが、すぐに顔を上げてウェールズに向き直った。
「姉御が戦うなら、俺も!」
「あんたは帰りなさい、酒場のマスターの子供が疎開してるんでしょう」
「でもよぉ!ここまできて、今更後には引けないだろ!」
「身の程ってのを知らないの?適当に保身ぐらい考えなさいよ」
「じゃあ何で姉御は戦おうとするのさ」

二人のやりとりを聞いていたウェールズが、ふふ、と笑う。
「君たちは義理堅いのだね、では、明日の午前中、非戦闘員を乗せた船が城から脱出するので、その護衛の前払いとして受け取って貰えないか?」
ブルリンがウェールズの言葉に疑問を抱く。
「でも、あの『レキシントン』って戦艦が狙ってくるんじゃ」
「隠し港でもあるの?」
ルイズが核心をついたのか、ウェールズの目つきが一瞬鋭くなる、だがその目つきもすぐに優しい目に戻った。
「ご明察だ、この城の地下には隠し港がある、そこから脱出用の船を出すのさ」
「隠し港ね…まあ、お城だからそれぐらい備えは予想していたけど、少し驚きね」
「このアルビオンには、1メイル先の視界も効かない場所がある。反乱軍は座礁が怖くて、そんな場所には近づけないのだよ、形は取り繕っていても彼らは空を知らぬのさ」

自軍の技術を褒めるウエールズの瞳は、まるで少年のそれだった。
こんな絶望的な状況であっても『誇り』とか『気高さ』を失わない。
その瞳がルイズには痛々しく感じられた。

「…まあ、いいわ。ブルリン、あんたは船に乗って殿下を護衛しなさい、私はここに残る」
「姉御!?」
驚き、引き留めようとするブルリンを、ウェールズが遮った。
「誤解しないで欲しい、私はここで栄光ある敗北を選ぶ、君たちはあくまでも非戦闘員の護衛をして欲しい」
「なんですって、ウェールズ殿下、あなた、死ぬつもり?五万の兵に立ち向かうつもり?」

ウェールズは、無言だったが…力強く頷いた。

コンコン、とノックの音が響く。

「入りたまえ」
「失礼致します。決戦前の宴の準備が整いました、皆殿下をお待ち致しております」
「聞いたとおりだ、二人とも、戦うにしても逃げるにしても腹ごしらえぐらいしなければならないだろう。今日は思う存分食べてくれ」

「…あ、あの、じゃあ今日、厨房がやたら忙しかったのは…」

「はっはっは、厨房のメイド達が楽しげに話していたよ、ブルリン君も調理を手伝ってくれたそうだね。今日は私も心して食べさせて貰うとしよう」

そして、ウエールズが部屋を出て大広間に移動する。
ルイズとブルリンもその後をついて行った。

この城の大広間にはすでに豪華な料理が並んでおり、衛兵達もメイド達も分け隔て無く集まっていた。
その中央を国王であるジェームズ一世が歩き、ウェールズがそれに続いた。
玉座に座ったジェームズ一世は、その年老いた姿とは裏腹に、胆力と威厳のこもった声で宴の始まりを宣言した。

ルイズは、なぜか居たたまれなくなって、その場を離れた。

「男って、馬鹿みたい、死にたがるなんて…」
ニューカッスル城のバルコニー。
普段は見張りの兵士が立ち物々しい雰囲気だが、今はルイズしかいない。
月を見上げると、光が優しく自分を包み込んでくれる気がする。
今が戦時下でなければ、このバルコニーはどれだけ素晴らしい雰囲気だろうか。

そこに一人の男の足音が近づいてきた、足音には覚えがある、ウェールズだ。
「やあ、楽しんでくれているかね」
「…まあね」
「ブルリン君は人気者だな、先ほどワインをたらふく飲まされて、転んでいたよ」
「あの馬鹿、明日が決戦だって事わかってんのかしら」
「君こそ」
「え?」
「何故、そんなに平然としていられるのかね」
「…………」
「私は今日、思い人からの手紙が届いてね、いや、明日死ぬと決まった男に、恋文がね」
「恋文?」
「ああ、いとこの少女さ、まだ本当に幼い。そう……本当に幼いんだ」
「殿下のいとこ……まさか、アン…」

アンリエッタ、と言おうとしたルイズだが、ウェールズがこちらに寂しげな微笑みを向けているのに気づき、言葉がとぎれた。
「……私は王族としての責務を果たすため、反乱軍と戦い、死ぬつもりだ」
「亡命も、王族としての責務でしょう」
「ふう…君も、同じ事を言うのだね」
ルイズは黙っていた。
まさか『アンリエッタとは幼なじみです』などと言えるはずがない。
ウェールズのいとこで、恋文を出せると言えばアンリエッタしか居ないはず、ルイズはそう確信していた。
「いとこの少女は、ゲルマニアのある人物と婚姻を結ぶことになったらしい」
「…え?」
つまり…アンリエッタが、ゲルマニアの誰かと、結婚する…?
「あの娘のためにも…私は生きていてはいけないのだ、結婚前の少女が私に恋文を送ったなどと知られたら、一大事だからね」

ウェールズは、そう言って笑った。
なんて笑顔をするのだろう。
ルイズも馬鹿ではない、吸血鬼になった余裕なのか、以前よりも冷静に物事を考えるようになった。
おそらく、ウェールズが受け取った手紙の差出人はアンリエッタ。
トリステインへ亡命を薦めるような内容のものなのだろう。
しかし、政略結婚でゲルマニアに嫁ぐことになるアンリエッタは、ウェールズへの思いを断ち切る事など出来ない。
そのためにも、ウェールズは死ぬ気なのだ。

トリステインを、いや、アンリエッタの身を案じるが故に、この人は死ぬ気なのだ。
「………そういえば、こんな戦時下でも手紙は届くのね、不思議だわ」
「ああ、トリステインからのお客人のおかげでね」
「トリステインから?」
「トリステインの誇る魔法衛士隊の、ワルド子爵が使者として、はるばるニューカッスルを訪ねてくれた…おっと、あまり喋りすぎてもいけないね」
ウェールズはそう言って笑うと、ふぅ、と小さなため息をつき、その後で大きく深呼吸をした。
「不思議だ、君を見ていると、何でも話してしまいそうになるよ」
「たかが傭兵にそんな話をしては、器が問われますわ」
「それは違うな、これからの君の行動が、私の器を決めてくれるのさ、生き残った人でなければ、死人の器は評価できない」
「どうあっても死ぬつもりなのね」
「ああ」

しばらく夕涼みの後、ウェールズは大広間へと向かい、宴の喧噪に戻っていった。
「アンリエッタ…」
ぽつり、と呟き、ルイズは空を見上げる。
月はいつものように寄り添い、限りなく近づいている。
一つに重なった月はまるで男女のよう。
「気まぐれね」
その原理までは知らないが、月は重なっては離れ、離れては重なる。
しかしウェールズとアンリエッタが離れれば、もう二度と重なることはないだろう。


ふと、視線を感じて振り向く。
城の中から、バルコニーに立つルイズを見ている男が居た。
トリステインの魔法衛士の制服に身を包み、精悍なひげを蓄えた男性が、ルイズをじっと見つめていた。
「わ…」
ワルド様!そう言いたいのを必死で我慢した。
涙が出そうになる。
声が漏れそうになる。

憧れの人が今の私を見てどう思うだろうか。
吸血鬼、ばけもの、そう言って私を殺すだろうか。

「泣いているのかね」
すぐ後ろから声がする。
「君が親衛隊の言っていた『石仮面』か」
「…親衛隊に噂されるようなことはしていませんわ」
ルイズは、とっさに喉の骨に力を加え、声のトーンを変える。
「いや、数十人の傭兵をあっという間に倒してしまったと聞いているよ、相当な手練れだと聞いていたが」
「手練れ、ね、それぐらいの傭兵に対処できない親衛隊が弱いのよ」
「ふふ、彼らの弁護をするわけではないが、まだ親衛隊見習いのまま戦場にかり出されたのだ、優れたメイジでも油断をして傭兵にやられることもあるだろう」
「メイジなのに、平民の傭兵を怖がるの?」
「恐がりはしないさ、だがね、油断は大敵だ…五万の大群を前にすると知っていて、宴の喧噪にも混ざらず、一つも怖がる素振りもしない、君とかね」
「…私を疑っているのかしら、それとも口説いているの?」

キュルケをイメージして、不敵な笑みを見せたつもりのルイズ。
しかし内心は穏やかではなく、ワルドの一挙一動が気になって仕方がない。。
「忠告さ、命を粗末にしない方が良い、私の婚約者も強大な敵に立ち向かい、死んでいった…」
「婚約者…」
ルイズは考える。
ワルドの婚約者といえば、つまり、それは私だと。
トリステインで自分は死んだことになっていれば、ルイズの目論見は成功していることになる。
ロングビルからの情報だけでなく、ワルドの口からもルイズの死を確認できた。
だが、喜んで良いのか、悲しんで良いのか、ルイズには分からない。
「母と、婚約者を亡くした私だから忠告しよう、ここで死ぬことはない」
そう言ってワルドは踵を返し、城内へと戻ろうとした。
「一つ聞いていいかしら、なぜそんな話を?」

「…君が婚約者に似ていたからさ」


ワルドが城内に入り、廊下を曲がって、ルイズの視界から消えたとき。

ルイズは泣きたくなって目頭を押さえたが。

なぜか、涙は出てくれなかった。



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