ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-13

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匿名ユーザー

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狭い小屋の中での、あっさりとした捕り物劇。
男はあっという間にロープで縛られ、今度は自らが床に転がされてしまった。
「……、……ッ………」
呻きにならない呻きを男が上げる。

小屋に入ってきた康一と、フードを被ったもう一人。
背が低く、小柄でやせっぽちと言ったほうが的確だろう。
抱えるように持っている、体に似合わぬ長い杖が、その身をメイジであると証明している。

その者はゆったりと杖を振る。
使う魔法は「ディティクトマジック」。
魔法の力で小屋の中を調べ上げ、何も問題ないことを確認。
安全を確認してから、自らの目でも狭い小屋の中を見渡しフードを脱いだ。

可憐で繊細な青髪であった。静謐な雰囲気。少女であろうか。
しかし素振りからは、数々の戦いを生き抜いてきた経験を感じる。
少女は可憐な見た目とは裏腹に、この場に必要な実力を備えているようであった。

「アニエスさん、大丈夫でしたか?」
「ああ多少腹に喰らったが、大して問題ない。それよりも私の演戯はどうだった?」
少し唸って康一は言う。

「結構、イけてましたよ。でもちょっと地が出てませんでした?
アンリエッタさん、多分「キサマ」とか言いませんよ」
「にわか仕込だから、それ位は大目に見ろ。
まぁ、姫様のドレスまで着て、色々と練習した甲斐はあったようだな」
アレはキツかったな、とぼやくアニエス。

今日まで五日間、仕事の合間ひそかにアンリエッタのドレスを着て、作法や立ち居振る舞いなどを実地で訓練していた。
生まれてこの方アニエスは、ドレスなど着たこともなかったので悪戦苦闘の毎日である。
しかも気恥ずかしいやら、照れくさいやら、足元がスースーするやらで何がなんだか。
この五日間、ずっと恥ずかしかったが今となっては良い思い出である。

「それとミス・タバサもご苦労様です。」
コクン、とタバサは小さく頷いた。
雪風のタバサ、トリステイン魔法学院のトライアングルメイジ。
何故このような、縁もゆかりもない場所に彼女がいるのか。
その訳は三日前にさかのぼる。

マンダムして三日前。
アニエスはオールド・オスマンが指定した、とある城下町の代わり映えしない家に赴いていた。
もちろん帯剣はせず、平民の服装でである。
時は夕暮れ時でもあり、焼光が目を焼いてゆく。
その燃えるような光に照らされて、雪風のタバサはいた。

窓際に腰掛けて本を読む、年端もいかぬ少女にアニエスはまず不信感を覚えた。
確かに傍らには杖がありメイジと一目で分かるが、オスマン老の使いとしては歳が幼すぎる。
そして突然、パタンとタバサが本を閉じアニエスへと向き直った。
ジッとアニエスを見つめる。見る。見る。見る。
そしてゴソゴソと懐を探る、タバサ。何なんだコイツはと思う、アニエス。

メイジはほぼ全て貴族であり、貴族には変人が多い。
別に相手が変人だろうと、アニエスにはどうでもいい。敵意がある以外は。
しかしタバサは傍らの杖には手を伸ばさずに、懐を探るのみ。
懐に別の杖を隠し持っている可能性もない訳ではないが、そこまで考えるとキリがない。
アニエスは考えるのをやめた。

そうする間にタバサの懐から白い封筒が出てきた。
封筒を持って手を突き出すタバサ。無言だがアニエスに渡したいのだろう。
その意思を感じ取ったアニエスは、ゆっくりと封筒を手に取った。

これだけのことをするのに、何秒かかったのだろう。
妙な緊張感がそこにはあった。
「………開けて」
タバサ。当然封筒のことだ。それっきり無言。

ふぅっ、と溜息をつくアニエス。仕方なく、恐る恐る封筒を開けた。
中には一通書状があった。取り出して広げる。
難しい言葉は吹き飛ばして、結果だけを取り出す。

オスマン老は現在諸事情により身動きが取れぬ状況にある。
真実の鏡の件は何とか手配するが、オスマン老自身が協力することが出来ない。
よって代わりの者を向かわした。
凄腕の使い手で、実戦経験も豊富。優秀な魔法学院の生徒を。

つまりアニエスの目の前のちっぽけな少女。
雪風のタバサを。
手紙を読み終えたアニエスは目の前の少女を見ようとしたが、そこにはスデに誰もいなかった。
グルリと後ろを振り向くと、タバサが家の入り口の前で待っている様子。

アニエスは、もう一度溜息をついた。

「そう、なのですか」
その夜に、アンリエッタとタバサは面会。
アンリエッタは驚きをもって、タバサは無表情をもって、それを迎えた。
自分より年下の少女が、高名なオスマン老からの推薦を携えてやって来たのである。
実力を疑うわけではないが、驚かないほうがどうかしている。

(でも確かに。ミス・タバサとその使い魔は、この策の大きな力になる)
書状にある情報に目をつけたアンリエッタ。
ウィンドドラゴンの幼生、それがタバサの使い魔であった。
空を駆けるように飛翔する風竜は、移動の手段としてとても優れている。
移動手段に乏しい康一にはうってつけだ。

さらに風竜を使い魔にしていることから分かるように、タバサの系統は風。
逃がした賊の追跡には、静かさや速度も求められる。
その点、風魔法の使い手であるタバサがいれば追跡はグッと楽になるはず。

それにアンリエッタは追跡する者の中に、一人は水系統か水の魔法が得意なメイジが欲しかった。
イザというときのため、治療役がいると考えたからである。
そしてタバサの二つ名「雪風」が表すように、タバサは水の魔法も使うことが出来た。

まさに天の配剤のような存在であった。
オールド・オスマンと始祖ブリミルに感謝の念が絶えない。
送った書状からこれだけのことを読み取るとは、オスマン老まさに慧眼である。

「それではミス・タバサ、わたくしに協力してくださるのですか?」
「……終わった後でいい、報酬が欲しい」
コクンと頷いた後に、続けてタバサはそう言った。

自らのために危険に向かってもらうには、相応の礼が必要である。
別に無償の奉仕をしてもらえるとは思っていないアンリエッタは答えた。
「物にもよりますが、出来る限りのことは致しましょう。何をお望みです?」
「水の薬に関する情報。書物でも何でもいい。便宜を取り計らって欲しい」

これはまた妙なことを言うな、とアンリエッタは思った。
思ったが、これは個人のことであり自分が首を突っ込むことではない。
こんなことを報酬に求めるのであるから、何か深い事情があるのだろう。
「分かりました。事が終わり次第、そのように致しましょう」

真実の鏡も、運搬はタバサのシルフィードがいてくれたおかげで、秘密裏に行うことが出来た。
その後、タバサの能力を加味して現在の作戦を作り上げる。
賊をマザリーニが手配しておいた馬車を使わせて逃がした。
その上で康一をシルフィードに乗せて追跡。

賊が空を見上げれば、飛行する影で気付かれる恐れもあったが今日は新月。
月のない、この夜に決行しようとアンリエッタが考えた結果がいい方向に向かった。
全ては上手くいっていた、怖いほどに。

「さて、オマエには色々と吐いて貰わねばならんな」
椅子にロープで縛り付けられた男、剣を突きつけるアニエス。
アニエスが持つ、苛烈な性質が表層に現れはじめていた。
いわゆる、サドである。

だが男は身震いもせずに、何も語る意思を持たない。
ようやく、終わりが来たからだ。
自分から終わるのではないのが、少々残念ではあるのだが。
どうということもない、些細なことであった。

その瞬間タバサの鍛え抜かれた耳が、殺気の篭った風きり音を捉えたッ!
「伏せてッ!!」
間髪入れずアニエスに叫び、飛び掛かったタバサ。
タバサはとても軽いが、さすがに突然飛び掛られてはアニエスでも押し倒されるしかない。

パリンッ!!
何かが割れる音と共に、室内へ何かが飛び込んできた。
それは押し倒されたアニエスの肩口を掠め、さらに先へと進む。

グシャァッ、と嫌な音がした。康一の頬を、生暖かい物が打つ。
ドス黒く、ヌルヌルとした液体であった。
液体の飛んできた先を康一は見る。

あたかも噴水のように、勢い良くピュッピュと噴出す血液。
椅子に縛り付けられた男の額から噴出する血が、自身を黒赤に彩る。
噴出は緩やかに収まっていく。
おそらく、もう頭部の血液が残り少ないのであろう。

そして出血が止まり、最後に脳漿が額の穴からドロリと零れ落ちた。
死体と化した男の目は見開かれ、自身の血が涙のようにナミナミと溜められている。
少しだけ男の体がビクッと動いた。痙攣だろうか。
死体の瞳から血が溢れるように零れ、男は血の涙を流した。

「うわああああああああああああああああああああっっ!!!」

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