ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-14

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「あれは何十年前じゃったかのう、ある村に立ち寄ったとき、昼飯を食べた後、森の奥を散策していたんじゃ、そこでワシは一人の少女に出会ってのぉ」

オールド・オスマンは、シエスタの曾祖母と会った時の話を始めた。
マルトーとロングビルの二人は固唾を飲んで、それを聞く。

「ひっ…ぐすっ…」
「む? 誰かおるのか」
魔法薬の材料を探しがてら、森の奥まで入り込んだオールド・オスマンの耳に、何者かの声が聞こえた。
少女の声にも聞こえたが、こんな森の奥で泣き声が聞こえてくるなど尋常なことではない。
オールド・オスマンは杖を片手に握りしめながら、声のする方に近づいていった。
「ひうっ…あ…たすけて…たすけて」
声の主はあっけなく見つかる。
森の奥に小さな岩山があり、そこには野草が咲き乱れていた。
マジックアイテムの材料になりそうな物も多いが、岩山はそれなりの高さがあり、フライやレビテーションを使わなければ野草には届かない。
その岩山の下に、15~17歳ほどの少女が倒れていたのだ。
近くにはバスケットが落ちていて、中には野草が入っている。
おそらく山菜や野草を摘みに着たのだろう、オールド・オスマンはその娘に近づくと、怪我の様子を見た。
「おうおう、お嬢さん、この崖を登ろうとしたのかね、無茶をするのう…」
「あ……き、貴族様…」
弱々しく返事をする少女の足は、崩れた岩に挟まれていた。
「どれどれ、外してやろう、ちょっと待ちなさい」
オールド・オスマンはレビテーションを詠唱すると、少女の足に乗っていた岩を浮かせて移動した。


「あうっ!」
「すまんの、ちょっと痛いのは我慢しておくれ」
そう言って少女の怪我を見る、足は圧迫だけでなく内出血で酷く腫れており、どう見ても歩ける様子ではない。
少女の顔は土気色に近い、オールド・オスマンは怪我の程度が酷いと見たが、念のためディティクト・マジックで周囲を調べ、改めて話しかけた。
「この近くの村の娘か?よければ、どこの村なのか教えて欲しいんじゃがのう」
「わ、わたし、タルブ村から、来たんです」
「タルブ村?ちょっと遠いのう」
杖を振り、レビテーションを唱えて少女を浮かせて運ぶ。
オールド・オスマンは少女から三歩離れて歩いていた、これは用心のためだ。

森で注意しなければいけないのは、オーク鬼、トロル鬼、野犬類と相場は決まっている。
しかしそれらは人間の生活圏内にはあまり入ろうとしない、知能がそれなりに高く、臆病さも彼らは持っているのだ。
だが、まれに、ごくごく希に人間の天敵とでも言うべき相手が存在する。
『吸血鬼』である。

岩山で出来た日陰から少女を運び出そうとしたその時、茂みの中から低いうめき声が聞こえてきた。
オールド・オスマンが目を向けると、平均的な人間よりも少し大きい、トロル鬼の影が茂みの向こうに見えた。
「いかんな、お嬢ちゃん、ちょっと下ろさせてもらうぞ」
「きゃっ!痛っ…」
「すまんのー、念には念を入れんとな」
オールド・オスマンは用心しながらもトロル鬼に向き直る、すると、一足早くトロル鬼がオスマンへと飛びかかってきた。
「!?」
妙だ!と直感した。
トロル鬼にしては動作が俊敏すぎる!
茂み越しには確認できなかったが、体つきはともかく、顔や毛の特徴は人間に近いように見えたのだ。

「グアアアアアアアアアアアア!」
叫び声を上げながら飛びかかってくるものが、オーク鬼でもトロル鬼でも獣でもないと判断したオールド・オスマンは、慌てて呪文を詠唱して中に浮き、攻撃を避けた。
人間とは思えない腕力で振り下ろされた棍棒が、オスマンが一瞬前まで立っていた地面をえぐった。

「あの娘は吸血鬼じゃったか!」
先ほどのがグールだと判断したオスマンの背中に冷たいものが走る、思わずフライを唱えて空中に逃げたが、木々の枝は深く生い茂っている。
オスマンに飛びかかった人間は、グールとしての本性を剥き出しにしたためか、木々の隙間から漏れる日光に当たり顔や頭が焼け付いていた。
しかし、あの少女が居ない。

危険だと本能が告げたが、そのときは既に遅かった。
「”枝よ。伸びし森の枝よ。彼女の腕をつかみたまえ”」
少女の声で先住魔法が唱えられる、すると瞬く間に周囲から枝が伸び、オスマンを拘束する。
そしてグールは俊敏さを活かして木に駆け上がり、オスマンの持っていた杖を奪った。

「むぐっ、な、吸血鬼がこんな時間に!まだ太陽が昇っておるんじゃぞ!」
「ふふ、用心深いメイジ様も、これには気づかなかったみたいね…」
声のする方を向くと、先ほどの少女が岩山の影に立っていた。
足の怪我は偽装だったと見えて、まったく平気な様子だが、顔色は相変わらず土気色をしたままだ。
少女は無言でグールを指さす。
グールの肉体は人間のものだが、グールとなった以上その肉体は日光に弱くなっているはずだ、しかし奇妙なことに木漏れ日に焼かれているのは頭だけで、その他の部分には特に変化はない。
「用心深いんだね、普通のメイジなら私を見て、すぐに油断するのに…ディティクトマジックまで使ったのには驚いたよ」
「……貴様、日陰にいても吸血鬼なら焼け付くほどの太陽光じゃろう、なぜ動ける?」
「人間は、残酷な同族(人間)に、”ヒトの皮を被った悪魔”って言うんでしょ、フフ、その通りかもしれないね」
少女は自分の顔を左右から押さえると、その皮をつまんで伸ばした。
皮は不自然なほど左右に伸び、唇の下からもう一つの唇が出てくるのも確認できた。

「こやつ…!ならばそのグールも、トロルの皮を被っているという事か、なんという…」
「どう、私、けっこう頭良いでしょう?」
オールド・オスマンも思わず舌打ちした、吸血鬼は狡猾だと聞いていたが、まさか昼間に、こんな手段で人間を『狩る』とは思わなかったからだ。
吸血鬼が再度呪文を唱え、今度はオスマンの身体をゆっくりと地面に下ろす。
グールがオスマンの身体をまさぐり、予備の杖を持っていないかどうか確認すると、吸血鬼がオスマンの首に手をかけた。
「光栄に思うわ、貴方、しわの深さからは考えられないほど精力的なのね、こんなメイジ様の血を吸えるなんて…」
そう言いながら吸血鬼は口を開け、牙を見せた。


「光栄に思いなさい」

突如、森の奥から、別の声が聞こえた。
「誰!?」
吸血鬼が驚いて声のした方を向くと、水滴が目に入った。
”バチッ”という音がして、吸血鬼の眼球は砕け、まるで石をハンマーで砕いたような音が響いた。
「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!ああああ!あああ!…っ殺せえええええ!」
吸血鬼がグールに指示を下す、グールは頭からぶすぶすと煙を出しながら、声のした方に向かって飛び込んだ。
樹木の枝による拘束が緩んだので、オスマンも声をした方向を見る。
するとそこには一人の美しい女性が居た。
若葉の茂る木の枝を使って、グールの身体を撫でつつすり抜けると、その女性はこちらに向き直った。



「まるで動物ね」
女性は一言呟き、腰にぶら下げていた水筒から木の枝に水を振り掛けた。
…奇妙なことに、そのとき水滴は一滴も地面に落ちていなかった気がする。
そしてその枝をオールド・オスマンの足下に投げた。

突然の事に驚いていたオールド・オスマンだったが、女性の背後でグールが立ち上がったのを見て、思わず「危ない!」と叫んだ。
だが、グールは女性の方を向き直るどころか、ビシッ、ピシッと、音を立てて身体が砕け散り、その破片は霧散して気化した。
「な…何だよ…何なんだよ…」
吸血鬼もあまりの事に驚いたのか、既に逃げ腰になっている。
先ほど目に受けた水滴がよほど効いたのか、顔を手で押さえながら苦しそうにうめく。
グールを倒した女性が呟く。
「今度は演技じゃないのね」

「”枝よ!伸びし森の枝……」
吸血鬼が慌てて先住魔法を唱えようとした所で、先ほど投げられた枝が爆発した。
バァン!という破裂音とともに、枝に付着していた水がはじけ飛び、オスマンの服と、吸血鬼を濡らした。
「なっ、こんなっ、ああ、あああああ!ああああああアアアァァァアァaaaaa…!」
オスマンの目にはハッキリと映っていた。
吸血鬼の身体に付着した水滴は、まるで太陽の光のように輝いていたのだ。

ほんの一瞬の輝きだが、吸血鬼を相手にするにはそれで十分だった。

吸血鬼は、身体の上に被った皮膚を残して、ボロボロと崩れ去っていった。


「光栄に思いなさい、本当の太陽に焼かれて死ねるのを」





[[To Be Continued →>仮面のルイズ-15]]

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