朝食を厨房で取った僕と才人は、その辺をぶらぶらと歩いている。
こんな事をしていたなら「また、ご主人様をほったらかしにして!」等と、僕らの自称ご主人様、ルイズが激昂するだろうが、今日はあいにくそんなことはない。
というか、未だに部屋で寝ている。
一応、起こしたのだが「今日は虚無の曜日だから……」と二度寝を始めてしまったからだ。
仕方なく、僕らは洗濯物だけは洗っておいてやった。全く、世話の焼ける。
ともかく、アレである程度は自分を律せられるルイズが、二度寝をするという事は何かあるのだろう。
そう思って適当なメイドに話しかけて聞いてみれば、今日は僕らの世界で言う日曜日のようなものらしく、学校も休みで、衛兵やメイドも、最低限の数しかいないとのこと。
昨日、説教する余裕があるなら、それぐらいのことは教えておけ! とルイズに言いたい。
そうとわかれば、僕も寝る余裕があったろうに。
まあともかく、この暇な時間を放置するわけにも行かないと、この機会に学園の回れる所を回っておこうと才人が言い出し、僕もそれに同行して、現在に至っているわけだ。
ちなみに、今は本塔の中庭の辺りを散策中である。
「……顔をつっこむ程度で許してやるか………」
「なぁ、花京院。何ぶつぶつ言ってんだよ」
「……いや、やはりぴかぴかになるまで舐めさせるのが……」
「お~い、花京院」
「……しかし、女性用のを舐めさせて、精神的に再起不能というのも……」
「無視すんな~」
才人がさっきから、しきりに話しかけてくる。実に鬱陶しい。
今の僕の頭の中は、貴様に対する、昨日の事への報復を考えることで忙しいんだ!
結局、僕はあの後ほぼ一睡もすることなく、朝を迎えることとなった。
普段なら徹夜程度なんて事はないのだが、厨房での無茶な体勢での長時間の気絶。
昨晩のキュルケの部屋でのグダグダ。
ルイズの部屋での延々とした愚痴。
その全てが合わさって、僕は今、精神的にも、肉体的にもかなりヤバイ状態にある。
先程、鏡で確認したら、かなり凶悪な顔つきになっていた。
目元はつり上がって、表情全体に影が差し、瞳は生気が消えたように暗い。
白目の所は赤く充血し、瞼の重さに耐えかねて眉間にしわが寄っている。
前髪は幽鬼の如くぐったりとしなって、僕の顔の半分を隠している。
僕自身、こういう奴がいたら犯罪者と見まごうことだろう。
事実、シエスタなどは出会うなり、悲鳴を上げた。
一番スゴイ反応を返したのは、マルトーさんだ。僕の顔を見るなり包丁を持ち出してきた。
最近はこんなトラブルばかりだ。
ここに来てからというもの、どうもついていないな。
そう、僕は考えながら、またうつむいて報復の過程を考える作業に戻る。
「うおっ!」
「あ、わりぃ。呼びかけても、反応しねぇからさ」
「眠いんですよ……」
唐突に隣を歩いていた才人が、僕の肩を揺さぶった。
体調不良でふらふら気味の僕は、その揺れに逆らうことが出来ず、ドシィインと尻餅をついた。
ズボンが土でひどく汚れた。
まさか、ここまで寝不足が効いているとは。
……報復するにしても、コレは一度仮眠を取る必要があるな。
僕はぱんぱんと、土埃のついたズボンをはたきつつ、立ち上がる。
そして精一杯、今できる限りのまじめな顔をして、才人の肩をつかんで名前を呼ぶ。
「才人」
「な、何だよ?」
「僕は暫く仮眠を取ります」
僕はただそれだけを言って、才人の肩から手を離し、そのまま戻ってきた方向へ、回れ右する。
才人は暫く、何がなんだか解らないといった様子で、しばし呆然としているようだ。
この隙に、僕はさっさと戻ってきた道をふらふらとした足取りで進む。
「え!? ちょ、おい待てよ!」
ようやく状況を認識した才人がそんな声を挙げたのは、既に僕が寮の方へと通じるアーチまで、たどり着いてからのことだった。
そういうわけで一足先にルイズの部屋までたどり着いた僕は、颯爽と寝る準備に入る。
今なら近くにマニッシュボーイがいても、僕は夢の世界に入ることに躊躇はないだろう。
布団を敷いて、毛布にくるまり、僕はそのまま身体の状態に任せ、目を閉じた。
「げげげ、下僕の分際で、二度寝の上にご主人様に起こされるなんて…… こここ、これは本格的にお仕置きが必要なようね……」
混濁しきった意識の中で、少女のそんな声が耳に入る。
嫌な予感がした。
僕はとっさに毛布を振り払い、混濁した意識を一気に現実まで引き上げる。
そこには大きく右腕で鞭を振り上げるルイズの姿があった。
アレで叩く気か? 冗談じゃない!
「『ハイエロファント・グリーン』ッ!」
僕はスタンドを発現させ、ルイズの部屋の四隅にある調度品に、ひも状にほどいたスタンドを引っかける。
そしてそこを基盤として、天井付近に蜘蛛の巣のように張り巡らせ、そこを縦横無尽に逃げ回る。
魔法で狙撃することのできないルイズは、部屋の下で必死に鞭をふるっているだけだ。
「コラァ! 避けるんじゃないわよッ! おとなしく降りてきて、叩かれなさい!」
「断るッ!」
結局、狭い部屋で行われた僕とルイズの鬼ごっこは、暫くして早めの昼飯を済ませた才人が乱入したことにより、ルイズの標的が才人に変わるまで延々と続けられた。
「全く、あんた達は使い魔や下僕としての基本がなってないようね!」
ルイズは才人をイス代わりにして、僕の方へと向き直る。
だんだん言われ慣れてきたせいか、反発は覚えるものの、下僕と言われるのに怒りを覚えなくなってきた。
こういう慣れ方は、実に不本意だ。
「下僕、聞いているの!?」
「あうっ!」
さっきから、僕がよそ見や何か違うことに意識を取られるたび、何故かルイズのイスになっている才人が鞭で叩かれている。
その姿を見ていると、復讐をするのがカワイソウになってくる。
でも昨日のことを思い出し、腹が立ったのでまた、よそ見をする。
「よそ見してるんじゃないわよ!」
「ひぃん!」
再び、才人が鞭で叩かれる。
……叩かれた後、才人がなま暖かい目でルイズを見ているのは、気のせいだと思いたい。
初めての親友候補が実は変態マゾ野郎でした。なんて、僕には人生リタイア級の衝撃だ。
それはともかく、結局ルイズの話は昨日の夜の説教の焼き増しだった。
もっとご主人様に尽くすべきだの、貧乳は正義だの、下僕と使い魔にはみっつのUが必要だの。
僕は適当に聞いているフリをして流し続けた。
その所為か、たびたびルイズも鞭をふるって才人を叩く。
そのときのルイズは妙に生き生きとしていた。コイツもなのか。
途中でルイズがお昼の休憩を挟みつつ行われた、ルイズの下僕&使い魔講義はおいかけっこを含めて、3時間という長大な記録をたたき出した。
まあ、よくもそれだけ舌がまわるものだ。
座り心地が悪かったのか、途中からは普通のイスに座って行われたのだが。
ともかく、その不毛な下僕&使い魔講義が一区切りつくと、ルイズは席を立って制服とは違う、別の服を着せるよう、僕らに指示を出した。
正直、またあの様な不毛な講義を開催されてはたまらない。
僕は大人しくその要求に従い、ルイズに服を着せた。
ちなみにまな板や、ロリコンに興味はありません。
僕に着せ替えられたルイズは、僕たち二人の方を向いて言う。
「外出するわよ。さっさと馬の用意をして」
「外出?」
「そうよ、あんた達もついていくの」
これはまた脈絡のないことだ。
何故。聞かずにはいられない!
「僕たちもですか。しかし、どうして?」
「明日から衛兵の仕事を再開するのに、槍が無くてどうするのよ。使い魔の方も、それなりに武器を使いこなせるみたいだし」
この一言に、僕は非常な衝撃を受けた。
あの高慢ちきでケチで、差別主義者の自称ご主人様が、僕らにモノを与えるだって!?
間違いない。コイツはラバーソウルの化けた偽物だ!
「珍しい……」
才人がつい、僕らの思いを口に出す。
それを聞くなり、ルイズがこちらをジロリと睨んできた。
「どうしてよ」
「お前って、ケチだと思ってた。飯とかひどいし」
どうしてお前はそう、思ったことをすぐ口にする!
いっそ封鎖してやりたい気分になったが、特にルイズは気にした様子もなく、それどころか、何故か得意げな表情になって言い放つ。
「あんまり贅沢させると、癖になるでしょ? 必要なモノはきちんと買うわよ。私は別にケチじゃないの」
訂正。やはりいつものルイズだ。
これほどテンプレート的な高慢ちきも、中々いないだろう。
まだ出会って三日だが、実に人物像がつかみやすいな。
そういうわけで僕らは馬に乗って、初めての、異世界街見学というのを体験することになったのだった。
To be contenued……
こんな事をしていたなら「また、ご主人様をほったらかしにして!」等と、僕らの自称ご主人様、ルイズが激昂するだろうが、今日はあいにくそんなことはない。
というか、未だに部屋で寝ている。
一応、起こしたのだが「今日は虚無の曜日だから……」と二度寝を始めてしまったからだ。
仕方なく、僕らは洗濯物だけは洗っておいてやった。全く、世話の焼ける。
ともかく、アレである程度は自分を律せられるルイズが、二度寝をするという事は何かあるのだろう。
そう思って適当なメイドに話しかけて聞いてみれば、今日は僕らの世界で言う日曜日のようなものらしく、学校も休みで、衛兵やメイドも、最低限の数しかいないとのこと。
昨日、説教する余裕があるなら、それぐらいのことは教えておけ! とルイズに言いたい。
そうとわかれば、僕も寝る余裕があったろうに。
まあともかく、この暇な時間を放置するわけにも行かないと、この機会に学園の回れる所を回っておこうと才人が言い出し、僕もそれに同行して、現在に至っているわけだ。
ちなみに、今は本塔の中庭の辺りを散策中である。
「……顔をつっこむ程度で許してやるか………」
「なぁ、花京院。何ぶつぶつ言ってんだよ」
「……いや、やはりぴかぴかになるまで舐めさせるのが……」
「お~い、花京院」
「……しかし、女性用のを舐めさせて、精神的に再起不能というのも……」
「無視すんな~」
才人がさっきから、しきりに話しかけてくる。実に鬱陶しい。
今の僕の頭の中は、貴様に対する、昨日の事への報復を考えることで忙しいんだ!
結局、僕はあの後ほぼ一睡もすることなく、朝を迎えることとなった。
普段なら徹夜程度なんて事はないのだが、厨房での無茶な体勢での長時間の気絶。
昨晩のキュルケの部屋でのグダグダ。
ルイズの部屋での延々とした愚痴。
その全てが合わさって、僕は今、精神的にも、肉体的にもかなりヤバイ状態にある。
先程、鏡で確認したら、かなり凶悪な顔つきになっていた。
目元はつり上がって、表情全体に影が差し、瞳は生気が消えたように暗い。
白目の所は赤く充血し、瞼の重さに耐えかねて眉間にしわが寄っている。
前髪は幽鬼の如くぐったりとしなって、僕の顔の半分を隠している。
僕自身、こういう奴がいたら犯罪者と見まごうことだろう。
事実、シエスタなどは出会うなり、悲鳴を上げた。
一番スゴイ反応を返したのは、マルトーさんだ。僕の顔を見るなり包丁を持ち出してきた。
最近はこんなトラブルばかりだ。
ここに来てからというもの、どうもついていないな。
そう、僕は考えながら、またうつむいて報復の過程を考える作業に戻る。
「うおっ!」
「あ、わりぃ。呼びかけても、反応しねぇからさ」
「眠いんですよ……」
唐突に隣を歩いていた才人が、僕の肩を揺さぶった。
体調不良でふらふら気味の僕は、その揺れに逆らうことが出来ず、ドシィインと尻餅をついた。
ズボンが土でひどく汚れた。
まさか、ここまで寝不足が効いているとは。
……報復するにしても、コレは一度仮眠を取る必要があるな。
僕はぱんぱんと、土埃のついたズボンをはたきつつ、立ち上がる。
そして精一杯、今できる限りのまじめな顔をして、才人の肩をつかんで名前を呼ぶ。
「才人」
「な、何だよ?」
「僕は暫く仮眠を取ります」
僕はただそれだけを言って、才人の肩から手を離し、そのまま戻ってきた方向へ、回れ右する。
才人は暫く、何がなんだか解らないといった様子で、しばし呆然としているようだ。
この隙に、僕はさっさと戻ってきた道をふらふらとした足取りで進む。
「え!? ちょ、おい待てよ!」
ようやく状況を認識した才人がそんな声を挙げたのは、既に僕が寮の方へと通じるアーチまで、たどり着いてからのことだった。
そういうわけで一足先にルイズの部屋までたどり着いた僕は、颯爽と寝る準備に入る。
今なら近くにマニッシュボーイがいても、僕は夢の世界に入ることに躊躇はないだろう。
布団を敷いて、毛布にくるまり、僕はそのまま身体の状態に任せ、目を閉じた。
「げげげ、下僕の分際で、二度寝の上にご主人様に起こされるなんて…… こここ、これは本格的にお仕置きが必要なようね……」
混濁しきった意識の中で、少女のそんな声が耳に入る。
嫌な予感がした。
僕はとっさに毛布を振り払い、混濁した意識を一気に現実まで引き上げる。
そこには大きく右腕で鞭を振り上げるルイズの姿があった。
アレで叩く気か? 冗談じゃない!
「『ハイエロファント・グリーン』ッ!」
僕はスタンドを発現させ、ルイズの部屋の四隅にある調度品に、ひも状にほどいたスタンドを引っかける。
そしてそこを基盤として、天井付近に蜘蛛の巣のように張り巡らせ、そこを縦横無尽に逃げ回る。
魔法で狙撃することのできないルイズは、部屋の下で必死に鞭をふるっているだけだ。
「コラァ! 避けるんじゃないわよッ! おとなしく降りてきて、叩かれなさい!」
「断るッ!」
結局、狭い部屋で行われた僕とルイズの鬼ごっこは、暫くして早めの昼飯を済ませた才人が乱入したことにより、ルイズの標的が才人に変わるまで延々と続けられた。
「全く、あんた達は使い魔や下僕としての基本がなってないようね!」
ルイズは才人をイス代わりにして、僕の方へと向き直る。
だんだん言われ慣れてきたせいか、反発は覚えるものの、下僕と言われるのに怒りを覚えなくなってきた。
こういう慣れ方は、実に不本意だ。
「下僕、聞いているの!?」
「あうっ!」
さっきから、僕がよそ見や何か違うことに意識を取られるたび、何故かルイズのイスになっている才人が鞭で叩かれている。
その姿を見ていると、復讐をするのがカワイソウになってくる。
でも昨日のことを思い出し、腹が立ったのでまた、よそ見をする。
「よそ見してるんじゃないわよ!」
「ひぃん!」
再び、才人が鞭で叩かれる。
……叩かれた後、才人がなま暖かい目でルイズを見ているのは、気のせいだと思いたい。
初めての親友候補が実は変態マゾ野郎でした。なんて、僕には人生リタイア級の衝撃だ。
それはともかく、結局ルイズの話は昨日の夜の説教の焼き増しだった。
もっとご主人様に尽くすべきだの、貧乳は正義だの、下僕と使い魔にはみっつのUが必要だの。
僕は適当に聞いているフリをして流し続けた。
その所為か、たびたびルイズも鞭をふるって才人を叩く。
そのときのルイズは妙に生き生きとしていた。コイツもなのか。
途中でルイズがお昼の休憩を挟みつつ行われた、ルイズの下僕&使い魔講義はおいかけっこを含めて、3時間という長大な記録をたたき出した。
まあ、よくもそれだけ舌がまわるものだ。
座り心地が悪かったのか、途中からは普通のイスに座って行われたのだが。
ともかく、その不毛な下僕&使い魔講義が一区切りつくと、ルイズは席を立って制服とは違う、別の服を着せるよう、僕らに指示を出した。
正直、またあの様な不毛な講義を開催されてはたまらない。
僕は大人しくその要求に従い、ルイズに服を着せた。
ちなみにまな板や、ロリコンに興味はありません。
僕に着せ替えられたルイズは、僕たち二人の方を向いて言う。
「外出するわよ。さっさと馬の用意をして」
「外出?」
「そうよ、あんた達もついていくの」
これはまた脈絡のないことだ。
何故。聞かずにはいられない!
「僕たちもですか。しかし、どうして?」
「明日から衛兵の仕事を再開するのに、槍が無くてどうするのよ。使い魔の方も、それなりに武器を使いこなせるみたいだし」
この一言に、僕は非常な衝撃を受けた。
あの高慢ちきでケチで、差別主義者の自称ご主人様が、僕らにモノを与えるだって!?
間違いない。コイツはラバーソウルの化けた偽物だ!
「珍しい……」
才人がつい、僕らの思いを口に出す。
それを聞くなり、ルイズがこちらをジロリと睨んできた。
「どうしてよ」
「お前って、ケチだと思ってた。飯とかひどいし」
どうしてお前はそう、思ったことをすぐ口にする!
いっそ封鎖してやりたい気分になったが、特にルイズは気にした様子もなく、それどころか、何故か得意げな表情になって言い放つ。
「あんまり贅沢させると、癖になるでしょ? 必要なモノはきちんと買うわよ。私は別にケチじゃないの」
訂正。やはりいつものルイズだ。
これほどテンプレート的な高慢ちきも、中々いないだろう。
まだ出会って三日だが、実に人物像がつかみやすいな。
そういうわけで僕らは馬に乗って、初めての、異世界街見学というのを体験することになったのだった。
To be contenued……