ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

見えない使い魔-2

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匿名ユーザー

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ルイズは魔法で空を飛んでいくクラスメイトたちを眺めながらため息をついた。
もし、大型の鳥や竜を召喚できていれば自分もあの中にいたのだ。だが、所詮
それは自分の力ではない。彼女にまとわりつく劣等感を消し去ってくれるよう
なものではないのだ。深呼吸をして甘えを捨て、傍らに座っている男に声をか
けた。
「ンドゥール、いくわよ!」
「魔法学院とやらにか?」
「そうよ。最初に言っとくけど、盲目だって言ってもあんたは使い魔なんだか
らね。ちゃんと私に従いなさいよ!」
「………まあ、それはかまわん。おおよその事情は聴いて理解した。どうやら
俺はお前に助けられたようだからな。おかげであの方の不利になるようなこと
もない」
「あの方?」
「なんでもない」
ンドゥールはよどみない動作で立ち上がった。杖を突いているが、しっかりと
した足取りでルイズの傍に近寄った。彼女はその大きな背と体格に気圧されて
しまう。
「どうした? 行かないのか?」
「行くわよ。いわれなくても」
ルイズは男に背を向けて歩き出した。早足で草原を闊歩し、遥か先を飛んで
いる連中を見ていた。さすがに気になったので後ろを振り向くと、ンドゥール
はまっすぐ彼女の後ろをついてきていた。ためしに立ち止まってみると、彼も
ルイズの傍で止まった。

「あんた、本当に目が見えないの?」
「ああ。そうだ」
「その割には私の居場所がちゃんとわかってるみたいじゃないの」
「足音でわかる。目が見えない分、耳が発達したのだよ。なんならお前のクラ
スメイトの会話を教えてやるが」
「いらないわよそんなの!」
ルイズは大声で却下した。だが、何の取柄もない男ではないということには
少し安堵した。しかし、うそをつくようには見えなくとも本当にそんな聴力が
あるのかどうかは疑問に思ってしまう。なので、その能力を確かめるためにこ
んなことを尋ねた。
「ねえ、ンドゥール。あいつらの名前を適当に並べて」
「ギーシュ、キュルケ、モンモランシー、タバサ……」
「本当、みたいね。もうあんな遠くにいるのに」
ルイズの視線の先に豆粒ほどの小ささになった同級生の姿があった。彼らは今、
使い魔にどんな名前を付けるかで考えが一杯なのだろう。もしくは彼女を揶揄
する会話で忙しいか。
「そういえばルイズ、念のために聞いておくがエジプトという国はあるか?」
「なにそれ。初めて聞いたわよそんな国?」
「知らなければかまわんよ」
ンドゥールはほんの少し憂いを帯びた表情になった。ルイズは彼の『あの方』
という言葉を思い出した。もしかしたら大事な人だったのかもしれない。自分
のせいで引き離してしまったのかもしれない。
彼女の心に罪悪感が湧いてきた。
「ンドゥール、あの方って誰のことなの? あなたの恋人?」
その質問に彼は、ほんの一言だけ答えた。
「俺が唯一忠誠を誓った人だ」
ンドゥールは誇らしげだった。そこにはルイズの知るどんな騎士よりも高潔で
頑なな意思があった。しかし、彼女の心にはそれを素晴らしいと思う気持ちと
同時に恥や悔しさに似たものまでもが生まれた。
彼は『唯一』といったのだ。つまり、ルイズには忠誠を誓っていない。
使い魔に忠誠を誓われていないメイジ。
幼い心に棘を作るには十分な事実だった。

使い魔召喚の儀式より数日、ンドゥールはルイズより与えられた仕事を黙々
とこなしていった。やれ掃除に洗濯、着替えの手伝いなど召使い同然の扱い
だったが文句一つ言うことはなかった。そんな彼は盲目であることから同情
を引くこともあったがほとんどのものはその立場の違いから気遣いを見せる
ようなことはない。しかし、平民であればその限りではなかった。

太陽が注ぐ中庭、そこでンドゥールは一人の少女と洗濯に励んでいた。
彼女の名前はシエスタ、この学院で働く平民である。
「どうだ?」
「綺麗に落ちていますよ。もうずいぶん慣れてきましたね」
「君のおかげだ」
ンドゥールは礼を述べた。彼がシエスタと話をするようになったのは、初日
のことだった。ルイズの服の洗濯を命じられたものの、盲目なため汚れが落
ちているかどうかの判断ができなかった。そんなときにちょうどよくやって
きたシエスタが声をかけ、手伝いをしたのがきっかけだった。
服と下着を絞り、よく脱水をしてしわを伸ばしてから物干し竿にかけていく。
「それにしてもンドゥールさん、どうしてそんな甲斐甲斐しく世話をしてい
るのですか?」
「ルイズのことか?」
「はい。その、なんでも辛く当たっているとお聞きしました。お逃げにはな
らないのですか?」
それに、とシエスタは続けたかった。彼が雑用を押し付けられているだけで
なく、粗末な食事だけしか与えられていないこと。およそ人間らしい扱いを
されていないこと。
だが彼は、ただ首を横に振るだけだった。
「そうするわけにはいかんのだよ」
「なぜ、ですか?」
「俺はあの少女に命を助けられた。ならばその恩を返さなければならない。
それが俺の礼儀だ」
ンドゥールはそう言って宿舎に戻っていった。


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