ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

15 暗い店、輝く剣

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15 暗い店、輝く剣


ルイズとデーボは狭い路地裏に入りこむ。ゴミが散乱し、汚物が道端に転がっている。昼なお薄暗いそこを、地図を片手に進むルイズ。
ルイズは四辻で立ち止まり、きょろきょろと見回す。見つけた。剣を模った青銅の看板。
石段を登り、羽扉をあける。店の中は路地裏より暗い。二人はかまわず、武器屋へ入っていく。
ランプの光のみが店内を照らす。そこに掛けられ、並べられ、積み上げられた様々な武器が鈍い光を放つ。角には大仰に飾り立てられた甲冑。埃が薄く積もっている。

物珍しげに店内を見回すルイズ。店の奥のカウンター越しに、パイプを加えた中年親父がいる。こちらをねめつける胡散臭そうな目つきを隠そうともしない。店主。
「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうな商売してまさあ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」 ドスの利いた声。
小娘と思ってバカにしているな。反射的な苛立ち。意識してかどうかは知らないが、優位に立ちたがっている声色。
「客よ」 腕を組み、尊大に言う。そういえば。ルイズはちらりと思う。デーボはそういうことはしないな。後ろに控える男は、きっと無表情だろう。
身勝手で、何を考えてるのか判らない。暴言も吐くし、人の言うことをきかなかったり。だが私を舐めたりはしない。誰からも蔑まれ、哀れまれる「ゼロ」の私を。

心の中に何かが生まれる。正体不明のそれを探ることは出来ない。武器屋の素っ頓狂な声がかき乱す。
「こりゃおったまげた。貴族が剣を! おったまげた!」 下品な言葉遣い。これだから平民は。何をそんなに、ことさらに驚いてる?
「どうして?」 そのまま口に出す。武器屋は芝居がかった口調でまくし立てる。阿る態度。
「いえ、若奥さま。坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖をふる、そして陛下はバルコニーから手をおふりになる、と相場は決まっておりますんで」
なんだ? 私が使うとでも思ってるの、この親父。思いつきで喋ってるのか。それともすでに営業に引き込まれているのか?

背後で使い魔が動く気配。話に飽きたのか、壁際でごそごそやっている。大きな背中に阻まれて、何を見ているのかはわからない。
「使うのはわたしじゃないわ。使い魔よ」 左手は腰にあて、右手で横を指す。デーボは反応しない。がちゃがちゃと金属の触れ合う音。
「忘れておりました。昨今は貴族の使い魔も剣をふるようで」 適当なお愛想を繰りつつ、店主はデーボをじろじろと眺める。
「剣をお使いになるのは、この方で?」 頷き、つられてルイズも使い魔を見る。傷跡を思い起こす。召喚時に負っていたものだけでなく、あれだけ全身にもらっている。
そして、それでも生きている。使い魔が強いのか弱いのか、判断できない。
決闘。人垣を抜けたルイズが見たものは、ゴーレムにいたぶられる姿だった。
そしてあの反撃。もしあのワルキューレがいなかったら、使い魔はどうなっていただろう?使い魔の手に刻まれたルーンが光るところを、ルイズはまだ見ていない。

まあいいや。考えを放り出す。使うときが来るとは限らない。とりあえず持たせておこう。できれば良い物を。自身の沽券にも関わってくるのだ。
「わたしには剣のことなんかわからないから、適当に選んでちょうだい」 デーボがこっちを見る。なによ、その目は。無表情だが、半眼。店主はいそいそと奥に消えた。倉庫でもあるのだろう。
使い魔のところへ行く。見れば、短剣を漁っている。刀身の厚く、比較的長い物を手に取る。しばらく眺め、立ち上がる。
「これだ」 呟き、再び移動。あのねえ。ルイズは追いかけつつ、言う。剣を買いに来たんだけど。短く答え。そうだな。明らかな生返事。こっちを見もしない。

一角に樽や木箱が置かれている。多数の槍が乱雑に纏められている。上下もバラバラだ。槍も使えるのか、この男?
デーボは適当に引き抜く。ひどく古びているが、刃こぼれも錆びもない。シンプルな造詣。破れかけの赤い布飾りが巻かれている。金属の柄に何か彫ってある。直線的な文字。読めない。
「重いか」 デーボは槍を元に戻す。さらにシンプルな木の柄を掴み取る。木の葉のような楕円の穂先。ルイズに向き直る。
「これをくれ」 ルイズは使い魔の脛を蹴る。バランスを崩すデーボ。槍を杖代わりに使う。
「あんたねえ! 剣はどうしたのよ!剣はッ!」 連続蹴り。効いてない。両手に武器を持った使い魔は、あごで店奥を示す。

1.5メイルほどの剣鞘を油布で拭き拭き、店主が奥から姿をあらわす。専用に誂えられたらしい台座をカウンターの上に置き、そこに大剣を恭しくのせる。その存在感に、思わずルイズは駆け寄る。
「どうですか、この剣!」 大げさに両手を開く店主。確かにかなりの物のように見える。
柄の拵えも刀身に比例して長く、安定感を感じさせるもの。。束と鞘に埋め込まれた煌く宝石。その周りを彩る微細な彫物。店主が剣を抜く。店内の少ない光を一身に集めたかのように、光り輝く両刃。
「店一番の業物でさ。貴族のお供をさせるなら、このぐらいは腰から下げて欲しいものですな」 デーボが後ろから、剣を覗き込む。足を引きずっているため、姿勢が悪い。下目使い。
ルイズは振り返る。使い魔の持つ短刀と槍が、ひどくみすぼらしく見える。

剣のことなどわからないが、芸術品なら多少は見る目があると、ルイズは自負している。貴族の嗜みだ。これは間違いなく「よいもの。たとえ実家に置いても、色あせることはないだろう。
「おいくら?」 ルイズは尋ねる。店主の目が細まる。下瞼がもちあがる。
「何せこいつを鍛えたのは、かの高名なゲルマニアの錬金魔術師クロウリー卿で。魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ。
 ごらんなさい、ここにその名が刻まれてるでしょう? お安かあ、ありませんぜ」 店主は柄を指す。目を凝らす。確かに文字が刻まれている。
「ま、ますたー……」 ゲルマニアの文字は、トリステインのものとは少し違う。読めないが、剣の美しさを減したりなどしない。買おう。
いかがしやすか?とでもいいそうな顔をした店主。ルイズは胸をそらせて言う。私も貴族よ。
貴族が作った剣だ。貴族の自分に買えないワケがない。

「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千」 店主は淡々と値段を告げた。口の端が僅かに持ち上がっている。
「立派な家と、森つきの庭が買えるじゃないの」 ルイズは呆れた。なに、その値段。たかが剣一本でしょ?くらくらする。
「名剣は城に匹敵しますぜ。屋敷で済んだらやすいもんでさ」 店主の自信に満ちた口ぶり。小さい頃に読んでもらった童話を思い出す。昔々、カメの国のお城に大きな剣が降ってきました……。
ぶんぶんと頭を振り、しょうもない思い出を追い払う。目の前の剣に意識を集中。いくらなんでも高すぎる。まけてもらえないだろうか。
「新金貨で。百しか持ってきてないわ」 剣に意識を集中しすぎて、駆け引きがおろそかになる。財布の中身をばらしてしまう。店主と使い魔が、同じ温度の視線をルイズに向ける。
「まともな大剣なら、どんなに安くても相場は二百でさ」 話にならないというかのように、店主は顔の前で手を振る。ルイズは顔を赤くした。そんなに高いの?知らなかった……。

デーボの方を伺う。手に持った二種の凶器を胸の高さまで掲げ、言う。これでいい。剣は必要ない。
「ダメよ!せっかく剣を買いに来たんだから」 自分が提案して、先導したことだ。使い魔に退けられてたまるか。別に大剣でなくてもいい。なにか買える剣を探そう。
「だから、剣なんかいらん。使い道がない」 重ねてデーボは言う。なによなによ。せっかく連れてきてやったのに。ご主人様の心遣いを察しなさい、バカ。
ルイズは潤む瞳で使い魔を睨みつける。店主はつまらなさそうに二人を眺めている。

「な~にが『剣なんか』だ、この野郎!」 乱雑に積まれた剣の隙間から、声がした。店主が頭を抱える。


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