ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は刺激的-13

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匿名ユーザー

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 気絶させたルイズを連れて中庭を離れて少し歩き、適当なベンチを見つけてルイズを寝かせ、
 そして、その横に自分も腰を降ろし、痛む左脚を擦りながら一連の行動について考えた。
 ルイズが香水の壜を拾う予想外の行動以外は全てギーシュの描いた筋書き通りに事は運び、目論見通りに
 ギーシュはサイトと決闘をする事になった。しかし、何故ギーシュが猿芝居をしてまでサイトとの決闘に括ったのか?
 打ち合わせで聞いてはみたが、言えないの一点張りで答えようとしなかった。
 決闘については怪我をさせない。させても軽い怪我で済ませると言ったのでシエスタも渋々同意したが、どうして
 相手に気を使ってまで決闘しようとするのか?トリッシュは色々と考えては見たが、結局答えは出なかった。
「いたいた。探したじゃないのよ!」
 声のする方に顔を向けると、モンモランシーがこちらに走って向かっていた。
 モンモランシーはトリッシュの座るベンチの前で立ち止まり、軽く息を整えてから急に怒り出した。
「ちょっと!幾らなんでもやり過ぎよ!!ギーシュの顔が潰れそうになってたじゃないっ!!」
 おそらくモンモランシーは先程の芝居の中でギーシュを殴った事を怒っているのだろう。
 トリッシュはつい調子に乗ってスパイス・ガールで殴ってしまった事を今になって思い返し、あそこで、もしギーシュが
 耐え切れなかったら全てが終わっていた事に気付いて素直に謝った。
「そうね。ちょっとやり過ぎたかも知れないわね。後で謝っておくわ」
「ちょっとじゃないでしょ!まったく…」
 ブツブツと文句を言いながらモンモランシーはベンチに腰を下ろして、包帯が巻かれたトリッシュの左脚に気付き
 少し驚きながらもそれを覗き見る。
「あなた…怪我をしてるの?」
「ああコレ?昨日ルイズと決闘して吹っ飛ばされたのよ」
「えっ?本当なのそれ?!」
 トリッシュは驚くモンモランシーに軽く頷き返して血が滲み始めた左脚を触る。ルイズはスパイス・ガールに
 運ばせたものの、急いで走ったのが悪かったのか傷が開き徐々に痛み始めていた。

「傷が痛むの?」
「…少しね」
 心配そうに見つめるモンモランシーを安心させる為に強がるが、痛みは収まるどころか益々酷くなり、左脚に激痛が走る。
 脂汗が全身から吹き出すが、歯を食いしばってなんとか耐える。
 トリッシュの変化に気付いたモンモランシーは怪我を覆う包帯を素早く外し、傷を見て顔に驚きの表情を浮かべる。
「なにこれ…酷い事になってるじゃない?!」
 包帯の内側から現れた傷跡は、皮膚が無くなり剥き出しになった肉の所々から血が吹き出ていた。
 モンモランシーは慌てて杖を取り出して呪文を唱える。すると、徐々に痛みが退いて行き、剥き出しの肉に少しづつ
 薄い皮膚が張り付いていく。昨日受けた治療は医者が薬を塗りそれから包帯を巻いてお終いだった事を思い出し、
 モンモランシーの手際の良さと呪文の効果にトリッシュは素直に感心した。
「これでどう…?」
「ありがとう、随分楽になったわ。…良かったらルイズの右手の怪我も見てくれないかしら?」
「ルイズの?怪我なんてしてないわよ」
 トリッシュの左脚よりも遥かに酷い怪我をしていたのにも関わらず、砕けていたルイズの右手はまるで怪我をする前まで
 時間を巻き戻したかのように傷跡すら無くなり元通りの綺麗な白い手に戻っていた。   
「変ね?昨日はグシャグシャになってたのに」
「…たぶん、医者が手を抜いたのよ。精神力にも限界があるから……」 
 言い難そうにモンモランシーが囁く。昨日の事件で多くの貴族が怪我をして医務室に運ばれていた。
 限られた精神力を使って怪我を癒す場合、貴族の子息と誰とも知れぬ平民を比べれば同じく貴族である医者にとって
 どちらが大事か明白である。傷一つとっても貴族と平民の差が如実に現れていた。 
「許せないわ…怪我人に身分なんて関係ないのに」
「別にいいわよ。あなたに怪我を治してもらったしね」
 医者に憤慨するモンモランシーをトリッシュは宥めて落ち着かせ、そして、心の中で感謝を述べた。

「ところで、どうしてギーシュを許す気になったの?二股掛けられたんでしょ?」
「どうしてって?べっ別にいいでしょ!あなたには関係ないわっ!」
「別にいいじゃないの。減る物でもないでしょ~に」
 ギーシュから経緯は聞いたものの、話を区切るたびにモグラに抱きついて可愛がっていたのでイマイチ内容を
 理解できていなかった。そしてトリッシュも年頃の女性であるので恋愛話に凄く興味があった。
「そう言えば服がどうとか言ってたわね。ひょっとして物に釣られたとか?」
「わっ私はそんな安っぽい女じゃないわよ!誰だって部屋の前で泣きながら謝られたら許すしかないでしょ!
 友達の眼もあるし!!それにギーシュは浮気性だけど相手の子の手を握るのが精々よ!!
 キスとか一線を越えるとか絶対に無いわ!!いつだってそうなんだからっ!!!」
「へえ~本当かしら?実は…って事は無いの?」
 トリッシュは顔を真っ赤にしながら早口でギーシュの良さを捲くし立てるモンモランシーを見て苦笑する。
 要するにお互いに相手を理解していると言う事なのだろう。
「ちょっと…あなた達が羨ましいわね。判り合えるって、とても良い事だと思うわ」
「だっ誰があんなヤツと!え…その、どうしたの?」
 ギーシュとの関係を冷やかして遊んでいたトリッシュが俯き、先程まで笑っていたその顔に翳りが見えていた。

「なにか…あったの?」
「気にしないで。なんでもないわよ」
「嘘を吐いてもだめよ。……良かったら聞かせてくれない?」
 モンモランシーは自分の周りに傷を負っている者が居る事が許せないと常々思っていて、トリッシュの痛々しい
 その姿に気後れしながらも勇気を出して痛みの理由を聞いてみると、トリッシュは躊躇いながらも呟く様に語り始めた。
「少し前に…命を狙われた私を助けてくれた人がいるの…その人は……私を殺そうとしたヤツの部下だったんだけど、
 ソイツを裏切って私を救ってくれたの…私がその男の秘密を知っていた事もあるんだろうけど、それでも……
 私を大切に扱ってくれて…たったの四日間だったけど…命懸けで守ってくれたわ…優しくて…頼れる人だった…
 でも…彼は私を…理解してくれたんだけど…私は……彼の事を…判ってあげられたのかなって……」
「そんな事があったの…」
 トリッシュの語った事はモンモランシーの理解を超えていた。そして、その話が嘘でないこともトリッシュの様子から
 感じることができた。だが、人生経験が少ないモンモランシーには掛ける言葉が見つからなかった。
 痛々しい沈黙が場を支配する。モンモランシーはトリッシュを慰める事ができない自分が情けなく思えた。

「くらえキュルケ~サイズ20m~バストスプラッシュ~」
 沈黙を破ったのは気絶から睡眠に移行し、気持ち良さそうに眠るルイズの寝言だった。
 キュルケと夢の中でも争っているのか実に楽しそうな寝顔をしているルイズを見て二人は思わず吹き出してしまった。
「そう言えばルイズを起こしてなかったわね」
「本当、凄い神経してるわね。私には真似できないわ」
 二人でルイズの顔を見つめる。本当に良く眠っていて起こすのを躊躇われたが、起こさないと後でいったい何を
 言われるか知れたものではないので、仕方なく起こそうと肩を揺さぶるが目覚める気配は全くない。
「起きないわね」
「ほら~ルイズ。起きないと髪の毛に斑点つけて二重人格にするわよ~」
 トリッシュは自分にしか判らない事を言いながら起こそうとするが、ルイズは寝ながらその手を払いのける。
 モンモランシーも起こそうと揺さぶるが、今度はパンチが飛んできた。
「いたっ!これでどうして起きないのよ!」
「私、良い事思いついたわ」
 そう言ってトリッシュはルイズの鼻を指で塞ぐ。
「ブフ~ブフ~」
 ルイズは刑務所に収監されている肥満体の男の様な声を上げ、口で呼吸を始める。
 呆れながらもトリッシュはもう片方の手で口を塞ぐ。呼吸ができなければ起きる筈と二人は考えた。
 普通なら間違いなく起きるのだが……
 10秒経過…苦しそうに身体を揺さぶる。
 20秒経過…手足がもがき始める。
 30秒経過…顔が真っ赤になり激しく動く
 40秒経過…真っ赤な顔が青ざめてくる。
 50秒経過…痙攣を始める。
 一分経過…ルイズは旅立った。

「…ハッ!ここどこ?!私の胸はどうなったの!?」
 ルイズは跳ねる様に飛び起きて、それから自分の胸を確認して落胆する。
「なんとか…間に合ったみたいね」
「まさか…二回目のキスが…女とは…思わなかったわ」
 トリッシュとモンモランシーの懸命な救命活動によって息を吹き返したルイズを見て二人は安堵する。
 ルイズがどんな夢を見ていたのか判らないが、自分の胸を見て落ち込んでいるルイズを二人は呆れながら見つめつつ、
 寝ている人を起こそうとして殺してしまったと言う、不名誉な殺人者にならなかった事を何かに感謝する。
「モンモランシーとトリッシュ?アンタたち疲れた顔してどうしたのよ?」
「コッチは…マジで…ビビってたのに…アンタって…」
「でも良かったわ。人殺しにならなくて」
 ルイズは、人を殺しそうになった恐怖と人を救った喜びで疲れきった二人を不思議そうに見ながら、
 何かを思い出したように突然立ち上がる。
「そうよ思い出したわ!!ギーシュのヤツ!あのバカ犬と決闘するって言ってたわね!!」
 怒りながらギーシュたちの居所を聞くルイズに二人は揃ってヴェストリの広場と答え、それを聞いたルイズは
 叫びを上げながら、死に掛けていたとは思えない程の健脚で走り去って行った。
 その後ろ姿を見て二人は嘆息し、決闘を見る為に覚束ない足取りでルイズの後を追って歩き始めた。


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